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第六十一話 氷の師団

side エンディミオン



「…な、なあ。あの銀髪の女の子だけど本当に子供か?指示の出し方が明らかに下手な将校より上手いんだけど…」


「やはり女神様だ!エンディミオン様に、俺達に味方して下さる戦乙女様なんだ!」


一人氷と氷で出来た望遠鏡を片手に高台から氷の伝令兵に指示を出すアリシアに民はまるで戦女神を見ているかの様な錯覚を覚える。


…いや、無理もないことだろう。


最初はアリシアを守る為なのか氷の騎兵は敵へ勝手に突撃して連携も何もなくただ押し寄せる波の様な攻撃でしかなかったが、アリシアが指示を出した途端に鋭い編隊と精密な動作で混戦から一瞬にして反乱軍を一方的に押しのける文字通り化け物へと化けてしまった。


―――私の娘は指揮官…いや軍師としても天才なのか?

本来氷の魔法を持ち一番戦闘力があり、前線に出なければいけない私もアリシアの手足を動かすような指揮に興奮と何かくすぐったいものを感じて見とれてしまっていた。


だがそんな私を置き去りにしてアリシアの指揮は続く。



「第七部隊丁度横の壁に敵の一団が居るから…壁を思いっきり蹴っちゃって!」


アリシアの指示に私は疑問を感じた。一体敵がいる壁を蹴ってどうするつもりだろう?

敵が近くに居るのであれば寧ろ気配を消して敵の死角へ回りこみ撃滅するのが定石だ。しかしそれをあえて壁を蹴りこちらの居場所を知らせてしまう危険を冒してまで得られるものは何なのだろう。

…最悪、敵の一団がアリシアを狙って攻めてきたら私が壁となる覚悟で静かに娘の指示を見守る。


氷の騎士達は軍靴を一斉に揃え右向け右すると、アリシアの指示通りまるで巨大な岩がぶつかったかのような轟音を響かせ壁を蹴り出した。


この目の前のある意味芸術的な氷の騎士の蹴りに頭を殴られたかのような衝撃を受け、私はアリシアの作戦を理解した。あろうことか敵の一団を潰そうとしているのだ。この私達の前方に広がる城下町の区画壁を倒して。


大きな地震のような衝撃音が一部のズレもなく規則正しく鳴り響く。

…この轟音、最初は氷の騎士が何か脚に強化魔法か爆発する魔法でも使って発する音かと思っていたがそうではないのだ。


私も今まで何体もの氷の騎兵ゴーレムを造ってきたから分かるのだが、いくら硬い氷の騎士とはいえ攻撃力は人間の腕力の2倍か3倍が限界なのだ。その程度の力では到底厚さも1メートルの防壁を破壊…いや、横倒しにする事など不可能だ。


仮に氷の騎士が数百体いたなら蹴るだけで壁を破壊する事なら可能だろう。

だが、横倒しはほぼ不可能。何故なら壁を倒すのなら一つの大きな力を壁に対して効果範囲を広くぶつけなければ横倒しにはならない。


壁は一枚コンクリートではなくレンガを積み上げた壁だ。故にバラけた力では部分部分が崩れてしまい、綺麗に横に壁を倒せないのだ。




…だが、アリシアの氷の騎士達はその不可能をあっさりやってのけてしまった。氷の騎士達が一体も漏れることなく(・・・・・・・・・・)壁を蹴ることによって。



「…ん?何か壁から変な音がするなぁ?」

「つべこべ言わず進軍しろ!大方街の奴らが隠れてるんじゃねぇか?」


「……お…おい…この壁なんか…傾いてないか?」

「ぁあ?んなわけねぇだろ風の王都の壁だぞ。一番外の防壁ではないにしろかなりの強度のはずだ。ありえ………てるじゃねぇか!?全軍撤退っ!撤退―――!」


ようやく壁が倒れかけていることに気が付いた反乱軍だったが時既に遅く、大半の壁際を進軍していた兵は倒れる壁に飲み込まれ、生き残った兵も完全に戦意を喪失したのか悲鳴を上げながら一目散に逃げ出した。


これによって街の南側へ逃れる道が僅かながら生まれた…のだがアリシアにはつくづく驚かされる。

氷の騎士への指揮や魔法の才もそうだがまさか敵軍の進行位置を的確に予測して壁に囲まれ身動きの取り難い城下の地形を我が物として利用してしまうとは…。


「姫!第二部隊配置完了しました。指示を!」

「姫!南方の敵退却していきます。どうしますか?」

「う…ん…こういう時チェスならどうするんだっけ?確か歩兵を前に出して後ろの騎兵で討つ?」


「あ…アリシア?どこでこれほどの指揮兵法を身につけたんだい?それとチェスって何かな?」

「え?チェスって…お父さん知らないの?ということはまたお母さんの『シンカイハツヘイキ』だったんだ…。お母さんにしてはマトモな玩具だったからてっきり一般の遊びだと思ってた…。チェスっていうのは…簡単に言うと疑似戦争ゲームだよ。色んな種類の駒って言う人形を使って盤上の敵を撃破したり

敵地に侵入したりする遊び。」


なんということだ…ソフィアはそんなものまで造り出していたのか…。確かに疑似戦争と聞くと物騒だが、玩具としては面白そうなゲームだ。



「よし!これで左翼の包囲が弱くなった。第八部隊と第九部隊は速攻で左翼へ槍の陣を組んで突撃。反乱軍の包囲網の穴を押し広げるようにして、街のみんなを非難させるよ!」


流石アリシア。この好機を全く逃すつもりはなく即座に退路の構築に取り掛かるようだ。…娘がここまで頑張ってくれたのだ。父さんがいつまでも呆けている訳にはいかないな。


「風の民よ!我等もアリシアの騎士団に続くぞ!腕に少しでも覚えのある勇気ある者は私と共に最前列にてトライアングルの陣形を!他の者は先行隊に細長く列を組んで続くように駆け抜けろ!特に子供は列の中央にするのだ!この包囲網を突破するぞ!!」


「そうだ!あんな少女が俺達のために頑張っているんだ!俺達だって風の王都民の底力見せてやろうぜ!」

「そうよ!ようやくこの地獄から脱出出来る希望が出来たのよ!ちょっとくらいの危険が何よ!それに一番近くでエンディミオン様の勇士が……きゃっ」

「エンディミオン様の勇士……わ、私危険でもいいから先行隊に行くわ!」


「…いや、お前らそれ絶対目的が違うだろ!おい女共は後続隊だ!先行隊は冒険者Dランクの取得者だけにするぞ!いざ敵を前に腰を抜かされたらたまらん

からな!」


「「え~」」


「え~…じゃねぇ!」

「そもそも何であんたが仕切ってるのよ!!魚屋のカイン!」


「…いや、彼の言うとおりだ。先行隊に私がいるからという理由で希望するのはやめてほしい。はっきり言って私も反乱軍の包囲網を突破するのに掛かり切りになって君達を守るのはまず不可能だ。だから先行隊は少なくとも自分の身を守れる者だけにしてくれ。…君達を死なせたくないんだ」


私の説得に女性達は納得したのか皆黙って頷いてくれた。…だがこころなしか彼女達の顔が赤い気がするのだが気のせいだろうか?



「……お父さんの…女たらし」



あ、アリシア!?なんでお父さんをそんなじと目で見るんだい!?…もしかして反抗期なのか?


じと目で私を睨むアリシアも可愛いが何時までも眺めている時間はない。既にアリシアが作ってくれた退路に一人二人と反乱軍が現れて再び包囲しようとしている。



「て、テメェらそんな木偶人形相手にいつまで手こずってやがる!あんなもの術者の小娘殺せば全て解決だろ!」


「――この私が可愛いアリシアを貴様に殺させると思ったか?」

「げっ!エンディミオ―――――ぐぎゃっ!」


アリシアの冷めた視線に戸惑いを覚えながら即座に頭を切り替え、私のアリシアに危害を加えようとする者を始末しながら脱出の陣形が整うまで氷の矢を敵めがけて四方八方へ掃射する。


自軍を見れば皆(特に若い娘が)渋々指示した陣形を組んでいて体勢は万全。―――――今しかない。



「一気にこの第一区画を抜けるぞ!総員突撃!!我に続け―――――!!」



一陣の風の如く、私達は進撃を開始した。


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