表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/45

やっつけちゃってよ!

 ウェルナー先輩は、集まっている人たちを順々に見回した。


「状況は僕に不利だが、それでも、僕を信じてくれる者はいるかい?」


 エレナ先輩とリタはうつむいているし、メアリー先生は図書カウンターの中に入ってしまった。

 私と他の生徒たちは、ウェルナー先輩と視線が合う前に目を逸らした。

 ウェルナー先輩と関わりたくないという空気が流れている。


「そうか……僕の味方をしてくれる者はいないようだね。皆、リタとエレナの話を信じたというわけか。とても残念だ。誰だって紙を渡されたら、なにが書いてあるか読むだろう? それを問題を不正に手に入れたと騒がれたのでは、たまったものではない。まぁ、いいさ。噂を広めればいい。僕がエレナとリタを使って、卑怯な真似をしたとね!」


 吐き捨てるように言って、立ち去ろうとしたウェルナー先輩。その進路に、ジュリシスが立ち塞がった。

 唯一ジュリシスだけが、ウェルナー先輩から目を逸らさない。


「邪魔だ」

「邪魔するために立っている。リタとエレナ先輩の話を信じた人を残念扱いするなんて、立ち去る間際まで卑劣ですね」

「好き勝手に言えばいい。どうせ俺がなにを言っても、信じてくれないだろう? これ以上、話す気はない。好きなように噂すればいい」

「その件についてですが……」


 ジュリシスは先輩の進路を塞いだまま、図書室にいる生徒たちを見回した。

 荒ぶっているウェルナー先輩とは対照的に、ジュリシスは冷静沈着だ。


「ここにいる全員に、お願いする。ここで見聞きしたことのすべてを、決して口外しないように。僕は、全員の顔と名前を把握した。ここでの話が漏れたら、犯人を突き止め、それ相当の罰を与えるから覚悟して」


 静かな怒りを込めた物言い。

 生徒たちの間に、動揺が走る。ウェルナー先輩も、目を丸くした。

 私は失望した。ジュリシスなら、先輩をやっつけてくれる。そんな希望を抱いていたのに。


「なんで!? だって、先輩はズルをしたんだよ! エレナ先輩とリタを利用した。傷つけた。なんで黙っていないといけないの? ジュリシスは誰の味方なの!?」


 ジュリシスは、反論した私をチラッと見た。


「ルイーゼの味方のつもりですけれど」

「どこがよ!?」

「勝負は、ルイーゼを賭けてのもの。ウェルナー先輩の信奉者が、元凶はルイーゼにあると敵意を向ける可能性がある。男を振り回す悪女だと、悪く言う生徒がいないとは限らない。ルイーゼに汚名を着せたくない」


 そこまで考えていなかった。ジュリシスの視野の広さに感動するとともに、私の味方をしてくれることが頼もしくて、嬉しい。

 しかし、感動の余韻に浸っている暇はない。

 ウェルナー先輩が、喉奥でククッと笑った。先ほどまでの追い詰められた人特有の緊迫感が消え、余裕のある態度へと変わっている。

 

「ハハッ! さすがはジュリシス。聡明だね。いい判断だ。そうだ。グロリス学園には、約六百名の生徒がいる。だが、ここにいるのは十数名。十数名が僕の悪い噂を広めようとしても、六百名の生徒がなにを信じるかは、その人次第。君たちを信じる者もいれば、僕に同情し、罠に嵌めた君たちに怒る者もいるだろうね」

「罠に嵌めたのは、お互い様ですけどね。僕が懸念しているのは、ルイーゼだけじゃない。リタとエレナ先輩が共犯者扱いされることも、恐れている。二人は、ウェルナー先輩のために動いた。つまり、指示役はウェルナー先輩。実行役は、リタとエレナ先輩。未然ではあるけれど、二人を共犯者として見る生徒がいてもおかしくない」

「あぁ、なるほどね。確かにそうだ。特にエレナは、問題を書いた紙を僕に見せたのだから黒だ」


 エレナ先輩はうつむいたまま、肩を震わせた。長い髪が邪魔して顔が見えないが、青ざめているだろう。


 ウェルナー先輩は、微笑みの仮面をつけ直した。品のある穏やかな笑みで語りかける。


「僕に捨てられたのを根に持ったリタとエレナが、僕を陥れるために共謀した。そう考える生徒もいるかもしれないね」

「違うわっ! ここにいる生徒たちが、証明してくれる!」


 声を張り上げたリタに、ウェルナー先輩は肩をすくめた。


「リタ、落ち着いて。たとえ話をしただけだよ。あくまでも、そう考える生徒もいるかもしれないという可能性の話だ。噂話というのは、一人歩きするものだ。僕たちにはコントロールができない。自分を守るために、君たちはなにも言わないほうがいい。黙っているのが賢明だ」

「だけど、あなたのやったことは卑怯だわ! 私の父の話を持ち出した!」

「僕のせいにするのかい? 誰にも話さないようにと、あれほど念押ししたのに、約束を破ったのは君だ。だが、僕にも十分に責任がある。だからあとは、君の好きにしたらいい。僕が悪いと騒いでいいよ。伯爵令嬢としての品格が地に落ちることになるだろうが。君を大切に育ててきたご両親は悲しむだろうね」

「あなたって最低だわ! 私を脅す気!?」

「誤解しないでくれ。両親から軽蔑されないために、忠告しているだけだ」


 リタの唇が、怒りのためにワナワナと震えている。

 私の隣にいるメガネ男子が、苦々しげにつぶやいた。


「結局、力のある人には勝てないってわけか……」

「どういうことよ!! 学園長の息子だから? それとも、伯爵だから? 権力があれば、なにしても許されるってわけ!?」

「いや、あの、権力というよりも、ずる賢い人には勝てないという意味で……」

「ジュリシスだって、ずる賢いよ! 私、いつも言い包められているもん!!」

「あ、はい。そうですか……」


 あたふたするメガネくん。

 彼に怒りをぶつけるのは間違っている。わかっているけれど、悔しさが爆発してしまった。こうなったらもう、止められない。

 あふれる涙をゴシゴシと擦りながら、叫ぶ。


「ジュリシス、やっつけちゃってよ!! ずる賢いんだからできるよ!!」

「なんですか、それ。褒められている気が全然しない」

 

 ジュリシスは呆れながらも、ニヤリと口の端を上げた。


「ルイーゼから、この人が好きだと無理矢理に聞かされるたびに、悪い男だ。好きになるに値しない。偽りの優しさだ。腹黒い遊び人だ、って言ってきた。だが、信じてくれなかった。いい加減、信じてくれた?」

「めちゃくちゃに信じたよ! 大嫌いっ!! グーパンチしてやりたい!!」

「してもいいよ」

「え? あ、遠慮しておきます……さすがにそれは……」


 勢いで言葉にしてしまったが、グーパンチする勇気はない。私は今まで一度も、人を叩いたことがないのだ。

 私は言い過ぎたと反省しているというのに、ジュリシスは嬉しそうに表情を綻ばせた。


「さてと、ようやくルイーゼの目が覚めたということで。最後のカードを出して、終わらせたいと思う。エレナ先輩は『ウェルナーは渡した紙を読むと、驚いた顔をした。不正なことをしてはいけない。見なかったことにすると言って返された』と話した。ウェルナー先輩は、この発言に間違いはないと言った。そうですよね?」

「蒸し返すのか。いい加減にしてくれ。見なかったことにすると言ったくせに、見たと責めたいのだろう!」

「いいえ、違います。なにが書いてあるのか知るために、読むのは仕方のない行為。そこは責めません。僕が言いたいのは、エレナ先輩とリタが関与していない部分で、あなたは単独で不正行為をした。僕は、それを証明したい」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ