第二十四話 冒険者ギルド
ソフィア視点
今、私は草原に立っている。草原に吹く風はなんとも温かくて気持ちがいい。今日はもうこのまま社会の嫌なこと全てを忘れて子供達とピクニックをしながら紅茶など嗜みながらお昼寝と洒落込みたいものだ。
今はお昼を少し過ぎたくらいの時間帯だ。丁度日も南中してから少し傾いたくらいだから昼寝をしても夕方くらいには目を覚まして夕食を作って、フカフカのパンと卵スープを飲んでアリシアを抱き枕に床へと着きたい…
「「仕事しなさい!」」
……はい。
せっせと薬草探しに精を出す子供二人に叱咤され現実へと戻された。
今、私たち親子は湖の周辺の草原で薬草探しをしていた。ちなみにリオンもアリシアも特に病気でもなんでもない。それなのになんで薬草探しなんかをやっているからというと、子供たちがいったとおり仕事だからだ。
要するに今私たち冒険者やってます。
長かったプレーン草原地帯を抜け、ようやく王都までの道のりの第一関門とでもいうべきドダイトス山脈を前に私たち親子にとてつもなく強大な敵が襲い掛かってきた。何人もこの化物からは逃れられない。人と関わる上で絶対に避けて通れない化物。
そう、その名は――――――
「金欠…!くっ!私たちではこいつには勝てないのか……!」
「素直に路銀がないって言いなよ母さん」
と、そんな訳で路銀がついに尽きてしまったのだ。ちなみに初めに持っていた金額は金貨1枚と銀貨7枚程。単純に日本円計算すると青銅貨3枚でコーヒーみたいな飲み物一杯だから17万円相当とかなり余裕があると思っていたのだがやはり異世界だからなのか物価が現実世界とまるで違う上にベラストニア戦争の影響で未だに食物などの物価が高騰していて何泊か宿屋に泊まったことも起因してついに今日旅の食糧で全財産が尽きてしまった。
「あ~~やべー、マジやべーよ!金がなくなるとかこれからどうすりゃいいんだよ。これじゃぁ憑依した当初みたいにどっかの山で畑作って小屋建てて暮らすか…?無理無理無理!こんなわけの分からん気候の地方でそんなこと出来るわけ無いだろ……あれ?でも碌な装備もなく妊娠とか色々大変だったあの頃の方がハードモードだったことない!?……ブツブツ」
「お兄ちゃーーん!これ見てー、ギルドで冒険者募集中って書いてあるーー」
「え、なになに?ギルドハウスカウンターにて新規冒険者募集中……。薬草の採取などの女性でもお手軽なものも御座いますのでどうぞお気軽に登録を……母さんこれやってみたら?」
「こうなったら時間制御でどこかの豪邸から金目のものでも盗み出して……え?リオン何かいった?」
「………だからこの貼り紙だよ。ギルドで冒険者登録できるんだって。しかも薬草採取とか僕達がヒーズ・タウンでやってたこともそこそこお金になるクエストとして受注出来るって貼り紙に書いてあるから母さん冒険者登録してみたらいいんじゃない?」
なるほどクエストか。というかやっぱりファンタジー世界だからあったかクエスト受注ギルド。一応ヒーズ・タウンでも冒険者ギルドはあったのだがあそこはむさい男の溜まり場という認識があって気分的に近寄りたくなかったのだが、リリアーヌさんの話では街の女子供も冒険者登録する者が多く、よく薬草とかの収集をして小遣い稼ぎにしているらしい。正直モンスター狩などは勘弁願いたかったが確かに薬草の収集くらいであれば引き受けても問題ないだろう。
ちなみになんでモンスター狩を出来るだけ避けたいかというと私も山で小ドラゴンを何体も狩ってたからそれ自体には問題が無いのだが狩中心でクエストを受注していたら絶対よくあるファンタジー冒険ゲームみたいに緊急クエストで『小ドラゴンをよく狩ってたから戦力になる』とかいわれて魔物の討伐クエストみたいなものに徴集されかねないからだ。
先の地下トロルの一件で魔物については原生生物より遥かに強く時間制御を持ってしても効かない様な化物がうじゃうじゃいるのだ。よくRPGとかで序盤のボスとか中盤のザコとして出てくるようなトロルでさえあの強さだったのだ。これがこの先コボルトとかオークの討伐なんかになったらコボルトは鋭い爪で鉄の剣を豆腐のように両断したり、トロルは拳の一撃が核ミサイル並みだったり……
想像するだけでうんざりしてくる…。
そんな訳でモンスター退治等はご勘弁だがとりあえず冒険者登録をすべく私たち親子はギルドへ向かった。
「冒険者ギルドへようこそ!クエストの受注ですか?ギルド登録ですか?」
「…そういえばなんで薬草集めとかモンスター狩りが冒険になるのかしら?新境地も新大陸にも行ってないのに…。そもそもこの世界に大航海時代はあったのだろうか…?もういっそハンターでよくね?」
「なにブツブツいってるの母さん、早く登録しようよ。受付さん、冒険者登録をしたいのですが…」
私が冒険者の意味について思案しているとリオンとアリシアが受付の人と話し合い登録用紙を3枚持って戻ってきた。
「はい、母さん。これに名前と年齢あと諸項目書いて受付さんに渡してね。」
「ありがと、リオン」
リオンから貰った紙に早速記入してゆく。
名前は……ソフィア・リーシェライト…一応まだ白の国の公爵とかに狙われてるから…どうしよう?リオンたちは…普通にリオン・リーシェライトとアリシア・リーシェライトと書いてるし……よしっ!アサギ・リーシェライト…にしよう。次に年齢?日記で憑依当時が16歳ってあったから25歳くらいかしら?
次は経歴………自宅警備が9年でいいかしら?
次は希望するクエストの種類ね……収拾系や釣りの類を中心に希望っと。モンスターの討伐は小型動物なら少し、大型や魔物はご遠慮します…っと。
これでよし。
「あ、あのこの紙お願いします。」
「はい、少し拝見させていただきます……………はい、よろしいですよ。ちなみにそこの子二人、リオン君とアリシアちゃんとの続柄は母で間違いありませんね?」
若干キョドりながら受付の人に書類を渡すと簡単に確認しコロコロ笑いながら二人が私の子か聞いてきた。
「はい、この二人は私の子です……あれ?続柄を書く項目なんてありましたっけ?」
「いえいえ、個人的に気になりまして。初めは姉弟かと思いましたがリオン君がお母さんっていっていたので。それにしてもしっかりしたお子さん達ですね。字も綺麗ですし各項目にも的確に答えてますし」
そんな談笑をしながら受け付けの人はギルドカードを手早く発行して私たちに渡した。
「こちらがギルドカードです。身分証明書としても使えますので紛失にはご注意下さい。~~では簡単な説明ですが、ギルドカードを持っていますとギルドでクエストを受注出来るようになります。ただし注意して頂きたいのはクエストにはランクがF~SSSまでありまして基本的に受注できるのはギルドカードに記載された冒険者ランクまでのものとなります。高ランクになればなるだけ成功報酬も膨大ですがそれと同時に多大な危険がありますのでご注意下さい。参考までにF~Dは一般市民でもそこそこ安全にこなせるクエスト、C~Aは一人前の冒険者を目指す者、若しくは一人前の冒険者が受注するクラス、AA~Sはトップクラスの冒険者のみ受注できるクエストです。
次に冒険者ランクのアップについてですが、これはクエストの成功回数と難易度でランクアップします。これにつきましてはクエストをこなして行くうちに分かってくると思いますので今回は説明を割愛させて頂きます。」
まぁさっきから長々と説明させてしまって申し訳ないが内容はよくあるRPGお馴染みのギルドの受注についての説明だった。というかランクSS~SSSのクエストの説明がなかったが多分このクラスになると王宮から直々とか全国中からトップランカー集めての討伐とかになるんだろうなぁ…。そんなものまっぴら御免の私には関係ないか。
「さて、早速今出ていますクエストの話になりますが今あなた方3人が持っているギルドカードはランクがFですので基本動物や魔物の討伐クエストはありません。アサギさんの希望に沿いますと……この薬草収集なんてどうでしょうか?」
―――――ふむ、薬草の収集か…なになに?
トクサネ薬草50本の納品…ね。あ、横に図がある。なんかホウレンソウみたいだなぁ……報酬は銅貨3枚。……銅貨3?少な!50本も集めてたった日本円で3000円かよ!労働基準法考えろよ。くそっ!まさかギルドがこんなブラック企業だったとは…
「すみません、受け付けのおねーさん。僕達旅の路銀が尽きて食糧と宿賃が欲しくてクエスト受注を申し出たんですけど銅貨3枚じゃぁちょっと厳しいんです……もう少し高額のものはないんですか?」
「ああ!なるほど。貴方達ギルドは初めてだから知らなかったんでしょうがギルドに登録している冒険者なら各地のギルドハウスに一泊銅貨3枚で泊まれますよ。食事についてもその中に含まれてますからご安心下さい。確かに今の御時世ベラストニア戦争で食料や物価が上昇する一方ですが冒険者ギルドは独自のルートで食料や武器、道具を揃えていますのでご安心下さい。」
おお!それはなんという素晴らしいシステム。まさかたった銅貨3枚で一泊かつ3食まで付いてくるとはなんて優良企業なんだ冒険者ギルド!こんなことならさっさと冒険者ギルドへ登録しとけばよかったかなぁ?
旅に出てからどの町でも食料はパン1つで銅貨2枚、宿屋の宿泊はだいぶ値下がりしたとはいえ一泊の値段は銀貨1枚。ここまで野宿の関係で3日、2日に一回は宿に泊まっていたので路銀の消費が非常に早く気がついたら一文無しとなっていたわけだがなんだか今考えるとそれがとても馬鹿馬鹿しく思えてくる……。
「それじゃぁその薬草のクエスト早速受けます。」
「分かりました。薬草は北の高原に生えているそうなので頑張ってきてください。」
――――と、こんな経緯で私たち家族は冒険者となった。
結局空が暗くなる頃には無事に薬草50本全てを摘み終えて現在は報酬の銅貨3枚を貰いギルドハウスの1階で食事にありついている。今回は受付さんのサービスということで子供たちの宿泊料や飲食料は財布に余っていた青銅貨を支払うことで了承を得て今晩の宿を確保することが出来たのだ。
「はむっ…はむっ………この鶏肉美味しいね」
「もぐっ…もぐっ…このパンも焼き立てでふかふかだ」
「いやぁ…受付さんすみません……子供たちの食事こんなに安くしてもらって」
「いいんですよ。二人とも可愛いですし子供は今の時期が食べ盛りですからね。」
さて、とりあえず今晩の宿の確保は出来たが明日からどうしようか?しばらくこの町でクエストを受け続けて路銀や旅の準備を整えた方が得策なのは間違いないのだが、その後どのルートで王都を目指すかがこの旅では重要になってくる。
詳しそうだったので受付さんに聞いてみたのだがこの町の先は高原地帯が広がりそこを超えるとドダイトス山脈という高い山々がそびえ立っているという。ここを超えるには北の山道からかこの町から少し南にある山道から入って共に山の中にくり貫いた形であるトレーネとかいう街で一泊してから通例らしい。しかもそのトレーネの街は規模もそこそこあるから旅の消耗品を補給するには丁度いい
場所らしい。
そうなると次の目的地はトレーネとなるのだが、やはり路銀がないからまずはクエストで路銀を集めないと…。
その後他のクエストについて何があるか簡単に聞いてこれからの旅計画を練りながら床に就いた。
ファンタジーとは何ぞや?についてただいま勉強中です。
余談:作業中に思いついたネタ、ソフィアにもしアサギではなく別のキャラが憑依したら~とかでもやってみようかな?まぁやるとしてもここじゃなくて活動報告の方でこじんまりとやりますが…。
それと第二章表紙出来ましたー。ぶっちゃけ次話の挿絵予定を表紙にしました。




