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第六十三話 嫉妬が生み出したモノ

side  ソフィア


「お母さん!お兄ちゃん!」

「ソ…フィ…ア」

先程から男と女のドロドロとした展開が続く空間に今まで探し回っていた我らが清涼剤アリシアちゃんが現れた!

……何故かエンディミオンと共に。



私は先程殴り飛ばしたエンディミオンと新たに現れたエンディミオンを見る。

そしてアリシアを連れてやってくるエンディミオンを見る。


エンディミオンが二人?これは一体……。


…そうか!奴は…奴は量産型エンディミオンだな?どこかの工場でそこの顔面崩壊を起こしたエンディミオンのように人間をベースに量産して各地で暗躍させている。だからリリアーヌさんのベラストニア戦争ね話でも奴が現れたのか。そして自らを量産して数多の美少女を堕とす…マジかよ最低だなエンディミオン。


「アリシア!何でそんな奴と一緒にいるんだ!早くこっちへ来るんだ!」

「そうよアリシアちゃん!一匹のエンディミオンを見かけたら30匹はいると思いなさい!だから早くこっちへ来なさい!」


「…お母さん…お父さんをゴキブリ扱いするのはちょっと酷い…」

あるぇ~…アリシアちゃん?何故その最低男を庇うのかい?何故お父さんだなんて言うのかい?…もしかして既に堕されちゃった?



「ちょっと表出ろエンディミオン!貴様何人の娘誑かしやがってんの?……只では済まさんぞ!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!」

「………ソフィ…ア……ソフィア…ソフィア!」


エンディミオンは何かブツブツと呟きながら駆け出すと、一気に私との距離を詰めてきた。


「ふん、そちらから向かってくるとはな…いいだろう、そんなに死にたきゃ望み通りぶち殺してやるぜ!」


―――さあ!来やがれエンディミオン!




…だが、次の瞬間私を襲ったのは、拳でも蹴りでも、あの黒い触手でもなく……





……優しい抱擁だった。



「―――っよかった…よかった………ソフィア……ソフィア…この香り、この髪…この瞳……間違いない………ソフィアだ…………やっと……やっと君を見つけた……やっと君を触れられる………ありがとう………生きて…いてくれて……ありがとう……生きていてくれてありがとう……………アリシアを…そしてリオンをこんなに立派に育ててくれて…ありがとう……」


『エンディミオン…様………本当に貴方なの……?』


―――っうぉ!?突然勝手に口が動いて喋り出した。

……誰の仕業か何となく解るが……言っては悪いが…不気味だこれ。


「エンディミオン!お前母さんに抱きついて何をするつもりだ!!」

「お兄ちゃん…お父さんは敵じゃないんだよ。お父さんね、ずっと私達を探していたんだって。当時からお母さんを狙っていた白の国の王に偽の婚約破棄の手紙をお母さんに送られて、偽の婚約者を押しつけられて…お母さんが私達ごと殺されたと知ると、国相手にたった一人お母さんの仇を討つために立ち向かったんだって……さっきもね…白の国の間者が私を殺そうとした時にね…自分を盾にして助けてくれたんだよ。そんなお父さんが、敵であるはずがないよ」


……何だ?その言い訳がましい取って付けたような理由は。そもそもエンディミオンがソフィアちゃんに送った手紙には正式な印が押されていたそうじゃないか。それにそれなら何故アンドラ…あんどら…アントレット?家にいた時に恐らくその押しつけられた婚約者であるローズの襲撃を許したのか。


「……つーか何時まで抱きついているつもりだ気持ち悪い!とっとと離れろ!この――『――っ離れて…下さい……エンディミオン…様…』


抱きつくエンディミオンを引っ剥がそうとしたら、再び口が勝手に動いて、彼女は静かにエンディミオンを拒絶した。



…どうやらこの場は私に身体の主導権は無いらしい…。



「ソフィア……」

『貴方が……抱きしめる女は私ではありません……っ……貴方の婚約者はローズ嬢…です……』


「…違う…違う…私が抱きしめる人は…生涯愛する人は……ソフィア、君だけだ!」

『……違い…ます。もう…私は…貴方の妻だった女とは…違います………もう…もう私達に…関わらないで…』


「違う!君だ!私の妻は、今も昔もソフィア・リーシェライトただ一人だ!」

『ふざけないでください!ローズ嬢を婚約者に選んだと言われて、殺されそうになって……リオンとアリシアと静かに暮らしていたらローズ嬢が現れて…エンディミオン様が現れたかと思ったら、ローズ嬢と愛を囁きあって…リオンとアリシアの存在を否定されて……私にはオークの嫁になるようにけしかけられて……もう…何が何なのか…分からない……誰を信じればいいか分からない!いくらアリシアが言ったことが本当のことだとしても分からない!分からないの!』


「…私が…ローズと愛を囁く?…いや、それよりも…オークをソフィアにけしかけた…だと!?貴様!!」

ソフィアに突き飛ばされて悲しみに染めていたエンディミオンの表情が一瞬にして憎しみに満ちた表情に変わり、手を一振りすると、エンディミオン量産型とローズ目掛けて空から大量の氷の刃が降り注ぎ、二人が居た場所は一瞬にして氷の剣山になっていた。



…イケメンが怒ると…ヤバいね。表情が……空気が………怖い。



『……今度は…ローズ嬢を…切り捨てるのですか……本当に…最低です……』

目からは大粒の雨の様に涙があふれ、本当は愛おしくて愛おしくてたまらないその顔が涙で歪み、今すぐ抱きつきたい、その体温を、声を、匂いを感じたいという本心に反して…彼を……拒絶する。


……と、言う状態なのだろうか?本当にナンダコレ?身体の主導権が無いのに意識だけハッキリしていて男女のドロドロ愛憎に主観的な視点で巻き込まれる――ってどんな罰ゲーム?




「違う……違うんだ……ソフィア……君を……君だけを……愛しているんだ………」

『…それが……本当だとしても……もう私は……信じられないのです……。ねぇエンディミオン様、きっと私達……貴方が王都へ旅立った…あの日から……終わって……いたのよ…』



「…嫌だ……嫌だ…嫌だ…嫌だ!終わっていない!私はもう君と離れたくない!……ソフィア…」



『……もう…終わりにしましょう…そして…もう私達は貴方の前には姿を現さないから……さようなら……エンディミオンさ』―――そぉい!!」

イケメン野郎のエンディミオンを絶望させる楽しいお時間だったのだが、ふと視界の端で何かが動いたような気がしたので、主導権を取り戻して咄嗟に飛び退くと、案の定先程まで立っていた場所に閃光が走っていた。


「―――ソフィアっ!」

「なに!?貴様いつから気づいて――」

閃光…妖しく黒光りする短剣で切りかかってきたフードに身を包んだ男が驚愕の声を上げた。


「いや、気づくも何も隠密行動がしたいならもっと黒い服を着ろよ。何だよ、黄色のフードとか。隠密する気あるのか?職務怠慢か?」



「………ソフィ…ア?あれ?何か…違うような……」

「あぁ、お父さん。それが残念な方のお母さんだよ。言ったでしょお父さんに裏切られたショックで性格がさっきみたいな女の子から色々残念な方になるって」


えぇ――…私娘から残念呼ばわりされていたのか…ちょっとショック…


「まぁ…女の子っぽさでいうなら泣いていた方の母さんの方がいいけど、お母さんとしてなら残念なほうの母さんも好きだけどね」

…リオン、お前もか。



「くくく……くひゃははは」

「…なに笑ってやがる、隠密(笑)」

突然笑い出したフードの男に不気味さを感じて、飛び退いて距離を取る。


「ソフィア・リーシェライト、貴様は私の攻撃を完全に避けたと思っている様だが、自分の左手を見てみるがよい」


男に警戒しながら恐る恐る左手を見ると、手の甲が少しばかり切れていた。

「―――っ貴様!ソフィアによくも傷を―――」

何か怒りだしたエンディミオンは無視して手を中心に10センチの範囲を時間制御魔法で時の流れを減速させる。恐らくあのナイフに毒でも塗っていたのだろう。しかし時間制御魔法で減速し、私の鞄の中で未だ眠りこけているであろう氷ちゃんに治癒をかけて貰えば解毒治療完了。

ハイ残念でしたー!


まさに外道www!


「くくく……手の傷などこれから始まるショーの下準備でしかない。エンディミオン、貴様には最高の絶望を見せてやろう!」

「貴様一体ソフィアに何をし――――っ何だこれは!」


突如エンディミオンの足元からローズが使っていたような黒い影が現れて、影は触手となってエンディミオンの体を縛り上げる。……別に男が縛られようと何にも感じないね。やはり一番エロかったのはエルフの美少女リリアさんだね!

「お父さん!今氷の矢でその触手千切るから!!」

縛られたエンディミオンを助けようとアリシアが触手の大本に向かって氷の矢を掃射する。



「さて、ソフィア。貴様は愛しい愛しいエンディミオンの前で気丈に振舞っているようだが先程の涙、そして絶望に塗りつぶされた瞳はまさに貴様の闇、嫉妬の感情そのものだろう」

「闇も糞も…そこのエンディミオン野朗への感情は兎も角、嫉妬心くらい誰でも持っているだろう。なに人の弱み握ったみたいな顔してんだ?言っておくがここは金持ち万歳、国家権力万歳の日本じゃねぇ。仮に弱みを握られたとしてもこのソフィアには時間制御という最強☆無敵☆の力が――」


「――これを見てからでも、その態度を続けられるか……見ものだな」



エンディミオンを縛る影から何かが吐き出された。吐き出されたそれは黒い影を泥のように身に纏い、触手を千切らんとするアリシア氷の矢を泥を跳ね飛ばしながら防ぐと徐々にエンディミオンへと近づいていく。そして、泥の一部が千切れ…姿を現したのは……。


「え゛ ん゛ デ ィ み゛ お゛ ん゛ ざ ま゛ぁぁ……」

焦点の定まらない目でゾンビのように這い上がるローズ嬢だった。

一体いつあの氷の山から抜け出したのか?下から沸いてきたし溶けていたのか?未来の殺人ロボットみたいな奴だな。……というか怖いよ。



「貴様…ローズ……っ!………最初、貴様もべジャンに操られているだけだと思って幽閉だけにしてすぐ解放した……だが…貴様は自分の意思でソフィアを…そして私の息子であるリオンすらも殺そうとした…………私は……俺は……お前を……許さない!」


泥を垂らしながら這い迫るローズにエンディミオンは最初哀れんだ目を向けていたが、再びイケメン怖い…の顔になると一切の躊躇いなくローズにむかって氷の剣を、矢を、槍を一斉に掃射した。


…しかしローズはまさしくゾンビのように、体が抉れようが、腕が吹き飛ぼうが、顔の半分が潰れようが、ゾンビのようにジリジリとエンディミオンに迫って行く。

…あ、これ教育上良くない奴だ、と今更になって気づき、リオンとアリシアに見ちゃ駄目をやろうとしたが、私の前にはフードの男が立ち塞がり身動きが取れない。



「……貴様っ……!」

「え゛ ん゛ デ ィ み゛ お゛ ん゛ ざ ま゛ぁ」







そこからの光景は、まるでスローモーションのようにゆっくりと感じた。



未だ黒い触手に縛られながら氷魔法で迫るローズに攻撃を加えるエンディミオンだったが、ついにローズの顔が目の前までに迫り……その唇が重なった。



『愛しているよ……ローズ』


本来口が塞がれていて言葉を発することなど不可能なはずのエンディミオンの声が聞こえた瞬間、私の体から力が全て抜けて、自分が闇に飲み込まれるのを感じた。





「はははははひゃはははははは!!さぁ!最高のショーの始まりだ!!」




……私の体は…意識は…闇へと飲まれて消えていく……。

「そんな……馬鹿な……っ……この…ソフィアが……この…ソフィアがぁ……」

「くははははは!ひゃははははははははははは!!!」



しかし…下品に馬鹿笑いするローブの男がムカついたので最後に言葉を残してやることにした。




「……今回は……私の負けにしておいてやる……だが覚えておけ……私は必ず蘇り…最強の闇の力を手に入れて…貴様を殺す。…私は元々闇そのも―――」


最高にカッコいいそのセリフが言い終わる前に、私の意識は途切れてしまった。

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