第十話 フェスティバル その2
「り、リオン君!私と踊ってください・・・!!」
「違うよ!リオン君と踊るのは私!」
「ど、どうかなこのドレス・・似合ってる?」
どうしよう・・・。エリベルト君と別れてから教会の女の子達に見つかって口々に
ダンスを申し込まれて立ち往生をくらってしまった。
おかげで母さんがアリシアに取られてしまって今2人は中央の広場で楽しそうに
踊ってる。ああ、黒い服でよく栄える銀髪が綺麗だなぁ。
周りの人も母さんとアリシアに見惚れているみたいだ。
「何あれ?急に出てきていい気になってるわねあの女」
「あんな汚らしい灰色の髪の毛の貧乏女より私の方が何千倍も美しくてよ・・!」
なんかケバッたく顔に白い粉つけている女の人が周りに見惚れられている母さんを
忌々しげに見て嫌味を飛ばしている…。ああいう女の人とは関わりたくないなぁ…。
それにしても女の子達は何か熱でもあるんじゃないだろうか?
さっきから顔が3人とも赤くなってるしこんな所でダンスなんかしてたら余計に体調が
悪くなるんじゃないだろうか?
そんな事を考えていると男の人が一人母さんの手を握りだした!
か、母さんに気安く触れるなぁーーー!!
どうやら男の人は母さんにダンスを申し込んだらしい。でも母さんはアリシアを見て
首を横に振って断った。
アリシア、よくやった!
それでもなお男は母さんから離れようとはせず近くで立ってダンスする機会を伺ってる。
「ねぇ!リオン君聞いてるの!?私と踊ろうよ!!」
「違う!私よ!!」
「り・・リオン君・・・!!」
「ご、ごめん皆、僕ちょっと母さんのところに用事があるから・・・!!」
女の子達に断りを入れて早急に母さんの元に駆けていった。
「てめぇ!!ふざけんじゃねぇぞ!!この豚野郎!!」
「てめぇこそだこの腰抜け!さっさと馬の糞にでも頭突っ込んで寝てろ!!」
――――――ガッシャァァァァーーーーーン
急にこの喧騒に似合わない罵声が響き渡り何かの破砕音とともにあれだけ賑わっていた
フェスティバルが静寂に包まれた。
「いったなこのトンチキ野郎!ボコボコにして二度と減らず口叩けないように
してやらぁ!!」
「んだと!?てめぇこそ立ち上がれないようにガタガタにしてやらぁ!!」
――――ボグッ
――――ドカッ
罵声を上げていた男二人はそのまま殴りあいを始めだし互いに殴り飛ばされる度に
屋台やフェスティバルの飾りが壊されていく。
「この野郎っ!・・おいてめぇ邪魔だどけ!!」
しかもそれだけでなく周辺の人たちまで邪魔だと殴り退かしていく始末。
近くで踊ってた男の人は殴り倒されてパートナーの女の人は悲鳴をあげて男の人に
駆け寄るが男に蹴り飛ばされて柱に頭をぶつけて気絶してしまった。
「くっそあのやろぅ!!おいガキ!いつまでうるさく泣いてるんだ!?この!!」
―――――パァーーーーン
喧嘩で破壊した屋台の破片で頭から血を流して泣いている男の子を無慈悲に
平手打ちする男。
「完全に叩き潰す!」―――ドガッ
「やれるもんならやってみろぉ!!」―――ドゴッ
「いい加減にしてください!!いい大人が何なんですか!こんな小さな子にまで
手を上げて!!喧嘩がしたいならここから出て行ってください!!!」
その声に男達も黙り広場は完全な静寂に包まれた。
男達の喧嘩に唯一声を荒げたのはイグルのお母さんのラリサさんだ。
男達を睨みつけながら先程平手打ちされた男の子のところにかけよりハンカチを
頬に当てて頭を撫でながら
「大丈夫?まだ痛む?すぐに冷やしてあげるからね」と、男の子を抱きかかえて
水場のほうに向かおうとした。
「おい、てめぇ!俺たちに意見するとはいい度胸じゃねぁか!!
……おう、アーグルのとこのラリサじゃねぇか?」
「ケッケッケッ!お前よくこんなとこにこれたなぁ?そういやアーグルは今日は
別の女と来てたがなぁ?お前、もうあいつに捨てられてんじゃねぇの?」
男の子を庇うように抱きかかえるラリサさんを舐めるような視線でニヤニヤと
眺める男はそのままラリサさんに近づき顎を持ち上げる。
「アーグルも馬鹿だよなぁ。こんなに美人の奥さん貰っときながら他の女に
浮気ばかりして。どうだい、俺の女にならねぇか?」
「退いてください。私はこの子の手当てがあるんです!……」
男の手を振り解くと足早にその場から立ち去る。そんなラリサさんに
「はっ!そんなだから旦那に捨てられるんだよ!」
と吐き捨てるようにいわれたが無視して男の子を水場に連れて行った。
…でも、ふとみたラリサさんの頬には涙が流れていた。
「ふんっしらけちまったなぁ!!・・・おいガキィ何見てんだよ!?」
男の睨みつける先には怯えた眼で震えながら母さんにしがみつくアリシア。
男は怯えるアリシアの腕を強引に掴んで
「テメェなまいきだなぁ!?この俺様が直々に躾けてやらぁ!!」
「痛いっ!!やめてよぉ!いたいよぉ!!お母さん助けて!!いやぁ!!」
母さんから奪い取ろうとする。
「おい!うちの子に何しやがるんでしょうか!?この屑…あなたは!!?」
アリシアを奪おうとする男に母さんが声を荒げ抵抗する。
―――――このままじゃ、まずい・・・!!
母さんがあの男に暴力を振るわれてアリシアも連れ去られて酷い目にあってしまう!
しかも周りの人たちは男の剣幕にやられて誰も声すら上げられない状態になってる。
僕が・・・僕がやるしかない・・・・っ!!
―――――――――超能力っ・・・!!
「いやぁ!助けてお母さん!おかあ・・・・・あれ?」
「おい貴様ぁ!私のアリシアに乱暴しやが・・・・・おろ?これはチャンス!!」
――――バキッ
僕が"超能力"を使った瞬間広場の全ての人は凍ったように固まって色のなくなった
景色が広がり先ほどまで泣き叫んでいたアリシアは突然止まった男にキョトンとし、
母さんは急に止まった男にこれは好機と何のためらいもなく顔面を蹴り飛ばした。
・・・・・母さん、パンツ見えてる・・・///
「母さん、アリシア!大丈夫?」
「お・・おにいちゃぁーーん!・・う・・うう・・。こわかったよぉ・・・」
「リオン!よかったあなたはあの馬鹿二人の喧嘩に巻き込まれてなかったのね」
僕の胸の中で泣きじゃくっているアリシアだけど腕をまくってみると男に掴まれて
いたところにくっきり痕が残ってる!くそ!よくもアリシアを・・・!!
喧嘩していた男に対して僕は抑えられない怒りの衝動が湧き起こった
……けど、それは一瞬にして消化されてしまった。
「それにしてもこのセピア色の明らかに"その世界"的な景色はなんなのかしら・・・?
とりあえず都合がいいから…オラァッ!!よくも私のアリシアに!乱暴したわね!!」
――――ドゴォッ―――ボグッ――――ズガッ――――
先程の蹴りに続いて男の顔面にワインのビンでフルスイングして殴る母さんのせいで
怒りの衝動から男に対する哀れみの気持ちに変わってしまった。
あれは超能力を解いた後凄いだろうなぁ…。
「ねぇお兄ちゃん、超能力使ってる間私だけじゃなくてお母さんも動けるんだけど
どういうことなんだろう・・・?」
「…家族だと超能力が効かないとかなんじゃないかなぁ?まだ超能力について
あまり調べてないし今度じっくり調べた方がいいかもしれないね。
それと、そろそろ母さん止めた方がいいよね。」
男を殴り続ける母さんをさらっと流すアリシアの将来が心配である。
「母さん、もう十分だよ。それにその人もう顔がボコボコだよ。
流石にこれ以上は可哀想だよ…」
「オラァッ!!・・・ん~そうね。それにこのままいきなり動き出したら
厄介だし・・・とりあえずみんなが止まってる内にさっさとここから離れましょう」
なんでもないようにさっきまで男を殴るのに使ってたビンをポイと投げて僕らの
手を握って広場から少し離れたところまで移動した。
「これでいつみんなが動き出しても大丈夫ね。それにしてもこの現象は
何なのかしら・・・?時間停止・・?だったら誰が・・?それに私達だけ動ける
というのも・・?そして何故この疑問に今頃になって思案してるし私・・・」
とりあえず母さんの言うとおりここなら超能力を解除しても大丈夫そうだ。
―――――超能力、解除
「あん!?誰がくzごあぁぁぁ!!?おごぉぉぉ!!?ぐあぁぁぁぁ!?」
ズドドドドドドドドドド――――――
超能力を解除した瞬間広場に何かのぶつかる音のような衝撃音が断続的に響き渡り
男の悲鳴もそれと同じく響き渡り、何秒化した後
「かはっ・・・・・・・・・・・」
という声を最後に男は一切の声も悲鳴もあげなくなった。
「・・・え?・・あれ?なにが・・・起こったの・・?」
「さ、さっきまでそいつあの親子に乱暴してたよな・・?あれ、あの親子はどこに?」
「こ・・これは天罰じゃ!主があの男に罰を与えなさったのじゃ!!」
さっきまで周囲に暴力を振るってた男が急にボコボコになる事態に場は騒然となり
しばらくは皆呆然としてたが
「さあさあ皆様!このような良き日に罰当たりなことをする悪党は天罰でこのように
なりました。善良なる我々は引き続きフェスティバルを楽しみましょう!」
という街長の掛け声と共に気絶している男は広場から蹴り出され再び喧騒に包まれた。
ちなみにもう一人の喧嘩をしてた男はボコボコになった男のあまりの惨状に
「お・・俺は・・天罰を受けるのはやだーーーー!!」と叫んで逃げ帰っていった。
「おい!そこの姉ちゃん!!ちょっと頼まれてくれねぇか?」
喧嘩騒動も無事・・?解決してほっと息をついていると急に楽器をもったおじさんが
母さんを指差して声をかけてきた。
「は?え・・?私・・?」
「そう、姉ちゃんだよ!今から少しの間だけでいいから楽器の演奏を頼みたいんだ。」
そういっておじさんは強引に楽器を投げ渡してくる。
「ちょ、ちょっと!少しってどのくらい!?」
「すまねぇ、頼んだぜ~~」
母さんの反論も流しておじさんはそのままどこかへ行っちゃった・・・。
「演奏って・・。何弾いたらいいんだよ。しかもこれギターじゃん」
おじさんが投げ渡した楽器は確か・・ギーシェ・・だっけ?この前市場で弾いている
人がいたけど『ジャンジャン』て感じの音がする楽器だったと思う。
「えーっと・・チューニング…は・・・『ジャンジャンじゃジャジャァ~ン』
・・大丈夫らしいな」
「あれ?母さんってギーシェ弾けたの?弾いたところ見たことないんだけど」
「まぁ結構昔に文化祭でダチに渡されて遊びでちょっと・・・ねっ。
よし、これで一応弾けそうだ」
『ジャッジャッジャジャァ~~~~ン』
「おお、カルロの奴上手いこと代わりの奏者見つけたか!
それじゃ広場の方まで頼むよ。」
母さんがギーシェをいじっているといきなり現れた何人かの楽器を持った
おじさん達が母さんの楽器を見て陽気に話しかけて来てそのままギーシェを持った
母さんをズルズルと広場の方まで引きずっていってしまった。
「え?ちょっ!?なんなのあなた達??」
「ガッハッハッハ!こんな綺麗な姉ちゃんが演奏したらもっと盛り上がるぞ!」
「・・・・お母さん、連れてかれちゃったね。」
「・・・・うん・・・・。・・・いやいや!アリシア、追いかけよう!」
いきなりの出来事でしばらく固まってしまったけど我に返って母さんを追いかけた。
―――――side ???
「ふん、特に見栄えせぬ平民どものみずぼらしい祭りだな。」
「そういわなくても・・。そういえばご注文の件、奴隷7匹についてはまた後ほど
お渡しさせていただきます(っち!こちらが地位が低いからってこの豚め・・・。
ふん、まあ賄賂の奴隷は既にこの俺様がいただいた後だがな)」
「ほぉ、それは楽しみだな。・・・ん、演奏が再開するのか。
まったく奏者がこう暑苦しい男ばかりというのも・・・っ!?あれはなんだ!?」
「はて・・?あれとは・・・。ああ、あの銀髪の女のことですか。
あまりこの街でも見ない顔ですね・・・?(なんだありゃ!すげえ美人じゃねえか!
あんな女がいるなんて聞いてねぇぞ俺ぁ!)」
「アーグル!余はあの銀髪の女が欲しい。直ぐに余に献上せよ!!」
「いや・・しかし奴隷にするには誘拐して躾をしてからでないと・・(くそ!
誰がテメェなんかにやるかよ!!俺が思うが侭にむしゃぶりつくして遊びつくしてから
テメェに躾と称して売ってやらぁ)」
「今すぐだ!まさか余の命令が聞けぬとでも?アーグル?」
「は、ははぁ!仰せのままに!(この豚!こんな大勢の前でそんな事出来るか!)」
――――――side リオン
「曲は姉ちゃんの好きな感じで弾いていいよ。こっちは合わせるから」
「はぁ、そうですか・・・。じゃぁ適当に会わせてきて下さい。」
『ジャジャッジャジャッジャジャ~~~~ン!!ジャジャジャ』
母さんが広場のステージに上がって演奏を始めた。初めて演奏するところを
見たけどなかなかいい音楽を弾けている。
音楽にあわせて広場の人たちもみんな踊り始めた。
『ジャ~~ジャジャンッジャ~ジャッジャジャッジャンジャジャンジャァ~~~~~ン』
穏かで軽快なリズムの曲調。そういえば毎朝母さんはこんな感じの鼻歌を歌ってたなぁ。
「お兄ちゃん・・・あのさ・・」
「なにアリシア?母さんの曲のこと?とっても明るくていい感じの曲だと思うんだけど」
なにやらアリシアが微妙な顔をしているのだけどなんだだろう?
別に母さんの曲は変じゃないしさっきの喧嘩みたいなのが起きてる訳でも・・・
「これが朝と同じ曲なら・・・その・・もう少しするとあのやたらハイテンションな
音楽になるんじゃ・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」
『ジャ~~ン、ジャジャジャァ~~~ン・・・・
ジャジャジャジャジャジャッジャァァァッァァァッァァーーーーン!!!』
「イッェーーーーーーーイ!!!レッツゴォーーーーーー!!
レッシャンデリンレッショォオオオオオオオオオオオオオ!!!レツゴ!!!
ジェニィイイイイバァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!
リオッツレインブレイドブレイン!!
ブレイバァァァァァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーー!!!
・・・・・
・・・・・
・・・・・
イェーーーーーイ!!ジャストタイムレディゴぉぉぉりょ?・・・・・あれ?」
演奏を終え我に返ったソフィアの前には広場にいる全ての人が泡を吹いて気絶している
光景が広がっていた。
更新は不定期です。すいません・・・。
そしてなかなか感想の返信が出来なくて申しわけありません・・・!!




