プロローグ
前回までのあらすじ:
異世界転世した
「この世界ではかつて、魔王と呼ばれる強大な存在が、世界の半分を支配していました」
薄暗い教室の中に、かつかつと音が響いている。黒板の前には先生が立ち、先生の手にある白棒が、今も黒板に不思議な文字を描いていっている。おそらく先生は黒板に”魔王”と書いたのだろうか?
教室の中には、いくつか席が並び、席を埋めているのは俺を含めても数人だった。ここは閑散とした薄暗い教室。
へー、魔王ね。風が吹いて、曇りガラスに映る木の影が大きく揺れている。魔王ってなに?
「”魔王”は、世界のもう半分である人類の領地の支配を企み、日々人間の領地へと攻め込んで来ました。魔王率いる数多の軍勢に対抗するため、人類は勇者という希望を生み出しました。人類は”勇者”にすべてを託し、”勇者”は強力な武器を携え、”魔王”とその軍勢と戦い、そうして、我々人類と魔王軍は永い間争いを続けました」
先生はまた黒板に何か文字を書いた。それはおそらく”勇者”か、二つの単語の間に両矢印が描かれ、二つは対のように置かれている。先生の、真っ白なロングスカートの長い先の裾が、先生の動きに合わせて揺れている。
魔王が居て、それと戦う勇者が居て。まるで、何かのゲームみたいな話だ。
「なんやかんやあって何回か魔王は倒しましたが、魔王は倒すたびにそのうち次が出てくるし、魔王がいない間の魔のものたちの無法ぶりもやばかったので、魔王にはとりあえず居てもらうとして、お互いの世界を侵さぬよう境界を作りました。とはいえ、魔王たちがまたいつ攻めて来るか分かったものではないし、理性のない魔物たちが時折攻めてくるので、防衛策として、我々人類は今も、勇者という矛を抱え、磨き続けるのでした」
「はいせんせー」
俺はぼやぁと手を挙げて先生に質問する。
「はいなんでしょう、鏡月さん」
先生は手を挙げた俺を当てた。授業中の挙手は許されているらしい。
「つまりは俺たちに、その“勇者”とやらになって欲しいという話ですか?」
黒板の前で、高い位置から、先生はぼーっと俺の方を見下ろしている。先生は、かたんと、粉受けに白棒を置きながら答える。
「つまりは、そういう話ですね」
先生は息の混じった声でそう答える。
「拒否権は?」
「ないですね」
「元の世界への帰り道は?」
「ないですね」
→一限目.フィールド探索
主人公:鏡月葵