第二十一話 ヒーズ・タウン脱出戦線
ソフィア視点
「少女よ、無事であったか!!」
ようやく再会できたリオンとアリシアと話し合っていると戦場で会った風の国軍の人がやってきた。
「あ、プロトガメスさん無事だったんですね。こちら風の国代理騎士のプロトガメスさん…?よ」
「……少女よ。何一つ合っていないのだが……。改めて、私は風の国王宮第二騎士団のプロトゴノスだ。成る程君がいっていた家族とはこの弟と妹であったか、無事再会できてよかったな。」
「いや、だから息子と娘……もういいや。それよりあの時ドラゴンの顔面に石壁飛ばしてくれたのってプロトゴノスさんですよね?援護ありがとうございました。」
後から思うとあれは本当に助かった。石壁のおかげでドラゴンブレスの発射が妨害できたし時間減速による刃物の追撃が効いたのも石壁攻撃に怯んでるドラゴンの防御力が一段と落ちたからだ。
それにしてもただの風で重さ何トンもの壁を超高速で吹き飛ばすって魔法って…。
―――なでなで
「わわっお母さんくすぐったいよ。ふにゅぅ…」
ああ、リオンとアリシアもいつの日かそんな人外魔境になるのかしら。リオンなんかその内何万もの軍勢を氷の矢の一斉掃射で壊滅させて国々を次々と蹂躙して行ったりして、アリシアはどこかの王族の城を乗っ取って凍り漬けにして『私こそが氷の女王よ!さぁ愚民共よ跪きなさい!』とかいっちゃったりして…。
そんなことになってしまったら私に出来ることなど、リオンが滅ぼした敵軍から金品を巻き上げてぼろ儲けして老後の貯蓄とするかアリシアが乗っ取った城で死ぬまでNEET生活でお零れに預かることくらいしか出来ないのね。
ああ、母は無力ね。
それにしてもアリシアの頭撫でるの気持ちいいわね。やめられないとまらない。
「王宮…第二騎士……もしかしてあなたはウィンド・ナイト・ロードの団長の嵐の雷プロトゴノスなのですか?」
唐突にリオンがプロトゴノス…だっけ?ガメスだっけ?まぁプロトゴメスさんでいいや。に質問した。そういえば王宮うんたらとかいってるから結構な地位の人なのだろうか?顔は満更でもない凛々しい顔立ち(イケメン爆発せよ)だから騎士って感じはするけど甲冑がボロボロだから騎士団の中でも下っ端だと思ってたけど。というか嵐の雷とかテラ厨二じゃん。
「ほぉ。私の二つ名を知っているとは、少年なかなか博識だな」
「リオン、知ってるの?この人のこと。というかもしかして有名人?」
「と、とっても有名人だよ!教会の教科書で載ってたもん。ウィンド・ナイト・ロード、別名嵐の騎士団長の嵐の雷プロトゴノス・ド・ラーンバティ。14歳から風の国軍の騎士団に入隊して2年後のアスカデリアの遠征では小隊長を務めて敵軍に囲まれ補給線が絶たれた状態から包囲網を突破するため20人の部隊で数百人の敵軍を相手に戦って無事20人全員生還させたり、その4年後の土の国との戦争ではその圧倒的強さで活躍して全ての戦場で勝利。一方的に風の国に都合のいい条約に持ち込ませたり、7年前のドスラー山脈の侵略では敵軍1万人をたった100人の部隊で全滅させた有名な戦いの隊長でその強さはまさしくこの国最強の名に相応しいといえるほどのものって授業でも聞いたし、まさに風の国民にとって英雄と呼ばれている人なんだ」
「なにその人外魔境こわい」
そしてそんな長文をスラスラと言えるリオンも凄いと思うよ?前から頭がいい子だとは思ってたけどこの子現代だったら余裕で高ランク私立中学とか普通にパスしそうな気がする。
「結構ボロボロだったから身分を偽ってるただの一般兵だと思ってますた」
「面目ないな…。ただの言い訳でしかないが我が隊は突如白の国が操ってると思われる魔物にやられてしまってな。その中の伝承でしか聞いたことがない超級魔物、ダークネス・ドラゴンのせいでこの有様だ。」
「ダークネス・ドラゴン…ってさっき僕達に襲い掛かってきた黒い竜?」
「ああ、私も遠目で見えたが君らの姉さんが追い払ったあの黒きドラゴン。あれは数百年前に魔王が使役したといわれている上級魔物で奴から放たれる炎は緑豊かな山を一瞬で炎の地獄へと変えるといわれている」
「なにそのとっても地球に優しくない二酸化炭素排出生物。存在そのものが環境汚染じゃん」
どこかの環境団体がきいたらブチ切れそうな生物だな。まぁあの世界(現代)はそんな生物すら霞んでしまうほど人間こそが環境破壊の大元になってるわけで。というか魔王ってなんだ魔王って。
「その伝承は正しくその通りだったな…。元々我らウィンド・ナイト・ロードはここから距離がある白の国へ続く平原でとある命を受け闘っていたのだが突如黒い魔方陣と共にあの竜2体も現れてな。それに混乱した時のたったの一撃で騎士団は半数、騎士だけで50人がやられてしまったよ…。」
「ご、50人も!?でも山で見かける竜のブレスはそんな火力も範囲もないし今思えば山のドラゴンの最大で20mくらいなのにさっきのあれって50mはありましたよね?というかあれって異常種という奴ですか?」
「正確にいうとあいつはドラゴンではない。君たちも知っての通りドラゴンは大きさこそ最大20m級のものもいるが50m級のものなどまずいないしドラゴンブレスも人の2,3人をじっくり焼く火力はあっても100人近くや山丸ごと一つ一瞬で灰にするなんてのはまずない。いや、あれも正確にはドラゴンブレスですらないな。多分黒魔法"ヘル・インフェルノ"であろう。奴はドラゴンの姿こそしてはいるが紛れもなく魔物だ。……というか少女よ!君はよくあれを追い払えたな。私ですら不意打ちの石壁を当てるのが精一杯だったというのに。どうだ、我が軍に来てみないか?」
「いやぁ、プロトゴメスさんのその石壁攻撃があったから攻撃が通ったんですよ。それと国も大事ですがこの子達の方が大切なのでそれは遠慮しますよ。」
見るとリオンとアリシアが私の袖をぎゅっと引っ掴んでプロトゴメスさんを軽く睨みつけていた。はいはい、あなた達のお母さんはどこにも行きませんよ~。全く可愛い奴らめ。
「はははは。確かにその通りだ。子供には甘えられる存在が欠かせないからな。だがその少年もなかなか良い面構えと目をしているしあと何年かして気が向いたら入軍してくれたまえ。」
いや、現代人の親として子供に入軍させるのはやっぱり気が引けるなぁ…。この世界では名誉、それも伝説の英雄的な人に言われたのだから栄誉といってもいいくらいなのだが私としてはやはり将来は商人とか技術士とか安全な仕事に就いて欲しい。まぁ結局は子供たちの意思次第なのだけどね。
「君達はこの後どうするのだ?私は再び白の国の蛮族共を駆逐しに行くのだが……まぁ聞くまでもないか」
しばらく休憩していたのだが、プロトゴノスさんは体力と魔力がある程度回復したのか立ち上がり戦場へ再び行くと告げた。
「私たちはとにかくこの街から脱出します。今のところ何処から脱出できるか分かりますか?」
当初はリオンとアリシアを発見後すぐに帰宅する予定だったが、戦場を見た感じでもし北の始末してきた兵が補給されていた場合とてもではないが突破は出来そうにない。しかもプロトゴノスさんによれば兵の補給箇所は北からだと言った。そんな中北へ向かえば十中八九自殺行為だ。そんな訳で家にある道具とか蒸気機関とか勿体無かったが、捨てることにした。
「そうだな…街の西側へ行くといいだろう。あそこに地下水道があったはずだからそこから水路沿いに進めば王都方面に出られるはずだ。だが気をつけろ、奴らは既にこの街中を占領している。それともし王都に着けたなら城下町6番街に住んでいる"テミス"にダークネス・ドラゴンと白の国の魔物召還についての報告を頼む。"アーロン"から聞き及んだと言えば分かるはずだ。」
―――ポンッ
「リオン、アリシア、記憶頼んだ」
お母さんは記憶力弱いの ミ☆
「「お母さんも覚えなさい」」
「………と、とにかく頼んだ。」
「分かりました(多分) プロトゴノスさんも色々援護ありがとうございました」
「いや、そもそも戦線を守れず、君たち民間人を守れなかった我らこそ申し訳なかった。ではな、銀の少女よ」
そう告げてプロトゴノスさんは再び戦場へ駆けて行った。
「とりあえずイケメン爆発しろ」
「このタイミングでそれ言うの母さん!?」
私たちも出発するとしよう。
「とりあえず二人とも魔力はどのくらい回復したのかしら?」
「う~~ん…僕は氷の槍と矢を…200本作れるくらいかなぁ?アリシアはどう?」
「私も…200本剣が作れるくらいかなぁ…?いつもが魔力10とするとまだ2,3くらいしか回復してないよ」
魔力2,30%で矢と剣200本って………この子達も大概ね。
とりあえず今の戦力と武装としてはリオンの氷の矢200本、アリシアの氷の剣200本、休憩中にコートの内ポケットから取り出して補填したコンテンダー用弾薬20発分プラス元からの残り弾薬14発の34発分。ダブルコンテンダーが1丁。ナイフ1本と戦場で拾ったレイピア1本。手投げナイフが3本。
こんなところか。武装を単に見た感じでは今から戦争でもしに行くのか?コマンドーなのか?だが、正直リオンとアリシアの魔法については数に入れて考えていない。子供達を前衛に出すなんてそんな危険なことはさせたくないし、それに戦争と正当防衛とはいえ子供達に人を殺させたくない。
となると基本的に私が前衛で銃を撃って進むパターンになるのだが、リオンとアリシアを探していた時と違って単身突っ込むなんてことは出来ないし子供たちを守りながら進まなくてはいけない。
……だが、ここで尻ごみしてても始まらないし、何とか白の国兵に見つからないように進むしかないか!こうなりゃかかって来る奴ら全員時間制御の心臓爆散で瞬殺してやるぜー!
そうだ、時間制御忘れてたー。
と、思っていた時期が私にもありました。
「逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!銀色の悪魔がやってきたぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「笑いながら人を殺す殺人鬼だぁぁぁぁぁぁ!!殺される!!」
「上から来るぞ気を付けろ!!」
「………」
えー、今まで散々"ドキッ☆白の国兵大虐殺♪"してきたせいか私どころかアリシアを見た兵たちは顔を蒼白にしながら全力で逃げ出していた。おかげ様で何の障害も危険もなくプロトゴノスさんのいってた地下水道の入り口にまでやってくることが出来ました。
「母さん、僕らを見つけるまでになにやってたの?」
ジト目で見てくるリオンの視線が痛いです。
逆にアリシアは「なるほどそれで鎧の男と同じ人たち私を見て逃げてたんだ…」と、必死で逃げる兵と私を交互に見ながら一人納得していた。
それはともかく、地下水路の入り口は現代のマンホールとかと違って目立たない路地裏に階段があってそこから地下へ行くらしい。確かにこれならただ前進と略奪にしか目が行ってない白の国兵には眼につき難い。先程地下水路に一番近くに居た兵ですらその存在を知らなかったようだし。
…というか私も知らなくて地下水路を通り過ぎそうになってたが、場所を知ってたアリシアによって事なきを得た。
地下水路は思っていたより快適…とまではいかないがそこそこ普通な空間だった。地下水道だから始めは下水かと思ったが、どうやら下水は下水でも浄化してから流しているそうだ。
「というかこの世界で水の浄化技術なんてあるのかしら?」
「母さん知らないの?風の国の主要都市では水の国が輸出している魔道具を使って水を浄化しているんだって」
「魔法何でもありだな…。それにしても魔道具とか魔法ってやっぱり輸出輸入あるんだね」
「お母さんは山から下りてこないから知らないけど街では結構魔道具あるよ?台所では火の魔道具で加熱調理出来るものがあるし風の国特産の空を飛べる大きな乗り物だってあるし」
それって飛行機的な?もしかして文化水準が低いと思ってたけど案外この世界魔法のおかげで高いのかもしれないな。
―――――ゴウッ
「っ!!」
子供達と談笑しながら地下を進んでいると急に前方に黒い魔方陣のようなものが無数現れてそこから変なドロドロした生物とかゴブリン的な何かが数体落ちてきた。これがプロトゴノスさんが言ってた魔物召還……?それっぽいからそういうことにしよう。
「リオン!アリシア!私の後ろに隠れなさい!それとリオン、氷の矢を10本ほど貸して!」
魔物たちがこちらを完全に視認する前に子供達を引っ掴んで後方に回しリオンから氷の矢を10本作ってもらいそれを手に構える。
「キキキキキキキキキキ!」
召還が完全に終わったのか甲高い笑い声を上げながら魔物たちは私たちの方へ一斉に向かってきた。
一体のみの相手なら単に銃で十分なのだが複数体となると弾薬の無駄だし子供たちを守りながら闘い捌くのは無理がある。
ならば――
「加速・時間3倍速!」
魔物たちは私の詠唱と同時にその動きを止まっているように遅くさせる。そこにすかさず氷の矢を投擲して一体、二体と魔物に氷の矢を突き刺し全ての魔物がその腹部から氷の矢を生やしているというシュールな光景にさせた後、リオンとアリシアの手を引っ掴んでその場を駆け抜けた。
正直こいつらをまともに相手にしている時間など殆どない。いくら見つかり難いとはいえ碌に隠し扉もなかったこの地下道への道はヒーズ・タウンが完全に占領されてしまえばいずれ発見されるであろうしなにより何故この地下道で魔物が召還されるのかどうもきな臭い。
もしかしたら作戦としてこの地下道の存在はバレていて魔物配備をするという作戦から人間の兵はわざとここを避けているから敵軍がいないだけかもしれない。まぁ人の死体がないところを見れば多分白の国の地下道魔物配備が住民が逃げ出した後になってしまい殆ど意味がなくなった……といったところだろうか?魔物の召還量や種類もプロトゴノスさんに聞いたものよりずっと少ないしゴブリンとかそんな雑魚系しかいないようだし。
だとしたら守備が甘い今のうちに地下水路を突破しなければ時間を掛ければ掛けるほど状況が悪くなる。
「キキキキキキキキキキ!」
「お母さん!また召還されたよ!」
「アリシア!そいつは僕がやっつけるから母さんに氷のナイフを渡して!」
「減速・時間ナイフ減速!……だからなんで減速なのに猛スピードで飛んでくんだよ!?」
そこからは大変…なんてもんじゃなかった。地下水路を進むにつれて魔物が出てくるわ出てくるわ…。
正直銃を使ったほうが魔物を素早く始末できそうだったが、弾薬は残り30発と補給したとはいえ少ない方だったため取っておくことにした。
某ハザードならハンドガンの弾30発のみでそれ以降補給なしなんてどんな無理ゲーだよ。しかも山小屋にはもう戻れないから弾薬を取りに行くことも出来ない。…いや、家中の全弾薬を現在装備してるから帰っても何もないか…。
そんな訳で現在はリオンとアリシアの氷魔法で魔物を駆逐しているわけなのだが、最初後ろに回らせて隠れさせてた二人もいつの間にか後ろにいながら私の援護をしてくれていた。
時間制御で魔物の動きを止めて子供二人による氷の剣と矢の掃射、この単純作業を何度も続けてひたすら地下道を進んでいった。




