プロローグ
黒いフードが揺れ、そこから覗く金髪が振りかざされた剣の風圧で踊る。
奴は口元に笑みを浮かべて赤みのかかった瞳に俺を映す。
(違う、そっちじゃない!次は右から来るっ!!)
フル回転して相手の動きを予測する頭とは裏腹に、身体はいうことを聞かずに奴に突っ込む。
予想通りに放たれた斬撃を攻撃態勢に入っていた体は避けられず、もろに衝撃を受けて鮮血が噴き出す。
ガクン、と膝の力が抜けて片膝をつくと地面に紅い染みが広がった。
くらくらする。血を流しすぎた。
(回復しないと死ぬ。マジで死ぬ!)
よろよろと立ちあがりながら再び奴に向かって己の剣を構える。蒼いオーラを帯びたその剣は中々の上物で、程よい重さと共にしっかりと手に馴染む。しかしそんな剣も戦闘当初に比べて明らかに込められた魔力が弱まってきている。
剣を握っていない左手を持ち上げ金色に向けて狙いを定める。指先に魔力の流れを意識すれば、パチパチと音を立てながら魔力が凝縮されていく。
(おいおい…マジかよ…回復しないでそのままやり合おうっていうのかよ!!)
すると奴が動いた。剣先をこちらに向け、目を細める。
刹那、姿がぶれた。
気がつけば眼前に金色があり、反射的に凝縮した魔力を放つが紅い魔力に相殺された。
なけなしの魔力を凝縮した程度では相手に傷をつけるどころか届くことも叶わないらしかった。
慌てて右腕に力を入れ剣を手繰り寄せるが時すでに遅し。
気づけば紅いオーラを帯びた剣が俺の身体を貫いている瞬間だった。
言葉にならない程の衝撃が身体を揺らし、胸部に熱が集まった。
(くそっ…たれ…!!)
視界が白くなっていく。
「貴様風情では我を倒すことなどできぬ。所詮は英雄のなり損ない。地に伏せるがいい。」
そんな何度目かの台詞を聞きながら俺は重い目蓋を閉じた。