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天使の戒めと悪魔の誘惑

「どうしよう! リタに敵認定されちゃった!! パシリにされるかも」


 お先真っ暗になっていると、ジュリシスが他人事のように尋ねてきた。


「どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ! リタは、ジュリシスが好きなんだよ。リタと今すぐに付き合って!」

「それはできない。僕は浮気症じゃないから」

「もぉー、リタのどこがダメなの? 美人だし、頭がいいし、モデルみたいにスタイル抜群だし。それに、貴族だよ。なにが不満なの?」

「愛するルイーゼに質問されたから、仕方なく答えるけれど。まず、貴族だからってなに? 僕が結婚相手に求めるのは、そこじゃない。リタの容姿については、世間一般の美人枠に属するかもしれないが、僕の好みじゃない。頭がいいとは、僕は思っていない。なぜなら優秀な家庭教師がついているのに、僕の成績を一度も超えたことがないからだ。これでは、頭がいいとは言えない。スタイルについては、骨っぽい体よりも、ルイーゼのマシュマロみたいな体のほうが好き」

「マシュマロって!? むうっ!! 太っているって言いたいの!!」

「違うよ。柔らかくて美味しそうっていう意味」

「おっ、おおおっ!?」


 美味しそう!? 我が弟はなにを言っているの!?


 どうしてそのようなことを言うのか尋ねようと思ったが、真剣な顔で答えられても困るだけなので、やめておこう。

 女性に関心のなさそうなクールな顔から、これ以上おかしな発言を聞きたくない。


 一年生の教室は三階にある。三階への階段を登りきったところで、ジュリシスに手を振った。


「ここでいいよ。じゃあね。また家で」

「なんで家なの? 休み時間に会いたい」

「会わなくていいよ」

「お姉さん、冷たい……」


 雨の日に捨てられた仔犬のような目をするジュリシス。悲しげな瞳に、庇護欲が揺さぶられる。


「え、いや、そんな、あの、冷たいかな? 家で会えるんだから、休み時間に会うことはないかなって思ったんだけれど……。それよりも、どうして突然、お姉さんって呼ぶようになったの? 姉として認めていないんじゃなかったっけ?」

「知りたい?」

「すっごく知りたい!!」

「じゃあ……」


 悲しげな目が一転。なにかを企んでいるような、あやしげな光を放った。

 色気が漂う魅惑的な微笑に、ドキリとしてしまう。

 ジュリシスの笑顔は危険だ。翻弄されそうになる自分に、(しっかりしろー! ドキドキするんじゃない! 三日耐えれば、元の生活に戻るぞー!)と喝を入れる。


「知りたければ、二時間目の休み時間に、ゴミ捨て場の脇にある倉庫に来て」

「え? なんでそんな人気(ひとけ)ない場所に……」

「だからです」


 意味深長に、ふふっと笑ったジュリシス。

 

 惚れ薬を飲んだ弟から人気のない場所に誘われてしまった姉……どうしたらいいの!?




「まだ朝なのに、疲れたー」


 ジュリシスと別れ、自分の教室に入る。

 私は芸術クラスで、ジュリシスは特進クラス。同じ三階でも、端と端に離れている。

 机に鞄を置くと、ミリアが駆け寄ってきた。


「おはよ! 魔女の店、どうだった?」

「もぉ、最悪だったよ! とんでもない目にあった!」

「アハハっ、やっぱり! 性悪魔女だよねー! で、とんでもない目にあったってなに?」


 ミリアが興味津々に聞いてきた。

 

 ミリアは、グロリス学園のファッションリーダー。制服だからおしゃれに制限はあるのだけれど、ハンカチや靴下や髪留めなど、ミリアの持ち物は全女子の注目の的。

 ミリアは学生という身分で、ドレスコンテストで入賞を果たしている。センスのいいミリアなら、人気デザイナーになれるだろう。

 そういうわけで、自分が着るウエディングドレスをミリアに作ってもらいたい願望を持つ女子が多い。私もその中の一人。

 ミリアと仲良くなりたくて、ジュリシスに惚れ薬をかけてしまったことを話そうかと思った。

 好奇心旺盛なミリアなら「あのジュリシスに惚れ薬⁉︎ 最高に面白いじゃん! 詳しく聞かせて」と乗ってくれるだろう。

 しかし、私の中に住んでいる天使が、


「教師と生徒から一目置かれている優等生の弟を、笑いのネタにするのですか?」


 と、戒めてくる。

 だが、悪魔も負けていない。


「パーティー好きなミリアと、友達になれる大チャーンス!! 仲良くなったら、パーティーに誘ってもらえるぞっ!」


 と、弟を売るよう迫ってくる。


「うーん……」


 心を決められずにいると、ジュリシスが「お姉さん」と呼んだことが、脳裏をかすめた。

 

 両親の結婚式の日。私は、ジュリシスと家族になれることを喜んだ。

 けれどジュリシスは、そっぽを向きながら言った。


「僕はルイーゼを、姉とも家族だとも思っていない。だからルイーゼも、僕を家族ではなく、一人の男として見てください」


 誕生日が三ヶ月違うだけなのだから、姉として見られないのは仕方ないにしても、家族と思われていないことにショックを受けた。


 ──そのジュリシスが、私のことをお姉さんと呼んでくれた。家族と認めてくれた。


 頭をぶんぶん振って、悪魔を追いだす。


「ウェルナー先輩のことを占ってもらったんだけど、望みナシ。伯爵の娘と結婚するみたい。愛人にはなれるって言われちゃった。十六歳の乙女に向かって愛人って、ひどくない?」

「アハハっ! 笑える。ま、現実はそんなもんよ。シュリンツ伯爵って名門だもん。うちらみたいな平民はお呼びじゃないよ」

「まぁ、そうだよね……」


 ひとしきり笑ったミリアは興味を失ったようで、教室に入ってきた男子に駆け寄った。


「おはよう! 明日のパーティーのことなんだけど……」


 どうやら明日の夜、プールのある豪邸でパーティーが行われるらしい。


(いいなぁ、楽しそう。私も行きたい)


 ジュリシスが私に惚れていることを話せばよかった。そしたら、「わーっ! おもしろい!! 二人でパーティーにおいでよ!」と誘ってもらえたかもしれないのに。


「ハッ! また悪魔の誘惑が!? ダメダメっ!! 惚れ薬のことは、家族だけの秘密。学校の人には内緒にしなくちゃ!」


 パーティーの誘惑に負けそうになってしまったが、惚れ薬は三日で切れるのだ。その後、ジュリシスの怒りが降り注ぐかと思うと背筋が凍る。

 惚れ薬のことは、親友のノーラにも秘密にしよう。

 私がすべきことは、惚れ薬の効果が切れた後もお姉さんと呼んでもらうために、良好な姉弟関係を築くこと。



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