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キイィ…と音を立てて城門が開かれる。

なんとなしに振り返ればこの国の象徴であり、サフィールを含めた皇族<おうぞく>が生活をしている城が目に入った。

ここは別名、都庁と呼ばれ、このサンサーラ国における中心的施設として様々な役職の人物が出入りをしている。

この国にはサンサーラを区切った幾つかの町、つまり“都”を代表する存在である帝やその子供である皇子と皇女という地位が存在し、これらをまとめて皇族と呼ぶ。その下に仕えるのが俺達のような騎士たちというわけだ。


「ふふ、城の外に出るのは久しぶりだわ。やっぱり街はいいわね!にぎやかだし…明るいし!」


ピンク色の髪をなびかせ両手を広げながらくるくると回るサフィール。

髪を結っている黒いリボンと白いドレスもそれに合わせてひらひらと舞う。


「そんなはしゃぐと危ないですよ、サフィール姫。」


「大丈夫よ。私、子供じゃないんだから転んだりしないわ!」


そんな様子を微笑ましげに見ながらシアンが忠告をするが、その言葉にサフィールは少し頬を膨らませながら反発した。

左右には様々な店が並び、食材から衣服までが色鮮やかに並べられていた。さすがサンサーラ国の中心地だけあって街は活気であふれ、多くの人で賑わっていた。


「ルフトもほら、そんな眉間に皺を寄せないで!ただでさえ口が悪いんだから不良のように見えるわよ。」


「うるせー。悪かったな、口が悪くて。大体、テメェが城の外に出たいっていうからついて来てやっただけで、俺は別に城下町に興味なんか…」


「もう、なんでそんなこと言うのよ!」


「まぁまぁ二人とも。サフィール姫、あっちの店を見てください。美味しそうなものが売ってますよ。」



そう言ってシアンが指差した方向を見れば、なにやら良い匂いのする屋台に人が群がっている。

見に行こう、と駆け出したサフィールの後をついていけばどうやらリンゴパイの蜂蜜漬けのようだった。

リンゴパイの蜂蜜漬けというのはその名の通り、リンゴパイに蜂蜜をたっぷりとかけただけの代物なのだが、その店によって独自の調理方法があるのが特徴ともいえる。例えばパイの上に蜂蜜をかけるだけのものや、パイ生地に蜂蜜を練りこむもの、数日蜂蜜に漬け込んだリンゴをパイ生地で包むものなど…それはそれは様々である。この店は一口サイズのパイの間に蜂蜜にたっぷり漬けたリンゴを挟んであるというものらしい。食べ歩くことに配慮してあるのか、蓋付きの筒状の入れ物に入れた状態で売られていた。


「ルフト、シアン、これ食べましょうよ!!」


「いいですね、美味しそうですし。」


「さっきスコーン食ったばっかじゃねぇか…」


「いいの!」


太るぞ、と小声で呟けば腹のあたりにパンチを食らった。視線を落とせばサフィールがこちらを睨みつけながら拳を握っていた。まぁ、全く痛くもかゆくもなかったが。


「すみません、これ頂けますか。」


「あぁ、いらっしゃい!いくつお買い上げ…で、」


シアンの声に顔を上げた店主が驚愕したように言葉を途切らした。その瞳はシアンを映した後、恐怖の色を浮かべ、揺れた。

その様子を見て、シアンは目を伏せながら苦笑いを浮かべた。


「三つください!」


その間に割って入るようにサフィールが笑顔で店主に笑いかけた。

その声に再び店主が驚いたように目を瞬かせる。


「ひ、姫様!城からお出になられてたんですか!!」


「えぇ、城の中は退屈なんだもの。それよりも早く頂戴!美味しそうな匂いがして我慢できないわ!」


店主に向かって貨幣を差し出しながら、待ちきれないといった様子で急かすサフィールに慌ててかしこまった店主はあわあわと手を動かし始めた。


「えぇっと、三つですね…」


「いや、二つでいい。俺はいらねぇ。」


「え?いらないの?」


「ゆ、勇者様まで!!」


サフィールの後ろから主人にそう告げれば、不思議そうに首を傾げる彼女と絶句したような顔をしている店主が目に入った。まぁこのメンツだ。当たり前といえば、当たり前の反応だろう。


「俺はさっきのこいつが作ったスコーンで腹いっぱいなんだよ。どっかの姫君と違って常人サイズの胃袋なんでな。」


「な、何よそれっ!!」


サフィールが顔を真っ赤にしながら「私だって普段はそんなにたべないもん!」と訴えてきているが気にせずシアンの方を向く。


「さっきのあれ、美味かった。また俺の為に作れよな、魔王サマ。」


にやりと笑いながらシアンの方をぽん、軽く叩けば一瞬はっとしたような顔をした後可笑しそうにシアンは笑った。


「勿論、喜んで。」


言いつつ紅い瞳を細めるシアンと口角を上げた俺の間で店主が呆気にとられたようにキョロキョロと視線を彷徨わせている。その後、サフィールに商品を手渡して店主は頭を下げた。



「…ま、別にあなたの為に作ったわけじゃないんですがねー。」


「おい、テメェ。」


サフィールから容器を受け取りながら呟くシアンはまだ笑っており、俺とシアンの間にいるサフィールは幸せそうな笑みを浮かべながらパイを味わっていた。


(それにしても美味そうに食うな、コイツは。)


「何、ルフトも食べたいの?」


視線に気づいたのかサフィールが顔をあげて尋ねてくる。しかもその顔にはにやにやとした笑みを浮かべていた。


「私は小食だし、これ全部食べれないかもしれないしー」


(コイツ、さっきのこと根に持ってやがる!)


「そんなに食べたいのなら一口あげてもいいけど?」


「……」


「食べたいのならそう言えばいいのよ。ほら、素直じゃない年下くん、どうぞ?」


ふふん、としてやったり顔で人差し指と親指でパイを挟んで俺の口元に差し出してくるサフィールに思わず眉間に皺が寄る。正直、正直に言えば、ちょっと食べたい。だがここで素直に食べたいというのもコイツの思うつぼのようで気に喰わない。

さて、どうするか。



「ふふ、どうするの?ルフト」


「…じゃあ食ってやるよ、お望み通りな。」


「きゃ…!?」


ぐいっとサフィールの手首を掴んで口元に寄せる。

目を見開いているサフィールの顔を数秒見つめてわざとらしく笑いかけた後、視線を落として彼女の持っていたパイを指ごと口に含んだ。そして彼女の指の第一関節あたりをわざと軽く甘噛みしてからゆっくりと口を離した。


「…ごちそーさん」


「っな!!」


唇についた蜂蜜を舐めながらそう言えば、サフィールは声にならない悲鳴を上げて真っ赤になった。

口をぱくぽくさせながら俺を見上げている。

その様子になんともいえない優越感を感じながら俺は口の中のパイを噛みしめた。

シャクッという軽い音と共にリンゴと蜂蜜の風味が広がる。甘い。


「た、食べられたっ!!!ゆゆゆ指!!」


「お前はアホ面が似合ってんだよ。背伸びして年上面してんじゃねぇ。」


「だ、だって私ルフトより年上だもの!」


「…何やってるんですか二人とも。」


呆れたようにシアンがため息をついた。

そんなシアンの後ろに隠れながら赤い顔をのぞかせるサフィール。コイツが俺よりも年上なんて実に気に喰わない。


「私、あそこの洋服屋さん見てくるから!ルフトの馬鹿っ」


「てめ、誰が馬鹿だこのやろっ!!」


どさくさに紛れて言われた言葉に噛みついたがサフィールは振り向きもせず服屋に駆け込んでいった。




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