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第七十話  ベャジャン王

sideアサギ


黒い霧を雲散させ元の姿に戻りエンディミオンと抱き合うソフィアを背後から眺めながら、現状を確認する。…いや、周囲の現状の前に自分の現状を確認するべきだろう。

…簡単に言うと、背後霊みたいになっちゃいました。

お陰で今まで人格チェンジしないと機能しなかった視覚と聴覚が引っ込んだ状態でも使える。この状態でどんなことが出来るのか、具体的には誰にも気づかれず浴室に侵入できるのかとか非常に気になるが、今は戦闘中のためそれを確かめるのはまた後だ。案の定、鎌によって切り裂かれた男は黒い霧を立ち上らせながら、泣き別れた上半身と下半身が不気味にくっつき焦点の定まらない目でこちらを見てくる。


対して未だに愛を語り合うエンディミオンとソフィア…ちょっと~まだ戦闘中ですわよ。

しかもソフィアはあの氷の世界の外からの呼び掛けられエンディミオンの思いを知り信用している様だが…俺はまだ信用し切れた訳ではない。ともかくその辺りは戦闘完了後の課題であろう。

……あぁ…面倒くせぇ……。


俺はソフィアの身体に背中から入り込み、生身の肉体の感触を取り戻すと、未だに現状把握出来ていないエンディミオンを突き飛ばして、袖口から新たなナイフを取り出し構える。

「そ…ソフィア…?」

「お楽しみはここまでだ。よく見て見ろよ」

振り向いたエンディミオンは漸くローブの男の存命に気づいたのか一瞬にして氷の剣を作り出し構える。


さぁ、戦闘体勢は整った。どう来る…ローブの男……と思っていたら、私の可愛いリオンとアリシアがトコトコと私の前にやってきて、

「「いくら何時も闇の力うんたらって言ってたからってアレはないよ!心配したんだから!!」」

「サーセン!」

…怒られてしまった。まぁ母親が魔物化というトラウマ級の恐怖を与えてしまったのだ。怒って当然だ。でも、申し訳なさと同時にやはりこの二人はどこまでも私の心配をしてくれる優しくて少し甘えん坊な自慢の子供達と改めて確認できて胸が暖かくなる。


「……■■■な■…■り■ない…ありえ■いありえないありえないありえないありえないありえない!何故魔物化したソフィア・リーシェライトが私の操作もなしに人間に戻るなど…ありえない!!」

いや、お前の上半身と下半身のくっつき方の方がありえないよ。腕だけで立ち上がり脚はカオスな動きで繋がるその様は、昔見たホラー映画の怨霊を沸騰させる。



それに対峙するのは私、エンディミオン、リオン、アリシア、メイドさん……誰?



「諦めなさい!既に王宮の反乱計画は失敗、頼みのソフィアの魔物化もこの通り失敗した。それに魔力持ち4人に囲まれた貴方に勝機はないわ!」

私はリオンとアリシアの手を引いて後ろに下がりこっそり聞いた。

「…ねぇ、あのメイドさん誰?」

「知らない…何かエンディミオンの仲間みたいだけど…」

「セリアお姉ちゃん。お父さんのメイドさんだよ。……知らないの?」

『セリアメイド長…アンドラダイト家にいた頃にお世話になった方です…』

3人(内背後霊1名)の意見から、取り敢えずこのメイドさんも現状では仲間ではあるが、エンディミオンサイドの人間のため一応の警戒はしておくべきであろう。


「死ねぇぇぇぇ!エンディミオン――――!」

漸く体の再生が終わったのか、黒い触手を纏って襲いかかるローブの男。それをエンディミオンが一瞬で宙に発生させた氷の矢の掃射で触手を千切り、メイドが魔力を纏った剣で男の懐に突貫して再びその上半身を泣き別れにさせる。…何この二人…滅茶苦茶強いじゃん…。

「がぁ…っ!…おのれ…おのれぇぇ!!」


倒れ伏すローブの男に銃口を向けようとしたところで、突如広場が赤い光に包まれ、視界はホワイトアウトしなにも見えない。

「おや?貴公は白の国の…既に王宮を陥としている手筈では?」

光の収まりと共に現れたのは格好的に貴族の男が一人と武装した群集が約100人。


「……壊滅させたと思いましたが、どうやらまだ反乱部隊が残っていた様ですね…」



「……ぐ…………ぐ…ぐ……」

ローブの男は貴族の問い掛けには答えずただ呻き声をあげるだけ。…しかしアメーバ並みにくっついて復活するローブの男にあんな攻撃がダメージは兎も角、致命傷にはならないだろう。よって、この後予想される展開はゲスジュコロイドの力を増幅させたあの男が巨大化して、それに対抗すべくこちらもテツカイザーを巨大ロボサイズで起動させるお約束のパターンになるに決まっている!


「オラァ!とっととくたばれぇ!」

巨大ロボバトルを見たい気もするが、こんな浮遊船とかまであるファンタジー世界にSFというか特撮というか、そういうのは似合わないと思うのと、明らかに面倒なことに成りかねないと思い、死体蹴りの如くうずくまる男に先程リオンから返してもらったダブル・コンテンダーで鉛玉を撃ち込む。


「そ、ソフィア!?何を…?」

「何をって、追撃しているんだよ!どう考えてもアレまたくっついて再生するだろ!しかも敵の増援まで来たし今のうちに始末するんだよ!どうせ復活したら『こうなったら第三形態に変身してやる…喜びなさい、私の真の姿を見られるのですから…』とか言って変身するに決まってる!」



「……く…く――

ダ―――ン!


「く…くひゃはは―――

ダ―――ン!ダ―――ン!


「よく来てくれたフェスラー子しゃ―――

ダン!ダン!ダン!


「小娘ぇぇ!!その魔道具をやめろぉぉ―――っ

立ち上がろうとするローブ男にここぞとばかりに撃ちまくっていたらキレ出したが、無視して眉間に弾丸を叩き込んだ。


「…ソフィアどうしちゃったのよ!?」

「言ったでしょ?お父さんに裏切られたショックで残念になっちゃったって」

「寧ろ、これこそ何時もの母さんだよ」

『………違うもん……私じゃないもん……』


何やら外野から聞こえるが無視して弾丸を受ける度崩れ落ちる男へ更に追撃して鉛玉の雨を降らせる。端から見れば死体蹴りにも等しい容赦のない行動に誰もただ呆然とするしかなかった。腰のガンベルトの弾を半周ほど使い切り、ようやく男が復活する素振りを見せなくなった。既に男の肉体は原型を留めない肉片と化して、ローブも穴だらけのぼろ布となっている。


―――これでフラグはへし折れた、と油断した瞬間、ローブ男の肉片から黒い霧が立ち込めた。

「な、何だこの霧は!?何なん―――グァァァァァ!!」

「なっ!?何で仲間が魔物に―――ブォォォォ!」

「使者殿!?何故我々が魔物になるのだ!?何故―――――プギィィィィ――――!」

ローブ男の近くにいた反乱貴族の群集は瞬く間に黒の霧に包まれ、その顔を醜く変形させ、肉体を太く強靭というよりは人間の面影もない異形に変質させ、その姿を魔物へと変えていく。


「……これが…魔物化……」

「な……何よ…これ……」

これこそ先程まで私にも仕掛けられたゲスジュコロイドを使用した魔物化。人間が不気味に変形、変色するのは醜いを通り越しておぞましい光景である。

…しかしこれって本当にゲスジュコロイドの効果だろうか?いや先程感染させられてあの嫌な(オヤジ)を思い出したことから昔見た研究資料を思い出すが、確か感染者は性格が凶暴になるくらいしか変化がなく、異形になるのはゲスジュコロイドで遺伝子変質させられる感染者から生まれる子供のみだった筈だが…。


そんな疑問を余所に目の前の群衆は次々と魔物の軍団へと変わっていく。


この地獄絵図の様な光景に、エンディミオンは白の国のおぞましさと先程ソフィアを魔物にされたことの怒りを、セリアは人間が魔物にされるという嫌悪感を、リオンとアリシアは恐怖を感じた。そしてソフィアは…


「…いや、今がチャンスだろ!」

好機とばかりにスカートの中に忍ばせていた〝最新兵器〝を取り出して準備を整えると、魔物化して哮っているオークやトロルへ向かって何の躊躇いもなくソレを使用した。

放たれたソレは最初は一直線上に魔物の軍団へ向かっていたが、途中で破裂し幾つもの破片となって拡散し、魔物の腕を、腹を、頭を削り取りながら襲いかかる。


―――散弾銃、ショットガンとアサギの世界で呼ばれるソレは、ダブルコンテンダーよりも筒が長く、大きな銃口から撃たれた弾丸は、一番前面にいたオーク3体の体に無数の鉛玉を埋め込み、異物を体に撃ち込まれた痛みと無数に流れる多量の出血によって、その3体は死こそしていないものの、のたうち回り戦闘どころか立ち上がることさえ不可能となった。


「……母さん、なにソレ?」

「え?ショットガン。ベラストニア戦争みたいに一対多数みたいな戦闘がありそうじゃない?だから王都の鍛冶屋に頼んで作ってもらったの。…そんなことよりリオン、アリシア!さっさとあの豚共を氷の矢でやっつけちゃってよ」



「……が…ぐげ…げげぐっ…ひゃ…ははは!見たか!私の動きを封じてしてやったりといった所だろうが!この通り馬鹿な風の国の貴族様が材料を連れてきてくれたお陰で魔物の軍勢が出来た―――ブベェ!?」

案の定再び喋り出した肉片及びプギィプギィ煩い周りに向かって散弾を撃ちまくり、黙らせる。


「…本当に私に裏切られたと思って…心が壊れてしまったのか…」

「…でも魔物化が解けた時は私の知るソフィアだったわよ…?」


先程まで魔物化に唖然としていたエンディミオンとメイドは今度は私の魔物駆除を見て唖然としているが、君達大人もも早く復活して働きなさいよ。見なさいリオンとアリシアを。

……呆れたようなジト目になりながらも魔物に氷の矢を飛ばしているでしょうに。




「―――ほぅ、様子を見に来てみれば…何と無様なことか…」


―――!?

突然空から声がして見上げると、夜闇を照らす月の真ん中に一人の男が飛んでいた。男は飛ぶというよりは浮いている様に静かに大地に私達と魔物の群集を挟むように降り立つと、まず魔物達を一瞥すると、今度はこちらに目を向ける。男は白い髪に整った顔立ち、そして着ているのはやたら豪勢な服。それを見て(オレ)とは真逆の人生の勝者様と判断し、殺意が湧くと同時に、どう考えてもこの風の国王都をゲームのステージと見立てるとステージボス的なのが来てしまったと警戒を強める。


「…ほぅ、やはり美しいな。余はそなたが欲しい」




「ソフィアに近づくな!…白の国…国王、ベジャン!!」

私の方へカツカツと歩いて来る白髪男に向かってエンディミオンが放った言葉はこの場を凍り付かせるのに充分だった。


…ステージボスどころかラスボス来ちゃったよ…。

皆様お久しぶりです。意血病出です。余りにも期間が開いてしまい、恐らく皆様を呆れさせ、もう待っていて下さる方は居ないかもしれませんが、無様にも戻ってきました。…ここ2年間、仕事が忙しかったのもありますが、全く小説が書けなくなってしまいました。(…というより無気力で生きることすら嫌気が差すレベル…)

しかし最近試しで短編を書いてみたら何だかんだで完成出来ましたので、勢いで書きました。ぶっちゃけると設定の一部を忘れかけたりして結構致命的なことになっていて、改めて自分の書いたこの話を読み返してみると『…よくこんな話書けたな』と思いました。昔のようなあんな発想力は今の自分にはありません。しかし搾りカスの自分でも、こうして生み出してしまった作品は、ソフィアを、リオンを、アリシアを、エンディミオンを、そしてアサギをエピローグまで導き、完結させる責任がありますので何とかもがきながらでもこの章を入れて残り3章、完結させたいです…。


…しかし生きてるうちに終われるのかコレ…?

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