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夏帆

「また、あの先輩の愚痴聞かされたわー」

「え〜!またぁ?」


私は晴れて社会人となり6年が経とうとしている。後輩にも仕事を教えられるレベルになり、自分の立ち位置を客観的にみれるようになってきた。フレッシュマンの頃は、仕事を覚えるのに必死でOJTの横田先輩の言う事をこなすだけだったが、今や同じ事の繰り返し。同期の子達も数年差あるが皆最低限の昇格をクリアし今や横並びで働いている。同期の中で誰もマネージャーに成りたいとか、転職したいとか、一切の話題が出ず、ちらほらと結婚していくメンバーが目立っていった。いつかは結婚するだろうと安易に考えていたが、同期が結婚していくと何となく結婚を意識した。彼とは社内で出会い、一方的に好意を向けられ、付き合うことになった。論理的な彼は一切の無駄が嫌いで、デートも段取りよく熟してくれた。ある程度の期間、付き合うころにはご両親にも紹介され、いつでも婚約できる状態であった。彼が言うにはマネージャー試験が合格した頃、結婚しようと意志は伝えられていた。

同期の亜由美は恋愛には疎いが、趣味の推し活に勤しんでいる。ただ、亜由美は空気を読むのに長けていて、年上を転がすのが上手い。アラフォー社員に気に入られ、よく飲みにも誘われては愚痴を聞かされている。

「あーわ、なりたくないわ〜」

必要なときに、相手が欲しっている言葉を遣う。気を張っていた先輩も涙をながすほどだという。

「この仕事いつまでやるか分かんないけど、仕事だけで終るなんて勘弁!」

今は結婚というワーズはセクハラにあたり、生涯独身でも誰からも何も言わせないし、言ってはいけない。亜由美の先輩は、仕事中心で熱量も高い。職場が生きがいの彼女は、プライドも高く、仕事に対しても手を抜くことは一切ない。彼女の上司も独身ということは伏せて、色々無理難題を与えてるは社内でも周知されていた。

私のOJTの横田先輩は、亜由美の先輩と年も近いが結婚しており、先輩同士の仲は悪くはないが、お互い話が合わないことを分かっており、無理にプライベートには踏みこまず良い距離感を保っている。あの年代、不器用な人が多くて、下にまで気を遣わせていることに気付いてない。自分のこと言わずとも悟って下さい〜みたいな態度が見え見えで、こちらとしても深入りはしたくない人達だ。横田先輩も新人の価値観を認めないとと思う半面、言いたいことも言えず葛藤し1人で溜め込んでいる。

私はそれが分かっていたから、横田先輩には本音を言わないし、有用な情報も与えないようにしてきた。頼りにされて、同士ですなんてことになったら面倒だからだ。私は平穏に仕事ができ、時がきたら家庭に入るのもいいかと考えている。

私は昔から何をしても平均以上で、そつなくこなせる人間だった。両親の薦めもあり、希望の大学まで進学できた。就職先も自宅から通える企業を狙えば、第一期で内定を貰えた。このまま今の彼と結婚となれば、いつ仕事を辞めてもいいことになる。仕事に関してもそつなく熟す姿勢を認めて貰い、仕事は少しずつ増えてきている。ただキャパオーバーなことはしたくないし、土日は好きなことをして過ごしたい。このまま仕事が増える前に、彼がマネージャー試験を早く合格してくれないかと願っている。ただ、両親に今の彼との状況を伝えると、長女として森山の性を継いで欲しいと言われた。うちは姉妹であり養子を貰わないと継手がおらず、森山の家系は途絶えてしまう。私自身、本家や分家などあまり継ぐことへの責任感などは感じていないが、彼と結婚すれば斉藤となるし、今の時代夫婦別姓も少なくない。職場での経歴などもあるし、結婚しても社内では氏名を変更するつもりはない。

ある時、環境プロジェクトの仕事が盛り上がってきた。時代に乗っ取り、職場でもそういう活動してますってアピールしとかないと、会社の世間体が悪いからだ。

「どうかな、立花くん。そろそろこの規模の仕事をやってみないか」

「えっ、はい。私にやれるかどうか、、」

「次の金曜までに返事くれたらいいよ。駄目だったらまだ候補者がいるから」

仕事を認められたことは嬉しいが、ここらへんが境界線だと思っていたから正直悩む。またさっきから背中にビリビリ視線も感じる。亜由美の先輩だ。きっと本来なら彼女が適任だが、意見の多い彼女を上が煙たがったのだと思う。環境への取り組みは近隣企業とも連携をとらなければいけないので、彼女の心境まで配慮できないと判断したのであろう。家に帰って彼氏にも相談すると、

「夏帆が成果だしてくれたら、僕も鼻が高いよ。」

彼も同じ時代を生きてきた人間だから、人を管理するなど興味はないはずだ。ただ責任感を感じて、役職につけば世間体が良いと考えているのか、親からそう言われているのか。

「え。待って。私が出世したら、試験受けるの辞めないよね?」

「、、辞めないよ。面接対策もちゃんとしてる」

私もそうだが、親がしっかりしてる家はうまくいいなりになっていることに自身が気付いていない。彼の両親にあった時に違和感を感じたのは確かだ。

「ご飯どうする〜?あんたの好きなエビフライでもしちゃろか」

「それでいいよ。」

決めたのは彼だったが、両親を否定した素振りは見せたことがなかった。親を大事にするのは良いことだが、旅行行くにも親にアドバイスを貰っていたことがあった。仕事においても言われたことは出来るが、それ以上のことには対応できない。試験に合格できないのはそういう態度を見透かされているからだ。「受けたらいいんじゃない?1度成果だしとけばこの先ずっと何もないよりいいじゃん。」

次の日に亜由美に相談したら、それもそうだとしっくりきた。うちの会社は最低ラインまでは皆が昇格できるか、それ以上は成果を認められるか、実力を示せないと上がれないシステムになっている。ここ数年、まともに昇格をした人の話は聞いたことがない。成果を出しておけば、後々有利になるかも。

「部長、プロジェクトやらせて下さい。」

部長はやってくれるかと安心してくれたが、いざ始まってみたら訳が分からない。前例がない上、プロジェクトに集まったメンバーは使えない人達。誰も意見は言わない、何が環境問題かの理解も乏しい。上に押し切られて集まっただけの人達。芽がでればラッキーくらいのプロジェクトだった。絞りに絞って出した社内へのアンケート実施。予算と企画があえば即採用といった、他人任せな内容であり、回答者は数名いたが、提案内容は1人よがりな雑な企画だった。企画を決めないといけない時期まできたころ、横田先輩から話かけられた。正直、1番頼りたくなかったから、プロジェクトを受ける相談さえしなかった。その事の後ろめたさもあり、アンケート回収結果が悪くても他を頼るしかなかった。

横田先輩は、昔ながらというか、下積みや苦労はやって当り前という価値観があり、若い人がやるべき、上司はこうあるべきと自分のことは棚に上げた発言がどうも苦手だった。何か物申すと、明らかに機嫌を悪くし、それはこういった効果を期待したのかもね等と何かにつけて上から目線で指摘された。言葉遣いこそ丁寧だったが、自分の価値観は間違っていないという強い意志は揺らがなかった。別に解答欲しさに聞いた訳ではなかったから、先輩面されるのは嫌だった。私にも後輩が付き、横田先輩の職級と横並びなったことで先輩のことを下に見るようになっていた。

「あ、お疲れ様です、、」

「お疲れ!環境の取り組み企画のアンケート、出せてなくてごめんね」

連連と話す言葉選びも、一つ一つ引っかかる。暫く、子供の看護で会社出れて無かったと言い訳したあとに、企画の案だしをされた。ごみ問題に対して、町を綺麗にしたことでゴミさえなくなったと海外での事案から、会社付近のゴミ回収と、美化活動はどうかというものだった。花を植えることで、ゴミを捨てる抑制効果が期待できる。

「そうですね、いい案かも知れません、、」

満足気に手を振りながら去っていく先輩の後ろ姿をみて

「これだから、先輩は苦手なんだよ。」

と呟いた。

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