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欲望に素直になる薬

 自分の部屋に戻ると、ベッドに寝転び、真っ白な天井を見つめる。


「失敗しちゃった……」


 明日になれば、ジュリシスの態度も少しは軟化するだろう。

 けれどそれは、私に無関心で、口を開けば皮肉か意地悪なことばかり。ちっとも笑わず、冷たい目で私を見るといった、素直になる薬を飲む前の態度に戻るというもの。


 目尻から雫が流れ落ち、耳を濡らす。


「イヤだ、姉と弟に戻りたくない……」


 ジュリシスが飲んだのは惚れ薬ではなく、素直になる薬だと明かしたほうがいいのかどうか、素直になる薬をかけてから今日までの三日間を振り返る。


 好きだ。可愛い。悪口を言うのは自分だけでいい。怒った顔を独占したい。結婚する。

 これらの発言は、許せる範囲だと思う。


 だが、マイ・スイートハニーラブプリンセス。可愛すぎてイライラする。髪をペンダントに入れて肌身離さず大切にする。マシュマロみたいな私の体が好き。首の曲線が綺麗だからキスした。腕一本になっても愛せる自信がある。怒り方選手権があったら優勝する。甘えたい。田舎に家を借りて監禁する。

 これらの言動は、全力で否定したいだろう。ジュリシスはプライドが高い。


 指を折って、許せることと認めたくないことを数えてみた結果、私はため息をついた。


「認めたくないことのほうが圧倒的に多い。惚れ薬のせいにしたほうが、プライドを保てるよね」


 起き上がってベッドの上に座ると、机が目に入った。机の上には、アメリアからもらった青い小瓶がある。

 私は唸りながら、髪の毛をモジャモジャとかき乱した。


「うぅ〜、飲むしかない? でも……」


 自力で素直になろうと頑張ってみた結果が、関係悪化。これ以上こじれるのは避けたい。


 私は「よっしゃ!!」と叫ぶと、弾みをつけてベッドから降りた。

 躊躇する時間を自分に与えないために、すぐさま机に駆け寄り、瓶の蓋を開ける。

 そのまま、一気に喉に流し込んだ。


(本当だ。甘い味がして、美味しい)


 全部飲んだが、体に変化はない。だが、心が軽くなった気がする。


「やるぞっ!!」


 私は気合を入れると、隣の部屋に向かった。

 ドアを引きながら、ノックするのを忘れたと思ったが、遅い。


「あなたの、スイートハニーラブプリンセスルイーゼが、愛の告白をしに来ましたよ!!」


 家族が寝静まった家に響く、勢いのある明るい声。

 勉強していたジュリシスは、呆気にとられてポカンとしている。だが、私だって呆気にとられている。


(えぇ〜っ!? 素直になる薬ってこんな感じなの? チョー恥ずかしいんですけれどっ!!)


 素直になる薬は、羞恥心までは取り除いてくれないらしい。それとも、羞恥心も素直な反応だと見るべき?


 ジュリシスの手から、鉛筆がポトンと落ちた。


「なに? どうしたの?」

「聞こえなかった? だったら、もう一度言ってあげる。スイートシュガーハニーラブプリンセスルイーゼが、ジュリシスが大好きで愛しているって告白しに来たの。姉と弟という関係を卒業して、これからは恋人としてよろしく!!」


 元気いっぱいに言い放つ私にジュリシスは目を白黒させ、私は心の中で悲鳴をあげた。


(ちょっと待ってー、私!! 先走り過ぎ! 順序ってものがあるよね!? 愛しているとか恋人とか、言い過ぎ!!)


 全力投球の告白に、ジュリシスの顔がみるみるうちに赤くなる。視線を泳がせながら、戸惑いを口にする。


「えっと、なにを言っているの? いや、言っていることはわかる。僕を好きって、冗談?」

「いいえ、本気です!! なぜなら、アメリアという胡散臭い、でも信頼性の高い魔女から、素直になる薬をもらったから。私はそれを飲んだ! だってそうしないと、素直に好きって言えないから!」


 ジュリシスの困惑は大きいようで、返事がない。

 私はもどかしくなって、ジュリシスに近づいた。

 欲望からくる衝動に素直に従うことにした。つまり私は、ジュリシスの膝の上に座った。


(きゃぁぁぁぁーーっ!! 私ってば、素直になりすぎ!! 公園でいちゃついているカップルを見て、いいな、私もいちゃついてみたいなって思っていたけれど!) 


 心の中にこだまする絶叫。

 私は欲望に素直になって、ジュリシスの首に手を回した。ジュリシスのアイスブルーの瞳を覗き込む。


「十歳のときから、大好きなの。でも家族でいなきゃって、好きな気持ちに蓋をした。弟扱いしたのは、異性として意識したくなかったから。でもね、美術室でキスをしてくれたでしょう? すごく気持ち良かった。姉と弟でいるのが嫌になった」


(どびゅーーーっ!!! 私ってば、素直になりすぎ!! 確かに、キス最高だったけれども、言っちゃダメ!!)


 恥ずかしさで死ねる。今すぐに部屋に戻って、頭から布団を被りたい。

 それなのに、体が動かない。ジュリシスの瞳が熱を帯びていく様から、目が離せない。


「十歳から好きって、本当?」

「うん、本当。ジュリシスの全部が大好き。あ、でも今日、ちょっと嫌いになった。私を無視して、リタと仲良くした。手紙を破いた。リタから私を守るためだってわかっていても、嫉妬した」

「ごめん。リタから守るためじゃない。今朝の時点で、リタはルイーゼに嫌がらせする気はなくなっていた。嫉妬しているルイーゼが可愛くて、意地悪してしまった。ごめん。これからは意地悪しないよう、努力する」

「努力しないで。意地悪するときのジュリシスの目が好きだから」

「そうなの?」

「うん」


 穴があったら入りたいほどの羞恥心とは裏腹に、口がペラペラと動く。

 どんどん甘くなっていく空気。ジュリシスの両手が私の腰を引き寄せて、体が密着する。


「僕を好きだって言うために、素直になる薬を飲んだんだ? 効果はどれくらい続くの?」

「私は薬が効きやすいから、切れるまでに時間がかかるみたい。遅くて、二週間だって」

「じゃあ二週間で、僕のものにしないと。薬が切れて、いじっぱりルイーゼに戻っても、僕を求めるように」


 私の首元にジュリシスの唇が触れ、舐められた。

 おかしな声が出てしまった自分に、羞恥レベルが限界を突破した。


「恥ずかしい! 薬が切れたら、絶対に逃げる!」

「逃がさない。捕まえる」

「私、かくれんぼ得意だもん。見つけられないと思う」

「だったら、僕に会いたくなるよう仕向ける」


 ジュリシスの親指が私の唇に触れ、輪郭をなぞる。


「一日一回のキスはしてしまったから、次のキスは明日。あと三十分、我慢できる?」

「我慢できる」


 意地悪する気満々のジュリシスの目に、キュンとする。


(やっぱり、かっこいい。好き)


 互いの唇が触れそうで、触れない距離。耳元で囁かれる甘い言葉と、意地悪な言葉。唇をこじ開けて口の中に入ってきた、いたずらな指。

 アメリアがくれた素直になる薬特別バージョンは、欲望に素直になるというものなのだろう。

 欲望に素直になった結果、私は息も絶え絶えになってしまった。


「もうダメ。我慢できない。お願い、キスして」

「あと五分で、十二時だよ。ルイーゼはいい子だから、待てるよね?」

「待てない! ヤダヤダ、キスして! キスしてくれないなら、私からする!」

「それもいいね。でも、今回は僕からしたい」


 大好きな声が、私の耳に吹きこまれる。


「薬が切れても逃げないって約束するなら、十二時より前に、キスしてあげる」

「逃げたくなると思う。だって、素直になりすぎて、恥ずかしいことをたくさん言っちゃった」

「じゃあ、逃げないように縛らないとね」


 私は、ごくりと唾を飲み込んだ。

 言葉にしていないのに、勘の良いジュリシスは気づいたらしい。


「縛られたいの?」

「どんな感じなのか、少し興味ある」


(バカバカバカーーっ!! 好奇心が旺盛すぎるっ!!)


 アメリアが作った薬が恐ろしすぎる。これが数日続くなんて、眩暈がする。

 

 アメリアを恨む! 断固抗議する! 訴える!


 そう思っていたのに、十二時一分前。

 待ち望んでいたキスが降ってきて、その心地良さに、アメリアを訴える気持ちは吹き飛んだのだった。


 


 •*¨*•.¸¸♪おわり✧•*¨*•.¸¸

 


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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