第三十三話 緊急討伐クエスト
闇封じの村から3キロ離れた少し大きな町デレゼ。
ギルドの受付から案内された広場には6,70人ほどの冒険者達が集められていた。いままで色んな町とか村の冒険者ギルドに立ち寄っては来たけれどこんなに大勢の冒険者を見たのは初めてだ。
しかもその中には明らかに歴戦の戦士的な屈強な男(上級ランカーだろうか?)から小さな子供を抱えた若い女性(あ、あの子供私に手を振ってる可愛い)まで実に色々な人が集結していた。まぁ人数比でいえば圧倒的に男性の方が多くおそらく女性の参加者は私と同じ低級ランカーだけど召集された人たちだろう。そう考えると私たちの役割は既に分かるのだが。
「諸君!よく緊急クエストに集まってくれた感謝する!私はデレゼのギルドマスター、ダゴナスだ!早速だがこの風の村近辺に出没した魔物の討伐会議を始めたいと思う。まずはCランク以上の冒険者は手を上げてくれ」
早速何だか暑苦しいおっさんが演説のように声を張り上げて~ランクは何の役割、~ランクは何処の配置など手際よく決めてゆく。
ちなみに今の私、リオン、アリシアは共にEランクだからまず前線も魔物との直接対峙もないだろう。それに私達と同じEランクやDランクの冒険者は意外と言うかやっぱりというか普通の村娘的な子とか12,3歳くらいの子供が多く本格的に冒険者やっている冒険者なんてB,Cランク以上のむっさい男数人しかいないというのがよく見て取れる。
「次!Eランクの諸君らは……やはり婦女子が多いな…。諸君らは作戦のための罠の準備と炊き出しをするように!」
予想通り補助的な役回りになったか。まぁ前線なんて絶対危険だし面倒くさいしさらにはむさい男冒険者だらけで逆に私の身が危険だしでそんなところに進んで行こうなんて1ミリも思わないけど。
各自の役割の分担指示の後、私たちは他のEランク冒険者も子女と一緒に商人の馬車から降ろされる食糧の箱の運搬作業に掛かり出す。箱にはぎっしり詰められた小麦粉や野菜、肉なんかも入っていて目視だけで一箱3,40㎏はあると見える。
それを一人で、しかも女性の細い腕で運べるわけもなく他の人を見ていると商人からリアカーを借りて3,4箱運んでいたり、数人で協力して何回かに分けて箱を運んだりしている。
……そして当然コミュ障の私が協力などという高度な対人テクニックを有しているわけでもなく(というか何だか奥様方の見る目がキツイ)楽しげに若い女性達と会話を楽しんでいる商人の黄色い空間に入っていけるわけもなく、結局私たちははぶられ組となっていた。
「なるほど…母さんが言っていたベルトコンベアーって確かにものを運ぶ作業では凄く効率がいいや」
「あの子凄いわ!あの珍しいと言われている氷の属性魔法を持ってるしそれにあんな氷魔法の使い方見たことない!」
…氷の道を作り出しその上に箱を置いてまるでベルトコンベアーの流れ作業の様に箱を滑らせて次から次へと移動させるリオン。
「ゆきだるまさん、次はこの箱をお母さんがいる辺りまで運んで!氷の巨人さんはテント造りを手伝って!ゆきだるまさん二号はお兄ちゃんの
作った氷の道に箱を乗せて運ぶお手伝いを!」
「こっちの女の子も凄いわ!雪のゴーレム…かしら?を5体も作ってしかも的確な指示を出してそれぞれ違った作業を同時進行させるなんて…
この子あの上級ランカーより人を動かすのに向いているんじゃない…?」
…いつの間に作れるようになっていたのだろうか雪だるま、氷の巨人、氷のゴーレム(全て自立行動型)5体を作り出して某大企業の課長の様にあれこれ指示を与えて作業を進めるアリシア。
……………あれ?はぶられているの私だけじゃね?
何だか目頭に熱いものを感じながら日が暮れるまで一人錬魔術で地味に強化した体でもくもくと箱を運ぶ私であった。
ちなみに箱を運んでいる途中、何だか人だかりが出来ているのを発見してその中に両手の包丁をまるで拳銃のようにクルクルと回しながら肉とか野菜とかを残像しか残らないような高速で切り刻むリリアさんの姿を見たような気がしたが見なかったことにした。…あれは気のせいだ。
うん、そうに違いない。
「~~~~野郎ぶっ殺してやらぁぁーー!と男は叫びながら向かってきましたが最後は鉄パイプで心臓を貫かれて奇声を上げながら死んだのでした。…おしまい」
「わぁぁー!お姉ちゃんのお話おもしろーい!」「ねーもっとお話聞かせてよー」
「今度は勇者様のお話して!」「こらこらそう焦る出ない。フハハハハハ!」
その日の夜、何の気なしに炊き出しのスープとパンを頬張りながらリオンとアリシアにとある有名なゲームの赤い帽子とバットが特徴的な少年の世界を救う旅の話をしていたのだがいつの間にか手伝いに来ていた子供たちが私たちの所に集まってきて私の物語を聞いていたのだが気が付いたら調子に乗っていたのか某ドンパチの話になってしまいそのまま最後の敵役の男がかなりエグイ殺され方をする所まで話してしまっていた。
……こんなのを話す私も私だけど本当にこの子供達はこの映画の内容を理解しているのだろうか?というか現代だったら子供に悪影響を与えたとか何とかで絶対訴えられそうな気がするのだが。
まぁ中世レベルの文化であるこの世界では人とか悪者が死ぬなんてよくある話だろうから子供も自然と慣れているのかな?いや、でもある意味現代の方がもっと効率的に人が死ぬから地域によっては現代の方が子供達も死に関してメンタルが強いのかもしれない。
いや、この場合ただ内容を理解していないだけか。そして唯一内容を理解しているであろうリオンとアリシアは私の考えどおり微妙な表情で私の目を見て『なんて物語を話しているんだよ……母さん』と訴えていた。
いや……うん。私もそう思う。本当に何で私こんな話をしたのだろうか?
と、内心自問自答しながら子供達と団らんとしていたその時
ゴゴゴォォォォォォォォォォォ――――――
森のほうで地響きのするような凄まじい轟音と破砕音が夜の空を切り裂くように鳴り響き渡った。
「なっ!?なんだこの地響きは!」
「見て!森の木が次々と倒されている!」
突然のことに子供達だけでなく大人の冒険者も地響きに戸惑い、次々と起こる自称にパニックになりかけて碌に戦闘準備が出来ていない。
そもそも作戦は夜明けと共にだったからまだ武器を持っていない者も多くもしこの地響きが討伐対象の魔物のものだったとしたら何ともお気楽に酒など飲んでいたこの冒険者集団に比べてやる気のあることだ。
おそらく討伐される前に人の気配を察知して急襲を仕掛けた…
というか魔物にそんな思考能力があるのだろうか?
断続的に鳴り響く轟音、おそらく木が倒されたであろうバキバキという鈍い音、前のほうで時々聞こえてくる悲鳴や叫び声。それらが見えない恐怖となって中衛、後衛部隊に襲い掛かり既に戦闘の準備どころか後退りや逃げようとするものが続出して態勢を整えること自体が難しい状況となってしまった。
「リオン、アリシア。今はみんなパニックになっているから魔物がそのままここに来るかもしれないわ。戦闘準備しておきなさい」
子供二人の肩をうごめく人の群れに流されないようにしっかり掴んで氷の剣と槍を用意させる。こんな状況になった以上おそらく前線はまともに機能していないだろう。
そうなると最悪魔物がここまで一直線に来るかもしれないので本当は闘わせたくないのだが自衛のために戦闘態勢を取らせつつ私もコンテンダーの魔力を付加した弾薬を装填して攻撃に備える。
逃げ惑う人々、悲鳴を上げる女、「こら逃げるな!闘え!」と戦闘を喚起するが逃げる人々に押しつぶされている鎧の男。この様子を見ているとこりゃ完全に前線は崩壊しているだろうなぁ。
一応奮起して武器を取って前線に向かう冒険者が数十人はいたが夜闇で見えづらいが前線の方で吹っ飛ばされているような人影がいくつも見えることから立ち向ったものは全滅しているのではないだろうか?
「プギィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
「ぎゃぁぁ!!」「わぁぁぁぁ!!」
「情報が違うじゃないか!ウッドウルフじゃなくて討伐ランクSのイノシーじゃないか!!」」
暗闇の夜空に響き渡る咆哮を上げながらようやく騒ぎの元凶で今回の討伐対象であると思われるイノシシの様な化物が森の木を、そして逃げ惑う人々を小石のようになぎ払い現れた。
「うぁぁぁぁぁ!助けて!助けてくれ!」
「やめて!押さないで!子供がいるのよ!」
「ええぃ!邪魔だこのノロマ!ワシはクズール商会の重役なのだぞ!!」
初心者冒険者であろう男、まだ小さな子供を抱えている母親、我先にと人々を押しのける太った男。それらを何の慈悲も無く跳ね飛ばし突進を繰り返す魔物。
右手をポケットに突っ込んで冷たく硬い感触の弾丸を一発探り当てる。
正直この状態で攻撃を仕掛ければその人たちが被害を受ける可能性は高い。が、元より助ける気は無い。私は私の子供の安全が一番大事だしそもそも一番悪いのは強制召集したギルドの方だ。屁理屈かもしれないがこういう考え方しか出来ないのは前世と変わりないな。
前世でも友達が気が付かない内に万引きしていてブザーが鳴ったときは我先に逃げ出したし、たまたま大通りで連続通り魔事件があったときも周囲に警告を発することなくただ黙って全力で逃げ出した。そして誰かからそれを咎められれば『そんなことはやった奴の責任だ』と叫び冷たい目で周囲から最低と呼ばれた。
そんな私だからこそ集団から疎まれて、自分から集団を避けて、深く関わらないようにして有事の際は簡単に見捨てることが出来る。
……たった二人の息子と娘を除いて。
一応リオンもアリシアもそれぞれ武装しているから初撃は防げるだろうがそれでもし魔物の注意が子供達に行ってしまったら大変だ。よって奴はこの一撃で確実に仕留める。
コートのポケットから魔力を補填した弾丸を銃に装填して撃鉄を起こす。狙うは一撃、射程圏内に男の冒険者が突き上げられているがそんなことは気にせず引き金に指を引き絞る。
ミスは許されない――――
「加速・弾丸!」
ズッ…ゴォォォォォォォォォォォぉぉぉ――――――
まるで突風のような衝撃波が魔物どころか予想通り跳ね飛ばされていた人々ごと吹き飛ばして弾丸は魔物の眉間に直撃。そのまま砂と泥を巻き上げながら魔物を押し返す。
「やったか!?」
やってねーよ!
誰だよ今死亡フラグのセリフを吐いた奴は。だいたいやったと思った時に限ってやってないんだよ。確かにイノシシの魔物の眉間には小さなクレーターが出来上がっているが貫通したわけではない。
せいぜい脳震盪がいいところだろう。すぐにコンテンダー内の空薬莢を排出して予備弾倉を押し込めて次弾を装填、沈黙しているイノシシの魔物に向かって弾丸を放った。
「プギィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
「なっ!避けた!?」
が、魔物は弾が被弾するより早く動き出し再び突進を開始する。間段はそのままイノシシの頭部を掠め飛んでいって近くの大木に空しく着弾。直撃こそしなかったが加速弾丸の衝撃が襲い掛かりそれがさらにイノシシの突進を加速させ、猛スピードで突っ込んできた
――――――リオンの方へ。
「しまったぁぁ!!リオン早く逃げなさい!!!」
「あ……ああ…ああああ…」
だがリオンは突然のことに認識が追いつかず、そしてその視線の先…イノシシに跳ね飛ばされ血を撒き散らしながら飛ばされる人間の姿に怯えてしまっているのか目を見開いて青い顔で震えて動かない。
失念していた。いくらあのベラストニア戦争を経験しているとはいえあの子はまだ子供。人間が殺されるところなんか目にして怯えないはずがない!
「この野郎!誰の息子に危害を加えようとしていやがる!今すぐ生姜焼きにしてやらぁぁぁ!!――――あ゛ぁ!?」
今ならまだリオンを抱きかかえるなり最悪押し飛ばせば魔物の突進軌道上から退避できると思った私は両足に力を込めて地面を抉るように駆け出した。
…が、何かに当たる衝撃と腕から引っ張られる感覚でそれ以上進むことが出来なかった。こんな時になんなんだよ!と思った私の目にあの昼間求婚してきた男が私の腕を引っ張り進もうとする私の動きを妨害している光景が映っていた。
「放せ!放せ!このクソ男放せ!リオンが!リオンが!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「逃げて!お兄ちゃん!!逃げてよ!お兄ちゃん!!」
「もうあの餓鬼は駄目だ!安心しなさい、あんな糞餓鬼がいなくったって子供くらい僕が何人でも作って――――――がっ!?」
「うるせーー!!!黙ってろこのクズ野郎!!」『エンディミオン様から貰った大切な子が糞餓鬼ですって!!?お黙りなさい無礼者!!』
こんな時にごちゃごちゃ自分勝手な話で私の進路を妨害する馬鹿の顔面にダブルコンテンダーの銃身で殴り飛ばして抜け出し、再びリオンの元へ全力で駆ける。――何か今私が発した声が重なって聞こえたがそんなことはどうでもいい。しかしこのまま駆けてもリオンまで間に合わない。
既に魔物はリオンの3m先にまで迫っている。こうなったら時間制御でイノシシを減速させるしかない!
だが、時間制御の射程圏は今から発動してもイノシシまで入るか―――いや、正確にはイノシシがリオンに当たるまでに減速時間の効果範囲に入るかどうかが怪しい。
だが、一か八かでもやるしかない!
間に合ってくれ!!
「減速・時間!!」
詠唱と同時に展開される赤く濁った世界。それが私の射程圏であるイノシシの4m手前で発動し空間が広がってゆく。
だが、イノシシはそれに飲み込まれるよりはやくリオン前まで迫ってその凶悪な鋭い牙に当た――――
―――――――――ドゥシュン
「!!??」
『!!??』
「―――あ……あああ………
リリアさん!!」
―――――え?と唖然となる私達の前には、リオンを抱きかかえて宙を舞う黄金の妖精、昼に出会ったエルフの美少女剣士のリリアさんがいた。
そしてもう一つ目に映えた光景、あれだけ加速弾丸で攻撃しても血一滴零さなかったイノシシの魔物の額に大きな切り傷が出来上がりピクピクと痙攣していた。
「怪我はないリオン君?もう大丈夫だからね。……それとソフィアさん!確かにこんな状況だから仕方ないけど子供は真っ先に逃がすべきでしょう。何やっているんですか!」
「い、いやだって…そりゃ私だって二人は一刻も早く安全な場所へ連れて行きたかったけどこのパニックの中子供二人放り出す方が危険だって!」
なんか叱られてしまった。
彼女の言い分は最もだけどあの人間の波の中子供を放すのがどれだけ危ないか、当事者じゃないから分からないのだろうか?
「なんで貴女が残ること前提なんですか?こんな魔物退治なんてくだらないことは昼間躍起になってた冒険者達や酒を飲んで油断していた馬鹿共に押し付けてデレゼ村に避難すればいいんです!貴方たちは既に炊き出しとか物資の搬入とかその役目を終えているんですから!……それと」
リリアさんはそこで突然話を止めて腰に携えた見事な装飾の鞘から透通る銀色のサーベルを抜き放ち空で一振り、そして―――あれは突きの構え?を先程イノシシを葬った―――いや、あいつ立ち上がって既にこちらへ突進を仕掛けている!
だが、リリアさんはまるでそんなことは詮無い、つまらない事のように驚くことも、表情を変えることも構えを崩すことも無くゆっくりとした動作でそれを放った。
――――――秘伝・緋燕突
暗闇の夜空には魔物の断末魔とウ゛ンという不気味な風切り音が鳴り響いた。
「…話の途中で遮る無粋な真似はやめてもらえますか?お下劣な魔物さん」
まるで氷の女王を思わせるようなギルドハウスで見たときとは人が違う様な冷たい瞳で魔物を見下ろすリリアさんの表情に、私は思わず固まってしまった。
改定前不評ワロタ。
色々書くのも面倒くさいので省略。だりぃ




