第二話、前夜祭 ーII
「終わったぞにーちゃん、大量だな!」
「大量だなじゃないよ何してんだお前」
俺たちは、その場に残された重い金の石の入った袋を回収し、一個にまとめる。確かに結構な重さだった。
「ねぇワカナ……これ返しに行こう?」
俺が袋を持ってそう切り出すと、彼は怪訝そうな顔で俺のことを見上げてくる。
「あぁ? 何言ってんだにーちゃん」
「だって、彼らが一生懸命集めて来た成果だよ? それを、疲れて帰ってきた所を横取りされてさ。彼らがかわいそうだと思わない?」
「返すって、じゃあ一体誰に返しに行くんだよ。俺は、あいつらがこれを誰から奪ってきたかなんていちいち知らねーぞ」
「え? だから、さっきの彼らに―」
「さっきのあいつらだって、ほかの冒険者から同じように、この金の石を巻き上げて来たんだぞ」
「え?」
疑問符を浮かべる俺に、少年は説明を続ける。
「気付かなかったか? にーちゃん。あいつらの身なりは対モンスター用のそれじゃない、武器が小型だったり、あるいは威圧感を与えるためだけに無駄に残忍そうな形をしてたり。どう考えたって対人のそれだ。モンスターの出る場所には泥が多いが、奴らの足には泥一つ付いちゃ居なかった。あいつらは、金塊を集めて帰って来た冒険者を狩って金塊を集めただけの、“冒険者狩り”だよ」
まぁ、言われてみればやけに治安の悪そうな顔をしているとは思った。
「じゃあ……君は、その“冒険者狩り”を狩る“冒険者狩り狩り”ってこと?」
俺が聞くと、彼はぱちくりと目を瞬かせる。
「あぁ? なんで俺がそんな面倒な区別付けられなきゃいけねーんだ。俺は金塊持ってりゃ一般の冒険者だって襲うぞ」
「この船降りていい?」
「なに今更言ってんだにーちゃん。ここに来たってことは、こういう冒険者同士の“金塊争奪戦”に、参加しに来たってことだよな?」
俺は、改めて少年の口から、この“黄金祭り”のルールのようなものを聞く。
「歩きながら聞け。いいか? まず、“黄金街”近くの狩り場に、金塊を落とすモンスターたちが現れるだろ? 冒険者たちはそれを狩って、金塊を集めて街に持って帰ってくる。だが真面目に自分でモンスターを狩って金塊を集める奴ばかりじゃねぇ、金塊を集めた冒険者を襲って金塊を手に入れようって輩も、もちろん現れる」
俺は金塊のいっぱい入った袋を背中に背負って街を目指して歩きながら、少年の話を聞いている。金塊を落とすモンスター自体はドロップ品の高い価値の割に難易度が低く、それを狩る冒険者のレベルも低いので、冒険者狩りがやりやすく、そのままでは無許可の冒険者狩りが横行したと。
「規制しても規制してもほかの冒険者を襲う輩は後を絶たねぇ。だから、冒険者を襲う行為自体はそのままに、ある程度のルールが決められた。まず、モンスターと戦闘中のほかの冒険者を襲うのはNGだ。モンスターはこっちのルールを聞いてくれないからな、不測の事態が起こる場合がある。それから、街に入った冒険者を襲って諍いを起こすのもNGだ。街には、お祭り騒ぎに呼び寄せられた一般の観光客も多く混じってる。戦えない奴らを巻き込むのは危ないからな」
少年は淡々と説明を続けながら俺の前を歩いていく。夜風が草原を揺らしている。
「それ以外だ。“狩り場から、街の壁の中へ入るまでの間”、俺たちは“他の冒険者に決闘を挑んで、持っている金塊を賭けて勝負を行う”ことが許されてる。もちろん命を奪うのはNG、後に引くような大けがを負わせることもNGだ。あくまで“決闘”という、礼儀のある中での勝負だな」
「じゃあ、“冒険者狩り”は公認ってこと?」
「冒険者狩りじゃねぇ、“正当な決闘を経ての実力による報酬の再分配”だ。あとは、“すでに決闘中の冒険者たちには決闘を挑めない”とか、“金塊以外の持ち物は奪えない”とか、“街までのルートを封鎖してはいけない”とか細かいルールはあるが―」
街に着いた。来た時と同じ、彼は壁を探り石の塊を引っこ抜き、そちらに上半身を突っ込んでするすると抜けていく。
「ほら、金塊を寄こせ」
手だけが出てきてひょいひょいと手招きする、俺が袋を渡すと、彼はずっしりと重いはずの袋を片手でそちら側へと引き上げた。同じ手順で、俺たちは壁の穴を抜け終わる。
要は、冒険者同士で戦って、強いやつが金塊を多く得て帰ってくる。それを認めたうえでの“黄金祭り”という訳か。
「……礼儀のある決闘? さっきの奴ら、身ぐるみ剥ぐとか言ってなかったか?」
「まぁまだ初日だしな。通報したらあいつらも処分は免れられないし、そのうち居なくなるだろ。そんなことよりだ」
と、宿の部屋の前まで帰って来た。少年は部屋の前にどさりと重い袋を置く。
「ギルドで買い取りは済ませないのか?」
「金塊なら後で一気に換金するよ。稼いでる奴は目立つし、狙われる。まだ目立ちたくない」
壁の穴といい用意周到な奴だ。常連か、あるいは相当な前準備を行って臨んでるか。
「そんなことよりだ」
彼は仕切り直して、俺の顔を見て問いかけてくる。
「明日からは、また金塊を落とす例のモンスターも増えるし、それを狙う冒険者も増える、冒険者同士の争いももっと各所で頻繁に起きる。で、にーちゃんはどうすんだ? さっきから気後れしてる様子だけど、明日からもちゃんと来るのか?」
少年は扉に半身を持たれかけさせて聞いてくる。
「あんたが来ないんなら来ないで、俺は代わりの“手”を用意しないといけない。ここで決めてくれ、明日も来るかどうか」
そう言って、少年は俺の決断を急かした。
さて……俺はどうするべきか。俺はここに何をしに来た? 俺は新しい強さを探しに来た。モンスターを倒して真面目に金塊を持って帰ってくる冒険者も居るという。俺はそちら側に回るべき? ……いや、金塊を無事に持って帰るんなら、強者から逃げ隠れてくるのが目的のための手段になる。そうじゃない。俺はここに、強い冒険者を見にこの街へ来たのだ。
「……俺は、明日からも行くよ」
「お、意外だな。だけどちゃんと相応の覚悟はあんのか?」
「……命は取られないんだよね? あと、大怪我も禁止」
「“故意の”は、な。言って聞くような奴らじゃねー」
せっかくの祭りだ。俺は強くなるためにここへ来た。
「……うん。ちゃんとやる。……あと、今日みたいに脅かして終わりが、普通じゃないんだよね?」
ふむ、と少年は頷く。
「そだな。噂が回れば俺の正体も割れる。耳が早い奴はすでに知ってるさ。脅しが通じないんなら戦うしかねぇ。相手が負けを認めるまでな」
「……戦闘の部分だけどさ。やれそうだったら俺も参加していい? まぁ多分ほとんどは戦わずに任せると思うんだけど」
「ふーん?」と、彼は俺の足から頭の上まで見回している。
「意外だな。にーちゃんは、真面目くんの優等生かと思ってたけど」
「郷に入らば郷に従え。お祭りなら俺も混ざって楽しまないとね」
「楽観的だな。手痛い怪我しても知んないぜ、俺は」
と、彼は扉から肩を離し、足元の金塊を背負って扉に手を掛ける。
「じゃあまた明日な、にーちゃん」
「うん。明日からは良い夢だ」
先生「マコモ、キョウゲツさんの様子はどうでしたか? 元気に過ごせていましたか?」
マコモ「んん? あぁ元気っすよ(どっか行った)」




