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04.何か変

 やはり、人が少ないことが幸いしているようで、コースターにはすぐに乗れた。

 普段なら、こういう人気コースターは一時間待ちは当たり前。二時間待ちなど、ざら。下手すれば、今回はあきらめようか、と思うような待ち時間が表示されていたりするのに。

 今日は、ほとんど待つこともなく。平日ばんざいだ。

 それだけでもマリアはご機嫌なのだが、クリスと一緒にいることでさらに気分がいい。

「マリアは、本当にああいうのが好きなんだな」

「うん、わかる?」

 行く前から、ジェットコースターが好きだ、という話はしている。クリスは「確かに」と実感しているようだ。

「横を見た時、笑ってたから。叫ばずに笑うのって、初めて見た」

「そう? あたしの友達、似たタイプが多いよ。叫ぶ子も、もちろんいるけど」

 はっきり言って、マリアはジェットコースターが怖いと思ったことは一度もない、というかなりの強者である。怖いどころか、楽しくて笑ってしまうという……。

 怖がりの友達は「恐怖の裏返しじゃないの?」と言うが、マリアは本当に怖いと思っていない。あの風と落下感が、恐怖どころか快感なのだから。

「あ、男の人の方が駄目だって聞くけど、クリスは平気なの?」

「怖いと思ったことはないけど。さすがに、笑うまではいかないな」

「怖くないなら、そのうち笑えるようになるわよ」

 おかしな請け合いをして、マリアは次のコースターへと向かった。

☆☆☆

 なーんか変じゃない? 今日は人が少ないから、サービスしてくれてるのかなぁ。だけど、そんなサービスって、ある? それに、その後でまた点検っていうのも、なんかねぇ……。

 ジェットコースターに乗るのはいい。楽しい。いつものように長い時間を待たずに乗れるのだから、ストレスフリーだ。

 が、気になることがある。

 なぜか、いつもよりスピードが出ているような気がして仕方がないのだ。

 来るのが久し振りだからそんな気がするだけかしら、と最初は思った。でも、やっぱり速く感じてしまう。

 最初の頂点へ向かう時の「カタカタ」という音さえも速いような。そのせいか、楽しい乗車時間があっという間だ。

 怖いと思う人の感覚についてはわからないが、ジェットコースター好きのマリアにすれば、ただでさえ早く終わってしまうコースターがさらに早く終わってしまうように感じる。

 そういう意味では……むしろつまらない。

 マリアはジェットコースターが好きだから速度についての問題は特にないが、怖がりの人が乗っていたら、スピードアップのサービスなんてむしろ「いやがらせ」にすら思われそうな気がする。

 いや、そもそもスピードを上げるサービスなんて、ありえないだろう。手動でやっている訳ではないのだから。

 そして、二人が乗った後のアトラクションはみんな「再点検」になってしまうのだ。

 たまたま続いた、と言えばそれまでだが、四回も続くとさすがにおかしく思えてくる。

 サービスのつもりで調子にのってスピードを上げ、あげくに機械がおかしくなっては、いくら今日は客が少なくてもまずいのではなかろうか。

「別にいいんじゃないか? ちゃんと安全点検してもらっておけば、また乗る時にも安心して乗れるんだし」

 マリアがそれとなく言ってみたが、クリスは笑って流した。クリスは何でもいいように、物ごとをとらえるのだ。

 おっとりしていて、前向きなところが好きになったマリアだが、付き合ってみると本当にのんびりした性格だ、と改めてわかった。

 もしかして、ストレスなんてないのではないか、と思ってしまう。みんなが深刻になっているような場面でも「何とかなるよ」と一人で静かに笑っているようなタイプだ。

 きっと大ピンチになっても、本人はそれと気付かずに乗り越え、解決してしまうのだろう。

 でも、頭が悪い訳ではない。中間テストでは、学年で総合成績三位という、見事に爪を隠した鷹なのである。

 いや、本人は隠しているつもりはないらしいのだが、のんびりした性格が前に出て、周りが気付かないだけなのだ。

 さらさらの金髪と大きな青い瞳もきれいで、顔だって十人いれば三位以内には入るはずだ(と、マリアは思っている)が、そういった要素も彼の性格の前では一歩引いている。

「安全なのはいいけどね。何も、あたし達が乗った後でしなくても」

「でも、待たされれば、それはそれで怒るだろ?」

「……うん」

 乗りたくて並んでいるのだ。それを目の前で止められて「もう少し待て」となったら。

 点検なら仕方ない、と思いつつも、やはりいらいらしてしまう。

 マリアのようなコースター好きは、きっとそうだろう。

「じゃあ、たまにはコースター以外のものに乗らない? スピードがまずいなら、出ないやつに」

「メリーゴーランドとか?」

 さすがにメリーゴーランドが高速回転、なんてことはないだろう。そうなったら、明らかに故障だ。

「それもいいけど。あれ」

 クリスが指差す方には、おばけ屋敷があった。色々な国のモンスターや妖怪が出て来る、無国籍風おばけ屋敷だ。

 何だか統一性がないが、どうせ怖くてまともに「これがどこそこの国のおばけだ」なんてことはわからないのだから、マリアとしては別に文句はない。

 おばけ屋敷には、おばけがいればそれでいいのだ。

「俺、ここのは入ったことないんだけど。マリアは入ったことある?」

「うん、友達と一回だけ。ミニコースターみたいなのに乗って、ゆっくり進んで行くの。だから叫んでても勝手に進んでくれるから、ちゃんと外へ出られるしね。これは楽よ」

 このタイプは、叫ぼうが目を閉じていようが、耳をふさいでいようが頭を抱えていようが、問題ない。

 恐怖のあまり座り込んで動けなくなる、ということがない。もう先に進むのが怖くていやだから、リタイアして非常口から出てしまう、なんてこともない。

 乗っているコースターが、勝手に動いてくれるのだから。

 怖いもの好きな人はたぶん物足りないだろうが、怖がりにはもってこいのおばけ屋敷だ。

 マリアは怖がりなので、このテのおばけ屋敷は気分的に入りやすい。目を閉じていても、出口へ連れて行ってくれるのだからありがたいし、ゆっくり座れて楽。

「じゃ、入ろうか。中は涼しいだろうし」

 マリアもその点は賛成して、二人は中へ入った。

 四人乗りのコースターに二人で乗ると、ゆっくり進み出す。当然ながら周りは暗く、赤や青のライトがぼんやりながらも点滅し、不気味さを醸し出している。

 それに照らされている人形がぽつんと立っていたり、機械仕掛けでこちらへ動いてきたり。

 マリアはそういう気持ちの悪いものを見ないようにし、ひたすら出口を待った。せっかく入ったのにもったいないが、そこにあるのが人形とわかっていても、まともに見るのはやっぱり怖いのだ。時々、ちらっと見て、すぐに目を閉じる。

 怖がりによくある、怖いとわかっている物をつい見てしまい、恐怖に震える、という自業自得のパターンだ。

 こっそり横を見ると、クリスは何ともない顔で周りを見回したりしている。

 そんなにしっかりチェックしなくても……。クリスに怖いって感情はあるのかな。それとも、男の子ってこんなもの? あ、いいところを見せようとしてるとか……んー、クリスに限ってそれはないか。見栄とかには無縁って感じだもんね。

「……ねぇ、長くない?」

「そうかな」

 怖いから、そう感じてしまうだけだろうか。ジェットコースターの時は、あんなに早く感じたのに。おばけ屋敷と一緒にするのが悪い、とはわかっているが……。

 前に入った時は、初めてだったから長く感じてしまったのはわかる。でも、今日は二回目だし、前に比べればそう長く感じることはなさそうなのに、今の方がずっと長い。

 いい加減、出口が見えてもいい頃のはずだ。

 マリアは、そっと周りを見た。

 前回もコースのほとんどで目を閉じていたから、何があったかをちゃんと覚えている訳ではない。

 それでも、何となく雰囲気が違う……ような気がする。

「……これ、止まってないか?」

「え? いつから? あ、でも、周りの景色は変わってるわ」

 確かにクリスの言う通り、コースターが止まっている。さっきまで身体に感じていた微妙な振動が、今はなくなっているのだ。

 なのに、周りの景色は変わっている。人形などはないのだが、写真にも近い不気味な絵が流れているのだ。廃屋や暗い森、墓場など。一緒に幽霊っぽいものも、通り過ぎて。

「やだ……気持ち悪い。どうなってるの」

 このコースターが動かないとなると、出口はいつまで経っても近付かない、ということになってしまうではないか。それは絶対に困る。

 非常口はあるだろうが、こんな所を歩きたくない。見なくてもいいおばけを、強制的に見ることになってしまいそうだから。

「何かトラブルがあったのかな。ここに客がいるのはわかってるはずだから、放っておかれることはないよ。待ってれば、そのうちに動くんじゃないかな」

 やはりクリスは、こんな状況でものんびりしている。でも、マリアは場所が場所だけに、のんきに待つのは怖い。

 こことは違う場所ならきっと「ゆっくりできるし、隣にクリスもいるから安心していられる」となるのだろうが……今は無理。

 乗っていた電車が止まる、という経験はあるが、コースターが止まるとこんなに怖いものなのか。

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