表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/83

第四十話 精霊バトル

side アリシア


「きゅくるぅーー!」

「え~と、え~と……ぎゃおーん!」

空高く投げた聖霊石は頂点に辿り着いたと同時に眩い光を放って封印されていた聖霊を呼び覚ました。お兄ちゃんが投げた青色の石からはギルドで私の髪を潤しシャンプーの効果を与えた青色の小さな人型スライムのような精霊がこころなしか戸惑った後無理矢理やっつけな鳴き声を上げながら、私が投げた白色の石からはリリアお姉ちゃんが魔物を真っ二つにした時に氷付けにした可愛い鳴き声をするちょっと食いしん坊な妖精が可愛らしい声を元気いっぱいに上げてそれぞれ召喚された。

だがここで最初の異変とそしてお兄ちゃんが懸念していたことが現実のものとなる。精霊が召喚されたと同時に私達兄妹二人は突如疲労感とめまいに襲われてしまった。それは初めから分かりきった話で、召還に膨大な魔力を捧げなければならず、また聖霊と心通わす者でなければ使役出来ないそれを人間の、それも子供が召喚したとなれば当然の成り行きだった。


「……?眩暈が治まった?」

召喚当初まるで嵐の海に浮かぶ船のように世界が揺れていたのに次第に揺れが治まりぼやけた視界がくっきりと鮮明になり目眩も最初だけでそれからは発生しなくなった。奇しくもそれはアーグル達との闘いでの魔力切れや、ベラストニア戦争での魔力不足などの経験で魔力を大量に失うことに慣れていたからであった。


召喚は上手くいった。問題はこの後の使役にある。

聖霊のような上位の存在が果たして自分達に従ってくれるだろうか?知らず知らずの内に表情が固くなる。


「あれ?私を呼び出したのリリアちゃんじゃないの~?リリアちゃんどこにいるのー?」

「きゅくきゅくるるー!」

「あ、ひょうちゃんも呼び出されたんだね。…え?リリアちゃんは黒くて大きな変なのに捕まっている?…あー本当だ!しかもあれって確かお兄ちゃんが言っていた触手プレイとかいうエッチなのだよね?」

精霊のその会話に私達はポカンとする。そして"ショクシュプレイ"とはなんなのだろう?


「フン、どうやらこの小娘の所持している精霊を召喚は出来たようだな。しかし、そんな塵で私に相対しようなどと思い上がるのもそこまでだ」

魔物は水の精霊を一瞥すると手で払いのけるようにして後方にいる私達ごと潰しにかかる。咄嗟のことに反応が追いつかず、固まることしか出来ない。お母さんも目を見開き触手から逃れて私たちの元へ行こうとするけどスライムとスニーティに拘束されて身動きが取れず、さらにはその桜色の唇が綺麗なお口に強引に触手を捻じ込まれてくぐもった声にならない悲鳴を響かせた。


―――氷結ビーム!!



「………な、に?防いだ…だと!!?」

だが、いつまで経っても衝撃も痛みも来ず、数メートルにまで迫っていた黒き巨大な手はその間を挟むようにして出現した氷の檻によって遮られた。

「氷ちゃんありがとー。ちょっと黒い大きな貴方!バトル開始の宣言も無しに攻撃するなんて精霊トレーナーとして恥ずかしくないの!?あとリリアちゃんを放してよ!その娘にエッチなことをしていいのはお兄ちゃんだけなんだからね!!聞いているの大きい…え~と、角があるから羊さん?」


「…ね、ねぇ水の精霊さん?その…リリアさんとお母さんを助けるのに力を貸してくれませんか?」

頬を膨らまして人差し指を立てて子供を叱るように「メッ」とする水の精霊にいや、精霊さん。それは古代最悪の魔物で決して羊などという可愛らしいものではありませんと内心突っ込みを入れながら恐る恐る質問してみると、精霊は私を見て可愛らしく小首を傾げた。


「あれ?あれれ?何でソフィアが小さくなっているの?それに瞳の色も変えているし…。もしかしてカラーコンタクトっていうの着けているの?あとその体は変な組織に薬を飲まされて小さくなっちゃったの!?あれ、でもあの黒くて大きいのの所にもソフィアがいるー。もしかして分身したの?お兄ちゃんみたいに」

水の精霊は周りをくるくる回って眺めて不思議そうにする。どうやらお母さんを私と勘違いしているようだけど、どうして精霊さんはお母さんのことを知っているのだろう?過去に何かの縁があったのかもしれない。…お母さんだし。そしてそのお兄ちゃんなる人物は分身が出来るようだがそれは人なの!?

そういえば宿屋でリリアお姉ちゃんに髪を洗ってもらったときに一度顔を合わせていたはずなのだけどどうやら精霊はよく見ていなかったようだ。水の精霊が二周程周りをくるくる回っていると、今度は氷の精霊が飛び上がって水の精霊の髪の毛を軽く引っ張った。


「きゅくるる!きゅーくるる!!」

「イタイ!痛いよ氷ちゃん髪の毛引っ張らないで~。え?そんなことより早くリリアを助けようって?それもそうだね、体が小さくなるなんてご本ではよくある話だしね」

体が小さくなるってよくある話なの?あとあの大きな魔物怖くないのかなぁ?その考えが表情に出てしまったのか精霊は私の顔を見てから更なる攻撃を仕掛けようとしている魔物を見て、コロコロと優しく笑いかける。


「もしかしてあの大きくて黒なの怖いと思っている?いつまでも心配性だなぁソフィアは。あんなの"しんしょくせいうぃるす"とか"ぷらずまばくだん"とか"じんこうさつりくせいめいたい"に比べたら水溜りと湖くらい恐ろしさが違うし、あんなのがどんなに凄んでもお兄ちゃんが本気で怒ったほうが何百倍も怖いよ」

…しんしょくせいうぃるす?ぷらずまばくだん?何だかお母さんが夜によくお話してくれた"カクノフユ"とかいう怖いお話にそんな単語があったような…?と、とにかく精霊さん達の協力を得ることは出来たようだ。


「そういえば精霊の力ってどうやって使えばいいのですか?」

お屋敷で読んだ書物にも精霊について詳しく書かれた本がいくつかあったからある程度の知識はあるのだけれど精霊魔法の使い方なんて乗っていなかったし、その上エルフの魔法についてもちょっとしたことなら書いてあったけどどういう風に発動するかについてはまるで分からず、リリアお姉ちゃんがやったような相手を斬りながら凍らせることなんて正直出来そうにない。


「大丈夫!精霊バトルは基本的に精霊だけが闘うから。でも召喚者(トレーナー)は4つの技から選んで指示を出さないといけないのと魔力をそれに応じて貰うからよろしくね」

…え、えと…まずその精霊バトルを容認しているのは精霊さんだけで魔物側(あちら)は多分躊躇いなく攻撃してくると思う。そして何で技が4つ固定なのだろう?

「ちなみに4つの技はそれぞれどんなものがあるんですか?」

至極もっともなことをお兄ちゃんが問いかけると水の精霊さんは腕を組むようにして頭を傾いで「う~ん…うう~ん…」と唸る。精霊さん自身覚えていないの!?と思っていたらパッと笑顔になって思い出したのか拙い口調で説明を始める。


「え~とね…まず私が、ウォーターカッター、水爆弾、聖なる水、はいぱーでぃすとらくしょんをーたーですとろい。この4つだよ!」

…最後のが何だかやたら長い名前で明らかにおかしかったけど、とにかくその技の中から選べば水の聖霊さんは私達に協力してくれる…のかなぁ?

「氷の聖霊さんの技は何があるんですか?」

お兄ちゃんが今度は氷の精霊さんの技を唯一意思疎通が可能な水の精霊さんに問いかけると今度はあっさりと答えだした。

「えっとねー、氷ちゃんは…まずさっきあの大きい人の攻撃を防いだ氷結ビーム、次に氷刃ギロチン、氷の牢獄、そして起動兵器テツカイザーZの4つだよ。まずどの技にする?」


…またもや最後に変な技名が出た。もしかして"精霊ばとる"というのは最後の技の名前を変なのにしなくちゃいけない決まりでもあるのかなぁ?と、とにかく今まで私達を守ってくれた氷の檻も壊されちゃったし早く技を選んで指示しなくちゃ。う~ん…どれにすればいいのかなぁ?最後のはいぱーなんとかは論外として、何が飛び出すか分からないし取り敢えず無難に"ウォーターカッター"にでもしようかな。でも、ウォーターカッターってどうやって水で物を切るんだろう?


「二人共決まった?どれにするの?」

水の精霊さんの問いかけに私達兄妹は同時に応えた。


「ウォーターカッターで」

「起動兵器テツカイザーZで」



………

……………。


………あれ?なんだか私の声と同時に聞き慣れた暖かな日差しを感じる透き通るイメージを思い浮かばせる大好きな声が変な言葉を喋った気がしたけど気のせいかな?

よし、もう一度。


「ウォーターカッター!」

「起動兵器テツカイザーZ!」



…しばらくの静寂が場を包み込んだ。





「お兄ちゃん!なんでよりにもよってそんな珍妙な技をわざわざ選択するの!?」

「アリシアこそ!何で一番強そうなはいぱーでぃすとらくしょんをーたーですとろいを選択しないのさ!?」

どうしよう…お兄ちゃんがお母さんのせいで残念になっちゃった!


「何だかケンカになっちゃったみたいだけど、取り敢えずそれで行くね!」

そんな技の言い争いをしている内に聖霊さん達は勝手に動き出してしまった。本当にやるの!?起動兵器テツカイザーZ!?水の聖霊さんは飛び上がって丁度魔物が私達の方へ放った黒い竜巻攻撃に抑え込む形で青い閃光を放出したと思ったら黒い竜巻はまるで昔お母さんが作ってくれた"テマキズシ"を縦に裁断したかのようにポックリと真っ二つに切り裂かれて消滅した。

本当に水で斬っちゃった…。


「あ、ちなみにあの魔物捕獲する?それなら体力1だけ残して眠りと混乱とかの状態異常にするけど?」

「「いや、あんなのいらないから」」

あんな魔物とても捕獲したままでいられるとは思えないしあんな恐ろしいのいらないよ。お兄ちゃんとほぼ同時に即答することとなった。

「確かに不細工だもんねアレ。それじゃ氷ちゃん、あいつをオーバーキルでよろしく!魔力はいっぱいあるから遠慮は多分いらないよ?」

「きゅくるーーーーー!!」

いや、その魔力を与えるのは私達だからあんまり遠慮なしにバンバン使われると後々の頭痛が怖いのだけど…。そしてついに出るのかテツカイザーZ。嫌な予感しかしないけどどんな技か気になるのもあってあまり止める気になれない…。


氷の精霊さんは先程の攻撃の反動で怯んでいる魔物の方へ飛び上がると眩く発光し始めて周りを白い光が満たして行く。その光の眩しさで手で目を覆ってしばらく視界を遮っていると突如地が鳴り震えるような音が耳に響いた。



「―――――?何の音なの……………………………は?」

ようやく光が収まったのか覆った手を退かすとそこには…氷の…ゴーレム?がいた。ゴーレムは私が作り出す人を粘土で模った形のものとは違って、やたら角張って体の至る所に突起のようなものが備えてあるなんだか四角の箱を集合させたような形の高さがあの魔物と殆ど同じくらいの大きさのものだった。


「この我と同じ大きさのゴーレムを作れば勝てるとでも思ったか?思い上がりもそこまでだ!その下らん木偶ごと次の一撃で葬ってやろう!」

「アタマウジデモワイテンジャネーノ」

「なんだと貴様!!下等な精霊の作り出した木偶のくせにこの我を愚弄するか!」


魔物は自らを侮辱したゴーレムに怒りを覚えて極大の竜巻をその背に纏わせて一気に放出する。対してゴーレムは背中にその角張った腕を回して何かを取り出して魔物と、そこから放射される竜巻に向けて構えた。

というかあのゴーレムってしゃべれるんだ……。


「先程は妙な攻撃で防いでいたが今度はそうはいかんぞ!この辺り一面を荒野に変えることが出来る威力の風と大きさだ。何処に逃げようと、防ごうと無駄なの―――――――――!?」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――――



魔物の歓喜の叫びを打ち消したのは不気味に響き渡る爆発音だった。





ゴーレムは迫りくる竜巻と魔物にまるでお母さんの持っている"ダブル・コンテンダー"を連続で発射出来るような銃?で応戦し、銃口からは無数の氷の針がとんでもない速度で連射されて、竜巻は発射された弾丸によって空間ごと抉られて布をネズミに齧られたかのように穴だらけとなって最後は形を保てなくなったのか霞のように消えてしまい、魔物もその全身が蜂の巣のように穴だらけとなってしまってそのまま地面に倒れ伏してしまった。

「……す、すごい!すごいよ精霊さん!!すごいよテツカイザーZ!やっぱり僕の判断は間違っていなかったんだ!!」

「……………。」

テツカイザーの凄さに飛び上がって喜ぶお兄ちゃんに、何だか釈然としないような……悔しさを感じた。


っと、いちまでも呆けている場合じゃない。一刻も早くお母さんとリリアお姉ちゃんを救い出さないと。穴だらけになった魔物はピクリとも動かないことから今度こそ力尽きたみたい。

そして、どうやらその乱暴な言葉とは別にテツカイザーはリリアお姉ちゃんとお母さんが捕まって行る場所には綺麗に攻撃しないでいてくれたみたいで二人共無事だ。何だか決着が腑に落ちないけどとにかくこれで一件落着かな?と、油断したのも束の間のことだった。


テツカイザーの心臓が黒い閃光に貫かれたのは。


「まだ…まだ終わるわけなかろう。とはいえ先の一撃はなかなか効いたぞ木偶。だが忘れたのではあるまいな?我はどんなに傷を付けられようとも復活することを」

見ればあれだけ蜂の巣の様に開いていた風穴が黒い煙を纏いながら埋まっていく。そういえばそうだった、この魔物はあのリリアさんの剣戟で真っ二つにされても再生してしまう言わば不死身。改めてこの魔物に相対することに絶望感を感じたが、妙に何かが引っかかる。それなら何故今まで斬られたりしたら即時再生するのにリリアさんの氷の刃を受けてからしばらく再生しなかったのか…

「えー!?あのモンスター回復能力持ちだったの?小さい方のソフィア、こうなったらすいそげんしを融合させてこの辺一帯ごと吹き飛ばす水爆弾を使うのが私のオスス…」

「や、やめて!それ絶対私達も無事では済まないよね!?」

何だかそれお母さんが話してたスイソバクダンに似ている気がするよ!確かあれって世界をも滅ぼす力があって人はおろか周囲の建物ごと溶解してしまうほどの威力があるって聞いたことがあって、しかもその後の死の灰について聞いて怖くて眠れなくなったのはいい思い出だ。


「あぁ…やっぱり巨大化ヒーローはやっつけられる定めにあるのかな?」

お兄ちゃんが召喚時のキラキラとした表情から一転して遠い目で心臓に風穴があいて倒れるテツカイザーをながめていた。


「さぁ、これでもう貴様らを守る木偶も消えた。今度こそ息の根を止めてくれるは!」

テツカイザーの残骸を見て笑いながら魔物は背中の黒い翼を地面に叩き付けると一気に跳躍して私たちの方へ突っ込んでくる。

「――――っ!!やめて!!リオン!アリシア!逃げて!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

お母さんの悲鳴が空に響き渡る。


ふと、一瞬だけどその黒い体に水色の輝きがポツポツと残り、完全に再生したと思われたその体に未だ小さな穴が開いているのが見えたような気がした。




―――――――――――――――!!




「氷の聖霊さん!氷結ビームで衝撃の威力を相殺するんだ!」

「きゅっくるー!」


魔物によるその巨大な腕のインパクトの衝撃と、咄嗟に水色の壁を作り出す精霊さん、お兄ちゃんに抱えられて地面に倒れる衝撃とを同時に受ける瞬間、雷撃の様な閃光が私の脳内を駆け巡った。


私の体を一瞬浮かせて吹き飛ばそうとした衝撃はお兄ちゃんの氷の光線の放射力を利用した機転によって打ち消すことが出来た。そしてすかさずお兄ちゃんは氷の聖霊さんに指示を出して追撃を仕掛ける。

本当に精霊バトルをやっているんだ…

「反撃だ!空に適当な氷塊を作り出して即座に氷の刃に加工、そのまま突き落としちゃえ!」

「ねぇー小さいソフィア~。男の子の方は指示出しているのに何で私には指示出してくれないの~?」

水の精霊さんがいつまでたっても指示を出さない私につまらなく思ったのか口を尖らせ聞いてくる。さて、先ほど閃いた作戦が通用するかわからないし、仮に通用したとしても同じ弱点に気が付いたリリアお姉ちゃんですらやられてしまったのに私とお兄ちゃん、精霊さん達だけで出来るか激しく不安だけどやるしかない。


「言われなくても指示はするよ。技の中のウォーターカッターってさっき見たけど水圧でモノを切り裂く技なんでしょ?あの魔物の固い体も切り裂けそう?」

「うん!ちゃんと詠唱さえすれば鋼鉄くらいだったら多分大丈夫」

それを聞いて安心した。この作戦は少なくともあの魔物を何らかの形で損傷させなければ意味がないのだから。


「聞いてお兄ちゃん!あの魔物は傷つくと煙になって再生するけど傷口が凍り漬けになったら再生が出来なくなる。だからこれから水の精霊さんがあの魔物を切り裂きまくるからその切り口を魔法で凍りつかせるのを手伝って!」


お兄ちゃんは私の言葉にしばらくキョトンとしていたが、次第に思考が追いついたのか私の考えが理解できたのか「分かった!」とだけ言うと氷の精霊さんに魔物が反撃できないように連撃の指示を出しながら魔法詠唱を始め氷の魔力を溜める。


あの魔物は一見鋼のように固い体と無限の再生能力を持っているように見えるけど、その実冷気には非常に弱い。その証拠にリリアお姉ちゃんがあの魔物を斬ったと同時に切り口を凍らせたら傷口は煙を発することも再生することなく氷が砕けてきてようやく煙になってくっつくことが出来ていた。ということは仮に先ほどのテツカイザーの攻撃のように無数の穴を開ける技を使ったすぐ後に全身を凍りつかせれば傷口を再生させることなく無力化させてその間にお母さんとリリアお姉ちゃんを救出することが出来るかもしれない。


「あ!それと魔物の肩で捕らわれているお母さんには傷つけないようにね!」

「了解~。氷ちゃん、あっちの大きいソフィアをとりあえず氷の牢獄に閉じ込めておいて~」

「きゅくるー!」

……何だかお母さんを監禁する悪い人たちになったような気がするのは気のせいだろうか?

魔物は氷の精霊さんの連撃に翻弄されていてその注意は私たちに向いていない。やるなら今しかない。

ただ、懸念があるとしたら聖霊の魔法は普通に使う魔力を少なくとも5倍の効率で強力な魔法へと変換して発動出来る代わりにそのほとんどがあまりに強力な魔法だから、結局は聖霊魔法を使うと私達から魔力がごっそり持って行かれてしまう。その時間制限もあるのだ。

そんな私の不安に気がついたのかお兄ちゃんはポンと肩を優しく叩いて

「大丈夫だよアリシア、僕が付いている。何があってもアリシアと母さんは守から」

と不安を和らげてくれた。そうだ、私は一人じゃないし今背中には世界で一番安心できる人がいる!…でもお兄ちゃん、お兄ちゃんがいなくなったら私もお母さんも悲しむんだよ…。そんな未来私は絶対嫌。だから…一人も欠けさせることなくこの作戦を成功させるんだ!


―――――――魔物が氷の精霊さんの最後の刃を砕いた音と共に私たちは一斉に動いた。

水の精霊さんは空高くまで飛び上がると突如心の奥底にまで響き渡るような綺麗な声で歌を歌いだした。

「――――――――――」

その声に一瞬魅了されそうになるけど、顔を振り払ってお兄ちゃんと共に魔力を溜めるのに集中する。

「――――――――――――――――――――…」

それにしても本当に綺麗な歌声だ。まるで一点の穢れも無い綺麗な湖を連想させる歌だ。水の奥底まで何の障害もなく見えてしまえるような、怖いくらい綺麗な水―――



「………っ未来を!切り裂いて~♪♪デンデデンデデンデデンデ~でんででんでっで~で♪鋭い閃光が闇を裂きぃ~邪悪な心、穏やかに癒してゆく~ぅ~この世界には美しきものあるけれど~~♪邪悪な外道が我が者顔で蔓延る~~♪奪われた愛しき姉~~♪失った唯一の安らぎ~~♪復讐に燃える心、失った憎しみっ今!解き放つ!!デデンデッデデデ!殺してやる!全て!何もかも!!この俺が全てを殺しつくして~~♪いつの日~にか~あの安らぎの場所へ~~辿り着いてみせる~~からぁ~~♪」


ギャゥゥゥーーーーーン


歌が終わったと同時に水の精霊さんの体から眩い光が溢れ出し、鈍い音を放ちながらまるであの魔物の黒い翼の様な水色の翼が四方八方に出現して突然のこと(主に歌)に呆然としていた魔物をあっという間に四等分に切り裂き、さらにはもう一度水色の閃光が迸ってあの巨大で屈強な魔物のその体を魔物は悲鳴を上げる前に一つが人間の大人と同じサイズくらいにまでバラバラに切り裂かれてしまった。


「「………」」

何だろう…いつも間近で味わう…というか毎朝体験するこんな感じの朝の安らぎの鼻歌が急に激しいテンポでシャカシャカするアレ(おかあさんのうた)にもう慣れたと思っていたけどやっぱり突然澄んだ歌からテンポの速くてよく分からない歌詞が付いた曲を聴くと呆然とするもんなんだね…。隣を見たらお兄ちゃんも唖然として魔力の溜めを止めている…。

う~ん…ああいう綺麗な歌からやたら凄い歌に急に変えるのって流行っているのかなぁ?そしてまさかあの歌がウォーターカッターの真の詠唱でしかもあんなにあっさり魔物を倒しちゃうなんて……凄いんだけどなんだか納得ができなかった。


「アリシア、アリシア!今のうちにあの魔物の肉片を凍り漬けにするよ!」

先に正気に戻ったお兄ちゃんが私の脇腹を小突いて正気に戻してくれた。いけないいけない…今は魔物の脅威を完全に退けてお母さんとリリアお姉ちゃんを助けることが最優先だった。

すぐに態勢を立て直して詠唱を始めて冷気を手のひらに生み出す。そしてそれを魔物の肉片へと放出させて、既に煙を出しながら再生しようとしているそれを氷漬けにすると予想通り煙を出さなくなり、肉片の大きさも変わることなく再生を邪魔することが出来た。


「がっ…がぐぅ…!!貴様もか!!貴様らもこの我に小癪な真似を!!おのれ…オノレオノレオノレオノレェェ!!!!」

それでも氷漬けは再生には間に合わず、魔物は首と胴体の2/3と片足のみ再生した状態で怨念の叫びを上げながら私たちを睨み付けて来る。だが、バラバラにされたことと完全に再生できない魔物に間髪いれずに攻撃を仕掛ける。今度は氷の精霊さんがいつのまに召喚したのかテツカイザーZを出して今度はその背に抱えていた大きな剣を反動を溜めるような態勢で振り投げて魔物の上半身と下半身を両断しさらに巨大な氷の槍がテツカイザーの周囲に出現した後テツカイザーはそのままドシンドシン地響きを上げながら魔物まで突撃してその無抵抗な顔面を殴りつけたりもう一本の剣でバラバラにしたりして連撃を食らわせていく。

ふと、急にテツカイザーが動きを止めて何かを魔物の肩口から引きちぎって丁寧に掴み取った。そして掴んだ後は魔物のその巨体を蹴り飛ばしながら距離を取って今度はお辞儀の様なポーズを取り出した。

…もしかして魔物に操られたか何かで寝返った―――

と一瞬顔を青くしているとテツカイザーのその背にはお母さんの銃の口径の様なものが生えていて、そこから鈍く響き渡る音を上げて閃光が発射。気がついたときには魔物の体はさっきよりも酷い、大人の頭一つ分くらいの大きさにまでバラバラに破壊し尽くされていた。



やっぱり凄いねテツカイザー…と唖然と、でも体は勝手に魔物の肉片を凍らせながら黄昏ているとふいにテツカイザーがさっき魔物から引きちぎった何かを差し出してきた。

それは、少しスライムがまだへばり付いているけど月の様な銀色の髪を煌かせる優しくて、大好きで、少し残念な…

「「お母さん!」」

テツカイザーの手の中には目に涙を溜めて無言で、いや声にならない叫びを上げながら私とお兄ちゃんに抱きついてきたお母さんがいた。


そしてそれは事実上、私達の勝利を意味していた。

GTA5って面白いですね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ