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第四十七話 経緯と複雑な気持ち…

「粗茶ですが」

「ありがとうございます、落ち着きました。それにしてもお久しぶりですアサギさん」

あの後、リリアーヌさんを助けた私は歯を数本失い気絶している男を自警団に引き渡し未だ顔を青くして気分が悪そうな彼女を気遣い丁度自宅兼職場であるラーンバティー邸が近くだったのでお茶を誘った。まぁとてもじゃないけど一人で帰していい状態ではなかったし一度休ませないと倒れてしまいそうだったからね。気分を落ち着ける効果のあるという茶葉を使って紅茶を淹れ彼女に差し出すと礼を言って静かに飲み始める。

「いや、あんな地獄のような乱戦でしたから安否もまともに取れませんでしたがお互い無事で良かったですね」

「ええ…本当に無事で…良かった…所で…リオン君とアリシアちゃんは…」

「二人とも無事ですよ。エリベルト君は?」

「ええ、あの子も無事で今は二人でこの王都の西地区で暮らしてます」

リリアーヌさんはリオンとアリシアも無事なことを確認すると目に涙を溜めながら心底安心したかのように応えた。これは……先程の奴隷ブローカーに捕らえられていた時もだが反応や怯えかたが普通じゃない。恐らく戦時中に何かとてつもない恐怖を味わったのかもしれない。それをあえて訊くのは明らかに地雷を踏む。

一体何があって彼女をここまで恐怖のどん底に叩き落としたのか……それは彼女が話し出すのを待つしかない…と少し肌にピリピリとした痒さを感じながらお互いにお茶を飲んでいたら意外に早く話を切り出してくれた。


「あの日……あの恐ろしい悪夢の日、私とエリベルトは夕飯の支度をしていたんです…」



ヒーズ・タウン襲撃のその日、私達は教会から帰ってきたエリベルトと夕食の支度をしていると、突然何かの爆発音と衝撃そして何人もの悲鳴が聞こえてきた。すぐに異常に気が付いた私は家から飛び出て外の爆発がしたであろう方向を見るとそこに広がっていたのはまさしく地獄。

黒い煙に赤い炎、まるでビスケット菓子のように引き千切られるようにして無くなった建物に爆発の衝撃なのか剥がし返された石畳。それを見た瞬間考えるより先に体が動いたらしい。危険を察知した私はエリベルトの腕を掴んで家を飛び出し爆発とは反対の方向へ全力で逃げた。

でもそれは他の住人も同じだったようで大通りには最初数百人だった逃げ惑う人々も次第に数が多くなるだけでなく断続的に続く爆発と悲鳴。そして飛び交う情報から皆パニックになってしまい最後はまるで人の波のように大通りを埋め尽くすほどになってしまったらしい。そしてたくさんのデマ情報もあったけど民間人の誘導をしている憲兵の話から隣国の白の国が攻めてきたということを初めて知った。

白の国は昔から風の国とちょっとしたいざこざはあったみたいだけど前王の時代は比較的よくやっていたのに最近では不穏な動きや横暴な態度が目立ち確かにヒーズ・タウン以東の村や町ではちょっとした緊張感や警戒感が漂っていたけど風の国最強の騎士団も派遣されたと聞いていたし仮に開戦になったとしても誰もその戦線がこんなところまで来るとは予想すらしていなかった。


早めに避難することが出来た私とエリベルトは憲兵の誘導でヒーズタウンの演劇場にやってきた。この建物は随分頑丈なので早々破壊されることはないしさらにはこの真横の建物が軍が現在防衛作戦を実行するための建物だとかで要するに防衛戦力の中心のため避難者は皆一様に安心した。


その安心があと1時間で恐怖に再び叩き落とされることになるとも知らずに…





それは唐突に起きた。地の底を振るわせるような咆哮が聞こえたと思ったら何かの噴き出す音。そして何かが崩れるような音が劇場に響いてそれが終わったと思ったら扉から白の国の兵たちが一斉になだれ込んできて私達避難者2万人は抵抗する間もなく捕虜と…いや奴隷とされてしまった。

そして外に連れ出された私達が見たものは、真っ黒の墨となって瓦解している軍の作戦本部の無残な姿だった。


それからはまるで地獄の…いやまさに地獄。白の国兵は劇場を制圧し避難者を捕えると目につく若い女を強引に連れ出してその夫や恋人の目の前で強姦をし始めたり、まだ8歳くらいの子供を親の目の前で集団暴行したり、適当に見繕った者達を生きたまま火炙りにして殺したり……

そして誰も動けなかった。

自分が動けばあの軍本部を変わり果てた姿にした力でここにいる全員が殺されると脅されているから。それでも何人かは自分の恋人や子供が酷いことをされるのに我慢できなくなって抵抗したり殴りかかっていった人もいたけど全員その場で公開処刑された。


私は幸いなのか集団の中心の方でエリベルトの手を握りながら必死に俯き主に助けを乞うていたため顔を見られず目立たなくてそういった目には遭わずに済んだけれど例え自分が受けた仕打ちでなくともその時は犯される少女の悲鳴が、叩かれ殴られ次第に消えていく幼児の鳴き声が、息子を殺され火に体を炙られながら公開処刑を受ける男の叫びが、すべてその場全員の痛みだった。


そんな地獄が3日過ぎた頃、そんな地獄ですら上回るさらなる恐怖が私達を待ち受けていた。連れてこられたのは一体のオーク。その醜悪な姿と匂い、そして強靭で恐ろしい肉体から皆衰弱しているとはいえ顔を歪めてこれから一体何が始まるのか怯えている。白の国兵はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら丁度先程まで白の国兵達に玩具にされていた少女を強引にオークの前に投げ出す。オークを見る少女はその光の無い目で語っていた。『これでようやく死ねる……』そう思っていた少女をオークは掴んで……犯し始めた。


そこからはもう地獄以上の地獄だった。女は見つけられ次第オークの前に引っ張り出されて泣こうが叫ぼうが犯されて、その数時間後にはお腹にオークの子供を孕まされる。後から知ったことだけど通常種のオークは当然他種との交配なんて出来ないしこちらが攻撃しなければ非常に温厚で姿もそこまで醜悪ではない種族だ。

でも私達の目の前にいるのは凶暴で醜悪な魔物。当然皆抵抗した。こんなことは人間がやっていいことではない。こんなことは人間が受けていい仕打ちなはずがない。

でも、オークの強靭な肉体にダメージを与えることすら出来ず、簡単に払いのけられてしまって結局は無意味だった。皆泣き崩れた。恋人をオークに犯され幸せな未来を奪われた若者、子供を白の国兵に撲殺され悔しくてもただ泣くことしかできない母親。憎悪の念を残しながら焼き殺された男……


「お!まだこんなところに若い女が残ってたじゃねぇか!しかもかなりの上玉だぜ。おい喜べ、この俺様がお前を犯してやるからよぉ!ケヘへへへへへ!!」

ついに私は見つかってしまった。兵は強引に私の腕を掴んで引っ張り出すがエリベルトが必死に「姉さんに手を出すな!!」と叫んで抵抗してくれる。でもこのままではエリベルトまで巻き込んでしまう!それだけは絶対にだめ!

「離しなさいエリベルト!お姉ちゃんは大丈夫だから……」

「いやだ!嫌だ!いやだぁぁぁ!!!姉さん!姉さん!!」

「このクソ餓鬼……ぶち殺してやる!」

いつまでも抵抗するエリベルトに腹を立てた兵はエリベルトを殴って気絶させてからその小さな体を頭から持って処刑台に連れて行こうとする。

「お願いします!私は何でもやります。だから…エリベルトだけは……弟だけはどうか助けて下さい!弟だけは……」

「うるせぇよ!言われなくてもテメェは存分に犯してやるけどなぁ、この餓鬼はこの俺様に刃向ったんだ。当然火炙りにして殺すのが当然だろ?なぁみんな」

「ああ、そうだな」「我らは正しい。そのガキは悪魔の子だ」「せっかく神聖な俺達が下賤で汚らしいお前らと性交して清めているというのに恩を仇で返すとはな」

口々に男の正しさを説く白の国兵達。そしてとうとうエリベルトは処刑台に連れて行かれてその下には真っ赤に燃え上がり何人もの命を奪ってきた業火の炎の海が広がっている。

「さぁ全員よく見ておけよ!俺らに抵抗した愚かな餓鬼の末路を!」

「いやだ!やめて!弟だけは殺さないで!!いや…いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」





「そうだな。よく見ておくのだ風の民よ。人間の業を踏み外した下種が辿る末路を――――」


その時は皆何が起きたのか全く理解出来なかった。

ただ私の目に映る情報は、エリベルトを火の海に叩き落とそうとする男が一瞬で氷漬けになり、火の海が一瞬で消滅して、笑ってエリベルトの処刑を眺めていた男たちの胸から氷の槍が飛び出して、少女を犯していたオークの頭に巨大な氷の杭が打ち込まれる。そんな光景が流れてた。


「遅れてすまない風の民よ!銀の国エンディミオン・アンドラダイト、風の国へ加勢する!我が高貴なる騎士達よ虐げられし民を救い、暴虐の限りを尽くした白の国の愚者達を一人残らず始末しろ!」

「「「「全ては我らの誇りのために!!」」」」



丘の上から現れたのは銀の国の国王エンディミオン・アンドラダイト様とそして白銀の鎧に身を包んだ銀の国の騎士団だった。







「―――本当にもう駄目って思ったんです。でもそこでエンディミオン様が颯爽と現れてエリベルトを救って、白の国の兵やオークとかの魔物、果伝説でしか聞いたことのないあのダークネス・ドラゴンまでみんなみんなやっつけてくれたんです。はぁ~~あの時の白馬に跨って氷の魔法で闘うエンディミオン様。まさにおとぎ話の白馬の王子様みたいで素敵だったなぁ~。また御会い出来ないかしら?今度御会いすることが出来たらこの私の熱い思いを伝えたいなぁ~~はぁ~本当にエンディミオン様素敵~~~♪…………?アサギさん?どうかしましたか?」


何でそこで出てくるエンディミオン!!?

おいこいつ全部持っていきやがったぞ!!私の嫁(心の)であるリリア―ヌさんまで持っていきやがった!許すまじ!いやそれより、銀の国の王!?聞いてねぇーよそんなやばいこと!公爵からとてつもないジョブエクステンドしてんじゃねーか!!おいこれもしかしてというかまさかというかソフィア生きていて奴の子供のリオンとアリシアも無事生まれていることまでバレたら王位継承とかのいざこざで大変マズイことになるんじゃないか!?

あちらさん的には殺したはずのお遊びで孕ませた待女との子供が生きていていつしか本妻というか王妃との間に生まれた子供と権力争いになると分かったら全力で殺しにかかってくるでしょうねーー。

あー考えたくない考えたくないっ!


「えへへ…もし私がエンディミオン様と結ばれたら……朝目が覚めると目の前にあの美しい顔があって…そして私の脇には赤ちゃんが二人のベビーベットで『おはよう、リリア―ヌ』とあの貴公子の声で………きゃぁ~~~!私なんてことを…恥ずかしい……でもきっと子供が生まれたらとてもやさしく大切にしてくださるでしょうね。助け出して下さった後、子供達と遊んで下さったり熱心に子供のことについて母親に聞いておられたから」

や、普通にお腹にいる子供ごと抹殺されかけましたけど何か?

言えねぇ~こんな頬赤くしてキャッキャしてるリリア―ヌさんにエンディミオンはヤリ○ンのクズ男ですなんて言えねぇ~~~!!

リリア―ヌさん、悪いことは言わない。奴はやめておけ。あいつは表面に貴公子で優しい仮面を被った中身獣だから。銀髪健気な美少女の心も体も弄んで子供を孕ませるだけ孕ませて母親ごと殺したりする最低男だから。

な?ここはやっぱり堅実に浅木祐二というナイスガイにしようぜ!


「エンディミオン様って未だ王妃様をとられていないんですってね。噂だと心に決めた人が殺されたからだとか何とかと聞いてますけど……」

おい、早速権力争いのいざこざに巻き込まれた被害者が出ているぞ。その殺された人って…多分あのローズとかいうケバイ女だろうなぁ~。まぁあんなの別に死んでもどーでもいいけど。

それにしても何だかエンディミオンの名前が出てきてから嫌な予感がするんだけど?一応ここは風の国だし奴の国の理が通じないから表立って殺されることはないだろうけど暗殺なんてされたらたまったもんじゃないね。

いや、奴は国王なんだから下手すれば権力とか賄賂とかでこの国でも指名手配される?子供連れで手配度5とかどんな無理ゲーだよ。

レクターおじさんはどこですか?手配度下げられませんか?そうですか……。



「……そういえば…リオン君って……エンディミオン様にそっくりですよね?」

―――ぎっくぅ!!

エンディミオン様……本当に不憫…

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