第三十二話 エルフの美少女
もう何も弁明できません。つーか疲れた。
「お母さ~ん!……あれ、どうしたの?」
ようやくお風呂が終わったのかアリシアが白い肌を上気してほんのり赤くさせながらシャワールームから出てきた。あらら、まだ銀色の髪に水滴を滴らせて無意味に幻想的な一枚絵を構築しているし…。
「まぁ…色々とあったのよ。色々と…」
「?」
心なしか髪が綺麗に梳かれているようだけど自分で出来るようになったのかな?一応一緒にお風呂入った後は私が梳いてあげるのだけどトレーネの町で何だか意識を失っていた時に梳かれていたものと比べるとやっぱり荒が大きいけど今風呂から出てきたアリシアの髪はその時に近い梳かれ方をしていた。
「それにしても随分長くお風呂にいたわね。髪を洗うのに時間が掛かっていたのかしら?」
「ううん。あのお姉ちゃんに髪の毛洗ってもらったの!」
そういってアリシアが指し示す先には―――
妖精が…妖精様がいた!
まるで金糸のように輝く髪を靡かせて、瑞々しそうな肢体は風呂に入ったせいかアリシアのように上気して妙な色気を醸し出し、その凛々しそうな顔は水滴を滴らせて幻想的な雰囲気を放つ……なんだかこの言い回し、いやらしいかな?とにかく見たことも無いほどの美少女がそこにはいた。
周囲の先程まで昼間から酒を飲んでバカ騒ぎしていた冒険者の男達も一様に少女の方に目を見開いている。
そして一番注目が言ったのはその豊満な胸……もそうなんだけど、いやそうではなく金糸の髪からピコピコと飛び出している耳。人間のものとは違い明らかに長細くて尖った特徴的なその形。
「アリシアちゃん!まだ髪を完全にふき取ってないから駄目だよ」
「リリアお姉ちゃん!これが私のお母さんだよ!」
「すみません。アリシアちゃんとシャワールームで一緒になってあまりに綺麗な髪だったので梳かせて頂きまし……ぇ?」
エルフなんて始めて見たぁぁぁぁぁぁ!!!
本当にいたのエルフって!?そりゃドラゴンとか魔物とかいうファンタジー的なものいたからある程度は予想していたけど今までエルフの話とかご近所さんとかなんて全くいなかった(山小屋生活してたのだから当たり前だ!)から何だか感動だ!ようやく今までオークとかゴブリンとかやたらダークなものしかいなかったファンタジーだが綺麗な私たちのファンタジーがようやく帰ってきた!
しかも予想以上にエルフって美少女だし、よく創作ものなんかでエルフの美しさは人間のそれを凌駕、もしくはエルフには美しい者しかいないとかって設定されるけど本当だったのか。
「す、すみません娘がお世話になって…………?どうしました?」
何故だかエルフのお姉さんは私の顔を見て驚いた顔をしたが、何かを小さく呟くとまるで気持ちを切り替えたかのように柔らかく微笑み顔で接してきた。
「いえ、すみません。知り合いに似ていたものですから。それより娘さんのアリシアちゃん、とっても可愛いですね!思わず髪を洗うのを手伝っていたら予想以上に長風呂になってしまいました。」
アリシアの髪を櫛で梳きながらリリアさんは腰のベルトにある何かを触るとそこから液体スライムのようなものが飛び出した。一瞬もしかして魔物召還!?と身構えたが飛び出したスライム的なものは空中で小さな人型になってキラキラ輝く水滴を噴きかけながらアリシアの周囲をグルグルと漂う。なにこれ?
「これって…もしかして精霊!?じゃあやっぱりお姉さんはエルフなんですか!?」
「ええ。一応エルフの中でもハイエルフに部類されている…らしわ。………よし!これで完成。アリシアちゃんもういいよ」
アリシアの髪を水の精霊を使って多分潤いを保つコンディショナー的なものを染み込ませるリリアさんにリオンが目を見開いて非常に驚いた様子で質問する。やっぱりリオンでもエルフは見たことが無かったようだ。
「やっぱりエルフが人里に下りてくるって珍しいのかしら?」
「下りてこないどころじゃないよ!確かにエルフは元々人前に姿を現すことは殆ど無かったらしいけど大昔の魔王封印大戦の時に魔王からその高い魔力と技術、知恵から脅威と思われたエルフは一人残らず滅ぼされたはずなんだ。それが…まだエルフが生き残っていると言うことは……」
え?エルフって魔王に滅ぼされたの!?まぁぁおぉぉぉうぅぅぅ!!なんて…なんて無慈悲なことを!!せっかく芽生えたファンタジーの希望の星の!癒しの!エルフをなんで滅ぼしたぁぁぁ!!酷い!酷すぎる!!こんな残酷なことがあるかよぉぉぉ!!
俺達の清涼ファンタジーを返せ!!…………いや、待て。でもハイエルフのリリアさんがまだいるということはどこかにまだエルフの里が―――
「あ~えと、私は何というか流れ者でそれと奴隷なので他のエルフについてはまだ生きているかとか分からないんですけど…」
ちくしょーめ!というか奴隷!?貴女奴隷なの!?誰だよこんな美少女奴隷として侍らして毎日うらやまけしからんことをしている奴は!!
「リリアお姉ちゃんって奴隷なの?毎日酷いことされていない!?ああ、それで今はその悪い主の所から逃げてきたんだね!」
「いいえ。私のご主人様は………ちょっと、いやだいぶ…アレだけど本当はとってもいい人だし私にも優しくしてくれているよ。……むしろ手を出してくれたらどれだけいいか……そもそもご主人様は復讐に…ブツブツ」
アリシアの問いかけに突然疲れた顔でブツブツと独り言を喋り出したリリアさん。主のことを話すときのその間はなに!?そしてアレってなに!?
……まぁその口調から本当に酷いことをされている訳ではなさそうなので安心したけどこの娘の主って本当にどんな人物なのだろう?
「じゃあリリアお姉ちゃんのご主人様もこの村にいるの?会ってみたい!」
「いや…そのそれが、実は道中…はぐれちゃって(私が)今ご主人様を探していて…お母さんは知りませんか?黒灰色の髪の毛にこげ茶のコートを羽織って、ルビーの様に紅く綺麗なのだけどまるでこの世に絶望したかのような濁った目が特徴の15歳くらいの男性なのですが…」
それ絶対碌でもない奴だよ!アリシア、その人に会うのだけは止めなさい!!なにルビーのような綺麗だけどこの世に絶望して濁った目とか。矛盾しているじゃん!
「……なんか凄い人みたいだけど僕は見たことないし母さんも見たことなさそうだね。紅い目の人なんて珍しいからすぐ分かるはずだし…風の国の王都も近いから王宮でちょっとお金が掛かるけど人探しの依頼とかしてみたらどうですか?まだ戦争が終わって日が経ってないからすぐにとはいかないけどしばらくしたら風の国中に情報が行って確実に見つかると思いますけど」
「う~~ん…多分国とか組織とかそういうのを嫌う人…というか十中八九お尋ね者として追われる方だから可能性は低いけど…そうね、やってみることにするわ。情報ありがとね、リオン君」
……あれ?リオンって名乗りましたっけ?お風呂で一緒に洗っている時にアリシアから聞いたのかしら?
「ああ、まだ名乗ってませんでしたね。既に知っているみたいですがこの子はリオン、私はソフィアっていいます。……一応よく間違われますがこの子達の母です」
「こちらもちゃんとした挨拶がまだでしたね、私はリリアといいます。身分は奴隷なんですけど冒険者登録上はギルドの方が勝手に勘違いしたのか騎士になってます。それで先程の人探しが出来る場所って王宮のどの省庁――」」
「あぁそこの奥さん、ギルド本部から緊急クエストが発注されたから武器とか外出準備を整えたらここから3キロ程離れたデレゼの村に……って!エルフ!!?」
私達とリリアさんとの会話はギルドハウスオーナーの驚愕と緊急クエストの告知によって終わりを告げた。
所謂クロスオーバー。リリアさんのイラストは後ほど。




