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2-2

 放課後。


 補習二日目となった今日は、一年時の数学の教科書『数学Ⅰ・A』持参で3階の教室へと向かった。

 扉を開けると昨日と同様、本日も黒川が先に待機しており、教卓に乗せた数学の教科書をパラパラと捲っている。


 黒川はすぐに俺の存在へと気づき、


「さ、今から補習を始めるわ。キミだってすぐに終わらせたいと思ってるだろうし」


 普段の(とは言っても昨日知り合ったばかりだが)クールな雰囲気二割り増しといった感じに白のチョークを指で挟んでそう放つ。何となくではあるが、声にも若干棘が含まれている。


「…………? そんなに焦る必要はないだろ?」


 と言ってみても、黒川は無視するようにチョークで黒板に数式を書いていくのであった。仕方がないのですぐに最前列の指定席に座り、そうして50分間の補習が始まっていく。

 ……何と言うか、補習を受けていて思ったことだが、やはり黒川の態度に少しの刺々しさが含まれているような気がした。いや、決して教え方が雑になったという訳ではない。ただ、投げかけてくる視線とその振る舞いが何となくそう見えたのだ。……まぁ、心当たりがない訳じゃないが。


 そして補習も終わり、昨日と同じ流れで今からコーヒータイムか? とコーヒーの味に内心期待を膨らませたが、


「あれ、神宮寺くん? わざわざ私に付き合う必要はないのに? 今日の補習は終わったからもう帰っていいけど?」

「……どうしてそんなことを言うんだ。コーヒー飲んだっていいだろ?」


 黒川は黒髪を右手で掻き上げ、


「コーヒーくらいカノジョさんに淹れてもらえばいいでしょ。神宮寺くんだってそっちのほうがいいでしょ?」

「……ひょっとして、妬いてるのか?」


 黒川はムッと口を結んで、眉をひそめ睨みつけるように、


「神宮寺くんのどこに惚れて、どこに妬く要素があるの? ほら、自分で説明してよっ」

「惚れる要素? ……身体能力が高いところか? まぁ、それと影が薄いせいかもしれんが、人に存在が気づかれにくいな。スパイの適正があるかもしれん。……それじゃ、ダメか?」

「身体能力に自信あるなら素直に運動部に入りなさいよ。まぁ、スパイの適正は確かにありそうだけど」


 ふぅ、と溜息を付いた黒川は、


「そんなに私のコーヒーが飲みたいなら構わないわ、座って。あ、それと、タダでコーヒーは飲ませられないから。今度からはお菓子持参ね。できれば甘さの強いチョコレート持ってきて。私を喜ばせられないお菓子だったらコーヒーの苦みを強くしてあげるから」


 と、最後は嫌味ったらしくご注文を付けつつ椅子に座ることへの許可を出してくれた。

 黒川は机の中からインスタントコーヒーの袋を二つ取り出し、同じ数のカップの中にそれぞれ入れ、砂糖等で味を調えポットからお湯を注いでいく。


「あー黒川、その、誤解なんだけどな……。あの星ヶ丘花蓮とは別に交際してるワケじゃないぞ。興味ないと思うけど、一応言っておく」

「ならその星ヶ丘さんとやらはキミにとっての何なの? 随分と仲良さそうだったけど?」

「今年からのクラスメイトだ。それ以上でもそれ以下でもない」


「幼馴染じゃないの?」

「小学生の頃、一年だけ仲良かった記憶はある。だけど星ヶ丘が転校してそれっきりだったな。一回も互いに連絡したことはなかった。幼馴染って呼ぶには期間が短すぎるような……」


 そもそもの話、『幼馴染』の定義すら知らないが。ひょっとしたら一緒に過ごした期間なんかどうでもよく、単に馴染んでいればそれで良い話なのか? 後ほど辞書で調べてみよう。


「なら、付き合ってるワケではないの?」


 マドラーを用いてカップの中をかき混ぜながら、黒川は最終確認。


「そんなに気になるのか? ふっ、俺が欲しいならいつでも予約可能だ」


 黒川は無視してコーヒーをかき混ぜる。俺がスベったみたいで恥ずかしいじゃねえか。

 淹れ終わったのか、黒川は一方のカップを俺へ差し出してそのまま正面の席へと座る。


「私が気に入らないのはね」


 黒川はカップの取手を取り、飲み口を唇へと近づけ、


「キミが女の子と仲良くしてるからよ」


 キリッッ、という擬音が抜群に似合うくらいに断言してのけた黒川紅涼。


「失礼なヤツだな、余計なお世話だ! ……ていうか、どうしてそれで怒るんだよ?」


 ズズズとコーヒーを口に含みつつ黒川は、


「だって、てっきりキミが女の子との関わりに疎いと思ってたから。カノジョどころか女友達も、知りあえでさえもいないような人だと思ってて……。けど、あんな美少女に馴れ馴れしくされてるとどうもね……。あんまり言いたくないけど、嫉妬を覚えたわ」

「……? 黒川ってソッチ系の人間だったのか?」


「何を誤解してるか分からないけど、別に星ヶ丘さんが欲しいとかじゃないから。ただ、異性と馴れ馴れしく触れ合うことが気に入らなかっただけ」

「あんなの人生の内で数える程度だろ。黒川はたまたまその現場を目撃しただけだ。まぁ女に知り合いはいるけど、流石に異性に知り合いのない人間はこの世に存在しないだろ?」


 母親に姉、妹、部活動の連中……それに星ヶ丘、目の前の黒川と、指で数えられるほどたくさんいるな。


「知り合いの数がどうこうじゃないから。あんなに身体を…………みっ、密着させるのは……ふっ、普通じゃないし……」

「じゃあ逆に訊くけど、黒川って男と付き合った経験ってあるのか?」


 彼女は顔を横に振り、


「……ないわ。……いや、付き合う勇気がないっていうか……。だからこうして嫉妬を覚えたのよ。ああ、同じような人間がいたんだなって。それを確信して昨日はキミを弄ったんだけど…………、まさかね」

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