表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

まったりシリーズ

無気力戦国記~万太郎の高笑い~

作者: 天川 七

 季節は春。山には桜が咲き乱れ、うららかな日差しが如月城を照らしている。

 城の襖はそこかしこが開け放たれ、春の匂いを受け入れていた。

 その穏やかな陽気のせいか、廊下を歩く女中も書簡を運ぶ武将も表情が柔らかい。

 そんな中、執務室で山盛りの書簡に目を通していた青年、曙万太郎あけぼのまんたろうは、精悍な顔を歪め、自らの右腕の言葉にやる気のない目を向けていた。

「国取りだぁ? 知るかそんなもん」

「知るかではありません、万太郎様! 各国が天下を手に入れようと動き始めているのです。今動かねば伊波州は、他国に飲み込まれましょうぞ。我等も打って出るべきです! そして、天下に曙家の名を知らしめるのです!!」

「お花、そこの書簡を寄越せ」

 熱くなっている右腕こと、秋元忠治あきもとただはるを他所に、万太郎は終わった書簡を脇にどけて、次の書簡に目を向ける。

「万太、その呼び方は止めろってば」

 それに返事を返したのは、熊のような巨漢だった。引き締まった太い腕を組み、幼さの残った顔で頬を膨らませている。彼は万太郎の従兄弟で親友の通称お花だ。

 お花なんて呼んではいるが、本名は松本花乃助まつもとはなのすけといって、列記とした男だ。親しみと嫌がらせを込めて、万太郎はそのように呼んでいる。

「わかったから寄越せ、お花。オレよりでかい図体で拗ねても、可愛くないぞ」

「……酷いし、わかってないじゃん。だからオレは花乃助だってば、もうっ。はい、次はこれね」

 二人に無視された形の忠治が怒りに肩を震わせる。

 忠治自身は主である万太郎との年の差は七つで、優しげな顔は以外と若い。だが、苦労しているのか、黒い髪の間にちらりと白髪が見える。それを指摘されると、泣き崩れるので言わぬが花だ。

万次郎は見つけた白髪から目を逸らすと、追い払うように手を振る。

「与太話はいいから、仕事しろ忠治。オレは三日分の仕事を今日中に終わらせて、二日の休みを取るんだからな」

「そんなことはどうでもよろしいっ! 万太郎様、私の話を真面目にお聞きくださいっ。事態は一刻を争うのですよっ?」

「聞いてる聞いてる」

「返事は一回です! 忠治はっ、忠治は悲しいですぞ!! 人の話を聞き流すような、そのような人間にお育てした覚えはございません!」

 覚えはないと言われても、実際こうやって育っている。

 万太郎は、賢明にも出かけた言葉を飲み込んだ。

 年甲斐もなく泣きが入りそうな忠治にため息を吐き、がりがりと首の後ろを掻く。

「そう言われてもな……実際のとこ、オレは出来るだけ戦を避けたい。戦をすると兵が疲弊する。兵の疲弊が長引けば、やがてそれは国の疲弊に繋がるだろう。戦をしても損ばかりで、魅力を感じない」

「なんと!? 万太郎様は、そのようなことをお考えでしたか。しかし、我等が戦を仕掛けずとも、この伊波州を狙う国も現れましょう。さすれば大人しく投降など出来ませんぞ?」

「わかっている。オレとて国を守るためなら、戦うことを尻込みするつもりはない。だが、民の為を思うなら、やはり戦は出来るだけ避けるべきだろうよ。……あぁ、そうだ。なんなら、天下を取れそうな奴を選別して、その傘下に入ってもいいな」

 顎を撫でつつ言われた言葉に、忠治は卒倒しそうな顔をした。

「な、な、な、なにを仰っているのですくわぁ!?」

「あー、また始まったよ……」

 悲鳴交じりの声に、花乃助はこっそりと両耳を押さえる。その瞬間、忠治が鬼の形相で怒り出した。

「いいですかっ、万太郎様!! 貴方様は由緒正しい曙家の当主なのですぞ! そんな弱気で如何します! 確かに我等の国は大国とは言えませぬ。言えませぬが、小さくもごさいません。そして、この忠治が鍛えている兵は、すぐに負けるほど弱くはありませぬぞ!!」

「へーへー」

「へーへーではありませぬ!」

「じゃあ、へー」

「っ!!」

 怒りのあまりに、声を失って震えるばかりの忠治に、少しばかりからかい過ぎたかと、万太郎は僅かに表情を改める。

「なぁ、忠治。オレ達は民に生かされている。それを忘れては駄目だ。民にとって一番喜ばしいのは、戦がなく、住む場所があり、飯を毎日食えることだろ。戦ばかりする国はいずれは滅びるが定めよ。国の上にオレ達がいるんじゃない、オレ達の位置は国の下だ」

 諭すように声を落とした万太郎に、忠治は思わず聞き入った。そして、感無量と言わんばかりに、号泣し始める。

「うっうっ……わらしがまじがっでおりまじだ……っ、万太郎様も、ご立派になられて……私は……私は……っ」

「あぁ、わかってくれたならいい。さぁ、仕事をしろ。今の話はまだ内案だ。誰にも漏らすなよ?」

「この忠治、口が裂けても漏らしませんっ!」

「よしっ、ならば行け」

「はっ、失礼致しました」

 一礼して忠治が去ると、避難していた花乃助がひそりと寄って来る。

「それで、本当のところは?」

 万太郎は、にやりと悪い顔で笑う。

「ただでさえ、遊びに出れないほど忙しいんだぞ? 天下統一なんぞして、これ以上、馬のように扱き使われてたまるかよ」

 黒い高笑いが、城内に響く。

 本日も如月城は実に平和だった。


今回はほのぼの路線でいってみました。スナック菓子みたいに軽く、楽しめる小説を目指してみたのですが、いかがでしたか?

肩の力を抜いて、ふふっと笑って頂ければ嬉しいです。

さらに言うなら、盛大に噴出して頂ければ、大成功ですね。


ではでは最後に、読んでくれた貴方に、楽しんで頂けたなら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ