授業:武器
校庭へと出てきた。荒野の上に作られた、平地の砂のグラウンド。校庭の周囲には、気持ち程度に木がまばらに生えている。
「説明ばかりも退屈でしょうし、今日は体を動かしながらやっていきましょうか」
先生の前、生徒たちがまばらに立ち並んでいる。そして先生の前には、木を削って出来た武器の型みたいなものが、山のように置かれている。あと、先生の隣に、サンドバッグみたいなものが棒に刺さって立っている。
「今日は、いろんな武器に触れてみましょう。いろいろな武器を手に取り、自分に合うものを探してみてください。ここにある人形たちは、動きはしますがあなた方に攻撃はして来ません。この人形を仮想敵とし、攻撃を当ててみましょう」
先生はそれだけ言って、校舎近くの校庭の隅へと歩いていった。俺たちは、地面に大量に散らばった武器型と人形とともにその場に残される。今日は俺たちの自主性に任せるようだ。
えっと、武器を選び、人形を的にして攻撃を当ててみる。それが今回の授業。
生徒たちは、ちらほらと武器の周りに集まってくる。地面には、いろいろな武器の形をした木製(?)の道具が置いてある。直剣や短剣、ナイフに槍、斧や槌といったものから、弓やボウガン、ライフルみたいなものまで置いてある。
俺は近くのものから、とりあえず使いやすそうな直剣タイプの木型を手に取る。軽いな……と、見てみれば、柄の部分に何か付いてある。ダイヤルか? “重さ”、“長さ”……気になったダイヤルを回してみると、じり、じりと、徐々に剣の先っちょが伸びていく。
「細かい調節が出来んのか」
「なにしてんの?」
と、隣から話しかけてきたのは、どや顔女子もとい清霜(妹)。小柄なショートの女の子だ。興味深げに俺の手元を見てきている。彼女の手元には、弓らしき形をした木型がある。
「ほらこれ、長さとか重さとか微調整出来るっぽいね」
「ふーん?」
清霜さんは、自分で持っている方のその弓もよく眺め、そして持ち手近くに何か付いているのを見つけた。彼女がそれをいじると、弓の長さが変わったり、あるいは重そうにしたりしている。
「弓使うの?」
「いや。まだ分かんないし」
「そうだね」
俺はとりあえず直剣の木型を手に持ち、人形の近くへと移動する。
「“ブンレツシマス”」
「うぉっ」
何かが勝手に反応し、にゅぃーと人形が二つに分かれた。片方が俺の目の前まで移動して来る。車輪で動いている。
「“ナンイドハ、ドウナサレマスカ”」
「難易度?」
モードとかあんの? というか、喋ると殴りにくくなるんだけど。
「“カンタン、ノーマルナドアリマス”」
「一番難しいのにしたらー?」
清霜(妹)さんがまた俺の方にやって来て、そう言ってくる。
「俺は剣なんて握ったことないよ。無理せず、簡単なとこから行こうかな」
「性根が負け犬ー」
「一番難しいのにしてくれる? 人形」
「“リョウカイデス”」
ブブブブブブンと人形は高速移動し、砂の地面の上、砂埃をまき散らしながら七か所くらいに残像が見える。残像の一つに剣を振るうと、残像は消えて別の場所に新たに残像が生まれた。
「一番簡単なので頼むよ、人形さん」
ブゥンと、目の前で人形が動きを止める。簡単モードだと止まってくれるのか。
「“ヤサシクシテクダサイ”」
この余計なこと言う機能なに?
「殴りにくくなるからやめてくれる?」
「“ニンギョウダッテ、ナグラレルトイタイ”」
「誰だよ、練習用の人形に痛覚実装したやつ」
俺はとりあえず、いつかアニメで見たように、見よう見まねで右肩の上に剣を担いだ。そのまま、人形の膨らんだ袋の部分へと、真一文字に薙ぎ払う。スッと人形が後退し剣は空回りする。
「避けんな」
「“モンスターが「避けるな」と言って待ってくれると思うのか? 戦場はすでに始まっているんだ”」
「喋んな」
簡単モードでこれかよ……ぶん、ぶんと何度か剣を振るうが、その度に人形は避けて空回る。……まぁ動かない的を相手にするより練習にはなるだろうけど。避けられるとむかつくな。
「やーい、ノーコンー」
と、後ろから声が飛んでくる。
「見てないで、清霜さんも練習したほうがいいんじゃない?」
「わたしー? わたしはまず情報を収集してるの」
「俺のからするな」
と、背後で清霜さんが弓を構えているのが垣間見えた、あれこっち狙ってない? まぁ気にせず剣を振ると、またも避けられる、しかし避けた先。的の中央にぼすと何かが当たった。
空気砲? みたいなものだろうか、弾らしきものは見当たらない。振り返れば清霜さんがこっちに向けてピースしてる。今の弾は清霜さんの弓の矢か。当てるの上手いじゃん。
「ちゃんと全身使って剣振った方がいいよー、いま手だけで振ってるー」
と、続けて清霜さんは俺にアドバイス。
「うるさい」
「はー? 忠告してあげたのに」
ぶんと、剣を人形に振ったがまた避けられる。その後も何度かやったが、俺の攻撃はすべて空振りに終わった。俺は手元を見下ろす。もしかしてこれ俺が弱いのか? この武器は俺に向いてない? 溜息を吐き、清霜さんの方へと戻ってくる。
「なにー? もう諦めちゃうの?」
俺が武器置き場まで行こうとすると、彼女は俺に話しかけてくる。
「いろんな武器を触ってみようって話でしょ。この武器、向いてないかも」
「はー? そんなシンプルな武器使って当てられないなら、ほかの武器使ったって無理でしょ。当てるまでやろうよ、まずは、目の前のものから一個一個やっていこう?」
……まぁ、確かに。
「……全身で振る? って、どうやるの? 手だけで振ってるって何」
「だから手だけで振ってるんだって。もうちょっと、肩とか腰の回転とか、体重移動とかも使って、上手く剣を振るうの」
「……それって、一撃の威力が上がるってこと? まずは攻撃当てたいんだけど」
「体重の乗ってないすかすかの攻撃なんて、当てても意味ないでしょ。ちゃんと振って、そうしたら、体とかも痛めないし、軽々振れるようになるし。ちゃんと振れるようになったら、その分当てやすくもなるよ、たぶん」
……言ってることそれっぽいし、とりあえずこの子の言うこと聞いとくか。
「……どうすんの? こう?」
「だからそうじゃなくて、腰を―」
清霜さんは腰に手を当ててぐりん、ぐりんと、腰を回しながら、片方の足からもう片方の足へと体重を移している。見よう見まねで俺も彼女と同じ行動を取る。
「そう、そう! いい感じだよ!」
「……もう一回やってくる」
そっちで待機していた人形の元へ行く。俺は肩に剣を担ぎ、腰を使って踏み込み、剣を横なぎに振るった。さっきよりもやりやすい、手ごたえも―
スカッ。人形から合成音声が発せられる。
「“どうして人間はすぐ自分は強くなっただなんて思いあがってしまうんだろうな”」
「今すぐグシャグシャにしてやるよ人形風情がぁ!!!」
「あぁ!! ちょっと太刀筋! そんな無茶苦茶な振り方したら腕痛めるよ!」