第三十五話 風の結界
長い間お待たせしました!
活動報告でも連絡しましたがPCがバーンしちゃいました…orz
数話溜めてあるのでとりあえずUPしたいと思いますがまだ2章完結まで書ききれてないという体たらく…。
side リリア
空が薄く白み青と黒のコントラストが幻想的な風景を生み出す夜明け前、私は既に荷物を整えてギルドハウスを発っていた。なんでこんな早朝に出発することにしたのかというと昨日の男冒険者達のナンパが鬱陶しいというのもあるけれど最大の理由は……。
それにしても昨日は昼間からビックリの連続だった。まさかソフィアさんに会えてしかも本当に別の魂が入っていたなんて…。
今まではただの妄言とか作り話と思って信じていなかったけど悪いことしたなぁ。でも色々なことお話できて、しかも紅茶に関しても良しを貰えたしこれでようやく私も一流のメイドかな?
それにまさかリオンさんとアリシアさんにも会えるなんて…アリシアさんもの凄く可愛くて髪の毛綺麗だったなぁ。本当は今朝もあの髪の毛のスルスルとした気持ちいい感触を味わいたかったのだけれど。
さて、それを諦めてまでこんな早朝に出発した目的がようやく見えてきた。最初それは壁かと思った。黒々としていてとてつもなく高いその壁は丁度村を囲むように立っていて誰の仕業なのかより先に一体一晩でどうやって作ったのかが気になった。が、今こうして近くで見てみるとそれは壁ではなかった。いや、ある意味壁という表現も間違いではないが…それは風。それも竜巻のようなものでこの村を丁度覆うようなまさに風の壁だった。
「…なるほど……強い魔力を感じたから来てみたらこんなことになっていたわけね……。恐らく目的は村を外と完全に隔離すること。しかもこの風の壁…まだ成長しきってない!?どんな魔力で組み立てたの?」
魔法に特化している……らしいエルフの私だから分かる。この風の壁…いや、もうこれは風の結界と言った方が正しいかもしれないけど既に大木をなぎ倒すかのような暴風のそれはまだ完成しきっていない。恐らくあと3倍は今の風速や規模より強力なものへと進化するだろう。
それにしてもこんな魔法で村を隔離してなにを企んでいるのかしら元凶は?この世界の情勢はあまり詳しくないから何ともいえないけれどもしかして珍しいエルフ種の私がいたから何としてでも捕まえようと?
……自意識過剰過ぎですね。それなら昨日正体が判明したわけだけどたった一日でこんな大規模魔法の準備が出来るわけがない。恐らくは別の誰か、もしくは何かが目的?
とにかく今の私に出来ることは少しでもこの魔法の威力や成長速度を弱めること。仮に今村に戻って冒険者や村民にこのことを伝えてもパニックになるだけだしソフィアさんやまだ幼いリオンさん、アリシアさんだっている。出来れば彼女たちが気が付かない内にこの結界を破壊出来れば御の字なのだけれど。
「そんなわけなので早いところ処理させて貰います。我に従いし風の精霊――――」
「おっと、それは困るな」
――――!!!?
突如飛んできた声に驚いて振り返ろうとした瞬間、両手両足が凄まじい力で動きを封じられ動くことが出来ない!?いや、何か透明な煙?炎?いや、オーラの様な触手が私の腕と足を縛り付けている。
このオーラ、感じられる魔力の量が非常に大きくしかもハイエルフには非常に相性の悪い闇属性の魔法か…。体の自由が奪われたが何とか首だけは動かしてこの触手で私の動きを止めた元凶の姿を目に映す。
「貴方は…確か魔物討伐にいた貴族の方?何故私を拘束するのですか?」
そこには憮然とした態度でまるで玩具でも見ているかのように私を見下した貴族の男…確かスニーティ…がいた。そして彼が右手から放つ私を拘束するそれに、黒色の魔力光に目が行く。
恐らく彼がこの風の結界を張った元凶、若しくは関係者でそれを妨害しようとした私を排除しに来たといったところだろうか。
「くくくく…せっかくのチャンスを台無しにするところだったぜ。今の段階で手を出されたらせっかく準備に準備を重ねたこの風の壁が消されかねんしな。それにしてもまさかエルフに生き残りが本当にいるとは驚いたぜ。お前は魔物討伐の時ソフィアを俺が助けて惚れさせ、あの忌々しいエンディミオンの餓鬼を事故に見せかけて殺すのを邪魔しやがったんだったな。くくく、たっぷりとそのお礼をしなくてはなぁ!」
スニーティは黒のオーラを操って何かスライムのようなものを召還し私に差し向けさせる。
「ソフィアさんを惚れさせる?馬鹿ですか貴方は。ソフィアさんは今も未来も心はたった一人に向いていると言うのに滑稽ですね。そしてこんなもの(黒魔法)による脅迫じみたやり方やその如何にも見下すような支配してやるぞというその態度、そんなので心を掴むなんてよく吐けたものですね」
と軽口を叩いて挑発している間に何とかこの触手から抜け出す手段を画策するがびくともしない。正直抜刀さえ出来ればこんな触手など斬るのは簡単だが腕も剣も触手に完全に封じられている。おまけにこの黒い霧、私の魔力を封じ込める作用もあるのか風の精霊が呼び出せないどころかウィンド系の魔法もシャイン系の魔法も使えない。
「くっ、言っていられるのも今のうちだエルフ。お前のその高い魔力はこの地に封じられた古代魔天王コルテュス様の糧となるのだからな!―――やれ」
スニーティの指示と同時にスライムが私の体に張り付いてきてベドベトと腕や顔、さらには太腿や服の中の胸やスカートの中にまで侵入してくる。
――――いや、張り付くだけじゃない!?これは……魔力を吸い取っている!?
「や、やめなさい!私にこんなことしてどうなるか分かっているの?輪切りになりたくなかったら今すぐこの気持ち悪いのを退けなさい!や!いやぁぁ!!どこ入っているのよこの下級生物!!私は誇り高きエルフ族の…いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
「くくくく…そのザマでなにが出来る?………そうだな…魔力の尽きただの娘になったお前は雌奴隷としてこの俺に奉仕してもらおう。俺に仕えることしか喜べなくなるように調教してやるか。ふはははははははは!!」
今すぐこの狂気の笑声を上げている下種をバラバラに切り裂いてやりたいが、依然として私の体は強く締め付けられたまま。
だが、私にはとても耐えられないことが二つあった。
スライムに体を蹂躙されていることと、そして『雌奴隷としてこの俺に奉仕してもらおう。俺に仕えることしか喜べなくなるように調教してやるか』ですって?
私がご奉仕するのはご主人様ただ一人。いや、私はご主人様の所有物なのにこの男は既に私を自分のモノと発言した。これが許せない!そしてご主人様だけのモノである私の体を…勝手に蹂躙するこのスライムも許せない!
今ヌメッと進入して揉みまわしているその胸もべチャべチャと張り付いているその髪も、変なところにまで入りかけているそのスカートの中も…全てご主人様のモノなのに!いや、まだご主人様に触ってもらったことも無いのに!!
「ははははは!下級魔物のスライムに弄ばれる気分はどうだエルフ?はーはっはっはっ!!!」
「………ご主人様……助けて…」
まだ薄い光が彼方から点のように差し込む夜明け前の空にリリアの小さな救いを求める声は霞のように消えていった……。
side ソフィア
「お母さん、どこにもいなかったよ。」
「そう……もう出発しちゃったのかしら?急ぐって言っていたし」
朝目を覚ました私たちはリリアさんが部屋から忽然といなくなっていることに気づいた。そして彼女の荷物も無くなっていることからどうやら既に発ってしまったようだ。
まぁ大方彼女の主が見つかったか見つける手掛かりを見つけたから急いで発った…といったところだろうか?それにしても一言挨拶は欲しかったなぁ…。もしかして起こそうとしたけど起きなかったから黙って行ってしまったのかもしれない。うん、そうだろう。
「結局僕…リリアさんに助けてもらったお礼いえなかった………」
リオンがしょんぼりとしていたので頭を撫でて本心では若干落ち込み気味なのを隠して明るくする。
「さ、漸くあと少しで風の国王都よ!最後まで気合を入れて行きましょう」
「―――ということだ!?―――――じゃないか!」
「おい!――――――ってよ!見に行ってみようぜ!!」
ギルドでチェックアウトした私たちは何やら外が騒がしいことに気が付いた。しかもギルドハウスに入ってきた冒険者もその仲間達になにか耳打ちして全員外へ駆け出していく。一体なにがあったのかしら?
もしかして…昨日に引き続いて上級ランクの魔物が出たのかしら?そうなるとまた強制召集されて出発が遅れかねない。ただでさえ心ある人たちには感謝されたとはいえ昨日のトラブルのこともあるし、ここはさっさとこの村を出て行くに限るだろう。
そんな甘い考えでギルドの扉を開けた私たちを待っていたのは光景は村の外側にただ憮然と建ち囲んでいる黒い壁だった。
「ちくしょう…あんな壁昨日は無かったのにどういうことだ!これじゃぁ村に帰れないじゃないか!」
「ワシなんか今日の昼までに王都へ荷を届けなければ社長に給料減らされるのにあの壁を建てた奴はどう責任を取ってくれるんだ!!」
ギルドハウスにいた冒険者達は外で壁を見たものの話に皆驚いて飛び出し完全に村を取り囲む壁を見てただ唖然としている。かくいう私、リオン。アリシアもただ呆然とどうなってるんだこりゃとただ壁を見上げることしか出来なかった。
―――――ボォォォォォォォォォォォ!!!
「っ!?リオン!アリシア!ギルドに戻りなさい!!!」
突然の不気味な風切り音とキーンと耳鳴りのような音を聞き嫌な予感を感じ取り半ば子供達を少し手荒で可愛そうだが投げ飛ばすようにギルドハウスへ放り込んで私も飛び込む。
それと同時に背中に爆風のような圧力を感じて振り返るとまるで洪水のような黒い風の暴風が吹き荒れて外に出ていた冒険者たちを吹き飛ばしていた。
一部のものは付近の建物にしがみ付いて何とか耐えているがほとんどの者は凄まじい突風の圧力で建物に叩きつけられ押しつぶされたり遥か上空へ打ち上げられてスカイダイビングさせられたりで咄嗟に子供達の目を塞いだけどあまりにその惨い光景が至る所であって間違いなく見えてしまっただろう…。
「あ……ぁあ……人が……」
「っ!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その証拠にリオンは目を見開いてガタガタと震えて、アリシアは蹲って肩を揺らしながら泣き出してしまった。
いや、ギルドハウスに入っても安心している場合ではない!
このギルドハウスも暴風が吹いてからミシミシとラップ音を徐々に大きくさせている。そもそもギルドハウスは日本の沖縄の様な強大な暴風を防ぐ作りになっておらず、ただの少し丈夫に縛り組み込んだログハウスに過ぎずその建築強度も当然毎年のように台風を受けている現代日本の木造住宅のそれに届かず遥かに脆い。
「ギルドハウスに戻れ!おいお前たちも早く避難しろ!!」
「くそ…!こんな嵐聞いたことがねぇ!!おい、ギルドハウスの造りは疑ってねぇがこの嵐に耐えられるのか!?」
次第にラップ音からバキッと何かの折れるような音や破砕音、カランカランという明らかに屋根になっていた縛り木が転がる音が響き渡りギルドハウス内で安堵していた者や外の様子を伺っている者達を青ざめさせていく。
このままではギルドハウスごと吹き飛ばされて私達ギルドハウス内にいる者達の結末も外にいる冒険者達と同じ―――いや、それ以上に建物の破片などで自由が取れなくなってもっと悲惨…。
―――だったら…
「……?ちょ、ちょっと姉ちゃんまさか…外に出るつもりなのか!?や、やめろ!」
止めようとする冒険者の制止を無視して唖然としているリオンと未だ蹲って泣いているアリシアをちょっと可愛そうだが強引に抱きかかえてロープで私に縛り付けてそのまま期を見計らってギルドから飛び出す。このままここにいた方が確かに安全かもしれないが内側から屋根の一角が完全に吹き飛んでいるのを見て、遅かれ早かれこのギルドハウスは確実に崩壊すると判断し、もっと丈夫な建物に避難するのを選び外に飛び出した。
だが決してこの選択は甘くなく、ギルドのドアから一歩出た瞬間まるで石礫のような暴風が背中に襲い掛かる。あまりの突風にとても目が開ける状況ではないが何とか薄目ながら開いてみると大量の丸太が吹き飛んでいる。
いやこれは―――
さっきまで私達が避難していたギルドハウスが飛来してきた巨木に押しつぶされて木っ端微塵に破壊されていた。
「………………………………?風が………止んだ?」
嵐のもたらしたあまりの惨状に石造りの建物と子供達を掴みながら呆然としていると急に風が止んだことに気がつく。周りを見れば瓦礫の中に軽く埋まって暴風を防いでいた冒険者や今まで必死に建物にしがみ付いていた村人も同じように急に止んだ風に時が止まったかのように唖然としている。
これは…やっぱり突発的なスーパーセルのようだった。だがそれにしては風速が明らかに竜巻の数倍はあったのが気になるが…。
「な……なんなんだあれは?」
ふいに一人の冒険者が驚愕の声を上げる。それに釣られるように他の冒険者や村人も一様にその方向を見る。
…いや、見渡す。そこには、壁があった。それはまるで奈落の穴のように漆黒でそしてどす黒い色の強弱でなんとか分かる不気味な蠢き、そして壁というにはあまりに強大な…それでも壁としか表現できないような大きな。
まさに天に届かんとばかりに延びたそれはやや大げさな表現かもしれないが富士山ほどの大きさだろうか?それが壁のように村を取り囲んでいる。
それはまさに壁というよりは地から伸びて空をも覆っているから結界と言う表現が正しいかもしれない。それがいつの間にか、昨日まで無かったものが突然現れた。
……ああ、それだけでも驚愕で唖然となってしまうというのに…
さらに驚くというか絶望というか………………
「ぉ……ぉぉお……なんということじゃ…………まさか封印の魔物が解けてしまうとは……」
何だかいかにも村の長老らしき老婆が杖を震わせながら魔物を怯えた瞳に映す。そしてリオンが昨日の昼間に説明してくれた内容が脳裏から電流が走るように思い出される。
『この村は遥か昔に勇者が闇を操る恐ろしい魔物を封じ込めたことで有名でかつてその魔物によって周辺にあった町は全て滅ぼされて国の王都も3つ壊滅して何万人もの人が死んだそうで一時は魔王が占拠した領土からかなり離れているにもかかわらずこの地域だけ魔王の領土となってしまったんだって。その魔物は洪水のような嵐を操り生み出してその操る漆黒の闇のように黒くて大きな雲からその魔物の名前は――――』
「……暗黒の支配者、コルテュスが再び目覚めてしまった…………もう世界は終わりじゃ……」
邪神としか表現の仕様がない程凶悪な漆黒の巨人がそこにいた。
作者も何度か確認しましたが、何度も訂正と加筆を加えた関係で所々おかしくなっている可能性があります。すみません…




