表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/83

第六十四話 黒い空

「う…そ………だ……」

その銀色に輝く髪は、彼女の美しい顔から…目から鼻から口から溢れ出てくる黒い液体に包まれまるで黒光りする剣の様に変色する。

「そん……な………嘘だ…嘘………だ…」


ガラス細工の様に美しくもすぐに崩れてしまいそうな華奢な身体はみるみるうちに不出来な肉を付け合わせたような人外のそれへと変貌する。

「…私は………また……ソフィアを………」



太陽の光を受けて慈愛の輝きを放つ深緑の瞳は、跡形もなく消え去り…世界を…私を憎しむ狂気の紫色の瞳へと変わってしまった。



「キシャァァァァ――――――!!」




目の前の…ナニカになってしまったモノを見た瞬間、私は足元が崩れ、世界が白黒に凍りつき、私の意識そのものが崩れる感覚を味わいながら、その場に崩れ落ちた。



「あははははは!いいわ!とってもお似合いじゃない下女!エンディミオン様もお喜びよ!」



―――私は…また守れなかったのか……



「ヒャハハハハ!女の嫉妬というのは実に面白いな!ベジャン様からは無傷で捕らえろと言われたが素子を少し入れただけでここまで強力な魔物になる程だとは………

いやぁおもしろい!!あぁ、エンディミオン。目の前で見た貴様ならどんなに感情で否定しようが分かるだろうが、これは、ソフィア・リーシェライトの成れの果てだ!

クハハハハハハハ!!」



「あぁ……ぁ………ぁ……あああああああああ」



「いいぞぉ…いいぞぉ……貴様のその顔が絶望に歪むのを見ているだけで私は愉快だ!さぁ!醜い魔物よ!その刃で貴様を裏切った憎い男を引き裂き殺すが良い!」


―――世界で一番大切で……愛おしいソフィア……


『エンディミオン様!だ…大好きです!』

「キシャァァァァ――――!!!」


幸せだった頃の、ソフィアの姿を幻視しながら、魔物となったソフィアの鎌の刃が迫る中、私は絶望の海中に身を沈め眺めるようにソレを茫然と眺めていた。







時間制御(アクセル・クロック)二倍速―――」

ガキィィィィ---ン



私の絶望の海は夜空に響き渡った小さな詠唱と、けたたましい金属音に引き揚げられた。

「……まったく…母さんはいつも闇の力とか我が名は覇王とか言っているからって本物の魔物に成らなくても…」


私の幼い頃を連想させる小さな背中。

最愛の息子リオンは、氷の剣を手に魔物と変わり果てたソフィアと私の間に立ちふさがり、鎌を氷の剣で受け止めながら涼しい顔でソフィアを…そして私を、その愛おしい深緑の瞳で見据えた。


「…僕は……まだお前を信用した訳じゃないからな。……でも…まずはあのフードの男をブチのめして母さんを元に戻すのが先だ」

リオンは淡々と無感情に私に告げると、氷の矢を周囲に生み出し…ソフィアに立ち向かっていった。


「くひゃはは!馬鹿め!小僧貴様自らの母親に殺されるつもりか?親が子供を殺す……ん~~素晴らしいな。因みに気づいていると思うがあの化け物の素体は間違いなくソフィアだぞ?まぁ魔法属性を見破れる貴様には余計なお世話だったか?まぁ存分に楽しみたまえエンディミオン。くくく……くひゃはははは!」



フードの男の残酷な言に、リオンはまるで我が儘な幼児を見るかのような冷めた目を向ける。

「お前こそ無知じゃないのか?人を巨大な魔物に変えるということは、その人を核にして魔物を動かしているということだろう?」



「―――なっ!貴様何を知っている!?」

「知っているも何も、童話でこの手の展開なんて何度も聞いている。確か魔物化した--と思いきや実は旧世代の起動兵器にヒロインが乗り込んでいただけで最終的に旧世代人類と新世代人類で宇宙を股に掛けた戦争が繰り広げられるヤツでしょ?」


……?キュウセダイ?キドウヘイキ?ウチュウ?何か息子の口から聞いたこともない単語が出て来たのだが…一体ソレらは何なのだろう?


「…はぁ…お兄ちゃんたら…」

どうやらアリシアが先程のリオンの話を解説してくれるらしい。

「童話じゃなくて新世代ケツバンゲリューオンだよ。ある田舎町で暮らしていた女子高生の楓が偶々遺跡の落盤に遭って起動させてしまったのがゲリューオンで、それを感知した旧世代人類、通称縄文人君が新世代人類平成棄手府に対して殲滅作戦を計画。しかしそんなことは知る由もない楓はゲリューオンの暴走に巻き込まれて―――」


「さっきから訳の解らない話をするな小娘!さっさと貴様が知っている情報を、ゲスジュコロイドについての情報を吐け!」

「だからさっきからお兄ちゃんが言っているでしょ?多分貴方の言っているゲスジュコロイドというのがお母さんを魔物にしている毒なんだろうけど、お母さんを魔物化させているのは飽くまで周りを取り巻いていた黒い霧であってお母さん自身が巨大化したわけじゃない。恐らくさっきのナイフにその毒が塗られていたんだろうけど…そうなればもうお母さんを核としているだけで魔物とお母さんは別物であるなんて誰でも分かるわ。その毒とやらを何とかすればお母さんが元に戻ることも!」



―――っ!

私はアリシアの言葉に息を呑み、この身を沈めていた絶望の海が一瞬で蒸発するのを感じた。


そして、アリシア。……恐らく誰もそんな発想には至らないと思う。恥ずかしながら私はその発想に至らなかった…。



「……そんな…何故……なぜなぜなぜなぜ奴がゲスジュコロイドの特性について知っている!?ソフィア・リーシェライトから教わった…ということは……まさか我々の情報を盗み出していたのか……っまさか!貴様もしや、あの黒灰髪、赤目の餓鬼はソフィア・リーシェライトの配下だったのか!!?」



「黒灰色の髪……それってもしかして……」

「…赤目っていうことは…多分リリアさんが言っていた主…じゃないかな……」

「っ知っているのかリオン、アリシア!? 2年前突如風の国へ再び攻めてきた白の国の軍勢をたった一人で壊滅寸前にまで追い込み捕らえられていた市民を解放し救い出した……悪魔…の正体を」

正直ソフィアを元に戻す方法について詳しく二人から聞きだしたかったのだが、二人の口からまさかあの正体不明の大英雄の名前が飛び出したことに驚き、つい聞いてしまった。黒髪の悪魔――彼がいなければ風の国だけでなく…当時べラストニア地方に風の国支援のために派遣されていたセリアも奴らの魔の手に堕ちていたかもしれなかったのだ。



「たった一人で…白の国を壊滅……」

「何か私達には愛想よさそうだったけど…やっぱり危険な人だったんだね……。」



「やはり貴様らの間者だったかぁぁぁぁぁ!!!許さん…許さんぞ貴様ら!!だが…フン!いくら貴様らがゲスジュコロイドの効果を知っていようと、私がソフィアに埋め込んだ素子は高濃度のものだ!いくら燃料切れを狙ったところで、その前に貴様らは魔物となったソフィアに引き裂かれ、ここで朽ち果てるのだ!!」



「お兄ちゃんメモ!あの魔物化したお母さんに力を使えさせまくれば燃料切れ起こして元に戻るパターンだよこれ!」

「あいつワザワザ母さんの戻し方教えてくれたよ。……ポンコツだ…。」



……姑息だ…。

……いや、一応ソフィアの戻し方が分かったわけなのだが、仮にもアンドラダイト家の跡継ぎ二人が姑息というのは……いやいや!そのおかげでソフィアを元に戻せるのなら姑息だろうが何だろうが大歓迎だ!

よくやったぞ!流石私とソフィアの子供達だ!!



しかし確かに今まで白の国が人間を基に生み出してきた魔物は皆肉体が膨れ上がったり、手足が変形したりしたものが多かったが…ソフィアは影に飲み込まれて、それからあの魔物が現れたことから娘の仮説は充分に信じられるしあの白の国の間者の情報から、このまま魔物化したソフィアに力を使わせ続ければ、そのゲスジュコロイドとやらの力が尽きて魔物化は解除される。




「キシャァァァァ――――!!!」

「セイッ!たぁ!!」


思考に耽る間にも振るわれる大鎌を氷の剣で跳ね返し、続いて振るわれる第二撃目も右足に力を込めて氷の剣を振り抜き鎌の軌道を逸らして、そのまま回転しながら切りかかってくる三撃目は剣を高速で空に作り出し掃射して相殺する。





―――もう、私の体の自由を奪っていた絶望感は完全に消え去っていた。










side ???


目を開けると、私はいつの間にか草原にいた。草原は遙か彼方まで続いていて青々とした芝生と海のように深い深い蒼穹がどこまでもどこまでも続いている。

「…ここは…どこかしら?」



そういえば、リオンとアリシアはどこかしら?もしかしてまだ学校にいるのかな?


――ふと、私のすぐ隣を見るとそこには…ふわふわの金色の髪を靡かせ、その黄金の瞳が綺麗で凛々しい顔を更に輝かせて私に微笑みかけるあの人の……

エンディミオン様の姿があった。


「え…エンディミオン……様?………っ!エンディミオン様!」

一瞬、頭の奥で鋭い痛みと、何か、大切なことを忘れている様な気がしたけど、大好きな…大好きな彼の匂いを、暖かさを、優しい感触を感じたくて、私は彼に喜び抱きつこうとした。


―――トンッ

「……え?……エンディ…ミオン…様…?」

けど、彼から帰ってきたのはまるで私を拒絶するかのような突き飛ばしの衝撃だった。



突然のことに驚き、呆然とする私なんてまるで見えていないかの様に、突き出したその腕でいつの間にか現れた女の人…ローズ嬢を抱きしめ、やがて二人は私に背を向けて行ってしまう。


「…待って…待って…待って!エンディミオン様!いや…行かないで!行かないで!私を独りにしないで!」


二人のその背中を追いかける…だけど、距離は開く一方で追いつくことは出来ない。


……さらに、いつの間にかエンディミオン様とローズ嬢の隣に彼に瓜二つの男の子と私にそっくりの女の子が……リオンとアリシアが並んで私に背を向けて彼方へ行こうとする。



「嫌!何でリオンもアリシアもいなくなるの?…ねぇ、お母さん頑張るから……頑張ってもっと美味しいご飯作るから……お仕事も頑張るから…だから私を見捨てないで!行かないで!リオン!アリシア!!」




地面に崩れながら泣き叫ぶ私の声がようやく伝わったのかみんな私の方を振り返り―――








「お前なんか母さんじゃない。」

―――最愛の息子から告げられた言葉は、軽蔑。



「僕らを勝手に産んで…生まれてから父さんを奪っておいて、貧乏で苦しい暮らしばかりさせて…お前なんかに産まされて最悪の人生だったよ」







「気持ち悪い女…」


―――最愛の娘から告げられた言葉は罵倒の言葉。



「え?また私達、またあんな不味いご飯食べないといけないの?あのプカスだっけ?あんな汚液を飲まさせられて…本当に最悪な人生だったよ。そもそもなんでアンドラダイトの、貴族の娘である私が母親が作ったようなモノを食べないといけないの?やっぱり下劣な女だから仕方ないのかな?…あんな生ゴミ

よりローズお母さんの世界一のシェフ料理の方が食べたいよ。」






「…気持ち悪い。無理矢理エンディミオン様の子供を孕んで陥れようとして、それどころかその子供達まで不幸にする…まるで悪魔ね」






「…もう、いい加減私の前から姿を消してくれよ、ソフィア。君のその醜悪な顔も声も心も見るに耐えない。失せろ―――」



―――最愛の人から告げられた言葉は、拒絶。



リオンから、アリシアから、ローズ嬢から、――――そして、エンディミオン様から告げられた氷の矢のごとく冷たい言葉を受けた時、私の世界から『色』が完全に失われた。









あぁ………空の色が………黒いなぁ…………………………。











side ソフィ■



…ここは、どこだ?

気がつくと私は薄暗い部屋に居た。部屋の壁は積み石と木の柱だけのまるで地下トンネルの工事現場の様だが、決定的な違和感がある。…この部屋には扉がないのだ。いや、それどころか窓すらも無い。


その異様さに漸く認識が追いつくと、まるで追い立てられる様に気持ちがバラバラになって、一刻も早くこの空間から逃げ出したくなった。




「なんだ…ここは!おい!誰かいないのか!おい!ここから出してくれ!おい!誰か…誰か居るんだろう!もしかしてドッキリか?全然面白くねぇぞ!おい!」

石壁を叩くが、叩く音が部屋に響き反射するだけで返事は一切返ってこない…。


「ちくしょう!私みたいな美少女を監禁してどんな厭らしいことを………あれ?俺って…女だったっけ?………いや、そもそも…………俺は…誰だ…っ!」


時間が経過すると共に意識がはっきりと蘇り……唐突に自分が女だったのか、男だったのか思い出せなくなるのを皮切りに、自分の名前、顔、住んでいる場所等の記憶が擦れるように無くなっていき、自分が消えていく様な虚無感に、完全に俺はパニックに襲われた。



「おい!誰でもいい!助けてくれ!!リオ■ーー?アリ■■--?誰だ?リ――…――-…誰だ?誰だ?この二人は誰だった?私は?俺は?誰だ誰だ誰だ誰だ?」







自分がまるで別のナニカに変わるような恐怖に必死に助けを求めるが………返事は…無かった。

忙しくてなかなか執筆できませんが…なんとかがんばりたいです…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ