授業:成長武器
「こちらが、これからみなさんが長らく使っていくことになる、“成長武器”、というものになります」
教室の前方には、黒板がある。また黒板前は一段高くなってあり、先生のでかい机が置いてある。
今、先生の立つ教卓の上には、一つの高級そうな木箱が置いてあった。先生はその上部の蓋を手に取り、開けて、箱を持って傾け、その中身を俺たちに見せてくれる。
箱の中には、大量に入った木屑に埋もれ、銀色の無骨な塊が入れられてある。それは、まるで精錬を経てすぐの金属みたいな、表面がぼこぼこした金属質の塊。これが、”成長武器”? 武器には見えない。
「”成長武器”は、素材を与えるとその性質を変化させるという、特殊な性質を持つ物体です。この武器に、モンスター素材などの、“経験値”足りえる素材を与えると、武器が素材を飲み込み、一定時間の後に素材を消化、武器が“成長”し強くなります。また、消化するまでの間武器内に残留している素材と、加えてすでに消化し終わった素材により、武器の形態や特性が決定されます」
ふむ。与えた素材によって形を変え、また素材を与えていくほど成長する武器。それが“成長武器”か。おもしろそう!
「世の中にはさまざまな武器が存在しますが、みなさんはまず、この“成長武器”をさわってもらおうと思います。みなさんには、一人につき一つずつ、この“成長武器”の”原型”が配布されます。“原型”に“武器型”を与えると、まず武器の形が決定されるので、まずは、皆さんが使いたい武器の形へとそれぞれ成長させてみてください」
先生の手には、クッキーみたいな木製の武器のミニチュアが載せられている。あれが”武器型”というやつだろうか。サイズは違うが、この前の授業で使った奴にも似ている。
「それでは、一つずつこれを皆さんの机に置いていきますね。それから、“武器型”の入っている箱はここ、教卓の上に置いておきます。欲しい“武器型”の種類が決まった方から取りに来てください。欲しい“武器型”が足りなくなった、あるいはここに無い場合は、先生に言ってください」
「それではみなさん、武器の形の決定はされましたか? 形の決定が終われば、次は素材の投与です。今から街の外へ出て、素材を探し、武器に与えてみましょう。また、武器の性質は、直近に与えた消化が終わる前の素材に大きく左右されます。手に入る素材をただ与えるのもいいですが、好みの素材を選んで与えてみるのも、いいかもしれませんね」
先生は教壇に立ち、俺たちを見下ろしながら話している。え、もう自分たちだけで外に出るの? 危なくない?
「はい先生」
「なんでしょう鏡月さん」
「一度与えた素材は、取り出すことは可能なのですか?」
先生は俺の質問にふむと頷く。
「いい質問ですね。“成長武器”の形を定めるために与えた“武器型”は、成長のために与える素材とは異なり、いつでも取り出し、また別の型を与えることができます」
なんだ、武器の形はやり直せるのか。なら焦って決める必要なかったな。
「一方で、一度“成長武器”に与えた成長のための素材は、消化未消化に関わらず取り出すことが出来ません。“成長武器”を、お腹の空いた状態に戻す“漂白”は可能ですが、その際未消化だった素材は消失します。育成のやり直しを考える際、貴重な素材を武器に与える際などには注意しましょう」
「はい先生」
「なんでしょう鏡月さん」
俺は続けて先生に質問する。
「武器の性質の決定は、消化の終わった今までの素材より、直近に与える未消化の素材による影響が大きいんですか? それは、長く素材を与え続けて、消化済みの素材が膨大になった場合でも、ですか?」
「いい質問ですね。派生の決定は、やはり直近に与えた素材の影響を強く受けます。ですが、消化済みの素材も、積み重ねるほどに武器に色濃くその性質が現れてきます。それは無視できるほどの性能ではなく……まぁ、これらの話は実際に見てみないと分かりづらいものもあるでしょう。まずは重く考えず、気軽に武器を育ててみましょう。たとえやり直すことになっても、最初のうちはまだやりやすいですし」
「分かりました。ありがとうございます」
先生は今一度俺たちの顔を見回し、そして満足そうに頷いた。
「それでは早速、街の外へ素材を探しに行きましょうか。適当に班を組んで出発してください。先生は全員を見ているので、みなさん自由に動いてもらって構いませんよ」
え!? 適当!? 適当って何!?
俺が突然の暴挙に困惑していると、くいと、服の肘の辺りが引っ張られた。振り返ると、女の子が俺の服の端を握っている。見覚えのある顔……最初の日から一緒に居る子だ。確か、ミナモさんとか呼ばれてたっけ。
「こっち来て」
「あ、はい」
手を引かれてそちらに行けば、集まったのは初日から居るこの四人。
「すまん。男手が欲しくてな。オレたちに付いて来てくれ」
と、金髪の子が俺に言ってくる。初日に見た、枝を振る戦意が勇ましい子。
「いいよ。ほかに知り合いも居ないし」
まぁ俺がその”男手”を務められるかどうかは知らんけど。しかし俺以外は女の子。ちょっと気まずいか? まぁいいや。
「キララだ」
「ワカバ……です」
「みなもです」
と、彼女らはそれぞれ名乗ってくる。ほかの三人は、これまでの間にも話していたのだろうか、すでに顔見知りな感じがする。金髪ショートの子がキララ、短い黒髪の子がワカバ、そして俺に声を掛けてくれた髪の長い女の子がミナモさんね。覚えた。
「えっと……キョウゲツアオイだよ。好きな風に呼んでくれていいよ」
俺も彼女らにならって名前を名乗る。
「よろしくゲツアオ」
「キョウゲツかアオイでいいよ」