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第四十六話 再会

side ソフィア


「こらぁ!どこ見て歩いてんじゃこのアマァ!!」

この日も氷ちゃんに荷物持ちを遠まわしにお願いして良いお魚と日用品が買い『アタマウジデモワイテンジャネーノ?』としかしゃべらないけど最近ニュアンス的に会話が成立するようになったテツカイザーとも楽しく?お喋りしながら帰っていた夕暮れにそれは起きた。


突然の怒声に一瞬物思いに耽っていた私が何かやっちゃったんじゃないかと思ったけど私の目の前には虚空が広がるのみ。ではさっきの怒声は…?そう思って振り返ると50m程離れたところで背の高さから18~20歳くらいの年齢だと思う儚い印象が特徴の栗色の髪の女の子が目に涙をためながら怒鳴りつけている人相の大変悪そうな熊のような男の人に必死になって謝っていた。構図を見た限りではどうも女の子が熊男にぶつかってしまって男が癇癪をおこしてしまったようね。

「申し訳ありませんでした……申し訳ありませんでした……」

「あ゛ぁ?テメェこの俺様をドゴスのクリーチャーと知って言ってんのか?お前ら一般市民はなぁ~俺様達冒険者のおかげで平和に暮らせているというのに何だその態度は?このトップランカーである俺様にぶつかって怪我をさせたかもしれないのに何なんだ?ただ謝るだけで許されるとでも思ってんのか?」

女の子は怯えたような声で必死に謝るけど男は開放する気はなく、とんでもないこじつけを付けて女の子を責めつづける。これは…アサギさんが言っていた‶当たり屋‶というモノでしょうか?そもそもあんな脂肪だらけのゴツゴツ体系の男が華奢な女の子の体がぶつかっただけで怪我なんてどう考えてもあり得ないでしょうに。

あれだけ驕れている上にどう見ても破落戸にしか見えない所を見ると多分男は上級ランカーというのはただの見栄っ張りの嘘で実際は大したランクの冒険者ではなく単に冒険者の称号が欲しくて登録したのか、若しくは最近まで(・・・・)冒険者だったのかもしれない。女の子にぶつかったくらいで怪我しちゃうような軟弱者じゃ上級ランカーのライセンスを獲ること自体不可能でしょうし。いや、風の国のそれも王都の冒険者のそれもギルド所属の人だと冒険者ギルド本部によって厳しく統率されているから‶元‶の線もないかしら?

となると…異国から流れてきたのかもしれない。外国から流れたり亡命してきた様な者は何かしら問題を起こして治安を悪くするためその度に兵を派遣するのが大変とかなんとかよく奥様が言っていたわね。


「オラァ!この俺様が礼儀というものを教えてやる!ついてきやがれ!!」

仕舞内に男は女の子の腕を掴んで強引に連れて行こうとする。女の子は泣きながら必死に抵抗すれど男と女の腕力の差は明らかでありズルズルと引っ張られている。そのあまりの横暴ぶりに私は我慢が出来なくなって声をかけてしまった。


「ちょっと貴方!それはあまりに横暴なのではなくて?そもそも貴方のような大きな体格の方が彼女のような華奢な体とぶつかって怪我なんて有り得ません!それに

女性に乱暴をする様な人が風の国ギルドの上級ランカーの紳士とは到底思えませんわ!」

「アァ!?何だテメェは!この俺様に楯突こうってのかぁ?……ほぅこいつは上玉だ」

「え?………あ……アサギ…さん?」

男は私の反抗にすぐ反応して女の子の腕を掴んだままこちらに鋭い眼光を飛ばしながら向かってくるが途中から私の顔を見てニヤリと笑ったのを見逃さない。


「俺はこの田舎者女に社会のルールというものを教えてあげてやっているんだ。それに要らない難癖を付けようというなら…そうだな、お前も連れて行ってやろうじゃねーかダンプラスト地区(奴隷街)によぉ!」

やっぱり何処か胡散臭いなぁと思っていたら奴隷商人だったのね。奴隷商人は子供を人質にしてその親を奴隷にしたり、逆に子供を拉致して富豪達の玩具として売り飛ばしたり今この場合のように気の弱い若い娘さんをターゲットにして難癖つけて奴隷街に連れて行ったりという卑劣な手段で過去に幾千もの人々の人生を滅茶苦茶にして奴隷へと落としてきた。

私の脳裏にべラストニア戦争で頭に流れてきたリオンとアリシアが奴隷にされたかもしれない光景と思い出したくもないスニーティの最低の顔の記憶が走る。

「お言葉ですが風の国の、それも女王陛下のお膝元で違法である奴隷売買をやるとは余程実力を過信しているようですね。しかもこんな往来のど真ん中で堂々とダンプラストの名前を言うとは…騎士団が聞いていたらどうなることでしょうね?」

「けっ!騎士団なんざ大したこたぁねえしあの伝説とか言われたプロトゴノスもべラストニアで無様に敗走したじゃねぇか!それによぉ姉ちゃん、往来っつっても誰もいねぇんだから騎士団どころか憲兵すら呼べねぇのに気付いてんのか?あ?」

やはりこの男は風の国の者では無いようだ。どんな破落戸でも風の国騎士団のその高い統率力と攻撃力について幼い子供どころか近隣の白の国、水の国、土の国、あと最近誕生した…銀の国でも知っているのにその恐ろしさを知らないとなるとこの国の者でないどころか近隣から来た訳でもないのは明らか。いや、恐らく奴隷売人という所と女王陛下を罵倒するその言から考えてこの男は最近奥様が言われていた闇組織側の人間かもしれない。

闇組織、風の国の腐敗貴族一斉粛清からしばらくしてその組織は誕生したといわれている。主に処刑から脱走し爵位をはく奪された貴族が中心となって外国、特に私の祖国白の国と手を組んで暴動や反乱、人攫いや放火など犯罪や破壊を繰り返している集団。

男が言ったダンプラスト地区はまさしくその最前線で王都の南の海に挟まれた島にある地区なのだけれどここは正確には風の国の領土ではなく水の国との不干渉地帯となっているのに最近反乱組織がそこに居ついて水の国はそれを侵略と述べて風の国を非難。風の国も対応しようにも水の国が兵の派遣を拒絶して結局動けない状況となってしまい闇組織の本拠地となってしまった場所。

さて、思案はともかく男が言ったように少し日も沈んできた今この通りには確かに憲兵も通行人もいなくて助けは呼べそうにない。そういえば……女の子が何も喋らなくなってしまったけどと、ふと見てみたら女の子は跪きながら目を見開いて体を小刻みに震わせて「いや…奴隷はいや……もういや……奴隷はいや……奴隷はいや…」と呟いて錯乱している。

これはもしかして……何かの心の傷を抱えているの?



そう、女の子に気を取られている内に不潔そうな男の太い腕がもうあと数十センチの所まで私に迫ってきていた。

「―――しまっ……!!」

「ぐへへへへ…今日は本当についているぜ。こんな上玉の女二匹も手に入るとはなぁ数年は遊んで暮らせそうだぜ!さあとっとと来やがれ!」



「fuck you!」


そんな聞いたこともない異国の言葉が私の口から放たれたと同時に私の意識は深いまどろみに沈むように消えた。








side ソフィア


「fuck you!」

「―――がぁっ……!??」

ソフィアを掴もうと伸びるその腕は彼女の細くしなやかな手に叩かれ…いや、殴りつけられた。そのおおよそ彼女の深窓の令嬢を連想させる外見からは考えられない行動に目を丸くした男は再びソフィアを凝視する。確かにそこに居るのは銀髪美少女なのだが、明らかに纏っている空気がまるで正反対の荒々しい攻撃的なそれとなっている。

だが、そのことに気が付いたのは掴まれその変化に呆然とする少女ただ一人。対し男はソフィアが生意気にも抵抗し自分の手を叩いたことに癇癪をあげ意味不明な怒鳴り声と共に襲いかかって来る。

「なんなんだぁよその態度は!!ざけんなよ!この俺様が調教してやるっつってんだ!!さっさと来いよこの女ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「なんだなんだよなんですかその怒鳴り声?もしかしてテメェ何でもかんでも怒鳴れば屈服させられると思っちゃってるDQNですかぁぁ?頭大丈夫?」

怒りに我を忘れて襲いかかる男を馬鹿にするようにはやし立てるソフィア。その話し方も先程の少女として、メイドとして相応しい高貴で丁寧な話し方とは正反対の荒々しいガサツな男が話すような好戦的なそれへと変貌している。その話し方も相まってますます怒った男はもう捕えるとうより殴りつけるようにその太い拳や果ては足まで振るうが、全く当たらない。


対しソフィアは左右縦横無尽に振るわれる丸太の様に太いその腕をかわしていき、何時までも捕まえられないことに苛ついたのか男が特に大きく振りかぶった瞬間、不敵な笑みを浮かべながらその深緑の瞳目を光らせた。

「練魔術・強化。昇竜拳ライジングドラゴン!!」

横から迫る腕がついにソフィアを捉えた!と男は歓喜に笑おうとした……が、手応えがないことに気付いた時にはしゃがんで残像を残しながら攻撃を避けたソフィアの強化まで施されたアッパーカットが男の顎に突き刺さり文字通り男を昇天させた。


その意識ごと…。


「いやぁ~早めに見切りつけて出てきて正解だったぜ。ソフィアさんはリオン達のことになると躊躇いが無いけど自分のこととかになると暴力を振るうという選択を使わないのは甘々だよなぁ………はぁ」

「きゅくぷくー!」

ソフィアのため息に氷が頬を膨らませて何かを抗議する。最初は意思の疎通が出来なかったそれも今では問題なく意訳が出来ているのだから慣れって怖いよな~とソフィアは思う。


「なに?何で戦闘で自分達を使わなかったって?明らかな過剰戦力だよ!ただ腕っぷしだけの脳筋馬鹿相手に錬魔術使える私、硬度が岩石並みのテツカイザー、そしてあらゆるものを氷漬けに出来るお前の3人で闘ったら明らかにただの苛めかリンチだろ?知っているんだからな、この前お前を珍しがって捕まえようとした奴らにわざと捕まって連れてかれたアジトごと巨大なこのモピルスーツ(テツカイザー)で壊滅させただろ!あれから国の貴族達にお前の力がバレた上に氷の精霊であることまで知られてお前を譲れと上級貴族たちに命令されて私とテミスさんがどれだけ苦労したか………」

「あ、あの…アサギさん?やっぱりアサギさんですよねっ?無事だったんですね!」

「え……………リリアーヌさん…?」


男に捕まれていた薄幸の美少女、それはヒーズタウンでハーブのお店を開いていたリリアーヌであった。

さて、いよいよ動き出してきました…

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