冷めてしまった恋心
困惑していると、アメリアにいきなり両頬を掴まれた。左右に引っ張られる。
「うひゃっ!?」
「あなたが優柔不断だから、男二人が争っているんでしょう! それなのに、巻き込まれていますって顔をするな!」
「優柔不断って、にゃんの話ですかぁ〜!」
「どっちの誕生日パーティーに出るか、はっきりと言わなかった件。それと、二人からどう思っているか聞かれて『二人とも良いところがあって、素敵だよ』と答えた件。これを優柔不断と言わずして、なんという!!」
両頬をピンっと引っ張られた末に、ようやく解放された。
私はヒリヒリと痛む頬をさすりながら、涙目で訴える。
「なんで、会話まで知っているんですか? 水晶って、声も聞けるんですか?」
「そうよ」
「怖い……。どこまで知っているんですか? まさか、ゴミ置き場の出来事は、盗み聞きしていないですよね?」
「私は人気のある魔女なのよ。舞い込んでくる依頼で忙しいの。あなたのことばかり、かまっていられないわ」
アメリアは、二杯目の赤ワインに口をつけた。
バーのおじさんは親切にも、ナッツを出してくれた。私はそのナッツを齧りながら、用務員のおじさんに見られたかもしれない抱擁を、アメリアには知られなくて良かったと胸を撫で下ろした。
しかし……。
「ゴミ置き場のことは知らないけれど、空き教室のことは見たわ。弟さんに首筋にキスされて、どうだった? ドキドキした?」
「ぶっ!!」
咀嚼中だったナッツを吹き出してしまった。
アメリアは汚いものを見る嫌な顔をしたが、私だって嫌な顔をしたい。
「覗かないでください!」
「私、禁断の関係が好きなの。義理の姉と弟が一線を超える瞬間を見届けたいの。わかってくれるわよね?」
「わからないです! っていうか、悪趣味ですっ!!」
なんて魔女だとぷりぷり怒っていると、綺麗な赤色の飲み物が目の前に置かれた。
「ラズベリージュースだ。これでも飲んで、落ち着いて」
「ありがとうございます!」
バーのおじさんは優しいが、アメリアは優しくない。にやにやとした目で、質問攻めにしてくる。
「弟さんと先輩、どっちのパーティーに行きたい?」
「わからないです」
「わからなくないでしょう? 言いなさいよ」
「うーん……先輩かな。部活でお世話になっているし、ジュリシスの誕生日は、来月だし」
「自分が変なことを言っているのに、気がついている?」
「変? なにがですか?」
「部活でお世話になっているから行くの? 好きだからという理由じゃないのは、どうして? あなたは先輩との恋愛を占ってほしくて、私の店に来た。それなのに、今日は先輩を好きだと言わないのね」
私はそれまでアメリアのほうを見ながら話していたのだけれど、体勢を正面に戻した。
これ以上質問してほしくないのに、アメリアは容赦ない。
「自分でも気がついているんでしょう? 先輩への恋心が冷めていることに」
「…………」
私は息を止め、それからゆっくりと吐き出した。アメリアに嘘をついても意味がない。
「はい……。薄情ですよね。少し嫌なところが見えたぐらいで、冷めるなんて……」
「私には最初からわかっていたわ。あなたは、理想を見ていた。学園長の息子なのに偉ぶったところのない、親切で優しい人。公平で、大人で、紳士。なんでも出来る完璧な人。そう、思っていたのよね。でも、先輩の本質はそうじゃなかった。早めに気がついて正解よ。そうじゃなかったら、取り返しのつかないことになっていた。あなたを手元に置くために、卑怯な手を使う人だから」
「卑怯? そんな人じゃないと思うけれど……」
「あなたって、本当に人を見る目がないのね。先輩はあなたを手に入れるために、卑怯な手を使ってくる。気をつけなさい」




