第三話 5年間山小屋生活
今でこそだいぶ落ち着いたが憑依当初は本当に大変な毎日だった。
憑依してようやく現況の確認が出来るほどにまで落ち着いた時、急激にお腹に
激しい痛みを感じ
「・・そういえば・・・日記に今妊娠しているって・・・」
と気づいた時には陣痛の凄まじい痛みが襲い掛かりあまりの痛さに
意識が朦朧となり死に掛けたほどだった。
痛みを堪えながら何とか人のいる町・・は日記の件で自分≪ソフィア≫が指名手配
されている可能性が高く、下手に町へ入ればそのままお腹の子共々DEATHエンド
なので町から離れた民家を探したが、町以前にここは山の近くでろくに家も無く、
そのさらに3日後にようやく既に打ち捨てられたと思わしき山小屋を発見しそこで
出産する事に決めた。
何とか火を起こして現代世界で暇つぶしに調べたうろ覚えの出産知識からなんとか
準備と消毒を行った。
「ヒッヒッフー!ヒッヒッフー!!死ぬぅーーー!!死ぬぅーーーー!!やめて!
俺のライフはゼロよ!!!」
一人で想像を絶する痛みに泣き叫び―――――
「・・お・・おぎゃぁ!おぎゃぁ!おぎゃぁ!!」
「おぎゃぁぁぁぁ!!おぎゃぁぁぁぁ!!」
空が白み始めた頃静かな山小屋の中に二つの産声が響き渡った。
赤ちゃんは双子だった。一人は男の子、一人は女の子。
そういえば日記に"男の子ならリオン、女の子ならアリシアと名づけたい"
と本物のソフィアさんが綴っていたので赤ちゃん二人の名前はリオンと
アリシアで決定した。
無事出産を終え、しばらくは山小屋での生活を送る事になった。
まだ生まれて間もない赤ちゃん二人を連れて町まで目指すのは衛生的にも
体力的にも危険すぎるし、当然二人を捨てるなどという選択肢は存在するわけが無い。
いくら自分の体ではないとはいえお腹を痛めて必死で産んだ子だ。
よく母親は子供に対してお腹を痛めて産んだから愛情が深いと聞くが全く
その通りだと思う。もう赤ちゃん二人が可愛くて可愛くて仕方が無い。
それに前世、なんだかんだで童貞で終わってしまったが密かに自分の子供が
欲しいと思っていたのだ。
憑依、という形にはなってしまったがやはり自分の子供が出来るとこうむずかゆい
ものを感じ、立派に育てて行きたいと思った。
そんな訳でこれから赤ちゃん二人を女手一つで育てる決意を新たにし、まずは
小屋の改築から始める事にした。
これからこの山小屋で生活して行く訳だがいかんせんこの小屋では脆いし
衛生状態も悪いしで最悪な環境だ。
よく赤ちゃんは清潔な環境で育てないと病気になったりしてしまうとか聞いた
ことがある。
それにもし自分が狩に出ているときに熊とか狼が壁を突き破って侵入し赤ちゃん
二人に襲い掛かったら・・・と思うととても安心して家を空けられない。
こうして家作りからスタートした。ちなみに少し錆びてはいたが斧が小屋に
あったのでそれを使って小屋一帯の木をバッサバッサ・・・
とまではいかなくともそこそこ切り倒し、板に加工してそれぞれを嵌め込み
合わせて固定してゆく。
正直結構時間が掛かってしまったが何とか家が完成した。
ふふふふふ・・・工作や図工は昔から得意だったのだよ。
家の出来は素晴らしく某番組が『なんということでしょう』といいそうな出来だ。
広々としたリビングに、使いやすい石釜付きの台所、
自分が外出中に赤ちゃんが安全にいられる2階のセイフティールーム等々・・・。
正直やり過ぎた感が強すぎる出来となってしまった。
それとついでに家の横に畑を作る事にした。
流石に狩で得られるものでは栄養が偏って赤ちゃんの体にも悪いし|
(まぁ今のところは私のミルクでいいんだけど・・・)
前世で祖母が農家をやってたので農業知識も少しならあったので始めてみた。
そして5年の月日が流れた。
今では体に影響されたのか言語が殆ど女性口調になってしまいました・・・・orz
それはともかく・・・。
この5年で山小屋は凄い事になってしまった。まず製鉄所。
山の一角に鉄鉱石らしきものが落ちていたので釜戸作って製鉄してみたら
見事鉄が抽出出来てしまった。
おかげで鉄の鍬や脱穀機、日本刀なんかまで作れてしまう始末だった。
――――え?なんで製鉄方法や加工方法知ってるかって?いやぁ祖父が鍛治士でね。
昔から製鉄現場は良く見てたから分かるのだよ。
次に銃。銃身の鉄は然ることながら硫黄が同じく山で見つかったので早速調合して
何度かの失敗の末、火薬を作ることに成功した。
そのおかげで猟がとても楽になりさらには危険な野生動物から身を護る事も
出来るようになったので火薬は重宝している。
ちなみに危険な野生動物の中に明らかにドラゴン的なものがいたのでそこで
ようやくここが元の世界と違う世界だと分かった。
この世界はモンスターでハンターな世界なのだろうか?
いや、単にアレはこの世界固有の大型トカゲだったんだ!
それとも剣と魔法のファンタジー?まぁ魔法なんて一般化してればただの超能力
と変わりなさそうだけどさ。そもそも未知の力とか魔物(不気味な生物)が使う
力を魔法というのであってただ単に氷りを出したり火を出したりしてそれが一般化
していればもうそれは"魔"とは言えないだろう。
何か火とか吐いていたけどあれは多分ドラゴンの体温が暑いせいで吐息も暑いから
だったんDA!
・・・という突っ込みはスルーしよう。
ほかにも様々な道具とか果ては蒸気機関まで作ってしまい「明らかにオーバー
テクノロジーだろ・・・」とやりすぎに後悔した。
次に畑。最初は近隣の食べれそうな山菜を栽培していたが二人の赤ちゃん、
リオンとアリシアがそこそこ大きくなって家のセーフティールームにいれば心配
要らなくなった頃に山の麓まで調査に行ったら見事中規模の街が見つかりそこで
小麦の苗をいくつか手に入れた。
もちろんこちらは指名手配者なのでフードで髪の毛を隠して顔も少し隠し
アラビアンなファッションで話しかけた。
・・・のだがやたら警戒されて交渉に交渉の末なんとか鉄の鍬と交換という形で
小麦の苗を手に入れれた。
ちなみに帰り道で何故かこの完璧な変装をしたにも関わらず尾行されてしまったので
自家製ダイナマイトを使って撹乱して逃げ切った。
・・・で、自分達の糞を発酵させた肥料や植物の灰などを撒いてた畑に苦労の末手に
入れた小麦の苗を植えしばらく栽培していたのだがいつの間にやら小麦の収穫量が
500㎏を超えていた。
いや、計測器無いけど目視で大体分かる。畑の規模もとても広くなって道具とか
機械(蒸気機関)があるから大部楽になったがそれでも収穫は一苦労だった。
まぁその苦労の甲斐あってか毎日家では白パンが
食べ放題だからいいんだけど。
と、こんな感じでよくある技術チート状態になってしまった。
正直やりすぎで若干反省している。後悔はしていないけど。
それにしても、リオンとアリシアは思い返すと赤ちゃんの頃からやたらと大人しかった。
滅多に夜泣きしないし、昼間でもオシメやミルクとかで泣くことはあってもそれ以外
では殆ど泣かなかった。
一時期は「もしかして体調が悪いのか!?」と心配したが私が抱き上げると
きゃっきゃと喜ぶ姿を見ていると別に病気でもなさそうだし感情が乏しい訳でも
なさそうだ。
そんな心配を余所に二人はスクスク成長していった。
ちなみに山の麓近隣に町があることは小麦の一件で分かったのだがリオンと
アリシアは一度も行ったことがなかった。
あの時尾行された~とか、今公爵に追われてる――というのもあるのだが本当の
理由は俺の"他人と関わるのが面倒くさい"という性格からだ。
元の世界・・現代世界で生きていた頃も他人と話すのが面倒くさくて、疲れて、
嫌で極力部屋に引き篭もっていたのでその癖が染み付いてしまって
"どうしても"という理由がない限り自発的に街へ行こうとは思えなかった。
だが、このままだと自分はいいがリオンとアリシアにはあまりいい影響は無いだろう。
やはり人と関わらせて社会性を身に付けなくてはいけない。
そんな訳で二人が5歳になったのを境に一緒に街へ行くこととなった。
そして前のようにアラビアンスタイルで準備しているとリオンから
「・・母さん・・その格好、逆に目立つと思うよ?普通の格好にしようよ・・・」
と駄目だしされてしまった。
何故だ!?
そんな訳で二人の街初デビューの日、最初は街の人に指名手配書の関係ですぐに
捕まるか、とも思ったがこの世界には写真がなく、手配書には特徴しか書いてない
ためか特に入ってすぐ捕まるということはなかった。
それどころか始めてみる私達に街の人たちはしきりに声をかけ
「始めてみる顔だね?」「引っ越してきたのかい?」
「あら?可愛い子供ね。教会に通わせたらいいんじゃない?」
「何か困った事があったら村長に相談するといいよ!」
といろいろアドバイスをくれた。
いい人たちだなぁ~。私が俺(浅木祐二)だった頃なんかみんな俺に
無関心で話しかけたり助けを求めても無関心だったのに――――
ちなみに詳しく聞いたのだがこの世界では学校は高収入層の子供しか入れなく、
平民の子供は教会で教えを請うのだという事を聞いた。
まぁ正直二人には文字の読み書きと簡単な算術は教えてあるし中学の授業内容
くらいなら教えることが出来るから別に教会に通う必要はないのだがそれでは
社会性が身に付かないとのことでその日の内に手続きを済ませ教会に通わせる
ことにした。
それから半年が過ぎ二人を産んでから5年が過ぎてようやくこうして息子と娘に
囲まれた穏かな朝食がとれるような日々へとたどり着いたのであった。
次回、リオン君視点です。