真相はどこに?
顔の火照りがおさまらないものの、あと数分で五時になるので、図書室に入った。
静かなはずの図書室がざわついている。
図書カウンターの前にできている人だかり。その人混みの向こうで、女性が叫んでいた。
「ウェルナーに頼まれて、メアリー先生の鞄を漁りました! クイズが書いてあるメモ帳を見つけて、写しました。この紙がそうです!」
(まさかっ!!)
集まっている生徒たちをかき分けて前に進み出ると、カウンター前にいたのは、ジュリシスとウェルナー先輩とメアリー先生、そしてエレナ先輩だった。
エレナ先輩は涙をこぼしながら、一枚のメモ紙を掲げている。
メアリー先生はそのメモ紙を受け取ると、紙に視線を走らせた。
先生が黙って読んでいる間、私は三人の様子を伺った。
ジュリシスは、我関せずといったクールな態度をとっている。けれど、私と目が合うと、ニヤリと口角を上げた。こうなることがわかっていたような、余裕のある表情。
それに対してウェルナー先輩は、顔がこわばっている。床の一点を見つめたまま、唇を動かしている。隣にいるジュリシスに話しかけているわけではないので、単なる独り言だろう。
メアリー先生に向き合っているエレナ先輩は、可哀想なほどに体が震えている。控えめな雰囲気に、優しげな顔立ち。繊細な声。
私はエレナ先輩の性格を知らないけれど、気の強い人ではないように思う。そういう人が、先生の鞄を漁ったと告白した。相当の勇気がいっただろう。
図書室には二十人ほどの生徒がいるのに、誰も声を発しない。緊張感のある静寂。
先生の反応を待つ、じりじりとした時が流れる。
メアリー先生は顔を上げると、困惑した目をエレナ先輩に向けた。
「この紙に書いてある十問すべて、私が考えた問題で間違いないわ。エレナ、ウェルナー・シュリンツに頼まれたというのは本当なの?」
「は……」
「違います!!」
エレナ先輩の声に被さるようにして大声を張りあげたのは、ウェルナー先輩。
ウェルナー先輩は図書室に集まっている人々を見回すと、張りのある声で訴えた。
「事前に問題を入手するために、メアリー先生の鞄を漁る? 私が、そのようなことを頼むわけがない。勝負することや、その相手がジュリシスであることをエレナに話した。だが、それだけだ。問題を盗み見るよう頼むなど、ありえない。エレナ。私は君に、先生の鞄を漁って問題を写してくれと言ったか?」
「……そこまでは言っていないけれど、でも……」
「なんだ? はっきりと言ってくれ。曖昧な言葉では、ここにいる者たちに疑われてしまう。でも、の続きは?」
「あなたは……どんな問題が出るかわかったらいいのにって……」
こわばっていたウェルナー先輩の表情が緩んだ。勝ち誇ったような笑みが、顔いっぱいに広がる。
「そういうことか。なるほど、わかったぞ。私は、問題が事前にわかったらいいのにと願望を口にした。それを、君は頼まれたと勘違いしたんだ」
まだ疑いの目で見ているメアリー先生と生徒たちに向かって、ウェルナー先輩は演説家のような堂々とした態度で両手を広げた。
「疑惑が晴れました。真相はこうです。私は、どんな問題が出るかわかったらいいのに……と願望を口にした。軽率であったことは認めます。けれど、ジュリシスという強敵に対して、多少の願望を口にすることぐらい許していただきたい。これに対してエレナは、間違った認識をしてしまった。私に頼まれたと勘違いしたのです」
「勘違い……」
「そうだ。君は優しい。私を助けようとしたんだね? その心遣いには感謝する。けれど私は、問題を盗み見るよう言っていない。不正行為を頼むわけないじゃないか。だが、君を責めはしない。勘違いさせてしまった私にも非はある」
ウェルナー先輩はメアリー先生に向き合うと、頭を下げた。
「先生。この度は、私たちの軽率な言動でご迷惑をおかけしました。誠心誠意、謝罪します。もう二度と、このようなことはいたしません。ですからどうか、私とエレナを許してください」
生徒たちの間から、感心したような声が漏れる。
ウェルナー先輩は立派だ。エレナ先輩を責めず、自分も悪かったと謝罪した。
けれど私は、顔面蒼白のエレナ先輩に同情を寄せた。
(ウェルナー先輩の役に立とうと思ってやったんだよね。そんなに好きなんだ……可哀想)
報われない恋の切なさに胸を痛めていると、私の隣にいるメガネ男子がボソッとこぼした。
「なんでエレナは、問題を盗んだって告白したんだろう? 黙っていればいいのに」
「はっ! そうだよね! なんでだろうね?」
メガネ男子に話しかけたのに、答えたのは、なぜかジュリシスだった。
「ウェルナー先輩が黙っているから、告発したんです」
無表情だったジュリシスの様子が変わった。まるで獲物を追い詰めるかのような鋭い眼差しをウェルナー先輩に送る。
「真相はまだ明かされていません。ウェルナー先輩、自首したらどうですか? エレナ先輩の優しさと愛情を利用して、問題をカンニングするよう誘導したと」
「はっ! なにを言うかと思ったら。君は私のことが相当に嫌いなようだね。探偵ごっこをして、私を犯人にするのはやめてくれ。迷惑だ」
「エレナ先輩。確認したいのですが、問題を写した紙をウェルナー先輩に渡しましたか?」
「はい。ウェルナーは読むと、驚いた顔をしました。それから、不正なことをしてはいけない。見なかったことにすると言って、返されました」
「さすが、エレナ! 正直に話してくれてありがとう。君は素晴らしい女性だ!」
エレナ先輩のおかげで、疑惑が晴れた。
ウェルナー先輩は、問題を不正に手に入れるのを望んでいなかった。問題を渡されても、喜ばなかった。
状況はウェルナー先輩に有利なのに、ジュリシスには怯む様子が見られない。
「エレナ先輩は、あなたを庇うために嘘をついたのでは?」
「疑り深いな。嘘じゃない。本当のことだ!」
「エレナ先輩は『ウェルナーは読むと、驚いた顔をした。不正なことをしてはいけない。見なかったことにすると言って返された』と話した。ウェルナー先輩に確認したいのですが、この発言に間違いはないですか?」
「あぁ、探偵さん、本当だ。これでもういいだろう? 茶番劇に付き合っていられない」
「二人の証言ではっきりしました。エレナ先輩が嘘をついていないのなら、嘘つきはウェルナー先輩、あなただ。勝負に勝つために、不正な行為をした」




