表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/45

あやしい魔女の店

「ここが魔女の店かな?」


 クラスメートが書いてくれた地図を頼りに、歩いてきた。

 華やかな店が並ぶ表通りとは違い、裏通りは年季の入った古い建物が多い。


「バーの隣だから、合っていると思うんだけど……」


 いまいち自信が持てないのは、看板に魔女の店だと書いていないから。

 レンガ造りの建物から突き出している看板には、三日月みたいな瞳をした黒猫の絵が描いてある。

 店を教えてくれたクラスメートのミリアが言うには、この黒猫の看板こそ、魔女の店である証……らしい。


 私は、おそるおそるドアノブに手をかけた。古ぼけた木の扉を手前に引く。

 ドアチャイムはなく、店内はひっそりと静まり返っている。


「こんにちは。魔女の占いの店って、ここですか?」


 カーテンが閉じているため室内は薄暗く、暖炉の前に置いてある揺り椅子には誰も座っていない。

 人の気配がしない。


「あのー……誰もいないんですか?」

「にゃあ〜」

「わっ!?」


 まさか、返事が猫語でくるとは思ってもいなかった。

 猫の鳴き声がしたほうに視線を下げると、テーブルの下に黒猫が寝そべっている。

 私はしゃがみ込むと、体の毛を舐めている黒猫に話しかけた。


「キミが魔女さん?」

「にゃ」

「ふふっ。そんなわけないよね。ねぇ、魔女さんはどこにいるの?」

「ここにいるわよ」

「わあっ!?」


 今度は猫でなく、人間語。びっくりして、お尻を床に打ちつけてしまった。


「うー、イタタ……」

「そんなに驚くことないじゃない」


 キシ、キシ……。


 椅子が揺れる。

 さっき、私はこの目で見た。暖炉の前に置いてある揺り椅子には、誰も座っていなかった。それなのにいつの間にか、綺麗な顔をした女性が座っている。

 さすがは魔女の店。驚くことばかりだ。

 私は目を擦ると、魔女を観察した。

 魔女は、紫色のロングドレスを着た二十代半ばぐらいの女性。頭に紫色のベールを被っており、その上からアメシストのネックレスを巻いているのがおしゃれ。


「あの、さっきはいませんでしたよね?」

「そう? ところで、なんの用?」

「はい! 占いをしてもらえるって聞いて来ました。すごく良く当たるって」

「そうよ。私の占いは、的中率百パーセントなの」

「えっ? すごい!!」


 的中率百パーセントにまたまた驚いていると、魔女は鈴が鳴るような綺麗な笑い声をあげた。


 魔女の店を教えてくれたクラスメートのミリアは、

「若くて綺麗な魔女なんだけれど、嫌な女なの。彼氏が欲しかったら、計算高い性格を直せって言うのよ。ま、そこは自分でも認めるけどね。でも、これは許せない。ジュリシスは諦めろ。アダムと付き合えって言うのよ! なんでおしゃれな私が、ダサいメガネ男と付き合わないといけないのよ。ふざけている!!」

 そう、激怒していた。


(的中率百パーセントということは、ミリアとアダムが付き合うっていうのも当たるのかな? ファッションリーダーのミリアと、真面目な学級委員長が付き合うって、想像できないけれど……)



 私と魔女は、テーブルについた。

 丸いテーブルの中央に置かれているのは、紫色の台座に乗った大きな水晶。覗き込んでみたが、なにも見えない。


「目が寄っている。あなた、おもしろい顔をしているわよ」

「あ、すみません」


 恥ずかしくなってモジモジしていると、魔女は真っ赤な唇に笑みを乗せた。


「私の名前は、アメリア。占いだけでなく、薬草作りとか、呪術とか。いろんな商売をしているの」

「そうなんですね。私は、ルイーゼ・べルナーシって言います。グロリス学園高等部の一年生です」

「で、今日はなにを占ってほしくて来たの?」


 恋愛相談は友達に散々してきたけれど、占い師に相談するのは初めて。私はドキドキしながら、好きな人のことを話す。


「同じ学校の先輩が好きなんです。三年生で、名前はウェルナー・シュリンツ先輩。すごいことに、学園長の息子なんです」

「別にすごくはないんじゃない? この国には学校が四万校ぐらいあるんだから。学園長の息子なんて、そこらじゅうにいるわよ」

「そう言われてしまうと……。あ、そうそう! 貴族なんです! シュリンツ伯爵家の長男なんです!!」

「私、貴族って嫌いなのよね。血統を自慢する割には、人間性が薄っぺらくて。大事なのは血液や遺伝子ではなく、その人がどう生きるかだと思わない?」

「あー……はい……」


 ミリアが「嫌な女」だと言っていたのも頷ける。アメリアは毒舌だ。

 占ってもらうのが怖くなって、私は黙り込んだ。

 アメリアは水晶に手をかざすと、「こいつか……」と、苦々しげにつぶやいた。


「私の好きなタイプじゃないわ。ルイーゼは、この人のどこを好きになったの?」

「あー……私は好みのタイプです。上流貴族らしい上品な顔をしているし、優雅だし。私、美術部なんです。ウェルナー先輩は美術部の部長で、それで仲良くなったんです。優しいし、親切だし、紳士だし。勉強もスポーツもできる、完璧な人なんです」


 ウェルナー先輩のことを話すと、体温が上がる。顔が真っ赤になっているだろうな、と恥ずかしくなっていると、アメリアが目頭を指先で押さえた。


「あー、ごめんなさい。高等部の一年生っていうと、十五歳?」

「いえ、十六歳です。誕生日を迎えたので」

「若いからしょうがないとは思うけれど。このウェルナーっていう人、見た目と中身が全然違うわよ。優しくないし、親切でも、紳士でもない。勉強とスポーツはできるでしょうけれど、完璧人間ではない。信じるか信じないかはあなた次第だけれど、この人、損得勘定と下心で動いている腹黒人間よ。ま、世の中には、悪い男が好きだという女がいるから。そういう人にはピッタリだと思うけれど」

「そんなぁ!」


 新入生のための部活動紹介。美術部部長として演壇に立ったウェルナー先輩に、私は一目惚れした。

 私は絵を描くのが好きだから、速攻入部した。たいして実力もない私に、ウェルナー先輩は親切に指導してくれた。

 そんな人が、腹黒人間?

  


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ