第五十六話 過去からの刺客
長い間お待たせして申し訳ありませんでした。
意血病出そく死、復活……したっぽいです?
side ソフィア
「リオン!そっちにアリシアいた?」
「ううん、ただ中央通りから外れたお店の人が銀髪の女の子と金髪の女の子の二人が歩いていたって…」
王都の市街地がエンディミオンの来訪でにぎわう中私とリオンはいつの間にか居なくなってしまったアリシアを探し出すために王都中を駆けずり回っていた。リオンによるとお昼前までは一緒に本を読んでいたそうだけど、しばらくしてお昼寝しちゃっている内にいなくなってしまった。……恐らく理由は今朝言ってたピクニック。
『こんなポカポカの陽気なのにエンディミオンなんかのために引きこもるなんて何だか悔しいよ。ね、街の外れならパレードからも大分離れているし一緒に行こうよぉ、お母さん』
と珍しく駄々をこねていたけど今日は外に一歩でも出たら危険だと言い聞かせた。でもこんなことになるくらいなら一緒に出掛けていれば…。
私の脳裏にスニーティの顔をした男、エンディミオン(仮)がアリシアを無理矢理捕らえて王宮の地下で私達の居場所を吐かせるために拷問して散々吐かせた後は、汚らしい幼女趣味の豚貴族を何人も読んで地下牢で泣き叫びながら凌辱されて……最後にあんな可愛らしかったアリシアが変わり果てた姿で打ち捨てられる光景が――――っなに考えているんだ私は!
そんな余計な考えを巡らせている暇があったら一区画でも多く探せ!
リオンの情報では中央通りの外れで目撃情報があったという。ということはアリシアがいる可能性が高いのは第4地区から第3地区の間だろうか?だがその二つの区域は今日のパレードでエンディミオンが通過する確率も高くあれだけ口を酸っぱくして言ってきたのだからそこをアリシア自身の意思で通るとは到底思えない。
…となるとやはり誰かに捕まったか誘拐されて無理矢理…しかしアリシアらしき女の子は金髪の女の子と一緒だったと聞くからその線は薄い。そもそも今までアリシアがお屋敷に呼んだ友達の中に茶髪とか赤髪の子はいたけど金髪の子なんていたかしら?
……いかんいかん、色々な可能性を考えすぎて混乱している。こんな時は状況を一から整理するのが一番効果的と何かのテレビ番組でやっていたが生憎そんなことをしている暇はない。
ここは第三者に、ソフィアさんの意識に少し状況を見てもらって判断しよう。でも結局彼女と交信するには筆談するしか方法がないのよねぇ……。
「母さん!とりあえず第三区域の船が来たみたいだから乗ろう。その方が早いし今はエンディミオンも王宮内だから大通りにもいないから行くなら今の内だよ!」
リオンが指し示す先には公共交通機関の浮遊船が乗り場に停留していた。乗り場はやはり皆エンディミオンを追いかけて王宮方面に行ってしまったからなのか誰も居なくてこれなら割と早く第三地区に到着できそうだ。それに移動ついでにソフィアさんと交信が出来るだろうから一石二鳥でもある。私が合図を送るとリオンは停車場の時刻表の下にある出発の魔方陣的なものに触れて私達が乗り込んで数秒後、船はパレードと舞踏会に煌めく王都の夜空の中を突き進んでいった。そういえばこの浮遊船初めて乗った時は感動したっけ?
初め想像していたのは通勤電車みたいなのを想定していたのだけど、実際は船の大きさは10人乗れないくらいの大きさで屋根はあるけど横が吹き抜けで冬季に乗るのはつらい。一応主要部同士は数十人乗り込める大きな船らしいのだけどまぁそういった快速よりも今乗っているローカル船の方が途中下車や細かい行先まで指定できたりするからこちらを好んで乗っている。
「リオン、メモとペンって持ってるかしら?」
「うん?一応持っているけど何するの?母さんは空からアリシアを探さないの?」
「ちょっと今まで掴んだ情報を整理しようと思ってね。昔先生に"お前は情報の整理が出来ていないから混乱して失敗するんだ!"とどやされたことがあるし、何か新しいことが分かるかもしれないから申し訳ないけど外から見つけるのはリオンにお願いするわ」
そういうとリオンは分かったよと納得した感じで船尾から王都の街を見下ろしてアリシアを探し出している。そして私はとにかく今まで知り得たことをメモに殴り書きして意識を彼女へと移すのだった。
side ソフィア
今日は私の日ではないのに急に意識が切り替わり何かあったのかな?と思ったら案の定手に握られていたメモからアリシアが行方不明になっているとメッセージがあった。どうやら情報が錯綜しているのか単に混乱してしまっているのか分からないけど冷静な判断が下せると思って私に変わったらしい。
……あの、私もアリシアがいなくなったと知ってかなり動揺してるのですけど…。
それはともかく、メモに書かれた内容を整理すると…今日はエンディミオン様が風の国の舞踏会に参加される日で私達は朝から家の中に篭っていたけどアリシアはいい天気だしパレードが行われる大通りから外れた場所なら大丈夫だからピクニックに行きたいとせがんでいた。だけどアサギさんとリオンは反対してお昼まで一緒にいたけどリオンがお昼寝したのを見計らって"夕暮れまでには戻ります"と書置きを残してこっそり出てしまった。
その後アリシアがいなくなったことに二人で大慌てになって、でも夕暮れまでは帰ってくると思って待っていたけど夕暮れどころか日没後もアリシアが帰ってくることはなく二人はアリシアを探しに街へ。工業区、パレードが行われていた大通り、商業区、緑園、住宅街では全く見つからず、王宮へ続く道である中央通り外れで金髪の女の子と一緒にアリシアらしき子がいた情報を掴んで今中央通りから続く王宮通りに向かっている……と。
う~~ん…これは考えられるとしたら誘拐とかアリシア自身がエンディミオン様に会いに行ったという線は薄いかな?恐らく最初の目的地は"ヒマリーの花園"。この間学院の外れで綺麗なお花畑を見つけたから一緒に行こう!と誘われたことがあったからピクニックに行ったというならそこしか思いつかない。そしてそこで一緒に居たという女の子と出会って何らかの…例えば女の子が迷子でしかも中央通りを通ったということはそれなりの家柄の子で送り届けてあげるために……というのが私の推察だけどそれなら憲兵さんに依頼すればいいとアリシアも分かっているはずなのに何故中央通りまで送ってあげたり、憲兵所の記録にはアリシアが来たという記録がないのかしら?
「母さんそろそろ第三地区だよ。ここからはどうやって手分けして探そうか?」
リオンの問いかけに思考を中断して第三地区を見渡す。第三地区はやはり貴族や豪商が多く住むだけあって煌びやかさや派手な建物が多い地区だ。いつもであればそういった人たちに目をつけられると大変なので裏通りから歩いたり目立たない恰好でこっそり通り過ぎるのが殆どだけど今日は舞踏会のためかまるでゴーストタウンのように人の気配を感じない。これは逆に好都合かもしれない。大通りの方がやはり見通しはいいのだし人はいないけど憲兵さんやギルド本部の人はまだいるかもしれないからそこから情報も手に入るかもしれない。
「とりあえずまずは二人で憲兵所とギルドへ行こ?そこから情報を元にして手分けして―――――っリオン危ない!!」
突然視界に何か光るものが写り背筋から冷たい感触が走ったので咄嗟にリオンを抱えて降下停止寸前の浮遊船から飛び降りると今まで私達がいた船は木端微塵に砕け散った。私もリオンも突然のことに目を白黒させるけど何かの衝撃波が前から見えたので飛び退いて避けると今度は石畳が粉砕された。
「一体何なんだこれは!……誰だ!僕達を狙う奴は!!」
リオンが氷の槍を作りながら前方にいるであろう私達を狙う人物に問うがその顔は暗闇で陰になって誰なのか分からない。今の船を粉々にしたのは間違いなく風の魔法だけど威力が相当高いし純正の魔法にしてはやたら闇の気配を感じる…。これはかなり厄介な相手の様だ。私も身体に魔力を通して強化を施しておく。
だが、完全に反応しきる前に敵は再び風の攻撃魔法を飛ばしてきて私はリオンの腕を引っ掴みながらその攻撃を避けて何とか逃げ出せないか周囲に目を向ける。
―――それが間違いだった。
「えっ!?なにこれ!…母さん!母さん!なんなのこれぇ!?」
「リオン!!」
私が目を離している間にリオンの足元から暗闇の触手が生えてきてあっという間にリオンを完全に拘束してそのまま攻撃してきた人物の方へ連れ去られてしまった。
必死に抵抗するリオンを捕え横に侍らすように縛り付ける敵だがどうやらリオンをすぐに殺す気ではないようで、敵はただ静かに歩いてこちらへ向かってくる。ふいに雲に閉ざされた月明かりでそのシルエットを照らしていく…
「…んで……なんで……何でまだ生きているのよ………っこの汚らわしい泥棒女!」
雲から顔を出した月が照らした敵の姿は、エンディミオン様の婚約者ローズ嬢だった。




