表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

09.暴発

 あんな大変な状況の中でも、あたしのことを気にかけてくれてたんだ。いくらゲームだと思っていたって、モンスターとのバトル中にあたしのことなんか、構ってる余裕はないはずでしょ。それなのに……嬉しい。

 はからずもクリスに大切に想われていることを知って、マリアは今だけリートに少しばかり感謝した。

 あんなことがなければ、普通に遊園地で遊んで帰るだけだった。クリスからこんな言葉を聞くことは、まずなかっただろう。

 そう考えれば、悪いことばかりではない。

「どうかした?」

 急に黙ってしまったマリアの顔を、クリスが覗き込む。ふいに目が合ってしまって、マリアは赤くなってしまった。

 普段の学校では、差し向かいでしゃべっているのに。唐突に目が合うと、妙に照れてしまう。

「あ、何でもないの。あの、えっと……」

 何でもないと言いながら、しっかりしゃべれていない。

「そ、そうだ、ゲームしない? あそこのゲームコーナー、勝てばぬいぐるみがもらえるの。かわいいライオンのぬいぐるみがあるんだけど、前に来た時は取れなかったのよね。取って」

 あたし、何言ってるのかしら……。

 恥ずかしくてつい思い付くまま口にしたが、内容がまるで親にせがむ子どもみたいになってしまい、もっと恥ずかしくなってしまう。

 高校生なんだから、彼にねだるのって普通はぬいぐるみじゃなくてアクセサリーとかよね。

「ライオン? そのぬいぐるみがほしいの?」

 一方、クリスはそんなマリアの様子をあまり気にしてない。

 マリアは自覚していないようだが、クリスはマリアのころころ変わる表情が好きなのだ。見ていて楽しいから。

「う、うん。そこで見たライオンがかわいくて。こねこよりちょっと大きいくらいで、おすわりしてるの。まだあるかなぁ。あたしの部屋、ぬいぐるみがたくさんあるのよ。生き物じゃないぬいぐるみもあるし」

「生き物じゃない……って、どんなぬいぐるみ?」

「色々あるけど……例えば、スイカのぬいぐるみ、とかね。一切れの形だから、赤い部分も見えて、種もあってってタイプ。特にどうということはないんだけど、かわいいよ」

「人間って、何でも作るんだなぁ」

 クリスはおかしな感心の仕方をしている。

 行き先が決まり、二人でゲームコーナーへ向かった。

 園内全体でもそうだったが、ここでも女の子数人のグループか、カップルがほとんどだ。それぞれ、ゲームで盛り上がっている。

「で、ライオンはどこでもらえるんだ?」

「あっち。銃で悪者を撃つの」

 マリアが連れて行った所は、シューティングゲームのコーナーだ。

 カウンターや樽などの障害物の後ろから敵が出て来るので、そこをライフルで撃つ。銃からは赤い光線が出て、命中するとそれが的と反応するという、よくあるタイプのゲームだ。

「チャレンジしたけど、その銃が結構重くて。後になると、うまく焦点が定まらなくなってくるのよね。的が隠れるのも速くなるから、余計に。あと三点だったんだけどなぁ」

 簡単に取れたら、ゲームコーナー側が儲からない。それはわかっている。

 力ではなく、コントロールでクリアするゲームもあったが、マリアのほしいライオンはこのゲームでしかゲットできないのだ。

 あちらも商売だろうけど、このゲームは女の子や子ども向きではないな、と前回はリベンジをあきらめたのだ。

 でも、男性なら何とかなる……はず。

 前回の挑戦から時間があいているので、商品のラインナップが入れ替わっていないか心配していたが、お目当てのライオンはまだ並んでいた。

「これで撃てば、ライオンがもらえるんだな」

「うん。がんばってね」

 クリスはお金を払い、ライフルを構えた。必要点数は、一分間で十五点以上。

 マリアの期待通り、クリスは確実に的に当てていく。

 的となる敵には、撃てば点数になるマークが付いている。これに当たらなければ、点にはならない。どこでも当たればいいというのではない、という少々難易度の高いゲームだ。

 設備そのものはかなり年期が入った汚れ具合だが、今もこうして現役で動かされるくらいには人気があるのだろう。

 クリスは順調に点をかせぎ、残り十秒を切った、という時。

 いきなりバンッという大きな音が響き、周りの客や従業員が一斉にそちらを向いた。

 クリスが撃っていたライフルが、暴発したのである。

 みんな、その音に驚かされた。近くにいる人は、おもちゃの銃がなぜ暴発するのだろう、といぶかしげに見ている。実弾どころか、コルクの弾すらも出ないのに。

 でも、一番驚いたのはもちろん、撃っていたクリスとそばにいたマリアだ。

 形こそライフルだが、これは赤外線が出るライトのようなもの。何かしらのセンサーは付いているかも知れないが、高圧電流などは流れていないはず。

 不良品のモバイルバッテリーみたく、火が出るくらいならまだわかるが、暴発するとは……。しかも、大きな音がして、銃の先がくたっとなっている。

 予測不可のアクシデントだったが、クリスにケガはなかった。その点は、不幸中の幸いだ。

 担当の従業員も、異常すぎる故障に首をひねっていた。もちろん、クリスに非はない。

 こうなってしまっては、他の銃もちゃんと点検してからでないと、次もこんなことが起きては危険だ。早々に使用中止の札を出す。

 それから、点はしっかりクリアしていたので(点数表示部分は無事だった)クリスに景品のライオンのぬいぐるみをくれた。

「何だったの、今のは。手、大丈夫? 何も飛んできたりしなかった?」

 よくドラマなんかで、銃が暴発するとその銃を持っていた人が大ケガをしていたりする。本物だったら、本当にあんなことが起きるのだろうか。

 見た限りでは銃口部分がつぶれているだけだが、十分に大事(おおごと)。マリアは気が気でない。

「本物でやっていれば、今頃大ケガだろうなぁ。おもちゃで助かったよ。それに、暴発したのが、点数をクリアしてからでよかった。はい」

 クリスはもらったライオンのぬいぐるみを、マリアに渡した。

「あ、ありがとう……」

 こねこより一回り大きいサイズの、雄ライオンだ。小さいが、たてがみがふさふさしていて、ちょこんとおすわり姿勢がかわいい。

 確かに、マリアが欲しかったものではあるが……。

 うーん、あんなトラブルがあったのに、結果がよければ気にしないのね。これってすごいと言えるのかな。

 まるで何ごともなかったようにぬいぐるみを渡され、ちょっと不思議な気分でマリアは受け取ったのだった。

☆☆☆

 あの森の迷路で、かなり時間をつぶしてしまったらしい。

 ゲームをいくつかやって、また何か乗ろうと思って時計を見ると、もう五時を過ぎていた。

 今の時期は陽が長いから、時間の感覚がわからなくなる。……いや、好きな人と一緒だから、時間なんて気にならないのだ。

 今日は平日で、遊園地は六時に閉園。見れば、売店などはすでに閉めようとしている所もある。アトラクションによってもそろそろ、というのが出てくるだろう。

 もう終わりだからさっさと帰れ、と言われているみたいだ。

 でも、マリアとしては、せっかく来たのだから最後までとことん乗りたい、という気持ちがある。

 フリーパスの分はとっくに元をとってはいるが、それはそれ。

 最初に乗った最新のジェットコースターの所へ行ったが、点検中の札が下がったままだった。もう今日はこのまま動かないだろう。

「あーん、残念」

 もう一度乗りたかった。

「今日はここまででいいんじゃない? また来ればいいよ。夏休みになるしさ」

「んー、あと一つだけ乗りたい」

 わがままマリアは周りを見回し、動いているアトラクションを探した。

「あ、観覧車。あれ、乗ろうよ。大きいから割りと時間かかるし、降りる頃にはちょうど追い出される時間になってるわ」

 どこの遊園地にでもあるような、これといった特色のない観覧車だ。大きいので、一回りするのにおよそ二十分かかる。

 これなら、乗ってすぐに終わり、というジェットコースターと違って、ゆっくり座れて変わる景色を二人して眺めていられる。

 二人の後に、もう並んでいる客はいなかった。マリア達が今日最後の客になるだろう。

「外で見てるとゆっくりなのに、乗るとなかなか速く感じるわよね」

 ゴンドラからは、ゆっくりと夕焼け色に染まってゆく街が見渡せた。高い所からこうして一望するのは、気持ちいい。

 マリアは高所恐怖症ではないので、高い所から景色を見るのが好きだ。クリスも高い所は平気らしい。

「あっちこっち、レールだらけだな」

 遊園地中を走っているジェットコースターのレールを見て、そんな感想をもらしている。

「いかにも遊園地の景色って感じね」

 やがて、二人の乗ったゴンドラが頂上までくる。後は下がる一方、となった時、ガクンと音がして止まった。

「……。ねぇ、もしかして、止まった?」

 外を見て支柱の位置が変わっていないから、きっとそうなのだろう。

 静かだから動いていてもよくわからないが、全く動かないとなればさすがにそれはわかる。

「見事なまでに、てっぺんで止まったな」

 いくら高い所は平気でも、こんな所でいきなり止められてしまってはやはり不安になる。

「あたし達のこと忘れて、機械を止めたんじゃ」

「それはないだろ。下で降りてる人が転んだか何かで、一時的に止まったんだと思うよ」

 やはり、何ごとも悪い方には考えないクリスである。

「このまま放っておかれたら?」

 わざと突っ込んで聞いてみる。

「冬山のリフトじゃないんだから、一晩くらいいても死にはしないって。それに、スマホもあるんだから。遊園地の事務局にかければ、すぐに降ろしてもらえるよ」

 冷静に解決策を出すクリスの言葉を聞いていると、マリアは怖がるのがバカらしくなってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i000000 (バナー作成:相内 充希さま) (バナークリックで「満月電車」に飛びます)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ