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第二十話 "せいとうぼうえい"と魔法考察

――――side リオン



「それにしても二人ともボロボロじゃないの!何処のカスよ、私の天使達に危害を加えた馬鹿は!!」


母さんとの再会からしばらくして僕らの姿を改めて見た母さんは声を張り上げた。確かに僕は体中泥だらけで鎧の男との闘いで受けた切り傷も残っている上に壁に叩きつけられた時口を切ったのか唇には吐血痕まである。同じくアリシアも体中泥だらけで顔は蒼白で涙と土埃でグチャグチャ。しかもスカートから下は転んだ時の擦り傷が痛々しく残っている。

二人ともまさに満身創痍といえるような状態だった。母さんが心配するのも無理はない。


ちなみに母さんも母さんで今の格好はあまり僕達のことをとやかく言えるようなものではなかったりする。茶色いコートを羽織っているので分かりづらいがよく見れば土埃や泥が付着しているし、服の破れた部分から僕みたいに小さな切り傷がいくつもある。そしてなにより胸の部分の服が引きちぎられたように破れていてその中を包帯で巻いて隠す…確かさらし?をしている状態だった。

…これはもしかして。


「母さん、その服が破れてるのってもしかしてアーグルにやられたの!?母さんの方こそ大丈夫だったの?」

「ああ、これね。大丈夫よ、あの産業廃棄物共は完膚なきまでに粉砕してやったから。ええそうよ!こんなに可愛いリオンとアリシアにあんな下衆の義父と義兄弟が出来るなんてお父さん許しません!」


…?なんでアーグルに襲われることが僕とアリシアの父親と兄弟に関係するんだろう?父親は僕とアリシア、母さんを捨てた最低男のエンディミオン、兄妹はアリシアと僕しかいないのに。それとあなたはお母さんです。


「リオンとアリシアこそ何があったの?二人とも泥だらけ…はまぁこの状況じゃ仕方ないとはいえリオンのその切り傷は明らかに転んで出来たものじゃないでしょ?」

母さんの問いかけにアリシアがビクリと反応した。やっぱり未だ鎧の男を殺してしまったことに気を病んでいたのか、アリシアは泣きそうな顔でまるで懺悔をするかのように今まであったことを、鎧の男のことを話した。





「…なるほど、それでここまで来た所であの何か黒いドラゴンに襲われた、と」

「お母さん……私…人を殺しちゃった……。私"さつじんき"なのかな…?悪い子だよね…わたし。こんな悪い子いてもお母さんに迷惑…」


全てを話し終えたアリシアは肩が振るえてただでさえ蒼白だった顔が、今では真っ青になっている。当然だ、教会で習ったけど殺人はとても悪いこと。そんな悪いことをしてしまったアリシアは母さんに拒否されるかもしれない。


以前に齢10にも満たない子供が街中で殺人を犯して両親に捨てられる、そして最後は暗い独房の仲でたった一人孤独に死んで罰を受けたという話を教会で聞かされたことがあった。


――――母さんに捨てられる。

その恐怖でアリシアは震えて怯えていた。そんなアリシアの俯く顔を母さんはそっと持ち上げて正面から向かい合った。


「急迫不正の侵害に対し、自分または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為を正当防衛という。正当防衛は、それが犯罪にあたっても刑が減免され、他人の権利を侵害しても損害賠償責任を負わない。…だったっけ?」

「「????」」

突然母さんはよく分からないことを話し始めた。何かの条文だろうか?


「これはね、私の故郷の国の法律…決まりごとでね、要するに自分に危害を加えようとする人に対して反撃してその人を仕方無しに殺してしまったり、たまたま殺してしまっても罪にはならないってこと。つまりアリシアは悪くない。というかもしこんなに可愛い私のアリシアに"殺人鬼"なぞほざくカスが現れたら真っ先に私がぶっ殺す!」


「で、でも教会の授業では人を殺すのは悪いことだって……」

「確かに殺人は悪いこと。とても許されることではないわ。でもだからって自分を殺しにかかろうとする相手に対して何もせずにただやられろっていうのは死ねっていってるのと同じよ。今回の場合アリシアもリオンもその鎧の下衆に殺されそうになったから身を守るために反撃したのよね?だったらそれは仕方ないことよ。もし反論するような人がいたら『じゃぁ今から私はあなたを殺すので何もしないでくださいね?』と言ってやりなさい。何も言わなくなるから。」


そういって母さんは優しく笑いながらアリシアの頭を撫でた。

「う…ぐすっ…ぐすっ…じゃあ私…悪い子じゃない?お母さん私を捨てない…?」

「なんでアリシアを捨てなきゃいけないのよ。それどころか家が嫌になって家出しても地の果てまで追いかけて連れ戻すわよ。」


アリシアはついに耐えられなくなったのか、再び母さんに抱きついて泣き叫んだ。

「お…おかあさぁぁぁぁぁぁん!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「おおよしよし、怖かったね…もう大丈夫だから。それにお母さんなんてここにくるまで何十って兵隊をぶっ殺したんだから。多分こんな状況下じゃ白の国の馬鹿を殺せば逆に国が褒めてくれるわよ」

「…か、母さん何十人もあの鎧の男を倒したの…?」


僕とアリシアが魔法を全力で使ってようやく倒した様な奴らを母さんはたった一人で何十人も倒したのだろうか?だとしたら何だか複雑だ。…いや、あの黒の竜相手に冷笑しながら一方的に攻撃を加えた母さんならありえる…。

「いえ、途中で風の国軍の人と会ってしばらくその人と一緒に白の国の馬鹿共を抹殺してたんだけど遠くでアリシアの悲鳴が聞こえてね。時間制御魔法で邪魔な奴らの心臓を某新世界の神よろしく麻痺させてあげて単身で突破しちゃった」


心臓麻痺って…。時間制御ってあの皆が止まる超能力の事だろうけどあれでどうやって心臓を止めるんだろう?というかそんなことサクッてやってしまう母さんってやっぱり大物だなぁ…。




――――side ソフィア


「それはともかく二人が魔法を使えるなんて知らなかったわ。いやぁ~魔法って30歳まで童て…げふんげふんっ…。いつから使えるようになったのかしら?」

「う…うん。ずいぶん前…5歳くらいの時に出来るようになって…いつか母さんを驚かせようと思ってたんだけど……」

いや、こんな状況ではあるけれど十分驚かせて貰ったわよリオン?


そもそも何もない空間から魔力とかいう謎パワーで気温操作が出来るとか明らかに便利すぎるしチートすぎる。そんなことが出来れば冷却限定とはいえ夏はクーラーがいらないし、冷蔵庫も不要。さらには魔力消費のみなので環境に優しい非常にクリーンな冷凍…。現代科学者や環境団体が喉から手が出るほど欲しがりそうな能力だな。まぁ当然くれてやるわけがないがね。


「もっと早く教えてくれてもよかったのにぃ。そしたら夏場に氷のクーラー作って、冷蔵庫作って、かき氷作って、アイスクリーム作って…etc」

「で、でも!この魔法は…氷属性の魔法はお父さんのものでしょ?」


…お父さんの属性?何のことだ?確かに前世の俺は魔法使い(笑)寸前だったけど氷属性とかあったっけ?冷え性ではなかったし…心は…うん、寒々としてたな。なるほどそれで氷属性なのか。でも父親アサギが魔法使えるだなんて御伽噺したかしら?適当なイカサマと何の役に立つか分からない工作という名の魔法なら出来ることについては話したけれど。


「私たちの父親、エンディミオンがこの氷魔法の継承者なんでしょ?もう隠さなくていいんだよお母さん。私たちにはお母さんさえいてくれればそれで十分だから」





……


………


………ば、ばれてる…っ!!

いつばれた!?なんであのヤリ○ン野郎にお腹のこの子達ごと捨てられたって知ってるんだ!!私は一度も話してないし、街の連中に至っては"ソフィア・リーシェライト"の指名手配についても心当たりがなかったのに何故なんだ!?どこのどいつだよ、密告したカスは!


「お家にあったお母さんの日記でね…、全部分かっちゃったんだ。今までお母さんが私たちに隠してくれたこと……」





―――――原因俺かよ。






「あんなエンディミオンなんかいなくても母さんさえいてくれれば僕らは寂しくないから!」

「だからお母さん、ずっと私達と一緒にいてね!」


―――ああ、子供達は残酷な真実を知ってなお歪むことなく逆に私に気を使って真実を知ってからも私の嘘(…なのか?)についてとやかく言わないでいてくれた。本当に子供は親の知らないところで成長するものなのね……。



ま、それはともかく。

「それで氷の魔法で二人は何が出来るの?さっきのドラゴン戦では氷の超強化壁を作ったらしいけど」

「う~~ん…。ここ何年かは使うのが嫌でやってなかったけど水を凍らせたり…あと母さんが教えてくれた空気中の"すいじょうき"を集めてこうやって……氷の槍を作ったりとかかなぁ?」


説明しながらリオンは目を閉じてうーんと唸ると右手に長さ1m程の氷の槍が形成されて握られていた。本当に便利だな魔法。修行すれば冷凍ビームとかエターナルフォースなんちゃらが使えるようになるのかしら?


「そういえばアリシアは氷の剣が作れたのよね?」

「うん!見ててね………っ出来た!」

今度はアリシアが私の袖を引っ張りながらリオンと同じように目を閉じて集中すると氷の剣が5本ほど空中にフワフワ浮いて出現した。


――――これは!


「アリシア、こう手を前にかざして手に収まる形で剣を出現させてくれない?」

「?うん、いいよ。――――っ!」

アリシアが集中すると同時にその両手にはそれぞれ氷の剣が握られていた。

「おおおおお!!リアル某紅茶さんじゃん!氷の壁が作れるのは確定だからアレは問題ないし…アリシア、剣って今のところ同時に何本作り出せる?」

「え…?ええ?大体10本くらいだと思うけど…」

「なるほど…では修行次第では某連続掃射も…夢じゃない!ふふふふはははは!」


「何か僕らの魔法が母さんの玩具になってる気がするけど気のせいかなアリシア?」

「お兄ちゃん、お母さんのあの目は本気だと思うよ?正直今まで黙っていて良かったのかもしれないね。そして私にはあの優しい顔がどうやったら一瞬にして邪悪な顔に変わるかが不思議でならないのだけど…」


「時間制御にリオンの槍とアリシアの剣の一斉掃射があれば…千の軍も敵じゃねぇ!ふははははははは!!世界よ、貴様は我らリーシェライト一族の手に落ちたも同然だーーー!はははははははは!!」



「「……はぁ…これさえなければ完璧なのになぁ…」」



母の邪悪な笑い声と子供たちの呆れたため息は戦場の中に響き渡り、炎と共に消えていった。

生活の中で最も有効的そうな魔法って何の属性なんでしょうかね?

現代なら間違いなく電気属性でしょうが…

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