第六十七話 浅黄 惟彦
「ん?どうした佑二、久々の親子の再会だというのに何の言葉も無しか?」
「………んな……」
「まぁ私としてはお前のその身体の方が興味があるのだがね。…時間を操る能力を持つ身体……っくくく…研究のしがいがありそうだ」
「ざけんな――!この糞野郎!!テメェのせいで俺は借金取りどもに捕まって内臓引きずり出されながら殺されたんだぞ!テメェが糞の役にも立たないアホ研究で使った借金を清算するためになぁ!!」
「ほぉ、奴らどうやって私を見つけるつもりか気になっていたが、やはりお前の方に行っていたか…情けない奴らだ」
「―――っふざけんな馬鹿野郎!借りた金ならテメェが返せよ!ふざけんな!死ね!死ねぇぇぇ!!お前が全部…お前が全部悪いんだ!!」
「知ったことか。あまり騒ぐな糞餓鬼……」
こいつ…逆ギレしやがった。
「貴様は親を神か守護者か何かと勘違いしているんじゃないか?嘗めるな!所詮親が餓鬼の面倒を仕方なくみるのは20歳まで!…20までなんだ!それを超えれば他人!騙し、騙され、喰らい喰われる他人なんだ!そもそも私の小便から勝手に出来た老廃物如きが偉そうにほざくな!」
……こいつは…自分の親ではあるが、もう人間と思えない。よりにもよって自分の子供を小便扱いしやがった。
「たかが借金の肩に殺された程度で何だ!私は…私は素晴らしい研究を…世界を変える世紀の研究をしていたんだ!それを理解出来ない馬鹿共のせいで狂人扱いされ、融資を断られ、学会からも追放された!」
いや、その融資先間違ってねぇよ。充分狂ってるだろテメェの研究。過去にコイツの研究資料が偶々居間に置いてあって覗き見たことがあるが、そこには鉄をも溶解させるビームサーベル的なもの……はまだマシな方で後ろの方にいくに従って人体遺伝子を変質させる某ハザード的なウィルスや、人間を500年近く生存させる………変わりに身体をスライムの様な液状にするものや、果ては人間の精神に寄生して独自の進化をする意味不明ナノマシンなど、どう考えても妄想科学的なものばかりだった。
寧ろそんな妄想野郎に学会追放されるまで資金援助をしていた奴がいることの方が驚きだわ。
「どいつもこいつもこの私を狂人扱い………だから…だから私は、私の発明の素晴らしさを世界へ解らせるために…ゲスジュコロイドナノマシンを世界に拡散してやったのだ」
ゲスジュコロイド…確かさっき思い出した馬鹿発明の精神寄生ナノマシンだったっけか?それを世界に拡散…て…………。
「くくく…結果は見事成功し、人々はゲスジュコロイドによって精神を変質させ鬱病にならなくなった!日本は毎年の自殺者3万人を数百人にまで減らすことが出来たのだ!そして実験の成功を確信した私はゲスジュコロイドを全世界に拡散した………なのに…」
鬱病の撲滅と聞いて精神寄生体を発明したのにやることが違ってないか?こいつ以外にマトモなのか?と思ったが、『…なのに…』でだいたいのこの後の結末が解ってしまうのは何故だろう。
「始まりは犯罪の多発から始まった……何故か性格が日に日に凶暴になる者が多発した……」
今まで地下室にいたはずが、気がつけば空の上から都市を…これは東京?を見下ろしているような風景に変わっていた。遠目からは別段変わりない東京の風景だったがよくよく見てみると所々の建物に火がついて、通行人は皆ボロボロの服装で金属バットとか包丁とかを持って武装している。
「…そして、数ヶ月後には肉体に異常をもたらす者まで現れた。」
今度は病院の風景が映り、手術台が備えられたソコには大凡人間とは思えないナニカが居た。肌は緑色に腫れ上がれ顔の造形は凸凹となりただ呻き声を上げている。
「この一年後から生まれる新生児は総て物語でよくあるトロルのような異形で生まれてくるようになった…」
ある病院で二人の夫婦が泣いていた。本来であればその手に抱かれているのはまさしく赤い嗄れた赤ん坊だというのに、その手に抱かれたソレは『プギィィィ』と奇声を上げる緑色の異形な物体。
…ん?ふと夫婦に見覚えあると思ったらあいつら俺を最低と罵った同僚と後輩じゃないか。
それを見て俺は………。
「…その後たった10年と発たず人類は総人口を数万人にまで減らし、文明は完全に崩壊。最終的には戦国時代並にまで後退したらしい………判るか?毎日自堕落に暮らしていた貴様に?自分の発明に裏切られて世界を滅ぼしてしまったこの私の業が!69億を殺してしまったわた―――
「結構なことじゃないか」
……なに?」
「人類がほぼ全滅?清々するぜ!ウィルスに感染して苦しみながら死ぬ?最高じゃないか!あの俺を利用するだけ利用して最後に最低とかのたまった糞二人が不幸になった?どwうwぞwおwしwあwわwせwにwww!テメェらが幸せそうに何回ヤッても出来上がるのは緑色のゴブリンだけどなww!自慢の人類救済発明で69億殺した?ただのだらしねぇ間抜けじゃねぇか!」
地球での悲劇の話に俺が紛れもなく思ったのは愉悦だった。確かに故郷を失うのは寂しいのかもしれないが、自分が虐げられ爪弾きにされた世界に対して思う感情なんてもう憎しみしかない。
ケタケタと笑う俺に惟彦は驚愕の表情で目を見開き、そして静かに目を閉じた。
「…なるほどな。流石はあの女の子供だ。全人類を虐殺した私をただの間抜けとは…」
「事実じゃねぇか。テメェのそのお馬鹿研究で出来た借金を掛けたポーカーで糞カード掴まされて負けて臓物引きずり出されながら塵のように死んだ俺と一緒さ」
次に見た風景は広場に磔にされ石を投げ罵倒されながら死んでいく白衣の男の姿。
「…けど良かったじゃねぇか。テメェは囚人観衆に看られながら死んでよ。俺なんて工場廃液だらけの海中だぜ?」
この目の前の糞男の死に様を見て少し溜飲が下がった、と鼻で笑ったら瞬間、何故か狭い6畳の地下室が12畳程の洋室に変わっていた。
……少し待てよ。
思い返せばなんかこの地下室に来てから俺のブラックメモリーとかこの狂人科学者が見てきたと思われる現代世界の末路を知って愉悦を感じる度に部屋が蜃気楼のようにぼやけているような気がする…。
「…感情によって部屋が…変わる…?……いや、部屋というより意識が操れる?…もしかして私もゲスジュコロイドに感染しているのか?」
「ふん、いまさら気がついたか。お前はどうやら切り裂かれた皮膚から感染したらしいな」
「………このウィルス……いや、ナノマシンは精神に寄生して精神に働きかけるものとか言っていたな…そしてこいつが原因で民衆が凶暴化した……」
私にゲスジュコロイドを感染させたあの黄色フードのアサシン(笑)はローズの仲間。そして奴の黒い触手とこの部屋は空気が心なしか似ているような気がする…………なるほど。この糞ウィルスの使い方が段々分かってきたぜ。
試しに洋室に変わったとはいえ窓一つ無いこの部屋についてクレーマーの如く悪態をついた。…この糞部屋を作り出した大工に高校時代にカツアゲしてきたヤンキーを見立てて憎しみをたぎらせながら……。
すると洋室にはあっという間に窓が生まれた。まぁ相変わらず窓の外は地中のように土的な物に埋まっているみたいだが。
「…確定だな。このウィルスの使い方は悪意を持つこと、か。悪に対抗するには善ではなく同じ悪で対抗ってか?つくづく趣味の悪いものを作りやがる……」
悪態をつきながらこんな部屋に閉じこめられていることに悪意を持って外へ通じる扉を作り出した。
「……行くのか…」
「当たり前だ、テメェみたいなのと同じ空気を吸ってると思うと反吐が出る。じゃあな、もう二度と会うこともないだろうよ」
吐き捨てるように答えると奴は鼻で笑って二つ、答えた。
「お姫様はその先に居る。精々人間の醜さを教えてやれ。……もう一つ、いらん情報かもしれんが…この世界にもリアクタークリスタルがある。北の鉱山を当たってみるといい………」
只彦の声に振り向かずに、扉を開けた。
大変永い間お待たせしました。
そして色々酷い出来ですみません。
今の自分では惰性で書くか流れに乗って書くことしか出来ません。
「安心しろこの小説、意血病出の勝ちだ。奴の全力を忘れてないか?奴は絶好調時一日二万文字くらい余裕で書いていたじゃないか。」
「残念じゃったな…今使っておるのが全力じゃよ…」
…多分この物語書き始めていた当初の様な絶好調は二度と来ないと思う…。
今では全力でも4千文字が限界…。それもPCではほぼ書けず唯一可能なのはガラケー使っての執筆…
鬱。




