第三十六話 暗黒の支配者 コルテュス
ただそこにいるだけでこの世の全ての風を支配するかのような圧倒的プレッシャーと50メートルはあろうかというその巨体。地を割るかのごとく存在する凶悪な爪、まるでそこから先は地獄に通じているのではないかとさえ思えてくる暗黒の霧を発し断頭台のように鋭く凶悪な牙を携えた口。その巨大な背中から伸びた8つの翼―――いや、竜巻は天に雲を張り巡らせてまさに天を支配しているかのようで、二つの黄色い慟哭はそれを見ただけで体中が震えてしまうほどの恐怖を与える。
突如現れたこの村に封印された巨大魔物、コルテュス。
「ぁ…ぁぁ………ちょ、超級の魔物だぁぁぁ!!」
その姿に呆然とする人々ではあったが次第に正気を取り戻し、魔物のあまりの凶悪さと大きさから最低でもSSランクの魔物であると判断し、その行動と意見は二つに分かれた。
「SSランクの魔物だ!逃げろぉぉぉぉぉ!!殺される!!あれは悪魔、いや邪神だぁぁぁぁぁぁ!!!」
「SSランクの魔物だ!あいつを討伐すりゃたんまり金も入るしランクも上がる!!しかもあのエルフや銀髪の人妻、村の娘にいい所見せられるぜぇぇぇぇ!!!野郎共陣形を組みやがれぇぇぇぇ!!!」
……正直子連れの人妻(ただし入籍していない)の私を狙うのはどうかと思うがとにかく、前者を叫んだ初級ランカーと村人などの一般人は魔物のあまりの恐ろしさに逃げ出して、中級、上級ランカーは逆にこれはチャンスと各々武器を取りギルドマスターのダゴナスさんを中心に陣形や作戦を立てて立ち向う準備を始めていた。
流石は本職の冒険者、やはりどんな逆境でも乗り越えようとする意思とそしてどんな魔物をも討伐してきたという年季が違う。
「へっ!とか何とか言ってダゴナスのオヤジに手柄は独り占めさせるかよ!おいテメーら行くぜ!!」
「ん?お、おい!まさかお前たち3人で奴に向かうつもりか!?やめろ!!あのクラスの魔物は少数では勝てないと分からないのか!?」
確かにダゴナスさんの手のものや上級ランカーの中でも年季や経験豊富、強そうな者達は即座にダゴナスさんの意見に従っているが、それ以外の派閥の冒険者やちょっと感じの悪そうな冒険者達は勝手にパーティを組んでダゴナスさんの制止も無視して少人数のパーティが数組魔物に突撃していく。
「うぉぁぁぁあああああああああああ!!!!」
「くらいやがれぇぇぇぇぁぁぁぁああああああ!!!」
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
20、30人ほどの冒険者たちが剣を槍を弓をハンマーを振るう振るう―――魔物は巨体だがどうやらまずは足から潰して倒れたところで
追撃を仕掛けようと考えたらしく、数人のロープを投げ角などに掛けて肩や腕に上って攻撃しているイレギュラーを除けば両足に攻撃が
集中する。
「へへへへへ!!何が古代に封印された闇の支配者だ!これだけの人数の剣をくらえばもうズタズタに………はっ!?」
攻撃がしばらく続いてふと自分の攻撃成果を確認した冒険者だったがそこで始めて魔物に傷一つ付けられていないことと、今まで自分たちが振るっていた武器が罅や凹み、半分溶けていることに気がついた。
「そ、そんな嘘だろ!この剣は王都でも有名な武器屋で売られていた―――――うぉぁああああああああああ!!!?」
冒険者達が驚愕している中、コルテュスはまるで邪魔な小石を払うかのごとくその巨大な足で冒険者達を蹴り飛ばした。それだけで冒険者達の骨は粉々に粉砕され、少なくともその一撃だけで半数以上が即死。
だが、辛うじて生き残った者達にはさらなる地獄が待っていた。
魔物は背中から生えている翼、もとい竜巻を足元に向けて曲げ、生き残った者即死した者もろとも竜巻へ飲み込み、巻き込まれた冒険者達はまるでミキサーの中にいるように共に竜巻に囚われていた樹木や石にカッターで削られるかのごとくバラバラにされてそのまま空へと無惨な姿で投げ出され後に残るのは元が何だったかの判別もつかない肉片と血の海だけとなって降り注ぎ帰還した。
そしてそれを見た村人にはより強い恐怖を、立ち向うべく作戦を立てていた冒険者達には戦意をごっそりと奪い去ってしまいもう既に作戦どころか攻撃も、さらにはパニック状態に全員襲われていた。
いや、そりゃ無理もないだろう。あんな人間が木の葉のように飛ばすどころか大樹や岩なんかも簡単に巻き上げるほどの威力を持つ竜巻を操るのなんか見たら誰でも戦意喪失する。さらに先程の攻撃で皆嫌でも分かってしまったのだろう……最初の超暴風はこの魔物の仕業ということを。
「―――――我を永き時に渡り封印した愚かな人間共よ」
まるで地の底から響いてくるような低い声が村に響き渡る。その声に冒険者も村人もキョロキョロと声の主を探るが見当たらずそれがさらに
恐怖心を増大させてゆく。
「我が名はコルテュス。嘗てこの地を支配せし闇の支配者だ。人間共よ恐怖するがよい、我の復活を。そして我にひれ伏すがよい、直ぐに貧弱な風の恩恵を得て舞い上がっている虫けらに恐怖を植え付け、隷属としてやりこの地を我ら邪神、悪魔が支配する帝国へと作り変えてやろうぞ。」
しゃべったぁぁぁぁ…。というか言う言葉がありきたりだなぁ。それにしてもたまたま寄った村の嘗て封印されていた魔物が復活ってこれもしかしてRPG風にいくなら私がアレを倒すか再度封印する勇者役やらないといけないの?いやいや、ないない。
だってアレどう考えてもチートの域を突破しているじゃん。なに?通常魔法攻撃的なのだけで岩とか家屋を簡単に吹き飛ばす風魔法って。しかも私勇者でも聖剣持ちでもないんだけれど。
早く来てくれーー!勇者ーー!!いるかどうか知らないが。
「……母さんなんでこんな時なのに落ち着いて遠い目をしているんだろう?」
「また今と全く関係ないこと考えてるんじゃないの?よくあるじゃん、お母さんだし」
失礼な!一応今回は現状と関係あることを瞑想してましたとも!…それにしても一体どうしてこいつの封印が解けたのだろうか?もしかして昨日の私に突っかかってきた冒険者が腹いせに解いたとか?
でもリオンの話だと解呪方法は誰にも分からず、ただ封印の方法だけ代々村の長だけに伝授されているらしいけど。
「だがその前に、我の封印を解きし人間。貴様の願いを叶えてやろう」
「フフフフフフハハハハ!!このスニーティ、ありがたき幸せ」
どこの魔人のランプだよ!?と私が突っ込む中魔物の肩から姿を現したのは昨日気持ち悪い求婚をしてきただけでなく、リオン救出の邪魔をしてきた貴族野郎のスニーティだった。封印を解いたのお前かい!おいおいおいおいやめてくれよ……あんなボスモンスター復活させてもしかしてカッコつけに討伐するつもりだったのか?いや、ありがたき幸せとか言っているからむしろ…
「私の願いはあそこにいる銀髪の女、ソフィア・リーシェライトを私のモノとすること、そしてコルテュス様と同属へと昇華した我ら白の国のべジャン様と共に銀の国のエンディミオン及びこの世界全てを魔族で支配することです!」
うわぁぁ~~なんか話がややこしくなってきたぞ…。というか私あいつに狙われているとかピンチじゃない?しかもこのまま行くと村人とかから手を出さない代わりの人柱として出されるような…。しかもあいつ白の国の使いだったのか!?やっぱりまだ追いかけているじゃん白の国!しかも先程さりげにやり●ん(笑)の名前が出たような…。
「くくくくく…貴様、人間のくせして言うことが面白い。しかし銀髪の女は知らんがこの村とこの場にいる人間は全員滅ぼさせて貰うぞ?我を封印した対価を払ってもらわねばならんので…な!!」
魔物が片腕を振るうとそこからまるで真空波のような風の刃が飛来して村の北側の家屋3棟を一瞬にして破砕。
その刃の大きさを見た私やリオン、アリシアは戦慄した。この風の国最強と言われているプロトゴノスさんの風魔法より明らかに数倍強いのだ。しかも風の刃は家屋を吹き飛ばすだけでなく着弾した場所にまるで奈落のような深い穴を残している。技の桁が違った。
先程の話から私が人柱になろうがならまいがこの村の滅びは確定しているそうだから心配は杞憂になったがそれと同時に私を含めて全員に絶望感が押し寄せる。しかも奴さんはこの場にいる全員及び村にいる女子供まで皆殺しにするつもりで明らかに普通の人間では勝てないような巨大さでしかも遥か昔に風の国を崩壊寸前にまで追いやったような戦略兵器クラスの魔物が相手なのだ。
当然敵うはずもなく逃げるしかない。だが、逃げ場所がないのだ…あの黒い―――いや、今気づいたがまるでコルテュスの背中の竜巻をそのまま壁にしたかのような風の結界から外に出られないことに。というかあの壁もこいつの仕業か。
「クハハハハハ!!それにしても素晴らしい!まさかこれほど早く魔力が蘇るとは!!!やはりエルフの魔力とやらは素晴らしい魔力炉となるな!!」
「―――――!!リリアさん!?」
コルテュスの左手、そこに今朝から姿を消し、既に旅立ったものと思っていたリリアさんが黒い触手で締め付けられて捕まっていた。
後で読み返して思いました。パワーインフレやべぇ…




