6話
◆6
気がつくと机に突っ伏して寝ていたようで、朝を過ぎ、昼前になっていた。
昨夜は何をしたのかよく覚えていない。暴れてしまったのは夢だったのか、どうなのか。
確認をするのが怖い。これで暴れてたのがホントに夢だったりしたら、ただのイタイ子じゃないか。
悶々と悩んで時間だけが過ぎてもしょうがない。注意をされたら謝ればいいだけだし、何も言われなければそのままスルーしたら良いのだろう。
そうと決めたら朝飯だ。…違った、もう昼飯だった。
しかし、家に入り込んでる人達は何をしてるのかよく分からない。葬儀や行政手続きなんかで、俺と母親が外に出られない代わりに必要な手続き代理でしてくれているのだろうけれど。
家の中にいる者で唯一何をしてるのか分かるのが、俺の担任の先生だ。…挨拶をしたが、挨拶が返ってきただけで、特になにも言われなかった。やっぱりあれは夢か。
学校の仕事が終わると、学校行事に関わるプリントやらを持ってきて説明をしてくれている。
その後は遺影のために出したアルバムの写真を母親が指差してはこんなことがあった。このときは、こうだったと思い出を語っているのに担任が付き合ってくれている。
俺と母親だけの二人だけだと泣くだけになって空気が重くなるだけで何も進まなくなりそうだから、とても助かっている。
葬儀を言われるがままに行い、本来の手続きよりも状況が違うため、予定がどうとかの説明があったりしたが、理解は出来なかった。
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忌引きの休みの間、慌ただしくもだが、とりあえず無事に終わった。
家の中からだれもいなくなると、余計に別れ際の時にもっと話をしていればよかったと…いや、今更か。そういえば、あの時はあそことかに連れていってもらったなと、思い出し。小学生のときは…中学生のあのときのは…涙が溢れてきた。
誰かがゆっくりと近づいてくる足音がした。母親か?いや、この足音は母親じゃない。
まさか、「父さん!」
「誰がとうさんか。残念だが俺だ」
…担任だった。
「大丈夫…でもないか。でもな、母親を放っておくなよな。まぁ最低限ではあるが、こっちでフォローをしていたから」
「あ、あぁ、ありがとうございます。それで母さんは?」
「今は寝ている。というか、寝かしつけて来た。あれからもう10日経つが、まだ憔悴していて、長い時間一人にさせておくわけにもいかないからな」
「寝かしてきた?」
「あ、えっと変な意味で取るなよ。本当に話相手になっていただけだからな。出来れば息子のお前が相手をしないといけないんだが、さっきのを見るとそれも無理か」
「あ、見られてたんでしたね…ちょっと恥ずかしいな…でも、そういう事ですか。ありがとうございます。で、今日はなんの用です?」
「本来の忌引きとは違うが、まあとりあえず、忌引きの休みが今日までで、明日から学校に行けるかの確認だよ。無理なら休んでも、とは言いたいが、形だけでも登校はしてほしい。本当に無理だったなら早退はしても構わないから」
「あ〜家に一人でいても気が病むだけだから学校には行きますよ。ただ、今の話だと母親はどうしましょうか?母親の方はまだ無理そうなんですよね」
「そっちは俺の方で電話なり、時間を捻り出したりして対応してやるよ。だから気にしないで授業の遅れた分を勉強してくれ」
「さっきと言ってる事が違いませんか?母親を放っておくなとか言って、次は気にするなとか」
「それはこの忌引きで休んでる間の話で、明日からの日常は勉学が優先なのは当然だろ?涙が溢れてた位だから強くは言わないが、今からでもプリント類に目を通しておけよ。
テストの採点には関係ないからな。あぁ、あと、この合鍵は返しておくよ。だから今夜は施錠をしっかりとしてくれよ。それじゃあな」
担任は言うだけ言って帰っていった。色々とフォローをしてくれていたのは分かっているのだが、感情的には納得がいかない。泣いていたのを見られていたとか…
しかし、テストがあり、赤点を取るわけにいかないのも、また事実ではある。
しかたがないので、溜まったプリント類に目を通して、要点となる箇所にマーカーで線を引き、とりあえずは形だけでも目を通した事の形跡を残した。