咲(サキ)
母は私が幼い頃に、父と離婚し、間もなく再婚し年の離れた弟が出来た。当時はまだ小学校を上がる前という事もあり、本当の父のことは朧げにしか思いだせない。母は再婚相手に気遣い、写真等は全部捨てたと言っていた。名字が変わった時は、母が全て対応してくれたから、小学校にあがるときは新しい名字が染み付いていた。今思えば、友人の親などは何か思うとこもあっただろうが、友達は何も変わらず接してくれた。新しい父は、自分勝手で、あまり理想の父親とは言えない。気まぐれに外に連れ出してくれたことはあるが、家のことは母に任せっきりだった。弟が産まれてからは、弟を可愛がる姿が多くなった。もしかしたら、少しは連れ子の私に遠慮があったかもしれないが、弟が大きくなるにつれて接し方が私と似てきた。父は仕事で家を空けることが多く、成長する子供にどう接してよいのか分からないのかもしれない。父は私の主張は無視し一方的に話を進めるため、思春期もあってか父との距離を取り始めていた。
ある時、友人の両親が離婚することになり引っ越しするかもしれないという話になった。莉音は小学校高学年でお互い認識し、同じクラブに属してたことでかなり仲良くなった。自分の両親も再婚であることを伝えると、少し莉音は安心したようだった。
「もう、毎日喧嘩してたから別れることはいいんだけどさ、引っ越しとなると色々、、ね。」
「どっちにつくの?」
私の時は幼かったから、どちらと暮らすなど選択しはないし、母親と離れることなんて想像できない。
「なんか、もう彼氏がいるみたいで、ママに付いてくと、新しいパパがもういるみたいで。」
「え! それは、、」
口を紡いだが、莉音の母親は不倫していて、既に再婚の目処がついていることにも話が進み過ぎてパニックになる。
「莉音、パパの事好きだけど、パパに付くと実家に戻るみたいで引っ越しになるんだよね。」
「そか、、」
私の場合、母親に対しては嫌だと思ったことはない。時々、父親の肩を持たれるときはなんでって思うが再婚相手に付いていくことは無いと思う。莉音は父親への信頼もあることから、新しいパパを受け入れるのは複雑だろう。莉音がどっちを選ぼうが、連絡手段は多数あるからもう会えないことはない。変らず友達であることだけ伝えたが、帰り道には私だったらと思い返していた。私がもう少し大きければ、どちらに付くか選ばしてくれたのだろうか。本当の父親が私を育てていたら今頃は違う人生だったんだろうなぁ。
家に戻り、母に莉音の話をすると
「そっかぁ、、そんな風には見えて無かったなぁ。」
「ねぇ、前のお父さんて、、」
「気になるよね、、」
母は一息つき、少し私と目を合わせゆっくりと話し始めてくれた。
「お金に駄目な人だったってことは言ったよね?」
私が小学校の頃に、クラスの友達とお金の貸し借りで少しトラブルになった。借りてたお金を私が返却を忘れて、向こうの親からクレームがきた。先生を通じてだったので、お金を直ぐ返却し事なきをえたのだが、そのことがきっかけで母は昔の父と重なったのかショックを隠しきれていなかった。前の父はギャンブル依存症で、お金の価値が全く分かっていなかった。借金してまでギャンブルを続ける父に愛想をつかし見捨てたのだという。だらしない父に変わってお金を工面していた母は、プライドを傷つけられたと言っていた。母は父の血を継ぐ娘が、二ノ舞にならないよう重々と注意されたことを覚えている。
「実は写真、あるんだ、、」
母は家の2階の物置の隅から、1冊のアルバムを取り出した。
「この人。」
母が指さした男の人は、やんちゃそうにはにかみ赤ん坊を抱いていた。何枚か写真が残っていたが、こんな感じかと思う程度で、何か特別な事を思い出したり、感情が揺さぶる感じはしなかった。
「咲が会いたいって言ったら、会うって言ってたよ。」
親権は欲しがらなかったが、大きくなった我が子が会いたければ拒みはしないってこと?
「住所と電話番号。変わってなければいいけど。」
母はいつかは言うつもりをしていたようだが、莉音のこともありタイミングが良かったかもしれない。母なりに選択肢が無かった私への配慮かもしれない。
「ねぇ、今のお父さんとは別れない?」
「そうね、咲が不幸になるくらいなら全然別れるよ。」
母は淡々と喋ってたけど、どれだけ本気か分からない。母もお金の苦労は減ったが、自分勝手な父に呆れることが多くなっていた。
「正直、今のお父さんと離れたら今の暮しと同じにはできないよ。それだけは理解してね。」
、、分かってるよ。結局、今の自分は非力だ。母に今の状況打破を頼むばかりで、自分1人で生きていくなんて到底無理。まぁ、仮に次のお父さんに求めるなら〜お金があって、ちゃんと話を聞いてくれて、臭くない人!
一瞬、前のお父さんが更生してたら、、と過ったが、まぁまずないだろうな。
「吉沢 咲か、、、名前はありかな。」