密入国は犯罪ですか?
トリップ発覚
さてさて、初対面なのでここは苗字呼びをしたほうがいいのでしょうか?
ですがロベルトさん!
あなたの名字はとってもシュワシュワとしたものを思い出し、笑ってしまいそうなのです。
「あの……ロベルトさんとお呼びしてもいいですか? 私のことはまりあとお呼びください」
はい。
私のも呼んでいいから名前を呼ばせろ作戦!
どうだ、これなら断りにくかろう!
「……。名前がマリアなのか?」
おっと、ジャパニーズな呼び方には慣れていらっしゃらないようです。
こんなに流暢な日本語を話されているのに知らないのでしょうか?
「ええ、日本はファミリーネームが前、ファーストネームが後になっています。すみません、あまりに日本語がお上手でしたので、ご存知かと思ってしまって……」
「日本語? 何を言っている。お前は中央大陸語を話しているように聞こえるが?」
「へ? 日本をご存じないのですか? あの……ちなみにここは何処でしょう?」
草原に着いた時から普通の事態ではないと思っていましたが、それでもここは地球の何処かと思っていました。
ですが先進国日本をしらない人なんてあまりいないし、中央大陸語なんて言語聞いたことない。
いや、私が知らないだけの可能性が高いですよね。
中央大陸……中央ヨーロッパなら知っているんですが、それですか?
「……ここは中央大陸南側、ターミリア国フィンダー領だ。近くにエクスの街があるが、日本など知らん」
何処ですかそれは!
ここは知らない世界ですか!?
ああ知らない世界に来るなんて、ドラ〇もんの映画のようですね。
でも私はタイムマシーンの故障も、未来の道具も持ち合わせていませんが……なぜ?
情報!情報をください!
「あの、日本は小さい島国でして、工業と水産業と農業が盛んな国です。本当にご存じないですか? 私はそこの出身んでして、昨日働きに出かけているといつの間にかこの草原にいたんです。え、私はなぜこのようなことになっているのでしょうか……? 国外に出たことないから知らないだけで、これが世間一般の常識なのでしょうか? では私は今外国にいるのでしょうか!? すみません、パスポートを持ってません! あぁ密入国になってしまう! でもこれは不可抗力なんです、私の意思ではないのです! どうしましょう!? ねぇ、どうしたらいいと思いますか!?」
パニックです。
情報をもらうつもりが、自分の無駄な情報を話してどうする私!
とりあえず自分ではなにもわからないので、ロベルトさんに頼りましょう!
助けて、ロベルトさ~~ん!
「……落ち着け」
「はい」
チーン……
パニックの末のマシンガントークを一言で片づけられました。
「……とにかく、ここは獣が出て子供には危ない。街へ向かう、着いてこい」
「はい! 絶対に離れません!」
「……」
それからは昨日と比べて快適な旅でした。
彼は食料も分けてくれましたし、夜寝る前は一つしかない毛布も私に譲ってくれました。
たまに危険な場所や、私が疲れていると、子供抱きをして運ばれてしまいますが……
でもたいへん紳士的で、私の中のロベルトさん株はうなぎ上りです。
口下手なようで、あまり話してはくれませんが、質問をすると短いながら答えてくれます。
何より一人じゃないのが救いでした。
エクスの街まで二日かかったのですが、その間、たくさんロベルトさんに質問しました。
子供の知りたがりってことで納得してくれたのか、いろいろ教えてもらいましたよ。
1.ここはミラという世界らしい(地球みたいなもの)
2.彼は王都で騎士をしているそうです(現在里帰りを終え、王都に帰る途中らしい)
3.大陸の数、通貨の数え方
4.街の外は凶暴な獣が生息しているので危険
他にもいろいろありますが、主立って注目した四つがこれです。
ロベルトさんと話していると、やっぱり自分は違う世界に来ているよう。
だってあんな危ない獣、地球でそこらにいませんもん!
ところどころ地球に似ているのに、何処かやっぱり違うのです。
そして魔法が存在していることが一番の違いでしょう!
焚火のとき普通に火種をとして出していたのには驚きました……
この自分の状況をロベルトさんにお伝えしたいのですが、
「私、実は違う世界の人間なんです」
などと言ったら、さすがのロベルトさんも不気味がるでしょう。
そんな痛い子、私なら即刻通報レベルです!
なので濁しながらロベルトさんには自分の状況を伝えておきました!
するとなんだかいい具合に勘違いをしてくれました。
ロベルトさんの中で私は、あまり知られていない小さな島国で生活していた裕福で働いたことのない幼い少女が突然働かなくてはならない状況に陥り、やっとの思いで見つけた働き口に向かう途中、何者かの魔法の誤発に巻き込まれ、この草原に転移され迷っていた。
っということになりました!
確かに最初に日本が小さな島国って言いました。
家は裕福ではありませんが普通の家庭でしたので自分で働いたことはありません。
卒業したので、働かなくてはならない状況には陥りましたよ。
就職難ですし、これには苦労しました。
魔法かなにかは知りませんが、いきなり草原でしたので迷っていました。
ロベルトさん!
おしいような、違うような、微妙にかみ合っているので何とも言えません!
でも私の都合にいいのでそのまま勘違いしていてください。
***************
てこてこと彼の斜め後ろからついていく。
暇なので、また質問をしましょう。
「ロベルトさん、ロベルトさん? あなたは今何歳なのですか?」
「26になる。お前は?」
ぎくっ!
子供のふりをしているので、うかつな歳は言えません……
「女性に歳を聞くのは無礼ですよ。……何歳ぐらいに見えます?」
「そうか、すまん……。見た目に反して言動がしっかりしている。12歳にみえるが……15歳ぐらいか?」
思っていたより下に見られていたのでショックです!
12って……、12ってまだ小学生ではありませんか!
いえ、ロベルトさんを怒ってもしかたありません。
この世界では、身長も相まって私が幼く見えすぎるのでしょう……
くぅ!
これは屈辱ですが、話を合わせないわけにはいきません!
「せ、正解で~す! 私の国は人種的に皆幼く見えてしまうのですが、さすがロベルトさんです」
そうか、とほっとしたような顔をされていますが、不正解ですよ!
しかし世間体には12~15歳に見えているのか。
家に帰れるまで暫くは、このロベルトさん設定でいきましょう。
子供のほうが、周りも助けてくれますもんね!
騙しているのは心苦しいですが、ごめんなさい、生きるためです!
「見えたぞ、あれがエクスの街だ」
ようやく草とはお別れです!
こんにちは、文明!