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第四十九話 懐かれちゃったアリシア

「るる~ららら~ふんふふ~ん♪」

暖かな日差しの中私はバスケットを片手に第四地区外れの丘のさらに向こうのお花畑、花の仄かな香りと黄金の彩りが美しいヒマリーの花園へマギターネというマジックフラワーを採取に来たマギターネは薬草というよりどちらかというと魔力回復ポーションになるとかで冒険者ギルドで少しまとまった数売ればいいお小遣いになるから気が向いたら私はよくここまで採取に来る。

でも、今日のそれは建て前で実際はこんなぽかぽか陽気の中外に出ないのは勿体無いと思ってピクニックに来たのだ。一応お兄ちゃんとお母さんとも一緒に来たくて誘ったのだけど二人とも今日は部屋に引きこもって出てくることはない。や、本当は私も今日は外に出るべきではないんだけどね……こっそり出てきちゃった。


今日は朝から市街地は凄い喧騒に包まれている。さらに大通りは人混みと言うよりもう人の海が出来上がっていた。お母さんは「あーこれ朝の通勤ラッシュの山手線だ…」と遠い目で眺めていたけど"ヤマノテセン"て何だろう?そして、なぜ今日は朝からこれほどに王都中が騒がしいかと言うと、答えはこの前エリベルト君が見せてくれた貼り紙の内容。つまりはお父さんが…エンディミオンが風の国と銀の国の交友舞踏会に来るのだ。


エンディミオンはベラストニア戦争で白の国の侵攻から風の国を救ったとかでプロトゴノス騎士団長と同様に英雄と呼ばれて、白の国出身であるにも関わらず人気が高い。さらに顔も……まぁお兄ちゃんを見ればどういった顔なのかだいたい分かるから納得だけど凛々しくて綺麗ということで女性からの人気がもの凄い。

私の友達の中でもファンがいるというのだから複雑だ…。友達の憧れの人が自分の父親で『一度でいいから付き合ってみたい!』『一緒にディナーをとってから貴公子的なエスコートで夜のテラスでキスしたら……きゃっ』『街で突然ぶつかってから始まるエンディミオン様との恋……素敵~』と目の前で頬を染められ語られたら気まずいなんてものじゃない…。しかもそれが普通のお父さんならまだしも、私の場合はそのみんなが言う『素敵な王子様』から捨てられた子供なのだから気まずさも倍以上。毎回その話題の時には苦笑いを上げるしかなかった。


そんな訳でそのみんな大好きエンディミオンがやってくるので万一見つかったら大変なことになるからお母さんはきつく「今日は外に出るのはやめなさい!貴方達の父親を見たい気持ちは分かるけど…多分というかマジやばいことになるかもしれないからやめてね?そしてそんなことよりみんなも一緒に引き篭もろうよ?いくよ、ひ・き・こ・も・りー」と言って自室でお布団と枕を被りながら巣を作ってガクガク震えて引き篭もってしまった。お兄ちゃんも今日は終始厳しい顔つきでピクニックに行きたいと言う私を咎めて私とお部屋で読書をしていたのだけど暖かな日差しに首がコクコクとなって船を漕いでいる内にサンドウィッチとクッキーを焼いてバスケットに詰め込んでこっそりと出てきてしまった。


こんないい天気の日をエンディミオンなんかのために捨てるのは馬鹿馬鹿しい。それに歓迎パレードが行われてエンディミオンが通るのは大通りだけ。

こんな市街地どころか学院からも外れた所に来るとは到底思えないしそもそもこのヒマリーの花園は丘を越えて山の麓に一角だけ広がるお花畑で今まで来た中では誰一人とも遭遇しなかった上に風の国のガイドブックにも特に載っていなかったから恐らく穴場中の穴場スポットなのだと思う。


だから私は誰の目も気にすることなくこうやって花の香りを楽しみながらサンドウィッチを齧りつけるのだからとっても気分がい――――――――――



「きゃぁぁぁぁぁ!!た、助けて!いやぁぁ!来ないでーーーー!!」

「がるぅぅぅぅぅぅ!!ごぉるるぅぅぅぅぅぅ!!!」


「…………」

うん、今穴場である理由が分かったよ。ここ魔物がよく出てくるから誰も近寄らなかったんだね…。しかも誰か追いかけられているし穴場でもなんでもなかったじゃん!通りでここと似たような条件の他の場所がガイドブックに載っていてここだけ載っていなかったわけだ。

しかもそこそこ希少なマギターネの群生地と知られれば普通もう冒険者たちが狩り尽くしてしまったり既にギルドの管轄下になっちゃっていたりするもんね…。

「やぁぁぁぁぁ!!来ないでよぉぉぉぉぉぉ!!」

…って!そんなことを遠い目をしながら考えている場合じゃない。今は魔物に追いかけられていると思う人を助けないと!でもさっきから見渡しても人も魔物も見当たらない。目を凝らしてお花畑の中を見ると花弁が飛び散っている一角が目に入る。花が揺れたり潰れたりしている…そこだろうか?でもよく分からないし実際に確かめに行ったら今度は私が危ないよね。

「ん~~……あ、そうだ!……私と共に歩めし時よ、かの場所よりその歩みを停止せよ…」

私が詠唱すると同時に花弁が飛び散って魔物と追われている人がいると思われる場所に銀色の空間が広がって草むらの中を駆け抜ける音が急に止み、空間は西の方向へと移動する。

「え……?何で体が動かないの!?え?それより何で魔物の方に勝手に動いちゃう……あれ?魔物も後ろにいっちゃってる…?」

「がるぅぅぅぅぅ!!?がるぅぅぅぅぅ???」

はいはい、大人しくお花畑から出てね。

草むらで魔物と対峙すればどこから攻撃されるのか分からなくて危険。そこで私が思いついたのは、とりあえず魔物を(結果的に追われている人もだけど…)お花畑から出て行かせること。

でもそんなことは実際に相対するか氷魔法とかでハンマーでも作って叩きだすしか方法がないけれど、それだとこの綺麗なお花畑が傷ついてしまう。

そこで考え付いたのが、以前お母さんに訊いた星の公転と自転。何でもこの世界は教会で教えてもらったように私達のいる場所…地面?を中心にお空やお日様が動いているのではなく私達のいる場所が丸い星でその星が回転しながらお日様の周囲をぐるぐると回っているとのこと。

最初はあまり信じられなかったのだけど地平線のお話や日食、月食のお話を聞いて確かにそうかも…と思ってやってみたのがこれ。

私の超能力もとい時間制御魔法で魔物がいると思う空間にだけ星の自転影響の時を止めて回っているこの星の回転方向と逆の方向へ移動させたわけだ。ただ魔物も追われてた…女の子?も空中に浮かび上がっているのに意識が時間停滞していないところを見るとやっぱり私の時間制御魔法はちょっと修練不足だなぁ…としみじみ思う。


さて、とりあえず魔物を先にやっつけようかな?魔物は以前に闘った黒魔法で生み出された魔物と違って自然種の討伐ランクDのラウォルフだし適当に脅せば去っていくかな?と、時間制御を解除してとりあえず氷の矢を足の近くの地面に突き刺そうと思ったら時間制御解除と同時に何処かへ逃げて行ってしまった。




襲われていたのは私と同い年か少し小さいくらいの流れる金の髪と端正な…太陽のような輝きを沸騰させる感じの女の子で、キョトンとした表情で私を見上げている。どうやらまだ状況が飲み込めていないのかな?でもさっきまで魔物に追われて命の危機だったのだしこんなに幼い子がそんな目に遭ったら安全になってから途端に怖さが押し寄せてきて泣いちゃうとかいうこと

あるから仕方ないよね。

「とりあえず魔物はいなくなったけど大丈夫?怪我とかしてない?」

女の子に気遣って手を差し伸べる……と何故かそのまま手を握られ、さらには抱きしめられてしまった。え?どういうこと?

「あ、あの!お姉様と呼んでよろしいでしょうか?後お姉様はどこの国のお姫様なの?」

突然のことに今度は私が目を白黒させる。そしてお姫様呼びはもう確定なのね。

「はぁ~綺麗な銀色の髪の毛、お化粧では決して作り出せないまさに美の女神が作り出したような美しい顔~素敵ですお姉様~」

「あの…お姉様呼びはともかく私は貴族でも王族でもないよ?第四地区に住んでいるアリシアっていうの。それより本当に怪我とかない?」

「わ~アリシアお姉様!髪の毛触ってみてもいい?すごーい!さらさらでお日様の光に当たると月夜に照らされた小川みたい!」


私の言葉を無視して了承もとらずに私の髪の毛触ってはしゃぐところを見ると大丈夫みたいだね…。


「それにしてもどうして魔物に追われていたの?この辺は滅多に人が来ないから何か事情があったのかな?」

この女の子、よく見ると所々泥だらけだけどとても上等な服を着ているということは少なくとも上流階級の出であることは間違いない。そんな娘が第四地区の、それもこんな外れの危険地帯(いまさっき私も知った)なんてどう考えてもおかしい。

しかも今日はエンディミオンとの交友舞踏会なのだから貴族の子女どころか平民の娘もパレードで見初められようと精一杯のお化粧とお洒落な服で着飾って必死で参加しているのにこんな所にいるとすると…。


「今日は朝からお母様がマナーを良くしなさいとかおめかししなさいとか煩くて嫌になったから飛び出してきたんです。それで人が多い所だと連れ戻されそうだったから人のいない場所まで来たらこんな綺麗なお花畑があったから思いっきり遊んで。そしたら急にあの狼が出てきて…そしてアリシアお姉様との素晴らしい出会いに~」

……うん、予想通りというかお忍びどころかより質が悪いよ。これは確実に彼女の家は大騒ぎだしご両親も心配しているに違いない。

「あのね、多分それお家の人ものすごく心配しているよ?とりあえずお姉ちゃんが憲兵所まで案内するからお家帰ろう?」

「いいよどうせお母様は私のことなんかより今日の銀の国の王子様との舞踏会の方が大事なんだから」

あちゃ~どうやら彼女の母親はいい年して娘をほったらかして異国の王子様に夢中の未だに夢見る乙女のようだ。そしてその異国の王子様の娘としてなんだか申し訳ない気持ちになる…。


「う~~ん………っそうだ!アリシアお姉様も舞踏会に参加すればいいのよ!それなら私も嫌じゃないし寧ろ楽しみ!そうと決まれば早速お城に向かいましょう」

「ちょっと待って!私も夕暮れまでにはお家帰らないと…」

それはまずい!非常にまずい!!この子がどれくらいの地位で舞踏会ではエンディミオンとどれだけ近い位置にいることになるのかは分からないけど、そんなパレードよりもさらに見つかりやすい場所なんかに行ったら発見されて捕まえられて処刑される確率が……という私の心をガン無視するように女の子はそのまま私を引きずって市街地へ向かう。

こうなったら市街地でなんとなしに憲兵所に行ってそのままこの子を預けて立ち去ってしまおう!


あぁ~そういえば置手紙は残してきたけどこれじゃぁこの子と私も同じじゃない。お母さんとお兄ちゃん心配しているかなぁ……?

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