表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うっかりかけてしまった惚れ薬のせいで、義弟から責任をとるよう迫られています  作者: 遊井そわ香
第三章 惚れ薬二日目。火花バチバチのライバル対決
25/45

アメリアの店に入るには……

(私は、どうしたらいいの? どっちの未来もイヤなんだけれど!!)


 立ち止まった私に、ジュリシスは優しい微笑を浮かべた。


「心配しなくて大丈夫。絶対に勝つから」


 私はジュリシスがヤンデレであることに動揺しているのだが、それは言わないでおく。


「今までだって、ルイーゼに近づく男たちを排除してきた。今度だって、ヤツを撃退し、完全勝利してみせる。メアリー先生に、僕が読んだことのない本から出題してもらうように誘導したのは、あいつに文句を言わせないため。上から目線で、読んだ本からクイズが出たんだから勝つのは当たり前だなんて、いちゃもんをつけられたくない。文句を言わせない勝ち方をしてみせる! あ、そうだ。先生に事前に問題を教えてもらったんじゃないかと、言いがかりをつけてくる可能性だってある。明日はクラスメートと行動して、身の潔白を証明するとしよう」

「え、あの、待って。私に近づく男たちを排除してきた……?」

「僕の使命は、マイ・スイートハニーラブプリンセス・ルイーゼを守ることなので」

「あだ名、長くなっていない? マイ・スイートラブプリンセスじゃなかったっけ?」

「甘さが足りないので、ハニーを付け加えてみました」


 なんとも糖分の高いあだ名である。

 砂糖五杯分入ったミルクティーに、さらにハチミツが加わったデロデロの甘さだね。そう、言おうとしてやめた。

 余計なことを言って、シュガーまで加わったら困る。マイ・スイートシュガーハニーラブプリンセスなんて、長すぎる。


 糖分の高いあだ名を口にしたせいか、ジュリシスに甘い雰囲気が戻ってきた。糖度に見合った、甘い眼差しで見つめられる。

 けれど、私はそれどころじゃない。「近づく男たちを排除してきた」という聞き捨てならないセリフで、頭がいっぱい。

 自分で言うのもなんだが、私は可愛い顔をしていると思うのに、彼氏がいたことがない。告白もされたことがない。

 ようやく、その理由がわかった。ジュリシスが妨害していたのである。

 

(守ってほしいなんて、頼んでいないのに! でも、危なっかしい私を心配してくれているんだよね。余計なことをしないで、なんて言ったら、意地悪だよね。どうしたらいいのかな……あっ、そうだ!!)


 頭に浮かんだのは、紫色のベールを被った美しい魔女アメリア。彼女なら、いいアドバイスをくれるだろう。


「先に家に帰っているから!」

「はい。僕も、時間を有効に使いたい。一冊でも多く本を読んで、明日のクイズに……」

「また家でっ!」


 急いで、来た道を引き返す。


「お姉さん! 寄り道をせずに、まっすぐ家に帰ってください」


 背中にかけられた声に咄嗟に「うん!と答えたものの、まっすぐに家に帰る気はない。

 五分ほど走ったところで右の道に入り、魔女の店へと向かう。


「今度こそ絶対に、アメリアに会わなくちゃ!」


 

 ◇◆◇◆



 洗練された店が並んでいる表通りとは違い、裏通りにある店はどれも年季が入った古い作りをしている。蔦の這う煉瓦作りの建物。サビの浮いた看板。

 それぞれの店にいる人たちは、談笑していたり、カードゲームで盛り上がっていたり、居眠りしていたり。

 華やかな表通りにはない、おおらかでほのぼのとした雰囲気が裏通りにはある。


 私は魔女の店の前に立つと、突き出し看板を見上げた。描かれているのは、金色に輝く三日月のような瞳の黒猫。

 アメリアの店で間違いない。


 樫の木の扉をトントンと叩く。反応がない。次に、ドンドンと叩く。反応がない。

 深呼吸を三度し、扉の取っ手に指をかける。


「開きますよーに!!」


 取っ手を引くが、開かない。押しても、開かない。扉を横に滑らすこともできない。


「なんで開かないのー!! 乙女の大ピンチなんです! 開けてっ!!」

「おや? お嬢ちゃんは……」


 助けを求めながら扉を押したり引いたりしていると、のんびりした声が左側から聞こえた。

 見ると、寂れたバーの前に髭のおじさんがいる。

 以前、「アメリアは気まぐれなんですよ。客を店に入れたり拒んだりする」と教えてくれた人だ。


「あっ、ちょうどいいところに!! 私、とっても困っているんです! どうしてもアメリアに会わないといけないんです。それなのに、開かないんです。こうなったら、力づくでぶち破ります! 斧を貸してください!」

「斧っ!? 木こりじゃないから、斧は持っていないな……」


 おじさんは困り顔で、シルバーグレーの髪を掻いた。


「じゃあ、ノコギリでもいいです」

「ノコギリもないよ。うち、大工じゃないし」

「じゃあ、なにがあるんですか? 特大ハンマー?」

「ちょっと落ち着こう。飲み物を奢るから、店においで」


 アメリアの店に入れないなら、他にできることといえば情報収集。

 おじさんに話を聞くべく、バーに入った。店内は古びているが、懐かしさを感じさせる落ち着いた空間だ。


「いいお店ですね。常連客がたくさんいそう」

「ありがとう。なに飲みたい?」

「お水がいいです。走ってきたから、喉が乾いちゃった」


 おじさんは水と一緒に、オレンジジュースを出してくれた。いい人だ。

 私は水とオレンジジュースを交互に飲みながら、弟に魔女の惚れ薬をかけてしまったこと。さらには、それに続いて起こったことを話した。

 

「母は三日で切れるって言ったから、明日の夕方には効果が切れると思うんです。だからそこは心配していないんですけれど、問題は、弟がヤンデレの素質があるってことです。腕一本になっても愛せるなんて言うんです!!」

「ほぉ〜、なかなかに過激な発言だね。でも、そこまで人を愛せるというのは逆にすごいというか……おっ?」

「にゃお〜ん」


 どこかで、猫が鳴いた。

 店内に視線を走らせて猫を探していると、おじさんはカウンターの奥にある勝手口へと向かった。


「アメリアが飼っている猫だよ。おじさんは猫が好きだから、ご飯をあげているんだ。アメリアもあげてくれって言うし。今ではすっかり懐かれて、毎日店に来るってわけさ」

「アメリアの猫……」


 猫に罪はないけれど……。アメリアの猫を人質にとって、占いの店に入れてくれるよう、脅すっていうのはどうだろう?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ