プロローグ
とある世界に白の国と呼ばれる国があった。その国のとある孤児院に一人の少女が居た。
月の光を連想させるような銀の髪。どこかの姫といっても過言では無いほど美しく可愛らしい顔つき。そして常に誰かを思いやり皆を優しく照らす月のような性格。
そんな容姿と性格が相成って彼女は孤児院の職員や孤児からとても愛されて育った。そして彼女が物心ついた頃、彼女は日々自分に優しくしてくれる孤児院の皆に少しでも恩返ししたいと思い畑作業の手伝いや家事を進んで行い齢10を超えたころには手伝いの合間に町へ出て働くまでになっていた。
そんなある日、孤児院に従者を引き連れた豪華な装飾の服の男の子が現れ少女を指差し
「あの女の子を貰うぞ」
とだけ告げ少女を自分の屋敷に連れて行こうとした。当然孤児院の院長や職員、果ては孤児の仲間まで男の子を止めようとしたが男の子は頑として聞かず交渉に交渉の末、少女は男の子に引き取られる事になった。
「寂しくなったらいつでも返っておいで。返ってこれるように交渉したから・・・っ・・」
「ソフィアお姉ちゃん・・行かないでーー!!」
「くそう・・あの貴族のガキ・・・・ソフィアを・・っソフィアを・・!!」
と皆少女の別れを惜しみながら少女は男の子の家に雇われる事となった。
それから4年。少女の評判は男の子の屋敷どころかその周囲の町ですら良いものだった。月の光のように優しい性格と毎日怠けもせず一生懸命に働き、掃除 洗濯 料理 裁縫 書類の整理 お遣い 家事 どれをとっても一級品といえるような仕事捌き。
屋敷の使用人やメイドからも優しく大切にされ評判も最高だった。さらには自分を雇った男の子の両親、この白の国で公爵という大変高い地位の貴族からもとても好かれて
『ソフィア、お前がエンディミオンの嫁となってくれたら我がアンドラダイト家も安泰だ』
と自分の息子の嫁に是非と勧める程だった。
そんな毎日を過ごしていたがある日自分をこの屋敷に連れてきた張本人のエンディミオンが「す、好きです!ぼ、僕と付き合ってください!!」と告白してきた。
エンディミオンは大貴族の息子という普通であれば傲慢で自分のような少女を犯すだけ犯して野に捨てるような最低人間の道を辿る傾向が強い地位に就いているわけだが、彼にいたってはそんな事も無く真面目で誠実。
使用人に対しても気遣いを出来るできた人間だった。それにその顔はスラリとしたシャープな黄金の目と凛々しい顔、太陽の光をさらに暖かに反射するような金の髪という性格、容姿のどちらも揃った美少年だった。
そんな美少年の愛の告白であれば殆どの女性はyesを出す筈だが少女、ソフィアは断った。
「私のような孤児院出のみすぼらしい平民がエンディミオン様のような高貴なお方と釣り合う筈がありません。」
と悲しそうな顔で返した。その答えにエンディミオンは激怒し
「僕を身分などという下らない物に執着するような奴らと一緒にするな!!」
「・・・では私を一晩の慰みものとするおつもりなのですか?それならその命には逆らえません・・。」
「な・・・なん・・だと・・・!」
エンディミオンの顔は目に見えて怒りを表していた。
「慰み者じゃない!!初めて街の服屋で君を見た時から君を愛するこの気持ちは変わってない!!いや、日々強くなっている!君には僕の妻として一生を共にして欲しいんだ!!」
エンディミオンの熱い告白にソフィアも最初は自分のような低身分者が伴侶として務まる訳がないと断り続けていたがそれでもなおしつこく告白するエンディミオンに心打たれて最初の告白から半年が過ぎた頃、
「本当に私のような・・貴族でもない女で本当によろしいのですね?」
と念を押し二人は晴れて付き合うこととなった。
恋人になる了承を貰ったエンディミオンはあまりの嬉しさにその日自分の屋敷で大規模なパーティーを開催すると言い張りソフィアを困らせるほどだった。
もともとソフィアも初めて会った頃からエンディミオンに一目惚れし、初めて告白された時は泣いて喜ぶ程だったが自分とエンディミオンの身分からか身を引こうとしていたがそれでもエンディミオンは諦めず自分だけを見ていてくれた。
この人とだったら過酷な道でも歩んで行けるかもしれない。
そしてその初夜、二人は愛し合い月明かりが灯す二人の影はやがて一つとなった。
それからさらに半年が過ぎ、ソフィアとエンディミオンは甘い蜜月を過ごしていたある日、ふと体調の異変に気づき屋敷のかかり付け医に検査をしてもらうとなんとソフィアがエンディミオンの子供を身篭っていることが発覚した。
その事を知ったエンディミオンの両親は「孫だ!孫が出来た!!」と盛大に喜んでいたが肝心のエンディミオンは丁度王宮に呼び出されて居なかった。
そんな幸せに包まれていた時、一つの厄災が彼女を襲った。
「私はエンディミオン様と婚約を交わしたゴルトー伯爵が娘ローズですわ。今日は我が夫エンディミオンのご両親のアンドラダイト公爵に挨拶に伺いましたわ」
とエンディミオンの婚約者を声高に叫ぶやたらけばったい化粧の女が屋敷へ押しかけてきた。
ローズ嬢の言葉にアンドラダイト公爵が
「そんなはずは無い。あいつの婚約者はこのソフィアだ。それにソフィアは既にあいつの子を宿している。すまないが早々にお帰り願おう」
と告げるとローズ嬢は恐ろしい形相でソフィアを睨みつけ
「なん・・ですって?そこの汚い雌豚がエンディミオン様の・・?ふふ・・・ふふふふ。公爵、私はエンディミオン様から公爵家縁のこのペンダントを頂きましたわ。これでも私が婚約者でないと仰りますか?」
ローズ嬢は公爵に見せ付けるようにアンドラダイト家の家紋入りのペンダントを取り出した。
「そもそもそんな低身分の豚がエンディミオン様の妻になどなれるはずがありませんわ。ああ、そういえばエンディミオン様から手紙を預かっていますわ」
そしてその手紙を投げつけるようにソフィアに差し出し、急いで封を開けるとそこには一言"さようならソフィア。やはり君では妻は務まらない”とだけ書かれておりそこにはエンディミオンの魔法印まで押してあった。
それを見た瞬間ソフィアは崩れ落ちた。
やはり自分ではエンディミオンとは釣り合わなかった・・・。
彼の両親は必死で「こんなのは何かの間違いだ!あの馬鹿息子め早く帰って来い!!ソフィア、君はもう立派なアンドラダイト家の一員だ!何も心配は要らない!」と励ましてくれたが別れの手紙には公正の証明のための魔法印まで押してあったのだ。
やはりエンディミオンにとって自分は一時期の慰みものにすぎなかった。あの愛も、優しさも、告白でさえ紛い物だったのだ。そう思うと目から涙が溢れ止まらなかった・・・。
その夜、一人で部屋のベットで泣いた。エンディミオンの顔を思い出すだけで、あの太陽のように優しい顔も自分に告白を断った時のあの怒った顔も、告白を承諾して付き合いだした頃の恥ずかしそうな、嬉しそうな顔も・・・結局は紛い物だったんだ。
・・・いや、そもそも自分のような下賎な平民がエンディミオン様のような高貴なお方と結ばれるなど夢物語の戯言だったんだ。
ふと、自分のお腹を見た。このお腹には彼の赤ちゃんがいる。彼に捨てられ、孕まされた自分には複雑な思いだったが・・・このお腹の子は産みたい、と思った。縋る様で情けないがそれでも彼との愛した日々は嘘じゃない、という自分がこの子を産みたいと叫んでいた。
たとえ紛い物だったとしても・・・。
と、泣きながら思い耽っていると扉から轟音が響いた。そして扉が粉々に吹き飛び何人かの男が侵入してきた。その男達の中に――
「あらぁ~エンディミオン様に遊びとはいえ可愛がられてた豚の部屋はどんなものかと思ったけどやはり豚らしく貧相ですわね」
エンディミオンの婚約者ローズ嬢が居た。
しかもどういう訳か屋敷の使用人の姿もちらほら見て取れた。
「さて、そういえばあなたのお腹にエンディミオンの子がいる、との事ですけど私とエンディミオン様がこれから夫婦になるのに邪魔ですわね~。そんなわけで貴方には死んでもらいますわ。これは公爵にも了解をとっていますわよ」
ああ、やっぱり公爵も結局はこの女を推して自分を裏切るのか・・・。
当然だ。相手はエンディミオンと釣りあいの取れた身分。孤児出の自分なんかが比べるのもおこがましい。それよりこの女はなんと言った?このお腹の子を殺す?私に・・私が最後に唯一持っている希望であるこの子を・・・?
「こ・・この子は!絶対に渡さない!!殺させない!!」
気が付いた時にはソフィアは窓を突き破り屋敷の庭に飛び出し街のほうへ全力で逃げた・・・。
それから10ヶ月が過ぎたある日、ソフィアは逃亡生活を続けていた。一月は街の裏通りの小さなアパートで暮らし、二月は公爵領を遠く離れた港町で密かに過ごし・・・。そうして4ヶ月が過ぎた頃にはお腹が出てくるようになってきた。
屋敷の使用人たちまで敵に回ったという事は公爵が全力で自分を殺しにかかろうと必死で捜索しているのだろう。
故に屋敷に戻るのは自殺行為。自分が育ったあの孤児院もおそらく公爵やローズの魔の手が伸びている。その証拠に町中には自分の手配書が出回っていた。
一刻も早く公爵やローズの手が届かない外国へ逃げなければ・・・!!
ソフィアは何とか外国へ出るべく"風の国"行きの馬車に何とか乗ることが出来た。
そしてその日
「ソフィア・リーシェライトの乗った馬車と見える。我が主ローズ様の命に従い中のもの共々死んでもらう!」
馬車は火に包まれた。
「ソフィアちゃん!ここは俺達が食い止める!君は逃げるんだ!!」
「こんなにいい娘のソフィアを殺そうとするなんて!外道どもめ!!」
馬車の中火や暴漢からソフィアを庇おうと他の乗客が壁となってローズの従者に向かってゆく。
だが皆無慈悲にも斬られ、突き刺され、焼かれ
死んでゆく・・・・・。
「・・・ふう。これだけ焼いたんだ。もうソフィアとかいう小娘は死んだだろう。」
「そうだな。そろそろ撤収するか」
煙を吸い、段々と闇に染まる視界。その中で私はうずくまることしか出来ない・・。
だが、祈った。
私はどうなっても構いません・・。だから・・・どうか・・お腹のこの子だけは・・・・っ!!
最後の願いと共に視界が完全に闇に染まり、私は意識を失った。
そして ソフィア・リーシェライト は齢16という若さでお腹の子の無事を願いながらこの世を去った
・・・・・・・・・・・・・はずだった。
「・・・は?なにここ!?なんで俺こんな所にいるの!?」
プロローグについては色々と裏があります。
後ほどそれについても書く予定です~
追伸:正直挿絵・・というか表紙絵ここに貼ってよかったのか!?