第十七話 暗闇と、恐怖と。そして
アリシア視点。残酷表現あり。
アリシアside
気が付くと暗闇の中にいた。
腕が背中から動かせないのと手首に妙な圧迫感を感じることからどうやらロープで硬く縛られているようだ。
周囲は暗くてほとんど何も見えなかったけど木板を打ち付けてある窓の隙間から微かに光が入ってきて周りに木箱や樽が大量に積んであることから何処かの倉庫度ということが分かった。
―――どうして私はこんな所にいるのだろう?何で両腕をロープで縛られているのだろう?
そう疑問に思ったと同時に頬に走る鈍い痛みで記憶が徐々に蘇ってくる…
街でお兄ちゃんとお買い物していたらアーグル達に無理やり押さえつけられてお母さんの居場所を聞き出そうと何度も頬を叩かれて…。
「…う、…くっ……あ、アリシア?ここは…僕は確か…?」
アーグル達に受けた仕打ちを思い出しているとすぐ隣からお兄ちゃんの呻き声が聞こえた。
どうやら私と同じでロープで縛られているみたいだ。
「よくわかんないけど何処かの倉庫みたい」
「とにかくこのロープを解いて早くここから出なきゃ。母さんが危ない…」
薄らと見えるお兄ちゃんの視線の先には木板に隙間がたくさんある窓があった。
確かにあそこの木板なら簡単に壊して脱出できそうだ。
ただ、その窓がある場所が少し高いところにあってここにある木箱を積めば上れないこともないけど両手が自由にならないと少なくとも上ることは出来なさそうだ。
お兄ちゃんは縛られている腕を強引に引っ張ったり何とか動かして解こうとするが、ロープは想った外固く縛られていて子供の私たちの力では千切ることはおろか緩めることすら出来なかった。
お兄ちゃんが自力でロープから抜け出そうとしている間私は薄暗い倉庫内を見渡してなにかロープを千切ることが出来そうな木片や鋭利物がないか探したけどそれらしいものは一向に見つからなかった。
お兄ちゃんはイライラした様子でしきりにロープを引っ張り千切ろうとするけど結局解けることはなくてむしろお兄ちゃんの手首から血が滲んでいる。
「くそ!くそっ!早く、早くここから出て母さんにアーグル達のことを伝えなきゃいけないのに!」
お兄ちゃんの悲痛な叫びが倉庫に響く。
そうだ、アーグル達はお母さんを探しているといっていた。
あいつ等のことだから間違いなくお母さんに酷いことをするつもりなのだろう。
あいつらの言っていた『犯す』というのの意味がよく分からないけどそんな気がする。
いや、もしかしたら私達が気絶している間にもう……
考えただけで体の奥から凍りつくような悪寒がゾワッと湧いてきた。
(…?凍りつく……っ!!)
先程思った凍りつくという単語を復唱した瞬間私の脳裏に衝撃が走った。
この倉庫から抜け出せる唯一の手段が……。
「超能力――――……駄目だ…。色のない景色になってるから使えてるみたいだけどこれじゃあロープが切れない…」
「お兄ちゃん!魔法、魔法があったよ!氷の魔法で氷の剣か槍を作ってそれでロープを切ればここから出られるよ!」
私は思いついた氷魔法での脱出法、具体的には空中にあるお母さんが以前に教えてくれた”すいじょうき”というのを凝縮して氷の刃物を作ってそれでロープを切った後、窓の板木を壊して脱出する
―――を話したけどお兄ちゃんはそれを苦虫を噛み潰したような表情で聞いていた。
…理由は私にも分かる。
この氷の魔法は私達とお母さんを捨てたエンディミオンの魔法。
そんなものの力を使って助かるのは言い様のない憎悪とハラワタが煮えくり返るような気分になる。
――――でも、今はこれしかないのだ。
どんな手を使ってでもここから脱出してお母さんを助けなければもう二度とお母さんに会えないような気がする…。
あの暖かさに、あの優しい声に、あの安心できる場所に…
それを永遠に失うくらいなら穢れたあの氷魔法の長年の封印を破る方がまだずっといい。
しばらく私もお兄ちゃんも押し黙ったままだったけどお兄ちゃんはフッと笑って
「分かった…。確かに今は父親についてどうこう括ってる場合じゃないね。」
どうやらお兄ちゃんも私と同じ結論に達した様だ。
「さて、久々に使うけど上手く使えるのか……んっ」
目を閉じて魔力を集中させるとお兄ちゃんの手の辺りが暗闇の中ぼんやりと光りだしてそれが治まったときには水色に透通る氷の刃が握られていた。
―――ブチッ
氷の刃で固く縛られていたロープはあっけなく千切られて鈍い音が倉庫に響き渡った。
「ほら、アリシアも手をこっちに…―――ブチッ…よし、ロープ切れたよ」
ようやく手の自由を得た私はスカートのポッケからハンカチを取り出してお兄ちゃんの皮が擦り剥いて血が滲んでいる手首に軽く巻きつけた。
「これで少しは痛みが引いた?」
「あ、ああ。手首の傷忘れていたよ。ありがとうアリシア。
それにしても久しぶりに氷魔法使ったから出来るかどうか心配だったけどあっさり出来た…」
何か釈然としない表情のお兄ちゃんだったがそこである疑問が浮かんだ。
「そういえば何でアーグルに捕まったとき超能力であいつ等止めなかったの、お兄ちゃん?」
「それが不思議なんだ。あの時確かに使ったんだけど急に頭が凄く痛くなって…」
「それって昨日お魚捕まえるのに半日中ずっと使いっぱなしで魔力的なものが切れて使えなくなったんじゃない?」
「………」
なにかいってよ、お兄ちゃん。
しばらくの沈黙の後私の氷魔法で空中に氷の矢を10本作り出して窓に向かって一斉掃射。
結果見事に窓の木板は砕けて私たちは脱出に成功した。
そしてすぐに自宅である山の小屋目指して駆け出したのだけれど街の異変に気づいて足が止まってしまった。
街の方から煙がもくもくと上がっていて夜なのに中心街の空が禍々しい赤色に染まっている。
いつもは穏かな黄色の明かりが照らしているはずなのに…。
どうやら私たちは街の西側の倉庫街に閉じ込められていたらしいが、その倉庫も私達が居た倉庫といくつかのものを残して隣の三角形屋根の倉庫とかほとんどの倉庫が何故か半壊していた。
そういえば倉庫から脱出する際に私たちの見張りが一人も居なかったけど何かあったのかな?
街の様子に不信感を抱いていると突然、後ろからガシャンと鈍い金属の擦れる音が聞こえた。
「ほぉ…。まだこんな子供が、それも二人生き残っているとは…おもしろい」
低く唸るような声の方を振り返ると黒光りする大きな鎧を身に纏った恐ろしい雰囲気の男がニヤつきながら立っていた。
「―――っひぃ!」
男の目を見た瞬間私は恐怖で動けなくなってしまった。
こんなに冷酷で何も映していない目は始めて見た。
いや、ただ一つこの目は私達に対する殺気と殺しへの喜びのみ映している、そんな感じが会話もしていないのに分かった。
「今日は最高だぜ。さっき餓鬼を庇ってた女ごと拷問しながら殺してやったがこんな楽しみがまだ残ってたとはな」
あの私たちを殺すといっていたアーグルでさえこんな明確な殺気のみを宿した目と比べたら赤ちゃんの様なものだ。
純粋な恐怖で冷や汗が噴出して、足がガクガク震えて全身が金縛りにあったように動かない。
殺される…
殺される…殺される…
――――パシッ
「!?」
急に引っ張られる感じがして鎧の男の恐怖から正気に戻ると私はお兄ちゃんに手を引っ張られて街の中を駆けていた。
「――――、―――シア!アリシア!!」
「お、おにいちゃん…」
返事をするとお兄ちゃんは危機の迫ったような顔から穏かな顔へと、そして真剣な顔になって引っ張っている私の手を握りなおした。
「よかった、正気に戻って。今はとにかくあの男から逃げるために走るんだ!」
どうやら私が恐怖で震えているときにお兄ちゃんが手を強引に引っ張って逃げ出したようだ。
だが、鎧の男の脅威はまだ去っていなかった。
「おいおい、この俺様が餓鬼二匹を殺せる楽しみをみすみす見逃すとでも思ったか?」
恐怖の声に振り返ると鎧の男がガシャンガシャンと鎧を鳴らしながら歩いて向かってくる。
薄ら笑いながら向かってくる鎧の男に背筋の凍りつく恐怖を感じてただ一心不乱にお兄ちゃんの手を掴んで街を駆け抜ける。
そして、街の惨状を嫌でも見ることになった…。
燃え盛る建物。抉れた街道、破壊された噴水、まさに蹂躙だった。
私達の思い出の場所も、お気に入りのお店も、憩いの場も、全てが破壊し尽され無惨な瓦礫へと変えられていた。
そして…
あちこちで鳴り響く悲鳴と、かつて人間だったと思われる地に横たわる死体……。
しかも死体は一つ二つではなく街の路地裏に山のように積まれ、道の端に石のように何体も横たわっている。
倉庫に閉じ込められる前の活気と笑顔が溢れていたヒーズ・タウンは悲鳴と怨嗟の鳴り響く地獄と呼ぶに相応しい場所へと変わってしまった。
積まれた死体、人の腕等がバラバラになったもの、横たわる上半身のみの死体…それらを見るたびに気が狂いそうになりお腹のそこから冷たい感じがして熱いものが喉までせり上がってきたけど今は鎧の男から逃げることに必死で紛らすことができた。
―――カツン
「…え?」
だからだろうか。後ろばかり気にしていた私は足元に転がっていた誰かの足に気づかず躓いて転んでしまった。
そんな私を見て冷笑した鎧の男は速度を変えずゆっくり歩きながら腰の剣を抜き放つ。
「アリシア!早く起き上がって!!」
お兄ちゃんが私に早く起き上がるように叫ぶ。
…でも、私は起き上がることが出来なかった。その原因は私の視線の先、先程躓いた誰かの足。
その足の先には……教会の生徒の女の子の恐怖に歪んだ表情の亡骸があった。
「あああああああああああああ!!ゴホッ!ゴホッ!」
それを見た瞬間今まで溜め込んだ恐怖が気持ち悪さが一気に溢れ出して吐き出していた。
目の前がぐにゃぐにゃしてより吐き気が押し寄せてくる。
そして頭に街に横たわる死体が10、100と浮かび上がって…
気が付くと鎧の男の影が私を飲み込んでいた。
「ここまでよく逃げたと褒めてやりたいところだが残念だったな、風の国の将来戦力になる子供は特に始末しておかなきゃいけねぇんだよ。まぁ俺の場合は単純に…」
白刃を振りかぶる鎧の男。
「餓鬼の泣き叫びながら死ぬザマを見たいだけだけどなーーーーー!!」
男の刃は無情に振り下ろされる――――
……わたし、ここでしぬのかな?
こんなおそろしいばしょで、おかあさんにもあえずに…
でもおにいちゃんはさいごまでいっしょだったからいいかな。
…わたしがしんだらおにいちゃんはどうするんだろ?
すぐににげるのかな?
できたらわたしをおにいちゃんだけでもなんとかいきのこってほしいな…
――――ガキィィィィィィィン
「……え?」
死を覚悟して目を伏せたがいつまで経っても白刃の冷たさと痛みが来ることはなく、代わりに耳を劈くような金属音が鳴り響いた。
再び目を開けるのは怖かったが何がどうなっているのか、さっきの金属音は何なのか気になって目を開けるとそこには―――
鎧の男の白刃を氷の槍で受け止めているお兄ちゃんの姿があった。
「なにィィィィィ!?この餓鬼魔法を使えたのか!?」
「ぐっ…!ぐぐぐぁ…!!」
鎧の男の初撃はお兄ちゃんが魔法を使えることに動揺して剣の威力が落ちて防げたが、それでも体格差がある子供と大人。
しかも相手は男で兵士。
再び剣を振りかぶり白刃を槍で防ぐお兄ちゃんごと吹き飛ばし壁に背中から叩けつけられた。
「おにいちゃぁぁぁん!!いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「―――ごほっ…!!」
「この餓鬼ィィ…。お前も後で相手してやるから今はこの銀髪の餓鬼がくたばるところを見てろやァァ!!」
再び私に振り下ろされる白刃。
だがそれも私に達することはなく、横から飛んできた氷の矢によって叩き落された。
「アリシアには…アリシアには指一本触れさせない!僕のアリシアを…たった一人の妹を失ってたまるかぁぁぁぁぁ!!」
壁に叩きつけられていたお兄ちゃんは氷の矢を魔法で飛ばして鎧の男を牽制しながら鎧の男の前に割り込んで中に構築した氷の矢を掃射しながら手の氷の槍で鎧の男に振るう。
「餓鬼の分際でこの俺様にィィィィィィィィ!!大人をナメルなァァァァァ!!!」
苛立って叫ぶ男の剣を氷の矢の掃射で威力を相殺し、氷の槍で男の脇腹を狙い槍を振るう。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
氷の矢で怯んだ男に中に構築した矢およそ30本を掃射し続け全く隙を与えないお兄ちゃん。
その顔は今まで見たことがないほどの怒りの表情に歪んでいた。
「僕の!アリシアを傷つける奴は!絶対許さない!!」
氷の槍を大きく振るい鎧の男に切りかかるが剣で防がれ逆にお兄ちゃんの懐に大きな隙が出来てしまう。
「これで終わりだぁァァァ!餓鬼ィィ!!」
そしてがら空きとなった懐にすかさず切りかかったが掃射された氷の矢でその一撃を叩き落される。
見事に物理攻撃と魔法攻撃が合わさった波状攻撃だった。
それにより大人と子供という圧倒的体格差、体力差があるにもかかわらず次第にお兄ちゃんの攻撃が鎧の男に掠る程度だが当たるようになってきた。
私はそれを見ていた。いや、見ているしかなかった。
今下手にお兄ちゃんの加勢をすればペースを乱して逆にお兄ちゃんの邪魔になってしまう。
何故だか手も出していないのにお兄ちゃんの槍の動きと魔法の連撃を見ているだけでそれを悟った。
私を背に守るかのように鎧の男に立ち向うお兄ちゃん…。
私に迫る白刃を氷の槍で叩き落すお兄ちゃん…。
真剣な表情と燃えるような瞳で鎧の男に退治するお兄ちゃん…。
――――それを見えていると、さっきまで恐怖と絶望しか感じなかったのが今では暖かい…いや、むしろ胸の辺りが熱く疼くような不思議な感じがする…。
その疼きは鎧の男の刃から私を守るお兄ちゃんのその背中を見ているとより強くなって胸がドキドキして苦しい…。
今までお兄ちゃんを見てもこんな気持ちのはならなかったのに…。
この気持ちは何なんだろう……?
「――――っ!?」
しばらく鎧の男とお兄ちゃんの攻防を見ていることしか出来ずにいたらふいに鎧の男が私の方を見て気持ち悪くニヤッと笑った。それに悪寒がして身構えていると鎧の男はお兄ちゃんから距離をとって懐から何か銀色のものを取り出しそれを空中で回転させて上下を持ち替え、気づいたときにはその銀色に光る物体が私に猛スピードで向かっていた。
「アリシアぁぁぁぁぁ!!!」
それに気が付いたお兄ちゃんが私と銀色の物体の間に割り込もうと駆け出したがとてもじゃないが間に合わない。
「ひゃはっ!やったぜェェェ!!テメェの懐、ガラ空きだァァァ!!今度こそくたばっちまえェェェェェェ!!!」
だが、私の方へ振り返ったお兄ちゃんを見るや鎧の男はこれは好機と白刃を振りかぶる。
このままではあの刃にお兄ちゃんは…
「お兄ちゃん!駄目ぇぇぇ!!避けて!!」
私は悲鳴のように叫んだが私に迫る銀色の物体―――ナイフもお兄ちゃんに迫る白刃もどちらも無慈悲に私たちを殺さんと空を裂いて向かってくる。
いや!お兄ちゃんが死ぬなんて嫌ぁぁ!!
私に優しくしてくれるお兄ちゃん、甘えさせてくれるお兄ちゃん、私を守ってくれるお兄ちゃん、お母さんとたった3人の家族なのにそれを失うなんて――――
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
気が付いたら私もお兄ちゃんの方へ駆け出し自分にある限りの全ての魔力で氷の剣を精製して行く。
―――失いたくない!失いたくない!お兄ちゃんを失いたくない!お兄ちゃんを奪わせない!!そのためだったら…
精製した氷の剣を私の周囲に展開してさっきから鬱陶しいナイフを弾き飛ばす。
「なっ!?この銀髪小娘も魔法使いだったのか!?」
今まさにお兄ちゃんの背中に刃が達する寸前で切りかかる鎧の男の周囲に氷の剣を精製して
切っ先を全て鎧の男に向け―――――
「なっ!?おい餓鬼ィやめ・・・」
戦場にまた一つ悲鳴が響き渡った。
リオンside
「……ねぇ、お兄ちゃん…わたし…私……ひと…人を………」
震えた声で搾り出すようにアリシアは呟いた。
いつもはパッチリ開いて可愛らしい金色の瞳が絶望に見開き濁っている。
その瞳の先には氷の剣が何本も突き刺さった赤色のモノがある。
モノには黒光りする大きな鎧の破片が無惨に散らかりさっきまで僕らの恐怖の対象だった白刃は粉々に砕けている。
さっきまで鎧の男と呼んでいたものがそこにはあった。
「人を……ころしちゃったよぉ…」
アリシアは顔を涙で汚しながらガクガクと震えてやがて嗚咽と共に泣き出した。
そんなアリシアを見ていられなくて、ただただ強く抱きしめることしか出来ない。
本当は僕があの鎧の男を倒さなければいけなかったんだ。
なのにその重荷をアリシアに背負わせてしまった。
「アリシア…ごめん…ごめん……。僕が…僕が……ほん」
「――――チュッ」
僕の言葉がいい終えぬうちにアリシアが強引に僕に唇を重ねてきた。
「な、な、なにを」
「お兄ちゃんは何も悪くない…。人を殺したのは恐ろしかったけど…それ以上に心配…したんだから!
一人であの男に立ち向って!何度も吹っ飛ばされて!さっきも私の方に来ようとしてあいつに背中斬られそうになってたし!」
普段見ないアリシアの剣幕にたじろぐ僕に抱きつきながらアリシアはさらに怒鳴った。
「だ、だって!あれはアリシアを守るために!!」
「私の為なのは嬉しかったけどお兄ちゃんにもしものことがあったらどうするの!?私のせいでそんなことになったら…お兄ちゃんがいなくなっちゃったら私、耐えられない!!お兄ちゃんが死んじゃうなんて嫌だよ!!」
僕の顔にアリシアの涙がぽたぽたと滴る。
そして僕の体を抱きしめながらアリシアはガクガクと震えていた。
―――そうだ…僕もアリシアがいなくなってしまうのが恐ろしくて…怖くて怖くて堪らなくて気が付いたらあの鎧の男に向かっていたんだ。
それは当然アリシアも同じはず。
さっきの戦い、何とか魔法と槍の攻撃で男の白刃を防いでいたけど少し間違えれば命はなかった。
いや、それどころか大人と子供との戦いなど勝敗は明らか。
いまアリシアと抱き合えるのは奇跡のようなものだ。
そう考えると…僕が殺された(もしも)、のことを考えるとお腹の底が凍りつくような気持ちになった。
でも…
お兄ちゃん…。無事で…よかった…」
「アリシアも…よかった…本当によかった…」
僕達二人は心も体もボロボロだけど生きている。
こうして互いの温もりを感じられる。
僕達二人はこの地獄のような場所で互いの傷を癒すように抱き合い、そしてどちらともなく再びキスを交わした。
ようやくイラスト描きがひと段落ついたので投稿を再開したいと思います。
お待たせして申しわけありませんでした。
…ただ、最近残業が多いので平日UPは厳しいかもしれません…。
それと来週資格試験なので来週の土日も厳しいかな?




