表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うっかりかけてしまった惚れ薬のせいで、義弟から責任をとるよう迫られています  作者: 遊井そわ香
第三章 惚れ薬二日目。火花バチバチのライバル対決
24/45

君がヤンデレくんなの!?

 ジュリシスは足早に学校を出ると、家とは違う方向へと歩いていく。


「どこに行くの?」

「国立図書館に行って、本を読みます。お姉さんは先に家に帰って、試験勉強をしてください」

「でも……」


 試験が始まるまで一週間ない。けれど、明後日は週末。週末にガツンと勉強を頑張ればいい。

 そういうわけで、私は走ってジュリシスの隣に並んだ。


「私も行く!」

「来なくていいです。お姉さんはあまり頭が良くないんですから、試験勉強をしてください」

「大丈夫! 一度も赤点を取ったことないもん」

「だけど、いつも平均点ぎりぎりですよね?」

「うん。いい感じだよね!」

「どこが? なんで平均の点数で満足しているのか、意味がわからないんですけれど」

「普通でいいんだって! っていうか……ハァハァ……歩くの早すぎ!!」


 ジュリシスは股下が長い。脚が長いのはかっこいいが、小走りになっている私を気にかけてほしいものである。これでは、国立図書館に着く頃にはヘロヘロに伸びてしまう。

 酸素を求めてハァハァ言っている私。ジュリシスはニヤリと口角を上げると、歩く速度を早めた。


「な、なんでっ!?」

「なんかわからないけれど、意地悪したくなった」

「あのねぇ! まったくもぅ! お姉さんに優しくしてくださーい!」

「ルイーゼが大好きなのに、なんで意地悪したくなっちゃうんだろう? 不思議な心理。意地悪ついでに言うと、息が苦しいなら、あのねぇ、まったくもう、という余計なことは言わなくていいのに。エネルギーの無駄使い」


 なんて弟だ。惚れ薬の効果が切れていないのに、意地悪と嫌味は健在だなんて……。


(ん? それとも、惚れ薬の効果が薄れてきているとか?)


 確かめるべく、ジュリシスの腕に両手を絡ませる。


「意地悪すると、スイートラブプリンセス・ルイーゼが泣いちゃうぞ!」

「はっ!!」


 ジュリシスは足を止めると、私の目元に触れた。泣いていないことを確認して安心したのか、吐息とともに表情を緩めた。


「ルイーゼ姫を守るという役目があるのに、僕はなんて至らない男なんだ。精神が未熟で情けない。どうやったら償うことができる? 国立図書館までお姫様抱っこしようか?」

「自分の足で歩けるから大丈夫でーす! ゆっくり歩いてくれればいいから」

「わかった」


 ジュリシスの腕に絡めた両手を外そうとしたが、ジュリシスが手を重ねてきたので腕組みが解けない。

 文句を言おうとし……言葉が引っ込んだ。


(怖いぐらいに、真剣な顔をしている……)


 ルイーゼ姫と呼んだり、お姫様抱っこしようかと提案したり。惚れ薬の効果は、薄れていないように思う。

 それなのに、甘い雰囲気がない。


「どうしたの? 緊張している?」

「うん、まぁ……。相手が、ウェルナー先輩だから」

「そっか。先輩もいろんな本を読んでいるだろうし。特に美術史に詳しいから、そこから問題を出されたら厄介だよね」

「そこは気にしていない。メアリー先生は、バランスのいい人だ。僕と先輩の得意分野を、サービス問題として一問ずつ出すだろう。つまり、僕の得意分野である経済から一問、先輩の得意分野である美術史から一問。あとの八問は、各分野から一問ずつ出題されると予想する。そうすると、知識の広い僕が圧倒的に有利」

「へぇー。良かったね」

「そのうえで僕は、メアリー先生に『僕の読んだことのない本からクイズを出してください』と誘導した」

「そう、そこ!! なんでそんなことを言ったの? 読んだことのある本から問題が出たほうがいいのに」

「ルイーゼの人生がかかっているから」

「ん? 私の?」


 ジュリシスが歩き出したため、自然と腕組みが解かれる。

 私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれるのは嬉しいけれど、甘い雰囲気が戻ってきたわけではない。依然として、ピリッとした緊張感ある空気が漂っている。


「ウェルナー先輩は、親が決めた相手と結婚するだろう。ルイーゼのことは、愛人にしようと企んでいると思う」

「うぇっ!?」


 愛人という不穏な単語は、アメリアの占いに繋がる。


(アメリアはなんて言ったっけ? えぇっと……)


 必死に頭を働かせて、記憶を呼び戻す。

 確かアメリアは、ウェルナー先輩は卒業後、親から婚約者をあてがわれる。相手は、伯爵令嬢。でも、ルイーゼなら先輩の愛人になれる。

 そう話していた。


「愛人なんて嫌だっ!!」

「本当?」

「私は純愛派だから、清い交際がしたいの!」

「それを聞いて安心した」


 ジュリシスは笑顔を見せた。けれど、心から笑っているものではない。

 口元だけの笑顔と、悪いことを考えていそうな危険な瞳。


「ウェルナー先輩が好きだから愛人でもいいと言ったなら、田舎に家を借りて、監禁するかも」

「ええぇぇぇーーーっ!!」


 ジュリシスの口から、とんでもない発言が飛び出した。


 監禁というヤバい単語は、またまたアメリアの占いに繋がる。

 アメリアは、私の未来は大きく二つに分かれていると話していた。

 一つは、ウェルナー先輩の愛人。もう一つは、ヤンデレ愛が暴走した成れの果ての監禁。


(まさか……ジュリシスが、ヤンデレくんなの!?)


 どちらの誕生日パーティーに参加してもいいと気楽に構えていたけれど、もしかしたら私は今、人生の分岐点に立っているのかもしれない。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ