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うっかりかけてしまった惚れ薬のせいで、義弟から責任をとるよう迫られています  作者: 遊井そわ香
第三章 惚れ薬二日目。火花バチバチのライバル対決
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ようやく会えたけれど

 おじさんの後に続いて勝手口から外に出ると、金色の瞳をした毛並みの綺麗な黒猫が寄ってきて、おじさんの足に頭を擦りつけた。

 バーの建物と魔女の店の建物の間には狭い通路があって、勝手口はその通路に面していた。

 

「あ、その猫……アメリアの店に入ったときに、テーブルの下で寝ていた猫だ」

「セーラっていう名前なんだ。セーラ、お腹が空いているかい?」

「にゃおん」


 おじさんは店内に引き返すと、皿に乗せた魚を持ってきた。

 お行儀良くちょこんと座っている、セーラ。おじさんが自分の前に皿を置くのを見届けてから、魚を食べ始めた。


「がっつかないで、上品に食べるね」

「そうなんだ。賢い猫なんだよ。人間の言葉がわかるんじゃないかと思うときがある。あ、だったら……」

「なに?」


 おじさんは私に笑顔を向けてから、アメリアの店が入っている建物に目をやった。


「アメリアに会えるよう、セーラに頼んでみるのはどうだろう? 愛猫の頼みなら、アメリアも折れてくれるんじゃないかな」

「猫に頼む? そんなことできるの?」

「とりあえずやってみよう。さっきおじさんに話したことを、セーラにも話してごらん」


 猫と会話するなんて変な話だけれど、魔女の飼い猫なら、人間の言葉がわかるというのも不思議ではないのかもしれない。


「そうだね。セーラを人質にするよりいいよね」

「なっ!? 人質は絶対にダメだっ!!」

「やっぱり、人質って変だよね。この場合、猫質(ねこじち)って言うべき?」

「そこじゃなくて! もしセーラに危害を加えたら、アメリアに半殺しにされるぞ!」

「やぁね。半殺しなんて生ぬるいことしないわよ。私の可愛いセーラを傷つけたら、この世から消してあげる」

「アメリア!?」


 占いの店の窓から、アメリアが顔を出した。

 アメリアは頭に紫色のベールを被っており、その上から、アメシストがついた鎖を巻いている。額に垂れているアメシストが、夕日に照らされてキラリと光った。

 

「あら? あなたは確か、ルイーゼよね? 私の猫になにするつもり?」  

「ななななななっ、なにも!! なにもしません!! 可愛いって見ているだけです!!」


 アメリアの真っ赤な唇は綺麗に笑っているし、声も朗らかだが、目に不穏な光が宿っている。

 本気で猫を人質にするつもりなんてなかったけれど、アメリアには冗談が通じない気がして、私は身震いした。


「猫大好きなんで! 傷つけるつもりはないです!!」

「ま、今回は大目に見てあげるわ。じゃ、さようなら」

「待ってください!!」


 窓を閉めようとする、アメリア。私は急いで駆け寄ると、窓枠に手をかけた。


「相談したいことがあるんです! まず、占ってもらった日の帰り。紫色の瓶の中身を、間違って弟にかけちゃったんです! そこから弟が変になって、意地悪だったのに突然……」

「知っているわ。水晶で見ていたから」

「え?」

 

 目を丸くする私に、アメリアはクスクスと笑った。今度は目も笑っている。


「客のアフターフォローってやつよ。私は親切で優しい魔女ですから」

「だったら教えてください! 私はこれから、どうしたらいいんですか?」


 なぜか、アメリアはきょとんとした。私の質問が、よほど意外だったらしい。


「私はどうしたらいいですか、って、どういうこと? 弟さんに、瓶の中身をかけたんでしょう? 予定どおりだわ。私の占いによると、弟さんは警戒心が強く、あなたをそんなに信用していない。ルイーゼが『体に良い薬なの』と言ったところで、飲まない。そういうワケで、蓋が外れやすい瓶を渡したの。あなたのおっちょこちょいな性格を利用して、強制的に飲ませるためにね」

「そうだったんですか……」

「すべて予定通りに進んでいるのだから、どうもしなくていいわよ。流れに身を任せればいいだけ」


 アメリアがキッパリと言うものだから、思わず頷いてしまいそうになった。


「いやいや、流れに身を任せたら危険です!! 占いで話していたヤンデレくんって、ジュリシスですよね!?」

「ジュリシスって、誰?」

「私の弟です!」

「へぇー、ジュリシスって名前なんだ。そうよ。あなたの弟さんが、素敵なヤンデレくん。もしかして私に会いに来たのは、ヤンデレ監禁ルートに進みたくなったとか? いいわよ。今からでも遅くないから、その方法を教えてあげる」

「結構ですっ!!」


 アメリアは好きな人を思い浮かべているかのような、うっとりとした顔をしている。

 やたらとヤンデレ監禁ルートを押してくるのは、私をからかっているわけではなく、単にアメリアがヤンデレ好きだからだろう。


「私は自由を愛する女なので、ヤンデレルートはお断りします!! あなたに会いに来たのは、男子が私に近づかないよう、ジュリシスが妨害しているみたいで。その相談に来たんです!!」

「前回は初回割引で安くしてあげたけれど、二回目以降は正規の料金を取るわよ。お金、持って来たんでしょうね?」

「え、あ、はい。少しは……」


 アメリアは窓枠に片肘をつくと、手のひらに頬を乗せた。うんざりしているような吐息をつく。


「あのねぇ、私は有能な魔女なのよ。少しの金で相談になんか乗らないわ。店に入れないことを腹立たしく思っているでしょうが、金のない人間は、客じゃない。よって、店にいれない。店に入りたかったら、両ポケットに金貨をどっさり入れてくることね」


 アメリアの店の扉が開かないワケがわかった。でも、おかしな点に気づく。


「さっき、親切で優しい魔女だって言いましたよね? 客のアフターフォローをしているって。だったら、安い値段で相談に乗ってくれても……」

「私の言うアフターフォローって、格安料金で相談に乗ることじゃないの。値段は絶対に下げない。ケチな人間は嫌いよ。アフターフォローについては、そのうちわかるわよ。私が親切で優しい魔女だってこともね」


 学生の身分では、金貨をどっさり払うことはできない。

 私の諦めが伝わったのか、アメリアは頬杖をつくのをやめると、窓を閉めようとした。

 


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