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07.これってダンジョン?

「虫を食べるタイプのコウモリなら、肉食と言えないことはないかな。蚊をよく食べるから、カホフリって呼ばれてたんだって。それが語源になって、コウモリになったらしいよ」

「それって、蚊をほふるからカホフリ? 雑学はいいけど……サイズはともかく、あいつがコウモリだとして、あたし達をエサと認識してるなら、あたし達は蚊ってこと?」

 あんなうるさくて、血を吸われたらかゆくなる、迷惑な虫と一緒にされた。

「いや、だから、種類によってエサは違うんだってば」

 虫でも血でも果物でも、エサだと思われているなら気分が悪い。

 怖いと同時に、腹が立ってきた。……腹が立つアトラクションなんて、ありなのか。

 そんなマリアの気持ちを知ってか知らずか、コウモリは木を蹴るように飛び出した。羽音をさせながら、二人へ向かって来る。

 クリスは後ろにマリアをかばうと剣を構え、自分達に襲いかかってくるコウモリを切り付けた。途端に、獣の悲鳴が響き渡る。マリアは思わず耳をふさいだ。

 コウモリはクリスに切られ、あっさりと黒い煙になってその場から消えてしまう。後には何も残らず。

「め……迷路なのに、どうしてこんなものが出てくるの」

「趣向をこらしたにしては、なかなかに過激だなぁ」

 そういう問題ではない、とマリアは思うのだが……。

 また一方で、マリアはクリスの剣さばきに感心する。

 あんな風に襲いかかってくる敵を、いとも簡単に切り捨ててしまった。やはり、集中力と運動神経のなせる技だろうか。

「あっさりとやっつけちゃった。すっごーい」

 遅ればせながら、マリアはクリスをほめた。

「本当なら、あんなすぐに斬ったりはしたくないんだけどね。大きさはともかく、動物だし。これはゲームだからって、割り切ってやったよ」

 クリスはいくら相手が獰猛そうな獣でも、殺したりできない性格だ。いわゆる、虫も殺さない、というタイプ。

 でも、相手がゲームのキャラなら、殺しても罪悪感はない。むしろ、そうしないと、こちらがどうなるかわからない。

「それに、この剣を渡されたってことは、使えってことだろうしね。つまりここは、アクション付きの迷路ってことだな」

 そ、そうなのかしら。ちょっと疑問があるけど。前は本当にこんなのじゃなかったのに。

 マリアの頭の中には疑問符が飛び交ったが、悩んでも仕方がない。

 出口を求め、二人はさっさと先へ進むことにした。クリスは右手に剣を、空いた左手にはマリアがしっかりすがりついて。

 少し行くと、道が三つに分かれている。周りが木でなければ、この状態は普通の迷路らしく見えるのだが。

「どれにする?」

「あたしに聞かないで。間違った道へ行っちゃうわよ」

 自分が道を決めると必ず迷う、という持ちたくない自信がマリアにはあった。森へ入るまでも、クリスに任せたらすぐにチェックポイントを通過したのだから、ここも彼に頼った方が絶対に賢い。

「じゃ、真ん中にしておこうか」

「うん」

 クリスの決めた道を、二人して歩いて行く。

 しばらく行くと、横の方からがさがさという音がして、獣と呼ぶには気持ち悪い姿をしている生き物が現れた。

 さっきのコウモリの例もあるし、きっとこれは「モンスター」と呼ぶ方が正しいのだろう。

 足が少々長いカメみたいな姿で、甲羅部分には何本も短い角がある。頭にも三本あり、当然のようにキバも見えて。

「さっきから思ってたけど、RPGみたいね。『モンスターが現れた・逃げる/戦う/喰われる』のどれかを選んでゲームを進めてく、みたいな感じ」

 マリアはもう、怖がるのもバカバカしくなってきた。

「最初が『逃げる』だと、レベルが上がらないよ。それと選択肢に『喰われる』はなかったと思うけど。喰われるのは困るし、逃げてもずっと追って来るだろうから、やっぱり戦うしかないだろうなぁ。ゲーム画面でならいいけど、こうもリアリティがあるとやりにくいよ」

 割り切ると言っていたものの、やはりクリスはこんなモンスター相手でも「かわいそうだ」と思ってしまうらしい。

 動物ベースではなく、無機物系のモンスターなら余計なことを考えずに済むのだろうが。

 でも、そんなクリスの心を、相手のモンスターが知るはずもない。

 二人の姿を見付けると、待ってましたとばかりにこちらへと突進してきた。

 クリスは、仕方なく剣を払う。小気味いい音がして、モンスターの頭の角が一本折れた。

 でも、見た目からの想像通り、さっきのコウモリよりは強く、まだ倒れたりはしない。少しレベルが上がった、というところだろう。

「そんな剣で、あんな亀の甲羅を背負ってるモンスターを倒せるのかなぁ」

 マリアには、モンスターがやられる前に、クリスの持つ剣が先に折れてしまう気がする。もしそうなった場合、どうなるのだろうか。

「甲羅部分をこの剣で突き刺すのは、たぶん無理だろうね。そうなると、柔らかそうな部分を狙うしかないか。かわいそうな気がするけど、先に進むためにも仕方がないし」

 また突っ込んで来たモンスターの顔を狙って、クリスは剣を振った。目と目の間に大きな傷ができ、モンスターの悲鳴が森の中をこだまする。

 これでさっきのコウモリみたいに消えるか、と思いきや、狂ったように走り出した。あちこちの木にぶつかり、そのたびに方向を変えて突っ走る。

 そのうち、こちらへも走って来た。これはたぶん、狙ってではないだろう。痛みで混乱しているのだ。その様子は、壊れたおもちゃみたいに思える。

 クリスはマリアを木の後ろへ隠れさせ、見るなと言った。マリアは言われた通りにし、目をつぶる。

 クリスは突っ込んできたモンスターをよけると、その首をはねた。

 首は高く飛び、身体はそのまま惰性で走っていたが、また木にぶつかってようやく止まった。止まったことでその場に崩れ落ち、煙になって消えてしまう。

 マリアが見ていたら、きっと気分を悪くしていただろう。

「……終わった?」

「もういいよ。消えたから」

 マリアは逃げるだけだが、すっかり疲れてしまった。

 ただでさえ、この迷路は大きくて疲れるのに、こんなことまでさせられてはたまらない。

「ねぇ、ここって非常口はないのかな」

 さすがのマリアも、リタイアしたい気分になってきた。強制でも自主的でも、どっちでもいいから森の外へ出たい。

「ないみたいだな。森に非常口があるかどうかも怪しいし」

 そういうものを示す札などは、どこにもないようだ。

「でも、これって迷路の一部でしょ。あってもおかしくないんじゃない?」

 そうは言っても、ないものはない。

「少し休憩してから行こうか。ずっと歩き続けてたし。腹ごなしのつもりが、それ以上になったなぁ。これじゃ、出てからまた何か食べたくなるかも」

「あたし、のど渇いちゃった」

 もう帰りたい。チェックポイントは通過したのだから、あと一つクリアすれば終わるはずだったのに。こうなるなんて、予定外もいいところだ。

 まさか、これもリートが……?

 目の前のことに気を取られていたが、マリアはふとそう思い至った。

 ありえる。だいたい、迷路の中にいきなり森が現れるなんて、絶対におかしい。こんな剣を持って歩く迷路なんて、聞いたことがない。リアルすぎるモンスターが現れるなんて、これだと迷路ではなくダンジョンではないか。

 きっと、リートが何か仕掛けているのだ。悪魔なのだから、本当の森へ迷い込ませるように仕向けることも簡単なはず。

 これまでもそうだったけど、あたしが楽しめるようにじゃなくて、リートが楽しんでるんじゃないの? え、ちょっと待ってよ。もし、そうだとしたら、今まで出て来たモンスターはゲームやアトラクションの一つじゃなくて、本物だったってこと……?

 そこまで考えて、マリアは血の気が引く思いがした。

 リートがやっているなら、さっきのモンスターも遊園地の作り物ではない、ということになりはしないか? 一歩間違えば、本当にケガをしていたということも。いや、最悪のことだって……。この森からちゃんと出られるのだろうか。

 あれこれ考えると、一気に不安が押し寄せて来た。

 リートのこと、クリスに話した方がいいのかな。

 そんな考えが、マリアの胸によぎった。

 しかし、悪魔を助けた、なんて話を信じてもらえるだろうか。クリスならあからさまにバカにしたり否定することはないにしても、やはりその目で悪魔の姿を見なければ本当に信じてはくれないだろう。

 それに、リートのこと、そしてリートがこのデートに何かしらの細工をしているかも、と話したら。

 この森のモンスターが本物かも知れない、と言ったら、バトルをする時に余計な緊張をさせてしまうことだってある。

 今は「単なるアトラクションの中のゲーム」と思っているのに、命がかかっていると思えば、そのプレッシャーでミスをしてしまうかも知れない。

 言わない方がいいよね、やっぱり。話す機会が来たとしても、それはここを出てから。

「クリス、やっぱり早く行こう。あたし、ここから出たい」

「休憩しなくていいのか? 疲れたんだろ」

「それはそうなんだけど。ここで休んでると、またいつモンスターが出てくるかわからないじゃない。落ち着いて座ってられないもん」

 ここにはたぶん、安全地帯はない。もちろん、セーブポイントもない。リセットもリロードも不可能。

「んー、それもそうだね」

 クリスは反対する理由もなく、二人は先へと再び進み出した。

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