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ロベルトside8




マリアが行方不明になってから一夜明け、次の日ぐらいは休んでほしかったのだが、マリアは塾に行くことを譲らなかった。

どうやら別れたままの塾の仲間が気になるらしい。

その気持ちもわかるので、本来なら無理やりにでも休ませるところだが、塾へ行くことを渋々ながら許した。






****************






塾へと向かう道。

いつもよりゆっくりと歩いた。

できる限りマリアに負担にならないようにとの配慮だ。


歩きながら思うのは昨日考えていたこと。

今までより更に踏み込んだ関係……いや、決してやましいことを考えていたのではない。

そう、もっと気軽に話し合える仲になりたいだけなのだ!



……私はいったい誰に対して言い訳をしているのだ?



まぁいい。

とにかく仲良くなるにはどうすればよいか、だ。

話を聞きたくとも、安心して話せる相手だと、より認識してもらう必要がある。


そこで思いついたのが、外での食事だ。

今まで二人で街へ出たのは、塾の送り迎えと買い物ぐらいしかない。


今までも決して仲が悪かったわけではないが、より仲良くなるためにはそれなりに外へと遊びに出た方がいいだろう。


いや、それより何故今まで連れ出してやらなかったのか。

来たばかりの街で、知らないことも多いし不安もあっただろう……

せめて私が気を使ってやれていたらと、今さらながらに後悔する。


……済んでしまったことを言ってもしかたない。

これから気を付けてやればいい。


などと考えていると、横からマリアの声がした。

いかん、声をかけられたのに気付かなかったのか。


「どうかしたか、マリア?」


「い、いえ何でもありません」


何やら言いよどんでしまっている。


しまった、さっそく気を遣わせてしまった……

くそ、どうして私はこうなのだ!


こんな調子でどうする、ロベルト!

このままではずっと一回り近く年下に気を使われていくぞ!


よし……私も男だ。

今こそマリアを食事に誘う……!


いつも家事をしてくれているのだ。

たまには外に出て楽をさせてやらないでどうする。

多少値が張ろうと美味しいものを食べさせて、マリアを喜ばせてやるのも年上の男の勤めだ。


塾へ着く前に言うぞ……

そう、塾へ着くまでに言うんだ……!











だが、なかなか口は思うように動いてはくれず、塾間近くまで何も言えずじまいだった。


くそ……今言わずにどうする!

もう時間もない。

塾へ着く前に言うと自分で決めたのだ。

その誓いを破っては、騎士の名折れ。




すぅぅー、はぁぁー……




よし、い、言うぞ!





「ところで……その……きょ、今日…」


ぐっ……少し詰まってしまった……!

もっと、こう、格好良く言うんだ!


「え? はい、今日がどうなさいました?」


「しょく、しょく、しょくしょく……!」



あぁぁぁぁぁぁ!!

駄目だ! 余計に舌が絡まって……!


しょくしょくとは何だ!

私は何が言いたかったのだ…!

いや、食事と言いたかったのだが!


頭の中が凄まじいほど混乱している。

だが、意地で顔には出さないようにできた。

……それだけは救いだ。


「あ、あの……? ショクショク、とは?」


「………」(遠い目)


「ロベルトさん?」


っふ。


しょくしょく? 何だろうな、それは。

私にも分からない……


あまりのことに、つい口が勝手に言葉を紡ぎだしてしまった。

私なりに誤魔化そうとしたのだろうが……馬鹿なことをした。


だが、一度口に出してしまったからには何とかこの場をしのがなくては!




「…………ショクショクとは、南大陸付近にある無人島に生息する貴重な鳥だ」




とっさに出てきたのは、そんなお粗末な説明だった。

自分でも驚きである。


嘘をつくにしても、もう少しましなものがあるだろうに、何故こんなことを言った、自分!

これではあからさまに誤魔化したのがわかるではないか!


いくらマリアがこちらのことを何も知らないと言っても、さすがにこの嘘には……!


「へ、へぇ~…。貴重な鳥なら、見てみたいです、ね~…」




……っ!!?




だ、騙されてしまった、だと!?

何故だ! これは明らかに苦しい嘘だとわかるだろう!?


そこまで、私を信頼してくれているというのか?

私が嘘を教えるわけがないと……絶対の信頼を持って接してくれていると。


そのような娘に、私は嘘を教えてしまったのか。

なんて……なんて罪深いことだ!!


このような純真な心を持ち、信頼を寄せてくれているマリアに対してなんてことをしてしまったのだ!


これ以上、マリアに嘘を言ってはならない……!

彼女の信頼に答えなければならないが、一体どうすれば!



「いや……見ることは叶わないだろう」



その生物は、今しがた私が想像上で作り上げた生物だ。

存在しない生き物なのだ。


と、本当はその真実を打ち明けるべきなのだろうが、その勇気が私にはない。


私は嘘を貫くことにした。

……マリアからの信頼をなくしたくない一心だった。


「では行くぞ」


少しでもこの話を終わらせたく、私は塾へと急いだ。


「えぇ!? ま、待ってくださいー!」


すまない、マリア。


どうかこのことは無かったことにしてくれ!







************************







詰所に着いたのち、仕事をしながら考えるのはマリアの事だった。


「はぁ……」


結局は誘えなかったとは。

騎士としても男としても情けない……


たかだか食事に誘う程度、簡単なことではないか?

何故それができない。


「はぁぁぁ……」


「おい」


作戦を一から考え直さなければならない。

もっと自然に誘うにはどうすべきかから考えよう。


「はぁぁぁぁぁぁ……」


まったく、悩ましいことだ。






「……いい加減にせんか!!」






「は、はい!」


しまった!

今は勤務中で、ここは団長の執務室だった!


「ため息ばかりで鬱陶しい! 朝からずっとだが、いったいどうした?」


「も、申し訳ありません」


そう聞かれても、マリアを誘えなくて悩んでいました、などと言ったらどんな制裁が待ち構えているかと考えると言えるわけがない。


それにそもそもは、こんなに悩んでいるのは団長たちのせいではないか。

少しばかりのため息は見逃してほしいものだ。


恨みがましい目をしていたのが分かったのか、団長は呆れた顔をしながら促してくる。


「それで、何をそんなに悩んでいる。言え」


私的なことなので聞かないでいただきたい。


だが、これは言うまで解放していただけないだろう……

あの目が物語っている。

よほど私のため息が鬱陶しかったのだろうか?

仕方ない。大人しく白状し……いや、待て。


団長とて女性の分類。

私などより、マリアの心情がわかるのでは。

ここは素直に相談して、助言を頂いた方が今後のためにもなるのではないか?


そうだそれがいい!

どうして思い浮かばなかった。

女性の事は女性に聞くのが一番だ!


そうと思えば多少の恥はかき捨てる。

存分に話を聞いていただこう。


「実は……マリアの事で少々悩んでいまして……」


「ほぅ、マリア嬢のことか? なんだ、さっそく何かあったか? ……よもや不埒な真似だけはしていないだろうな?」


「と、とんでもない!」


一瞬にして部屋の空気が下がった。


これには慌てて否定をした。

またあの訓練という名の地獄を見たくない。


それに私がマリアに何かできるはずがない。

これでも理性ある騎士道精神を持ち合わせているつもりだ。

多少揺らぐが、許容範囲内だ……と思う。


そもそも団長が上司であるのに、女性に何かする勇気はない。

その日のうちに再起不能にされてしまう!


考えただけで寒気がした。

若干内股になった……


「いえ、団長たちが言うように親密にはなろうと考えたのですが、何からしていいのかが問題でして。とりあえず、外食に誘おうと思ったのですが……」


「ふむ、良いのではないか? 外で食べると気分も上がる。良いと思うが、何をそんなに悩む必要がある」


「その、上手く誘うことができないのと、どこの店がいいのかが分からないんです……」


そう、店も重要だ。

あまり高級そうな店に連れて行くのも、こちらの事をあまり知らないマリアには可哀そうであるし、かといって安い大衆食堂でも雰囲気がでない。


私はあの年頃の娘に喜ばれる店など知らない。

ルーペに聞いておくのだった。


「誘うぐらいで何をびくびくすることがある? 今日食事に出ないか、でいいではないか」


「それがなかなか言えないんです……」


言えていたら、この様な情けないことを間違っても団長に相談などしない。


「お前は意外に気が小さい奴だな。……女性の誘い方など私は知らんので助言はできないが、店の方なら紹介しよう」


「ほ、本当ですか? ありがとうございます」


「何、今のお前に女性が喜ぶ店をも探せという方が酷だろう。私も気に入っている店がある。それを何店か言うから覚えておけ」


「はい!」











団長から何店か教えていただいた。

後はマリアを誘うだけとなった。


「お前がその調子ならいつになるかわからんな。まぁ、あまり焦り過ぎるのもよくない。昨日今日の話なのだから気軽にやるように」


「……わかっております」


別に焦っていたわけではない。

できることから始めようと思ったのだが、それが中々私にとって難しかっただけだ。


だが、後は私の勇気しだい。

さすがに近日中には誘えるだろう。


そしてお互い気兼ねせず話し合えるようになれば、自然とマリアから故郷の話もしてもらえるはずだ。

魔法具との関連はその時考えよう。


「さて、午後から私はおらぬからな」


お出かけになるのか、聞いていないが……


「どちらに?」


「上の方への報告だ。昨日の事もあるので情報交換といったところか」


「そうですか。我々は通常勤務でよろしいのですか」


「ああ、かまわん。私も終われば詰所に寄らずそのまま帰宅するつもりだ。何かあれば自宅へと使いをよこせ」


「了解」


なるほど。

団長は昼からは居られないのだな。

ルーペに引き継ぎの時に伝えるのを忘れないようにしておかなければ。


……それにしても、やはり女性の事は女性に聞くのが一番だとわかった。

誘った後に店を決めるのでは、きっとバタバタしてしまっただろう。

自分で調べるのは性格的にも時間的にも無理であったし、このようなことが聞ける親しい女性もいない。


本当に、団長には助かった。

今度、菓子でも包んで持っていこう。


よし、やる気が出てきた!

今日も一日を頑張ろう。

そして、できれば早めにマリアを誘えるようにしたい。




……誘う練習でもすべきか?






***********************






タンッタタタタンッタッタ~ダーダン♪




「イエスッ!」




……うむ。

今現在、私ことロベルト・サイダーは踊りに勤しんでいる。


我ながら素晴らしい足さばきだと自負している。

これも一貴族として、社交界の踊りを幼き頃より練習していた結果だ。

まだまだ腕は……いや、足は衰えていなかった。


まぁそんなことはいい。

何故私が執務の間にこの様に踊りをしているかというと、決してさぼっていたわけではない。

やるべきことは済ませているし、今は休憩時間だ。


……私は誰に何を言い訳しているのだろうか。

自分が虚(むな)しい。





そもそもは、今朝のような失態を犯さない為に練習でもと思ったのが始まりだ。

何かいい方法がないかと、本を借りてきて参考にしたが、間違いだったのだろうか?


心底恥ずかしい。

誰にも見られたくない。


……いや、駄目だ!

この程度で挫けてなるものか!


これが女性にとっては喜ばれる誘い方なのだ(きっと)

私が恥ずかしいからと言って止めるわけにはいかない。

多少の恥はかき捨て、未来のために私は精進を惜しまないのだ。


それにしても、この本。

手本として持ってきたが、妙な踊りから掛け声まで出てきて、私がその通りやると気持ち悪くなるのだが。

世の男はこれで上手くいくものなのか? まったくもって謎だ。


誘うのがまた遠のいた気がする。


まぁ本の良し悪しは今は置いておこう。

とりあえず、本に書いてある通りしてみてから改めて考えるべきだ。


では続きからだ。

最後は右手を高く上げ、決め姿勢と掛け声で終わりだ!





ダーダダーダンッダッダダン!

ダバダーーバーダ、ダバダーーダバダー♪







「エクセレントッ!!」



「ぶほっ!!」







漏れたような笑い声が聞こえ、慌てて後ろを振り向く。

書類をぐしゃぐしゃにしながらも笑いを耐えようとしているルーペがそこに居た。

様子から察するに、私の行動はほとんど見られていたようだ。





「………」


「………」




しばし無言の時間が流れた。



私は佇まいを直す。

そして顔を背けながら窓際まで行き、空気の入れ替えをするかの様に窓を開ける。


よし、足をかけてそのまま外へと旅立とう……


「って、待て待て待て!! 何しようとしてるんだ!!」


「止めてくれるな……」


「おぉーい! 早まるな! 傷は浅……くはないが、大丈夫だ!! 気をしっかり持てー!」


だがルーペに見られた。しかも……


「笑っていた……」


「うん、そうだね! ごめんね! 俺が悪かったから! お願い、早まらないでー!」


「もはやこれまで……無念」


「お前は何処の武将だー!」




ワァーーワァーー……!!




今にも飛び立ちそうな私と、それを必死に止めるルーペの構図は約三十分続いた。








******************








「落ち着いたか?」


「……あぁ」


今だ羞恥でどうにかなりそうだが、部下に見られるのではなく、ルーペだったのは唯一の救いだ。


……まだ何とか生きていられる。


「まったく。あんなの見せられて目の前で死なれた日には、俺はどうしたらいいの。笑えばいいのか泣けばいいのか悩むじゃないか!」


いや、悩むのはおかしい。

私が死ぬようなことがあれば、迷わず泣くべきだろう。


そう思ったが、今は逆らわず誤っておこう。


「面目ない」


「それで、さっきのあれ何? 一世一代のギャグ? 誰か笑わせるの?」


「いや、違う」


「じゃあもっと何なわけ? 歌って踊れる騎士でも目指してるのか? ……俺、応援するよ?」


若干生暖かい目でルーペが応援してくる。

だが肩が小刻みに震えている。


こいつ……とことんからかう気でいる。

先ほどの弱みを握られたので、言い返せない。


ふっ、ならば仕方がない。

本当のことを話して、協力させよう。

そうだ、それが良い。


「……これを見ろ」


私は無言である本を差し出した。

先程の行動の元凶とも言える物だ。


「あん? 何だこの本? えー、【あなたに夢中!~ダンスが私を待っている~】……………これ何?」


何を言っている。

見てわからないのか?


「本だ」


「いや、そりゃ分かる! そうじゃなく、何でこんな本お前が持ってんの?」


「……マリアを食事に誘おうと思っているのだが、その参考にしていた」


来《きた》る日のマリアとのお出かけのために、私は計画を怠らない。


「この本で!? お、おバカーー!!」


本と私を交互に見た後、ルーペは信じられないといった風貌で叫ぶ。

そのルーペの嘆きがあまりにも凄まじいため、さすがの私も狼狽えてしまう。


「な、何故だ?」


「俺はそれがわからないお前に絶望した! 何なのこれ! 中身を見なくても題だけで俺は完敗した! 完膚なきまでにやられたよ! 主に笑い的な意味で!」


「おい、あまり興奮するな。落ち着け」


また血圧が上がるぞ。

お前、この間の健康診断で引っかかっていただろう?

……医者が頻(しき)りに心配していたのが印象深かった。


「落ち着けるか! お前は根が素直だし何でも試みる努力家だとは知っていたがここまでとは……! いや、というか、さっきのお前の行動の中に誘い文句なんかなかったぞ!? 面白おかしく踊ってただけだけど!」


「この本の中には誘う前に踊って相手の興味を引くと書いてある」


「うん、興味はもの凄く引くだろうよ! だがそれは変態への興味であって、決して好意的なものではない!」



ガァーーン!!


なん、だと……!



「な、ならば私がしていたことは……」


「無駄だ。いや、むしろ無駄になってほしい!」


私は、無駄に踊り狂っていたというのか!?


「はぁ。にしても踊って相手の興味を引くって、動物の求愛行動かよ。……この登場人物笑えるな。ってか、何でよりにもよってこの本にしたんだ?」


煩い。

私とて、最初はこの本を借りるつもりなどなかった。

だが、ある理由ができてしまったのだ。


「……参考になりそうな資料を休憩時間に図書館へと見に行った時だ」


そう、あれがすべての始まりだった……


「お、おぅ…?」


「いくらマリアが精神的に大人びていようと、今だ15歳だ。きっと恋愛には夢を見ているに違いないと思った」


私の周りにマリアのような女性はいない。

そのため、対応の仕方が全く分からなかった。


そこで考えた。

ならば同じ年ごろの子が見ているような書物を参考にすれば、おのずとマリアが求める理想像もわかるのではないかと。


「普段なら恥ずかしいが、あの時間ならミン殿も私塾の方に居るはず。そのうちに図書館へと行って手ごろなものを借りようとした」


「実に涙ぐましいな」


ルーペが目元を拭(ぬぐ)う真似をする。

実に腹立たしいが今は構っていられないので、そのまま話を続けた。


「十代前半の娘が見そうな書物を探したのだが、あまりにも数が膨大で、どれにしたらいいのかがわからなかった」


「その図体で乙女趣味の本棚を漁ってたのか? お、お前は勇者か……」


放っておいてくれ。

それに私は騎士であって勇者ではない。


「途方に暮れていると、桃色の髪をした少女が図書館へとやってきたのだ。年恰好はマリアと近い子だったので、何気なしに見ていた。するとその少女は、眠たそうにしながらも本の返却をしたのだ」



分かっていただけるだろうか?



「ま、まさか……」


「そう、借りる本に困った私は、彼女が返却した本をそのまま借りたのだ。そして結果があれだ」


「……わからない。今の年ごろ子の気持ちがわからない!」


「まったくもって同感だ。私も迷っていたこともあり、題を確認せずそのまま借り受けてしまった。だが借りてしまったものはしかたあるまい。私はこの本を参考にして勝負に挑む……!」


「ロ、ロベルトー!!」


私の覚悟を知って、ルーペが感涙している。


見て居ろ、ルーペ。

私はきっとこの試練を乗り切って見せる!


「ぐすっ、お前にそこまでの覚悟と勇気があるのなら、俺、応援するよ! きっと、多分、絶対、無駄な努力になると思うけど、応援する!」


「あぁ、見ていろルーペ。私はきっと成し遂げる」


高らかに宣言をし、今後の目標を提示する。

どのようなことが起ころうと、私は挫けるわけにはいかないのだ!


「いよ、ロベルト! カッコいい!」


ふっ、そんなに誉めるな、照れてしまう。













「あれぇ? 副団長?」


私たちが二人で盛り上がっていると、廊下の方から声がした。

どうやらルーペが入ってきた後、扉を開けっ放しにしていたようだ。


扉の先の廊下から新人騎士がこちらを見ていた。

……ルーペ、後で締め上げる。


「……何だ。自身の執務室にいて何かおかしいか?」


なるべく平静を装って答える。


何時からそこにいたというのだ?

よもや、先ほどのやり取りを見ていないだろうな……?


「いえ、全然、おかしくないです! 申し訳ありません!」


相手は姿勢を正しながら勢いよく答えてきた。


どうやら相手が新人騎士ということもあり、つい剣呑な声で問いかけてしまっていたようだ。


うむ、八つ当たりだ。気にするな。


「それで、何か用か」


用があるのであれば、早急に終わらせてくれ。

私は今後の計画を練らなければならない。


「いや、前を通りかかっただけで……あ、そうだ!」


何だ?

やはり用があったのか?


「……副団長。お節介とは思いますが、女の子には優しくした方がいいですよ? とくに十代の女の子は硝子の心なんです。いつもみたいなしかめっ面ではなく、笑顔を心がけることをお勧めします!」


……は?


「おい、いきなり何を言っている?」


「…え? 副団長、あのマリアちゃんって娘《こ》と喧嘩でもしているんでしょう? 駄目ですよ、どんないい娘《こ》でも女は女です。早いうちに機嫌を取っておいた方が後々楽ですから」


先ほどまでビクビクとしていた奴が妙に饒舌に話し出した。

どうやら体験をもとに助言をしてくれているようだが……意味が分からない。


何故私がマリアと喧嘩をしていることになっているのだ?


関係は至って良好のはずだ。

そこから更に上を目指すべく、こうやって陰で絶え間ぬ努力をしていたというのに……

これは誰かの悪意ある行為か?


……は!?


もしや、昨日の手紙と同一犯では!?


結局昨日のあの手紙の事は、バタバタしてマリアには確認できていない。


だが内容が内容だ。

誰かしらの嫌がらせの可能性がある。


くそ……!

誰かは分からないが、必ず突き止めて思い知らさなければならない……!


「ロベルトとマリアちゃん、喧嘩しているって噂でも流れてるの? 俺、知らなかったな。誰が言ってんだろう?」


私が聞きたいことをルーペが代わりに聞いた。


よし、その調子で頼む。

そういうことはルーペの仕事だ。

私の代わりに犯人をあぶりだしてくれ。


見つけた暁には、必ずやそれなりの報復を……











「あ、俺です!」


私の腹の内を知らずに、新人騎士は元気に答えた。









………っふ









「そうか……お前か……」


ゆらりと私の体が動く。

私の周りに陽炎じみた何かがまとわりつく。

これは怒気というものかもしれない。


「わぁー……きっと何か行き違いがあるんだろうが、今の俺にはどうすることもできない。と言うわけで、頑張れ新人! 無力な俺を許せ!」


新人騎士にゆっくり近づいていると、ルーペの声がしたが内容は今の私には入ってこなかった。興味もない。





だが、問題ない



とにかく



この



無駄に元気な男を



締め上げれば解決するはずだ。






「え? ……ちょ、副団長怖いです! こ、来ないでください!!」





や、やめ……ふぎゃあぁぁぁぁーーー!!













その後……


彼の行方を知る者は、誰もいない………ことがないことを祈る。







ある人物達の帰り道。



「おい、ピーチ」


「何、グレープ?」


「お前、あの妙な本返してきただろうな」


「妙な本とは何よ! ちゃんと返したわよ」


「あぁ……あの登場人物が踊りまくっている本ですか?」


「そうよ。オレンジまで文句あるわけ」


「いえいえ! 文句なんてないです!」


「ほんとに~?」


「俺たちは本に文句はない。どんな奇天烈な本でもだ」


「じゃあ何よ?」


「……それを見たお前が大爆笑をして、煩くて眠れないんだよ!」


「あ、あら? そうだった?」


「えぇ。夜中まで笑ってるから僕妙な夢見ちゃいましたよ……」


「俺も! 皆笑いながら踊ってる夢見た。悪夢だよ」


「ごめんね! もの凄く笑えて読むのが止まらなかったのよ」


「とにかく、返してるんならいいんだ」


「そうですね。……これで今日はゆっくり眠れます」


「昨日はマリアが心配で眠れなかったから本でもと思って……」


「騎士団に任せたんだから大丈夫だっつってた奴が何言ってんだ」


「そこで笑える本を見るのが、流石といえます」


「う、うるさいわね! 文句があるなら貴方たちが笑わせなさいよ!」


「やだよ! はぁ、もういいから帰ろうぜ。眠たくて仕方ないんだ」


「そうですね、僕も今ならご飯より睡眠が取りたいです」


「賛成。流石に私も眠たい。帰りましょう」




そうして彼らは、フラフラと帰っていった。



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