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私は私であることに変わりはない

 リタは私たちが黙ったのを確認すると、ツンとしていた表情を和らげた。


「明日のパーティーは、室内プールのある豪邸で行われるの。私、セクシーな水着を着て、ジュリシスを誘惑する作戦よ。それと、お酒を飲ませて……ふふっ。協力してくれるわよね」

「ジュリシスは、まだ十五歳です。お酒は飲めません」

「いいじゃない、別に」

「よくないです。ジュリシスはきっちりとした性格だから、お酒を渡したら、冷たい目で見られると思う。嫌われちゃうかも。それと、水着での誘惑もやめたほうがいいです。あの人、軽い女性は嫌いだと思う」

「私を軽い女だって言うの!!」

「違いますっ! リタじゃなくて、ジュリシスの好みを言っただけで……」


 私は恋の協力をするために、ジュリシスが嫌がることはやめたほうがいいと親切心から話しただけ。だが、リタの機嫌を損ねてしまった。

 ミリアが、慌てて仲裁に入る。


「言葉って難しいよね! ルイーゼはジュリシスの好みを話しただけで、リタを否定する気はまったくなかったんだよね。わかるよ。でもね、謝ったほうがいいよ!」

「えっとー……、すみませんでした。でも、ジュリシスは……」

「ストップ! 続きはいらない!」


 ミリアは必死の形相で止めに入り、取り巻き女子三人組はハラハラしながら私たちを見ている。

 リタは艶やかな黒髪を後ろに払うと、唇に微笑を乗せた。けれど、目はちっとも笑っていない。


「でも、の続きを聞きたいわ。ミリア、止めないで」

「でも、ルイーゼは天然なところがあるから……空気を読めないっていうか……」

「空気を読めないなんて、上等じゃない。私に歯向かうなんて、身の程知らずだわ。ルイーゼ、続きを言いなさい。聞いてあげる」


 ミリアと取り巻き女子三人組は、青ざめた顔でブルブルと震えている。

 

(私、歯向かっていないんだけれど?)


 ノーラとの友達関係は、春うららのお花畑で花の冠を編むようなのんびりとしたもの。平和でのどかで、幸せ。

 リタの顔色を伺っているミリアたちに(気を遣って大変ですね)と、同情する。


 私は、この場を丸くおさめるために心にもないことを言おうかと少し迷った。たとえば、リタの水着姿をジュリシスは喜びますよとか。

 けれどそれでは、ジュリシスを彼氏にできない。リタの立てた作戦は間違っている。

 私は覚悟を決めると、リタをまっすぐに見た。


「歯向かってもいないし、身の程も弁えています。リタが協力してって頼んできたから、アドバイスしているだけです。私はジュリシスの姉だから、みんなよりもジュリシスの好みを知っています。ジュリシスの好きな女性のタイプは知らないけれど、でも、セクシーな水着を着て誘惑する人じゃないことぐらいわかる。お酒もそうです。別な作戦に変えたほうがいいです」

「たとえば?」

「ジュリシスは知性が刺激されるものが好きだから、図書館デートとか、博物館デートとか、講演会デートとか」

「なにそれ。最悪。つまらない」


 リタは私の前に立つと、腕組みをしたまま見下ろしてきた。

 女王様的威圧感に、私は一歩引いた。


「私に意見するなんて、あなた何様なの? 私より自分のほうが偉いと思っているわけ?」

「思っていないし、何様でもないです」

「気分が悪いわ。謝って」

「間違ったことは言っていないと思うんですけれど……」

「私に嫌われたら、どうなるかわかっている? 五軍に落ちるのよ。存在する価値のない、くだらない生徒の仲間入りってわけ」

「三軍でも五軍でも、どっちでもいいです。私は私であることに変わりはないんで」

「変な人。私は嫌だわ」

「もし、リタになにかあって五軍に落ちたとしても、グロリス学園の女王様であることに変わりはないと思う。リタほどのオーラを持った人、見たことがないし」


 思っていることをそのまま口にしただけなのに、リタは驚いたようで目を大きく見開いた。


「もしも私が伯爵令嬢じゃなくなったとしても、変わらないというわけ?」

「そうですけれど。さっき、リタも言っていましたよね。貴族です、って首からプレートを下げて歩いたりしない。街を歩くぶんには、貴族とか平民とか関係ない。身分より、見た目のいい才能ある人が好きだって。リタの、人の注目を集めるカリスマ的オーラは誰にも真似できない。天賦の才能だと思う」


 リタは、嬉しそうな困ったような恥ずかしいような、はっきりとしない微妙な表情をした。

 体を横に向けると、顔だけを私に向けた。


「さすが、ジュリシスの姉ね。私に意見するなんて、生意気」

「すみません」

「……許してあげる。その代わり、好みの女性のタイプを聞いてきて! これは命令よ!!」

「あ、はい。わかりました」

「平民相手に譲歩するなんて初めて。屈辱だわ。でも、私を褒めてくれたから許してあげる」


 リタの口ぶりはぷりぷりと怒っているが、拗ねている表情が可愛らしい。

 彼女はプライドがものすごく高いだけで、性格はそこまで悪くないのかもしれない。


 話は終わったらしい。リタが背中を向けた。

 緊張が抜け、疲労がどっと襲ってきた。


(ふぅー、どうにか切り抜けることができた。頑張ったー! あ、言っておかないと!)


 取り巻き女子三人組に言わないといけないことがある。

 私は、三人の前に立った。


「ノーラはおとなしいから目立たないかもしれないけれど、一緒にいると、いいところがいっぱい見えてくる。私の大好きで大切な友達だから、悪く言ってほしくない。それと、一軍とか三軍の階級制度って、一部の人たちが勝手にリスト化したものだよね? それに振り回されるのって、どうかと思うよ。もっと自由で楽しい学校生活を送ろうよ」


 三人は顔を見合わせると、困ったように視線を泳がせた。

 女子ばかりの空間に、おおらかな男性の声が飛び込んできた。


「すごいなぁ、ルイーゼは。リタ、負けたね」


 突然の乱入者に、私もリタもミリアも三人組も、驚きを隠せなかった。

 貯水槽の後ろから現れたのは──ウェルナー先輩。

 



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