第四十八話 こちらも再会
リオンside
風の国の王都は10の区画で分けられている。豪商人や大貴族が多い第1、2地区。ちょっとしたお金持ちや地位の低い貴族が多く住まう第3地区。第3地区と同じく爵位が低いけど貴族もそこそこいるけど殆どが中層階級の平民であり選民思想がないのが僕達が暮らすこの第4地区。
それは学校にも影響していてやっぱり貴族の子女も通っているからなのかヒーズタウンに通っていた頃のようなイグルみたいな奴はこの学院にはいない。まぁアーグルみたいな乱暴者がいたとしても風の女王陛下のお膝元である王都で狼藉を働こうものなら即騎士団に捕らえられて牢屋行きだしね。
だから僕もアリシアも比較的穏やかに勉強に励んだり学院の生活を楽しんでいる。
この学院では文学と算術の基本から自然学、社会学、少しの帝王学なども学ぶことが出来るからヒーズタウンの教会と比べるとやっぱり学院なだけあってカリキュラムも充実している。さらに、あと数学年上がると男子は剣術や棒術の実技授業があって高学年になれば実際に冒険者の実地訓練なんかもあり多岐に渡って分野を学ぶことが出来る。
他にも風の国には風属性の魔法持ちがいるからなのか魔法の授業も存在する。専攻は選択だけれど初回の何回かは全員受けることになっているけど……僕とアリシアが氷魔法持ちってバレたらまずいかも知れない。
身の振り方をその日までに考えておかないと。
それはともかく、本当にこの学院の授業の質の高さには舌を巻いて、しかもこんな感じの学院が全区にあるというのだからそれだけで風の国の凄さが分かるというものだ。最初は王都に来てとても不安だったけど今ならこんな立派な学院に連れてきてくれた母さんと入学させてくれたテミスお姉さんに感謝でいっぱいだ。
…ただ、少し問題というか困ったことがあるというと……
「り、リオン君!今日クッキー焼いたんだけどどうかな?」
「リオン君今日私の家で遊ぼうよ!」
「あのね…私リオン君のことが…」
何時ものように…というかここに編入してから毎日同じクラスの女の子達に囲まれて遊びのお誘いや手作りお菓子をくれたり、告白してくる子までいるや、よく思い出せば他のクラスどころか下級生に上級生、果ては女の先生にまで詰め寄られて大変だった。でもその度に丁寧に断って、今では1ヶ月に十数回告白される程度にまで落ち着いたけど当初は本当にクラス中に女の子が詰め寄ってきて大変だった。
そんな訳で毎日告白を受けている僕だけど誰かと付き合っているかというとそんなこともない。いや、むしろ僕は女の子と付き合うことは恐らく今現在の時点では無理だろう。
母さんの過去を、エンディミオンの行った最低の所業を知ったことや旅の途中に母さんに異常なまでの執着を見せていたスニーティ等を見た影響なのか、どうも僕は恋愛に対して忌避感や嫌悪感を抱く様になってしまったらしい。初めて学院で告白された時、相手の女の子が少し半泣きで立ち去った後、突然こみ上げてきた気持ち悪さに耐えられなくなって吐いてしまった。流石に吐き出すところを告白までしてくれた娘の目の前でするのはあまりにも失礼なので毎日我慢し続けていたんだけどどうやら察しの良い娘が告白した直後に僕の顔が真っ青になることに気が付いてしまったようで、それ以降告白する人はずいぶん減った。
それからは恐らく女の子に告白されて顔を青くして吐き出す気持ち悪い奴と呼ばれていじめられるかな?と思っていた僕の予想に反してみんな今まで通りに告白を断った僕を変わらない態度で遊びに誘ってくれたりお菓子を分けてくれたりしてくれる。いじめられるものと思って少し暗い気持ちで登校した僕を「おはよう!リオン君!」とみんな迎えてくれた時は恥ずかしいけど少し泣いてしまった。本当にみんないい人たちだ。
ただ、最近僕が女の子の友達と一緒にいるとアリシアが何だか怒りっぽくなるような気がするのが大きな悩み……かな?
「―――おはよう諸君。早速ではあるが知らせがある。今日から諸君らと学を共にすることになった編入生だ、リーシェライトのようにとは言わんが仲良くするようにな!では入ってきなさい」
こんな時期に編入生か、珍しい。や、一年前微妙な季節に編入してきた僕達が言えた事じゃないけどそもそもこの第四学院の編入試験はとても難しいと言われていて僕もアリシアも全教科満点合格だったから直接的な実感はないけど同時期に試験を受けた他の20人の内合格者はたったの4人であったことを考えるとやっぱり狭き門だったことがよく分かる。
「おはようございます……。べラストニア地方のヒーズタウンから来ましたエリベルトです……よろしくお願いします……」
「え、エリベルト君!?」
「へ………?り、リオン君?何でここに……?」
そこには、あのべラストニア戦争以来生き別れてしまったエリベルト君の姿があった。
「へぇ、リオン君とアリシアちゃんは一年前からここに通っているんだ。僕と姉さんは一週間前に親戚を頼ってこっちに来たばかりなんだ」
「あの戦争の時以来だね。でも無事で本当に良かったよ」
授業後僕はエリベルト君を学院の喫茶テラスに誘って今までのことを話し合った。いつもお昼は込み合うテラスだけど放課後の夕方はそれ程人もいなくてちょっと人に聞かれたくない話をするには最適な場所だ。
「う……ん、僕もあの時はこれで死んじゃうのかな?って思ったし今リオン君達と会えたことが夢の様に思えて…いや、むしろあの地獄が今まで見ていた悪夢なのかな?」
エリベルト君はとても言い辛そうにあのベラストニア戦争について思い出し語ろうとするけど、その瞳は揺れて心なしか膝もガクガクしている。これは…心に傷を負った時の記憶を思い出しているのかな?確かにあのべラストニア戦争では目の前で何人も死んだ上に少し見渡せば焼死体だらけで立っているだけ…いや、今思い出しただけで急激な吐き気と悪寒が襲ってくるのだ。このまま思い出させていたらエリベルト君が壊れてしまう。
「あ…のさ、多分とてもつらいことがあっただろうし無理に思い出さなくても…」
「……っあのね!銀の国のエンディミオン様が素晴らしかったんだ!!」
「!!?………はい?」
何で出てきたエンディミオン?
その後僕達はエリベルト君からエンディミオンの素晴らしさとか格好良かった光景とか将来騎士になって仕えたいとか姉のリリアーヌさんをエンディミオンのお嫁にしたいとか延々と聞かされ、それを要約すると…避難したエリベルト君とお姉さんは白の国に捕えられてとても酷いことをされていた。その時エンディミオンが突如現れて次々と白の国の兵や召喚された魔物、果てはあのダークネス・ドラゴンまで倒して皆を、エリベルト君とリリア―ヌさんを救いだしたらしい。それでリリア―ヌさんはエンディミオンに惚れてしまったとか…
まぁこの辺は余計かな?
「……そういえば…リオン君ってエンディミオン様と顔がそっくりだね~いいなぁ~」
いや、よくないよ。
でもこれで確定した、やっぱり銀の国の国王は僕とアリシアの血縁上父親であるエンディミオンで間違いないことが。そして不可解なのがその政治手腕の良さによる善政とか誠実な性格とその美顔も相まって人気が高い…のはともかく、この前の新聞で何故か一面エンディミオン特集がやっていてその中に記者が王妃について質問したら『私の妻はソフィアただ一人です。彼女を再びこの腕に包み込むまで、卑劣で汚い策謀で私達を引き裂き何の罪もない民を苦しめた白の国の王べジャンを滅ぼすまでどこまでも闘い続けるつもりです』と熱く語ったとあった。
しかもその新聞には母さんの特徴が記された人探し文まで掲載されていてそれを見た母さんが顔を青くして部屋に引き篭もっていたっけ?でも何日かしたら『銀の国の法なんざ知るか馬鹿野郎!』とやけくそ気味に出てきたけどね。
単純に考えるとこれはエンディミオンが未だ母さんを愛しているということになる。確かにその風評を聞いても誰もが誠実で思いやりと慈悲が深くて美顔の王子様と言うけれど……真意は別なのかもしれない。
自分の子供で邪魔になった僕とアリシアを母さんごと裏で殺すつもりだった男だ。この新聞だって実は母さんの存命を知って今度こそ確実に抹殺するために炙りだす策略かもしれない。
幸い新聞が出回った後でも特に市場の人たちは通報していないようだから今のところは問題ない。それに何かあってもテミスお姉さんがいるから何とかしてくれるだろう…ただ、僕の懸念があるとすれば……
エリベルト君が今必死に僕とアリシアに見せつけている『銀の国国王エンディミオン様の風の国交舞踏会に来訪』の記事だった。
ついに…ようやくこの作品を始めてから一番描きたかった所が近くなってきて作者のテンションうなぎ上りです!!




