話が違う
私はパチパチと瞬きをすると、集まっている生徒たちを見回した。どの生徒も、理解できないといったポカーンとした顔をしている。
(そうだよね。ジュリシスの言っていること、わからないよね。なんで今の流れで、ウェルナー先輩が嘘つきになるの?)
ウェルナー先輩は探偵ごっこと揶揄したが、真相を明かそうとするジュリシスは探偵のようだと私も思う。
探偵はみんなの前で真相を解き明かすとき、まどろっこしい話し方をする。そうやって、論理的・心理的に犯人を追い詰めていくのだろう。
ジュリシスも、エレナ先輩に話を振った。なんとも焦ったい。
私は不満を抱えつつも、おとなしく行方を見守る。
「エレナ先輩。昨日の放課後のことを、話してくれませんか?」
「わかりました。──昨日の放課後。ウェルナーに声をかけられて、屋上に行きました。そこで、ジュリシスと勝負をすることを聞かされたのです。どうして私にそのような話をするのか不思議に思いました。戸惑う私にウェルナーは、冷たい態度をとって悪かったと謝罪しました。本当は、私のことを愛している。けれど、貴族という身分のために、庶民である私と一緒になることができない。叶うことのない愛に自分も苦しいのだと、ウェルナーは涙をこぼしました。私たちは本当は相思相愛なのに、身分という障害のために一緒になることができない。泣いた私を、ウェルナーは抱きしめてくれました」
「えっ? でも……」
反論しようとすると、ジュリシスが唇の前で人差し指を立てた。
──黙って聞いていて。と、ジュリシスの眼差しが訴えている。
私はしぶしぶ口を閉ざした。
(ウェルナー先輩は、エレナ先輩が好きなの? じゃあなんで、勝負しないといけないの?)
ウェルナー先輩は私を好きだから、ジュリシスと勝負するのだと思っていたのに……。
(はっきりと好きだって言われたわけじゃない。私の思い込みって言われれば、それまでだけど……。でも、私がどちらの誕生日パーティーに出るかで勝負するってなったら、好きなのかと勘違いしちゃうよ。……ん? 勘違い……!!)
ウェルナー先輩が私を好きだというのは、勘違い?
問題を盗み見たのは、エレナ先輩の勘違い?
勘違いが多い。けれどそれは、ウェルナー先輩が勘違いさせる言動をとっているからだ。
アメリアはウェルナー先輩のことを「損得勘定と下心で動いている腹黒人間」だと占った。
さすがは的中率百パーセントを誇る魔女だと、ひれ伏すしかない。
ウェルナー先輩の温かみのある優しい笑顔と親切な言動の裏には、損得勘定と下心があったのだ。
エレナ先輩は、床に落としていた視線をウェルナー先輩に向けた。
ウェルナー先輩はそれを、これ以上話したらタダじゃおかないと脅すかのような怖い顔で受け止めた。
エレナ先輩はビクッと肩を震えさせたものの、凛とした声音で話を続けた。
「ウェルナーは、問題を手に入れるよう頼んではいません。願望を口にした、それが真実です。それならなぜ、私は問題を手に入れようと考えたのかというと……。ジュリシスとの勝負に勝ったら、お祝いに二人で旅行に行こうと、ウェルナーが誘ってくれたからです。ウェルナーと二人で旅行に行ける。天にも昇る心地でした。すごく、嬉しかった」
涙声になったエレナ先輩。けれど、涙をこぼすことはしなかった。
「私はどうしてもウェルナーに勝ってほしくて、翌朝、図書室に行きました。メアリー先生から、どんな問題が出るか聞き出そうと思ったのです。そしたら……リタがいました」
「えっ?」
生徒たちから、驚きの声が出た。ウェルナー先輩も目を丸くしている。リタの名前が出てくるとは思いもしなかったのだろう。
メアリー先生が、ため息をついた。
「そうなのよ。リタは怒っていて、くだらない勝負をやめるよう抗議されたの。だけど、私が勝負をすると言ったわけじゃない。ウェルナーが勝負をしたいと言ったのだから彼に訴えなさい、と諭した。そしたら……」
メアリー先生はまたため息をつくと、痛ましそうにエレナ先輩を見た。
「エレナが聞いた話とは違ったのよね?」
「はい。私はウェルナーから、ジュリシスから勝負を挑まれたと聞かされた。それだけじゃない。ウェルナーの誕生日パーティーに行きたいと、ルイーゼが駄々をこねた。美術部の後輩を無下にするにはいかないと、ウェルナーは仕方なく招待状を渡した。それを、ジュリシスに見られてしまった。ジュリシスはシスコンだから激怒して、勝負しろと迫った。そう聞いていたのに……」
「違いますっ!! 私、誕生日パーティーに行きたいだなんて駄々をこねていません! ウェルナー先輩のほうから誘ってきたんです!」
たまらずに反論すると、エレナ先輩は瞳に涙を溜めたまま微笑んだ。
「そうみたいね。ジュリシスに直接聞いたの。ウェルナーはルイーゼを誕生日パーティーに誘いたくて、勝負を持ち出したそうね。私は、誕生日パーティーに誘われていないのに……。利用されているだけなのだと、そこで気づいた」
「エレナ、違うんだっ! わけを話す!」
近づこうとしたウェルナー先輩。エレナ先輩はメアリー先生の後ろに逃れると、叫んだ。
「もうなにも聞きたくない! リタが教えてくれたわ。ウェルナーは私のことを、頭の足りないアホ女だって笑っているって。攻略するのが簡単すぎて、物足りなかったって!」
「デタラメだ!! そんなことを言うわけがない。リタの言うことを間に受けるな。あいつは性格が悪いから……」
「私がなんですって?」
興奮しているエレナ先輩を宥めようと必死だったウェルナー先輩が、ピキンと固まった。
振り返った生徒たちは、自然と左右に分かれた。
左右に分かれた道の先に立っているのは、リタ。




