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ひよこと幼馴染

 学校へ行く話をした日の午後過ぎのこと、あの後、気恥ずかしくなった俺は食事を終えて、直ぐに適当な言い訳をして、外に出ていた。それを見た母さんは、俺をクスクスと笑い。父さんも、俺と同様に家を出ていた。


 俺が向かう先は、ちょっとした丘である。木が一本だけ佇む草原の丘、簡素な場所だが、俺はここを気に入り、よく来ている。人がいない静かな場所が特に良かった。


顔の熱はまだ、さめる気がしない。冬の残り香の風が、心地よく流れる。それを感じるまま、足を進める。気づけば、足は丘に差し掛かっていた。


そのまま丘を超えると、一人の先約がいた。木の陰に座り込む、身長の高い若い男だ。

そいつは気取ったように足を組み、今起きたのか俺を薄目で見つめる。少し伸びた髪や気だるそうな二重の瞳に反応の薄そうな表情、それに整った顔が合わされば、ゲームに出てくるようなイケメンがそこにはいる。あざとい男だ。


 俺は、この男を知っている。ヒイラギという名前の俺の幼馴染だ。



 俺は、何も言わず、ヒイラギの横に座り、風を待った。

この男とは、長い付き合いをしていた。


 小さい頃、周りに馴染めていなそうなヒイラギを、何となく声を掛けたのは覚えている。

それを境に、ヒイラギは俺に懐いて、当時は、ひよこのようについてきた。それはそれは、可愛らしい、素直な弟分だったのだが、それはあまり長く続かなかった。


いつの間にか、身長は抜かされ、ヒイラギは少年から青年と変わってしまった。

そして、何よりも気に入らない変化は、ヒイラギが女の子に人気になったことだ。

こいつのビジュアルが進化してからというもの、他の女がこいつに付きまとう姿は、見るに耐え難い。



ふと、無性にイラついた。



 ヒイラギは確かに、ビジュアルは凄くいいし、女の子の気持は予想できるが、こいつの魅力は内面にも宿るものがあってそれをないがしろにして、こいつに近づくのは浅いというか、自分勝手というか、そもそも、お前らが思うよりもヒイラギの内面はガキだし、勝手美化するのは対等な関係と言い難い訳であって、でも、というか、ヒイラギもヒイラギで、周りにそれ勘違いをさせるのも悪い、勘違いするほうがもっと悪いが、もっと意識を…


…まぁ、こうして俺の元へ来てくれるというのは、代えがたい幸せだが、それはそれとして微妙にいやな気持ちになる。


長い長い、思考をした。たまに、あるのだ。ここ最近、ヒイラギにかかわると。

きっと、これは前世を基にして、嫉妬なのだ。俺にとってイケメンは、それなりに苦労してほしいのだろう。


ヒイラギに嫉妬のようなものを覚えながら、俺は心地よい時間を感じていた。ヒイラギといるときは、なんというべきか、多少は気楽になれる。きっと、どこかでまだ俺は、こいつのことを弟分だとでも思っているのだろう。


「何かあった?」

風が、葉を揺らしてからヒイラギこちらに顔向け、唐突に会話を切り出しきた。


「…特に」

先ほどの支離滅裂な思考もあり、露骨な反応が漏れ出した。


「噓だね」

じっと見つめるヒイラギの表情には、多少むすっとしたものがあり、かわいげがあったが、彼に言うべきことを考えると言葉に詰まってしまう。


 そう、俺はこの村を離れるのだ。


学園はある一定の地位や財産のある家系のもの良くのがほとんどであるため、大都市に立てられている。大都市はこの村から離れた場所だ。つまりは、学校へ行くと言うことは、ヒイラギと俺はお別れを意味する


 俺が、この丘へ来たのは、ヒイラギに別れを言うためだった。

こいつが俺のことをどう思っているのか、正直言えばわからない。いや、今はかんがえないようにしている。だが、だとしても、こいつは俺にとって大切な存在なのだ。


 この世界に来てから、精神年齢の違いから友達と言ったものが作りずらかったが、こいつの控えめな性格と天然さが俺には丁度良かった。もしかすれば、前世のころよりも気持ちの良い交流だったのかもしれない。

こいつとは、対等にいられた。


でも、それも近いうちに終わるのだ。互に違う道を行く、前世で言えば卒業式で何度も経験したことであるのが、それ以上の胸が苦しい。

正直に言えば、ヒイラギが俺の人生の何処かに居てくれるだけで、俺は幸せなれる。

学校で手に入る経験よりも、こいつの横にいることのほうが、価値があるとすら思える。


だが、それでも、言わなくてはいけない。決めたのだ。この世界で、ストケシアとしてちゃんと生きようと決めたのだ。

それを言わないのは、逃げるのは、こいつへの裏切りなる気がする。もしかしたらは、ヒイラギの悲しむ顔が見たかったのかもしれない。悪いことだが。


風が頬を撫でる、それに乗せるように声をだした。


「…えっとね。私、この村を離れて学校へ行くんだ」


…ちゃんと言えただろうか?ヒイラギの顔を見ながらは言えなかった、だが、伝えることは出来た。あとは、別れの言葉だけだ。


そう思い、最後はせめて、顔を見て言よう思い、覚悟決めてヒイラギを見た。

すると、彼の顔は呆然としていた。

…いや、呆然というよりは、ぐにゃとしたような、大事な物をすべて溶かし人みたいな、バカな顔していた。何の顔だよそれは?


逆に呆然させられた、そんな中、思考を感じさせない声でヒイラギは喋りかける。


「…なぜ?」


本当になぜっていう思いだけでの、声色だった。


「えっと、世界を知りたいから…?」


俺も流されるよう、馬鹿な回答を返してしまった。先ほどの思いが馬鹿らしくなる。


「なるほど」


ヒイラギは相変わらずの簡単顔で、言葉を使う。何度か、頷きをしてこちらへ顔を向ける。それは普段の顔だった。


「行く場所の名前は?」


またしても、唐突の回答に驚かされるが、今度は落ち着いて返せた。確か、学校名は


「アトラス学園だね」


ヒイラギは、何度か頷きを反芻させ、言葉を発した。


「構わない。行ける」


ん?何を言っているんだこいつ。


「え?えっと、遠いよ」


咄嗟に空回った、ことを言ってしまった。


「どこでも同じだ」


即座に言葉を返された。それは、はっきりとしたもので、迷いなんてなかった。だからか、少し、照れてしまう。


「えっと、アトラス学園へ入るには入学試験があって…確かむずいよ。B判定以上あるの?」


「判定はわからないが、ストケシアは行くんだろ?」


「う?うん」


「なら、問題ない」


ん?元から、何を言うのか分らないやつだたが、今日は特に訳の分からないことを言っている。ヒイラギは、元の体制へと戻り何事もなかったかのようにリラックスを始めている。


俺も訳が分からななり、最初と同じように座った。そして、念のための確認をする。

「一緒に行くってことでいいの?」


「?当たり前だろ」


不思議そうにヒイラギは言葉を返してきた。そして、続けざまに言葉を繋げた。


「俺は、お前が行くならどこにだってついて行く」


彼は、微笑んでいた。幼い子供のように、励ますようにそう言った。


…ひよこやろうがよう。

ひよこじゃなくなったと思ったら、全然違っていた。こいつは今でもひよこなのだ。


頭が痛くなるな、ついでに熱も出たらしい。顔が暑くなってきた。

顔の熱はまだ、さめる気がしない。冬の残り香の風が、心地よく流れる。


…兎にも角にも、俺とヒイラギはアトラス学園に行くことを決めた。



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